
「面」
きょうも熱いお天道様が沈んでいく
山の陰から目玉のような涼気が流れてくる
女房どのが赤い腰紐をしめている
雑木林は家の中より匂いがよかろう
行ってくれ
天を向いてお天道様に怨みごとを言ってくれ
渇いて、かわいています
おとこの胸にも湖はある
棹を失くした舟が微かに揺れている
塩臭い旱の風景だ
ふねの影が胸底に棲みつきました
ふくろう
ほい、梟よ
おまえの身体をそっくり貸してくれ
半時も過ぎたのに飛び立つ気配もない
おかしいと思わぬか、ふくろうよ
おまえの姿で楢の枝から見下ろせば
女房どのも怒るまい
月の出ぬ夜は夜叉が出る
夜叉が出ぬうち帰りゃんせ
子らの唄を追いかけるように闇がせまる
黛色のせつない夜だ
村祭りのひょっとこを被って樹々間を忍ぶ
女房どのがいた
女房どのは般若の面を被って天に吼えていた