ゆっくり読書

読んだ本の感想を中心に、日々、思ったことをつれづれに記します。

哲学者の密室

2008-11-05 00:05:12 | Weblog
昨日少しふれた『哲学者の密室』について。

笠井潔さんの矢吹駆シリーズは、どの作品もいろいろな刺激をくれるのですが、
『哲学者の密室』では、特に「死」について考えさせられました。

マルティン・ハイデガーと、エマニュエル・レヴィナス、
『哲学者の密室』をとおしてこの2人の思想に出会ったとき、
私はちょうど、植物状態にある、1人の家族と向き合っていました。

ハイデガーの言う、死の可能性に先駆したことから生きられる今。
死を、たった一瞬の区切りとし、そこから現在に立ち返り、
本来的な生き方を可能にしようという考え方は、
それまでの私がもっていた「死」と「生」のイメージ、そのものでした。

しかし、病院の中で、10年以上も植物状態にある人間は、
ハイデガーの言う死の先駆性を剥奪された存在でした。
それは、レヴィナスの言う「存在の夜」。
死は、はじまりも終わりもない不気味な過程として、そこにありました。

そして、「愛情」はあるのに、どうしても心に忍び込んで来て離れない、
「存在のおぞましさ」に対する恐怖や嫌悪感。
「自分らしく生きること」「個性を発揮すること」といった価値観は、
どんな意味も持ち得ないように思える無力感。

そんな生活も、数年前に終わりました。
小さい頃から読書は好きだったけれど、
いま、心の底から本を読むのが楽しく思えるのは、
きっとあの時期に、出会うべき本に出会えたからなのでしょう。


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