どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

ポエム39 『馬鈴薯の花』

2014-02-22 13:38:49 | ポエム

 

      じゃがいもの花

      (城跡ほっつき歩記)より

 

 

わしはなあ ケーリンが好きなんや

ニッカボッカを穿いた老人が 右左を見回しながら訴える

わかった わかった

両側から老人の腕を取る刑事が 宥めるように言う

だけどなあオッチャン 他人様の車券代を騙し取っちゃあ

好きとか嫌いとかの話じゃないよ

宇宙人のように宙吊りにされた老人に 刑事の声が降る

腋の下の手が 警官二人のいらだちを表して

競輪場のバンク下の通路を引きずっていく

 

わしはなあ 騙してなんていないよ

ちゃんと車券を買って 渡そうと思っていたんだ

わかった わかった

自分の買いたい車券を買って 外れたら渡すんだろう

当たったらトンズラかい いい商売してるよなあ

今だって後ろのトウチャンに しっかり返したのに

なんで濡れ衣を着せるんや

三点買いの頭がちがうと言ったって

わしの耳は しっかり覚えているんやで

 

おまえらのやりとりは 警察で聞かしてもらおう

オッチャンの手口は とっくに分かっているんだ

さあパトカーに乗って 暴れるんじゃないよ

被害者の方は 助手席にまわって

年配の刑事が指図をし 運転席に座る

若い相棒は 後部座席に老人を押し込めて

油断のない顔つきをする

張り込みの成果が 今まさに現実になる時

後ろめたい悦びが 五月の風を裂いて街道を走る

 

郊外の二級河川を跨ぐ 長い橋を渡る

川面に柔らかな光が跳ね まるで魚の群れのようだ

河川敷の砂から陽炎が立ちのぼり

土手の傍らの園芸畑には 馬鈴薯の花がきらめく

白く慎ましい語らいが こじんまりと身を寄せ合う昼下がり

後部座席に 田舎の記憶が通りすぎる

わしはなあ 賭けが好きなんや

ケーリンだけやないでえ 一生が賭けの連続や

詐欺なんてしてないでえ わしの運を貸してやっただけや

 

もうすぐ着くから 取調室でゆっくり喋ってもらおう

障害者を狙った卑劣な犯罪をな

脚が悪い人 言葉の不自由な人からも被害届が出ている

あんたの運はよくないから わしに乗ったらええ

嫌か そんなら買い目を言うてみい

わかった その車券を買うてきてやる

そう騙してカネを出させる どっちとも取れる巧妙な手口だ

しかし今日は失敗したな 被害者が渡したメモが証拠だ

最後の一周を知らせる ジャンの音に気づかなかったようだな

 

緊急車両のサイレンが止むと いかつい庁舎に滑り込む

張番の刑事が 長い警棒を退いて敬礼する

人生のちょっとした狂いを 正確な座標に記す作業が

狭苦しい部屋の 年季の入った机をはさんで始まるのだ

オッチャンは神妙に口を閉じ田舎を出てからの経緯を飲み込む

板前を目ざしたり レストランのコックに憧れたり

それなりに一貫した人生行路だったと

言い訳したい気持ちはあるが なお一層バカにされるだけ

人一倍悪い運命を他人に押し付けた罪の意識はないでもないが

 

  

  

  

  

 


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
落陽 (aqua)
2014-02-24 01:43:05
tadaoxさま こんばんは

チョット見は水仙かと思いました
馬鈴薯の花なのですね

こんな可憐な花を見ながら
読ませてもらうと
オッチャンがとても
純粋な人に見えてくるから不思議です

tadaoxの絶妙な切り口の奥には
人間を含めて
生き物に対する慈しみが
感じ取れますので
ゴツゴツした馬鈴薯でも
こんな綺麗な花を見せてくれるんだよと
おっしゃってるような気がしました

ホントは逆で
可憐な花に見えるけど
ゴツゴツした馬鈴薯
綺麗ごとを言いながらの
詐欺師のオッチャンなのかも知れません

読み手によって
真逆のとらえ方ができるところが
『馬鈴薯の花』なのでしょう
とても面白く読ませていただきました

拝読しながら
吉田 拓郎の『落陽』を
口ずさんでいました

ありがとうございました




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『落陽』良く出来た詞ですね (tadaox)
2014-02-24 17:06:42
(aqua)さま、丁寧に読み込んでいただきありがとうございます。
馬鈴薯の花に託した詩想を共有していただき、感謝にたえません。

また、吉田拓郎の『落陽』に繋がるコメント、やや上の世代のぼくは改めて確かめ、良く出来た詞に出会って嬉しかったです。
ユーチューブっていいですね、ライブの熱気が時間を超えて伝わってきました。
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ジャガイモー (小頭@和平)
2014-02-25 00:21:35
こんばんは。

植物の画像を撮り始めてから、しばらくの間はこの花の正体が分かりませんでした。
その正体が分かったのは、当時の勤め先近くの小学校が借りている菜園で見かけたことがきっかけです。

理科の学習に使うとすれば、何か実がなるものかもしれないと思い、図鑑類を調べてジャガイモの花であることが判明したという経緯があります。

たしかにこうしてみますと、花の見栄えと収穫物の姿形のギャップの大きさが際立つ植物ですね。

なおコメントのタイトルは、大阪に住んでいる娘が、幼いときに英語のような発音でしゃべっていた言葉です^^
返信する
じゃがいもと馬鈴薯 (tadaox)
2014-02-25 14:53:48
(小頭@和平)さま、英語風にジャガイモーですか。
ジャカルタ変じてジャガ芋とか、マレー変じてバレイ薯とか、和名の由来をいろいろ云われているのを知り、以前から興味を持っていました。

また、地下に蓄えた芋と花の可憐さとの対比がソソリますねえ。
作品中の人物像にピッタリと思って、画像をお借りしました。ありがとうございました。
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