落合順平 作品集

現代小説の部屋。

忠治が愛した4人の女 (62)       第四章 お町ふたたび ⑭

2016-10-13 16:25:54 | 時代小説
忠治が愛した4人の女 (62)
      第四章 お町ふたたび ⑭




 闇の中で、百目ロウソクが赤々と燃えている。
三下が言っていた通り、10人ほどの旦那衆が博奕に熱中している。
代貸、中盆、壺振りと賭場を仕切る3役が揃っている。
さらにせっせと動きまわる、出方と呼ばれる若い衆が4、5人。


 文蔵が予想していたよりも、はるかに大きな賭場だ。
漆(うるし)塗りの上駒が、いくつも盆の上に並んでいる。
おそらく20両から30両の金が動いているのに違いない。


 表からの物音に、若い衆が気がつく。
怖い顔が、いっせいにこちらを振りかえる。
顔を上げた中盆が踊り込んで来た忠治と文蔵の姿を見て、ドスの効いた声を上げる。

 「なんでぇ、てめえらは!」



 出方の若い衆たちも、いっせいに立ち上がる。
文蔵と忠治の前に、若い衆が、ずらりと立ちふさがる。
刃物は持っていない。しかし、いずれも屈強な体つきをしている。


 (まいったなぜ。予想外に賭場がデカ過ぎた。こいつはまったくの想定外だ。
 この場から逃げるためにゃ、こいつらをたたっ斬るしか、
 他に手はないようだな・・・)



 忠治が覚悟を決める。
こうなりゃひと暴れしてやるぞと、腰の義兼に手を伸ばす。
文蔵も懐に手を入れ、手裏剣を握っている。
久しぶりに大暴れしてやろうと、どうやらこちらも覚悟を決めたようだ。
腕まくりした若衆たちが、忠治と文蔵の前へずいと出てくる。
中盆が、乱入者の正体を見抜く。


 「なんでぇ。
 揃って手ぬぐいで顔を隠しているところが、怪しすぎるな。
 さては、さいきんウチのシマで賭場荒らしが続いているのは、おまえらの仕業だな。
 ここへ乗りこんで来たのが運のつきだ。
 かまうこたねぇ。こいつらを簀巻にして、利根川へ放り込んじまえ」


 中盆の怒鳴り声とともに、若衆たちがいっせいに2人の前へ飛びだして来る。
その瞬間、文蔵が動いた。
「どうも失礼、いたしやした!」
ペコリと頭をさげた次の瞬間、文蔵がくるりと身体をひるがえす。
そのまま、出口に向かって駆け出していく。


 (えっ、逃げ出すのかよ、文蔵の奴。
 戦わねぇで逃げ出すとは、こいつもまたまた想定外だぜ・・・)


 忠治があわてて、義兼を引き抜こうとする。
白刃を振り回すことで、この場を切り抜けようと考えたからだ。
しかし。義兼を抜こうとしたその瞬間。
力強い男の手が、忠治の右手がっしりと抑えこむ。


 「早まるな。刀は抜くんじゃねぇ。こんな場で刀を抜いたら、
 ホントにおめえの命がなくなっちまう。
 生き延びてえと考えているんなら、こんな場で刃物なんか抜くんじゃねぇ」



 低い男の声が、忠治の耳元でささやく。
ためらった忠治を、若い衆たちがあっという間に取り囲む。
男たちの動きは早い。
義兼を抜くことをあきらめた忠治が、男たちにもみくちゃにされる。
多勢に無勢で、どうにもならない。


 後ろから延びてきた手が、忠治を羽交い絞めにする。
両方の手と両方の足にも、男たちの腕がタコのようにからみついてくる。
自由を奪われた身体のあちこちに、男たちのこぶしが降ってきた。
何発殴られたのか、わからない。
担ぎ出された忠治の身体が、ドスンと地面に投げ落とされる。


 「てめえだな。
 ウチのシマで、賭場を荒らして、銭をかっさらっていったのは!」


 奥から出てきた代貸が、忠治の顔をいきなり雪駄(せった)で踏みつける。



 「知らねぇ。おれじゃねぇ!」


 「往生際のわるいやつだ。この場におよんで嘘をいうんじゃねぇ。
 おれたちの賭場を荒らしていったのは、手ぬぐいで顔を隠した2人連れだ。
 おめぇら以外に、他に誰が居るんだ!」

 「違う。そんなことは知らねぇ!」


 「しらを切るのか、まぁいいさ。
 どうせ、てめえの命はこれで、おしまいだ。
 おい三下。死ぬ前に聞いてやる。てめぇはいったい、どこの何者だ?」


 若衆のひとりが、忠治の手ぬぐいをむしり取る。
忠治の素顔がさらされる。
しかし忠治の顔を知っているものは、さいわいなことに誰もいないようだ。


(63)へつづく

おとなの「上毛かるた」更新中


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2 コメント

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忠治の顔 (屋根裏人のワイコマです)
2016-10-13 17:22:28
若い頃の忠治の顔・・多くの人に
惹きつける顔・・興味深いですね
そちらは、クローズしないんですね
通年プレイ・・でも風は苦手です
ボールだけではなく・・体感温度が
グ~ンと下がります。お気をつけあそばせ。
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ワイコマさん。こんにちは (落合順平)
2016-10-14 17:35:17
年間通して、プレーすることができます。
ただし、冬場の河川敷ゴルフ場は要注意です。
さえぎるものがないために、空っ風の日は
大苦戦をします。
ほとんどの河川敷が、上流から下流への折り返し。
あるいは下流から上流への折り返しです。
上流には、空っ風を生み出す赤城山がそびえています。
強風にあおられたボールは、普段の半分くらいしか飛びません・・・
風の強い日のゴルフは、ひたすら忍耐のゴルフになります。
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