どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

自薦ポエム85 『スイカズラの咲く季節に』

2021-07-23 00:02:05 | ポエム

ハナカマキリのようなスイカズラが咲いた

冬の寒さに耐えて待っていた白い生き物が

ムクムクと目を醒ましたのだ

 

この季節に逝ったひたむきな女性よ

あなたの小説には忍冬が効果的に描かれていましたね

裏切に悩んだすえ朝早く夫の元を立ち去る物語でした

 

密やかな言葉を絹のように紡いでいた女性よ

同人雑誌の合評会ではいつも目を輝かせていましたね

モデルはあなたかと問われ見返した目には翳りが見えましたが

 

「そういうことって文学と関係あるんでしょうか」

普遍的な女性として自立させたつもりなんですけど

質問した男は怯んだ様子で同席の仲間を見回した

 

「いやあ見事に自立していますよ」と長老が引き取った

別れの朝にひときわ匂い立つスイカズラの描写が巧い

主人公の悲しみと覚悟を痛いほど暗示していますよ

 

巻末の住所録には「気付」と表示されていましたね

男性の名前の後ろにあなたのペンネームがあって

寄宿か同居かと悩んだが詮索する者はいなかった

 

スイカズラが咲く季節に逝ってしまった才気あふれる人よ

あなたの気付先だった住所でも忍冬が匂っていますか

人生を終えたあと直ちに上梓した短編集は見事でした

 

あれはあなたが生前に手配したものですか

それとも気付の住所に記されていた男性の意思ですか

連携の見事さに仲間はみな息を呑みました

 

小説の中でスイカズラの蜜を吸う女の子を登場させましたね

「ミツバチさんと競争ね」とクスクス笑うヒロインとともに

ぼくは晴れ間をみつけて飛ぶ蝶をあなたに重ねました

 

作品をいろどる感情と運命の陰影

虚実のあわいに潜ませた人生の哀歓が

八十年を生き継いだ長老を何度うならせたことでしょう

 

忍冬という花の名のなんと象徴的なことよ

清らかさの裏に隠されたハナカマキリの妖しさは

作品の中の女性だけだったのでしょうか

 

ぼくは深夜あなたの作品集をひもといた後

裏切りを咀嚼するスイカズラの化身に追われました

夢の中まで白い白い触手に追いかけられるのです

 

(2017/05/19より再掲)

 

スイカズラ画像 に対する画像結果.サイズ: 145 x 109。ソース: www.modern-h.jp スイカズラ

(ウェブ画像)より

 

 

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