(新)緑陰漫筆

ゆらぎの読書日記
 ーリタイアーした熟年ビジネスマンの日々
  旅と読書と、ニコン手に。

読書/時評 『グーグル革命の衝撃』を読んで

2018-09-25 | 読書
読書/時評 『グーグル革命の衝撃』を読んで 
     写真の本は、後述しますが別な本です。最近、丸善の洋書コーナーにならんだばかり。フェイスブックやマイクロソフトなどとの対比もふくめて、グーグルについて取り上げています。    

 グーグルってなあに? 分からないことを調べるのにグーグルとかヤフーによる検索を使いますよね。(実はヤフーも、グーグルの検索エンジンを使っているので、検索についてはグーグルがほとんど独占しているのに近いのです。でも、グーグルの実態(今は持株会社アルファベットの傘下にあります)はほとんど知らない人が多いと思います。私自身もそうでした。アメリカの金融業界では、GAFAとかFANGとか最近ではインテーネット系IT企業を一括りにして呼んでいますが、どういうくくり方をしても、”G" つまりグーグルの名前がでてきます。

  注)GAFA・・・グーグル/アップル/フェイスブック/アマゾン。
    FANG・・・フェイスブック/アマゾン/ネットフリックス(動画配信サイト)そしてグーグル。

 そのグーグルの実態を詳しく知りたいと思っていた矢先に、偶然『グーグル革命の衝撃』という本に出会いました。この本は新しい本ではありません。出版されたのは、2007年5月。NHKの取材班が半年をかけて、グーグルの検索広告から、その広告がもたらす収入をもとに、既存の産業構造を突き崩す改革もたらしつつあること、さらに世界の頭脳集団ともいわれるトップエリートが他社の追随を許さないスピードで新しいサービスを送り出す実態などを、グーグルの幹部たちとのインタビューを重ねて、取材調査をしたものです。(文庫本については、2009年4月刊行)

 実は、私自身2006年の夏にシリコンバレーの一角にあるパロアルトの町にしばらく滞在して、スタンフォード大学のキャンパスで遊んでいました。その少し前から、スタンフォードの講座はネットで公開されており、誰でも聴講することができました。その大学の空気に触れて見たいと思っていたのです。その滞在中にスタンフォード大学のキャンパすにある書店の店頭に、ずらりと平積みされて大きなスペースを占めていたのが、グーグルの本でした。それを買って、ざっと眺めてみて、”この企業はきっと将来大きく伸びると直感したのです。(その頃からグーグルに投資をしていたら、今頃きっと大金持になり、左うちわで遊んでいることになったでしょう。その頃は、企業経営に関心があって、投資ということには思いが至っていませんでした)

     

 そのころからNHKの報道局は、グーグルに着目していたのです。その慧眼には敬服いたします。この本は、いい本です。グーグルの本質を語っています。古いからといわずに、ぜひ手にとって読んでみてください。というのも、ここに書かれていることは私たちの将来の社会生活とその変容に大きくかかわってくるからです。

     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(天才集団の牙城)
 まずはじめに、次の写真をご覧ください。これは、2004年にシリコンバレーの高速道路沿いに掲げられたグーグルの求人広告なんです。


     


えっ? ”なんのこっちゃ”と驚かれるでしょう。私も、正直いって面くらいました。
数学、それも高等数学を知らないとわかりません。

 「自然対数の底eの中の連続する10桁(ケタ)の最初の素数.com」と読むのです。

これが理解できなくてもかまいません。話の流れだけを追ってください。このカッコないの文章には、それがグーグルであるあるいはグーグルに関係するという表示はありません。しかし、”.com”とあるのでウエブサイトにつながることは分かります。この問題の解答は、「7427466391」です。これをコンピューターに打ち込むと、次の問題が出てきます。そこにも、グーグルの表示はありません。そして、この数学の問題を解いてはじめて、グーグルの人材募集の広告であることが示されます。”ようこそ グーグルへ。あなたを採用します”、と。

もう少し詳しくご説明しましょう。・・・・・


この本のキーポイントをご説明するために数学の問題についてお話ししたのですが、要は優秀な人材を獲得するためにグーグルの研究開発部門が考えた広告なのです。グーグルは発見しうる最も優秀な人材を雇いたいと必死になっていますが、その人材の範囲はエンジニアにとどまりません。NHKの取材班に対応した広報チームの数人は、ハーバード大学のロースクールを出ています。全米トップレベルの養成学校をでた人材が、広報を担当しているんです。日本の企業の広報担当とは、人材のレベルが違います。

ちなみにスタンフォード大学では、お互いに分からないところは徹底的に話し合うという伝統があり、グーグルもその影響を受けているようです。

 さてグーグルが「検索サービス」で高いシェアを占めていますが、、どんな経緯で二人で始めた検索ベンチャーが立ち上がっていったのか、またそれだけでは余り収益を生まないのに、「検索連動広告」という仕組みを考えついて、巨大ビジネスを築いたのか? そのあたりを少し詳しく解説しておきます。

 1998年、スタンフォード大学の二人の学生、サーゲイ・ブリンとラリー・ペイジは協力しあってグーグルが誕生しました。二人は同大学のコンピューター専攻の大学院生でしたが、互いに惹かれ合いながら、当時はまだ余り使い物にならなかった「検索」の質を一挙に高める方法を見出したのす。

 その方法は、「バックリンク」の解析研究です。皆さんもご承知のように、ウエブサイト上のある記事のページで、別なページを参照するために「リンク」を埋め込みます。例えば、ホームページを見ている人に飛行機会社のホームページを参照してほしければ、そこからリンクを張ります。リンクを張ったところは文章の中で色が変わりますから、すぐ分かります。


(以下は、次の「学問からビジネスへ」まで、飛ばしていただいてもかまいません)

リンクの考え方では、リンクを張った先のホームページは、リンクのところをクリックすると、すぐ分かります。しかし、自分のページが、どのページからリンクが張られているかは、分からないのです。二人は、なぜそうなるのか。自分の張られているリンクを正確に知りたいと思いました。それには、世界中のホームページをくまなく調べて、ようやく自分に張られているリンクをリストアップできるのです。二人は、その研究を始め、バックリンクのデータを解析するために、世界中のホームページのリンク情報の収集をはじめました。当初はこれが検索技術に結びつくとは考えていなかったとのことです。世界中のホームページのリンクを調べようと、あらゆるものをダウンロードすることで問題を解決しようとしました。当時は、まだコンピュータが非力な時代でした。当時、1000万ページと推定された全世界のホームページをダウンロードすべく、汎用のPC部品を大量に組み合わせ、できるだけ大きなコンピューターパワーを結集したのです。

1996年、2400万ページのホームページのダウンロードを終え、総数757万のリンクを解析。その結果、検索し終えたページでは、そのページに誰からどんなリンクが張られているか、直ちに知ることができるようになりました。そして、実は、このリンクの構造を知るために低価格のパソコンで世界中のホームページをダウンロードした研究こそ、今のグーグルの検索サービスを構築する上での最大の要素になっていったのです。それは、張られているリンクの数こそが、そのホームページの評価となるのではないか、ということに二人が気づいたからでした。

創立者の一人、サーゲイ・ブリンは、このように述べています。

”ウエブ上のリンクを調べるという研究をしているうちに、ウエブ上のページはすべて同じではないということに気づきました。あるページは、それほど重要ではないと、そしてウエブでのリンクの構造を分析する方法を開発し、すべてのページの重要性を判断するようにしたのです”

すべてをダウンロードするうちに、彼らはホームペジとホームページの結びつき方を詳細に分析し、その結果、当時の検索のクオリティを大幅に改善できることに気づいてのです。当時もすでに商用の検索エンジンは存在していましたが、それは「ページの中の情報」のみによるもので、リンクの数などといったページとページの関係性を考慮に入れてなかったのです。ラリー・ページは、それぞれのページに、いくつのリンクが張られているか、つまりバックリンクの数を数えればホームページの重要度をランク付けできると考えました。さらに、リンクの数だけでなく、どういうサイトからリンクが張られているか、その質も検索することで非常に正確な検索結果を出すことができるようになったのです。たとえば、NYタイムスのように多くの人々が沢山のリンクを張られているサイトは、少ない人々からのリンクがあるだけの個人のサイトよりも重要であると考えそれぞれのリンクの重要度に差をつけたのです。


(学問からビジネスへ)

二人の創業者は、この検索エンジンを基にシリコンバレーのファンドから出資を、1998年9月のベンチャー企業としてスタートしました。グーグルは、「検索の技術」を提供する会社として評判を呼びましたが、、なかなか黒字化するには至りませんでした。ヤフーと提携した直後の200年6月に「グーグルアドワーズ」という検索連動型広告を開始しました。広告が検索結果に悪影響を及ぼさないように、広告領域と検索結果の領域を分けて表示し、検索結果の横に3行だけの広告を許可するように配慮しました。

 注)今では、すこし様子が変わっていますが・・・。さりげない形で。。

これが評判を呼び、「押し付けがましい広告はしない」とのイメージで、グーグルの広告収入は大きく伸び、200年末にには検索件数が一日一億件を突破。グーグルの経営は黒字化しまました。その後は、倍々ゲームで2006年6月には18兆円の巨大企業になりました。この時期に、検索連動型広告をビジネスとして捉えたのには、先見の明があったのです。

(検索連動型広告GAの意味するところ)

 GAでは検索したキーワードに基づいて、その言葉に関連する広告を表示します。つまりキーワードを打ち込んだ人に向けて広告をだすのです。これをターゲット広告といいい、そこがクリックされると、最低1円の入札価格からはじまり、その後はオークションで決まるというシステム。企業にとっては、また個人ビジネスでも安価な広告料で宣伝できるのです。そして、その広告がクリックされるのは、上位1番から3番が多く、10番以下は見落とされる可能性があります。最低でもグーグルアドワーズで上位15位以内の入らないとこの世に存在しないと同じでしょう。

 注)こうなると、日本語での広告は世界でビジネス展開しようとすると、ダメです。勝負になりません。これからのアジアでの巨大ビジネスでは、中国語の広告が不可欠でしょう。

そして検索順位が企業の存立に関わって来るのです。逆にいえば、検索上位に入れれば、個人ビジネスでも大きなビジネスチャンスがあります。この本では、アメリカはバーモント州の社員たった9人の花の種を販売する会社の例が紹介されています。このアメリカン・メドウズは、このGAという文字だけの広告でわずか5年の間に収益を3倍に伸ばしています。グーグルは、このシステムの利用者(企業)に対して、どのくらいの広告を人が目にしたか、その広告を見た人のうち、どのくらいの割合で注文を出したかなどの情報を提供してくれるので、広告にある言葉をさらに工夫することが可能です。またサンフランシスコにある視力矯正のレーザー手術(レーシック)を手がけるスコットハイバー病院も、検索エンジンの最適化を図ることによって、すべてのキーワードでトップ10入を果たし、さらにトップ5のランキングに上がって、市場シェアを獲得しています。


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 ここからは、グーグルが引き起こす問題について解説して行きます。

(既存のメディアを揺さぶるグーグル)
 
「グーグルニュス」というサービスがあります。新聞やテレビ局がネットで配信した
ニュースをカテゴリーごとにまとめて表示するサービスです。アメリカ版では、新聞や雑誌の記事、テレビのニュースのほか、行政や研究機関のパブリックサービスなども含めて4500のサイトがニュースソースになっています。ニュースの記事は、「クローラー」と呼ばれる自動プログラムがインターネットの中をくまなく徘徊して情報を中央のサーバーへと持ち帰っていきます。それを自動的に編集しているのです。

これを読めば、読者は複数の記事を比較して、その中から客観性のある記事を追求するメリットがあります。また、ニュースの内容だけでなく、その伝え方に質的な差があることも実感するでしょう。しかし、一方で既存メディアも記事情報を勝手に使われ序列をつけられることになります。これに関しては、訴訟にまで発展したケースがあります。一方でグーグルにニュースコンテンツの掲載を許可しないとなると、コンテンツの対価は得られませんし、己のメディアという範囲に中で孤立してゆくことにもなりかねません。メディアの存在意義が問われることにもなりそうです。

 (人類の知的財産の検索)
 グーグルが対象とする情報は、オンライン上のものだけではありません。オフラインの活字のまで及ぶのです。一部の書籍によっては「グーグル・ブックサーチ」によって、その内容が検索できます。現在、「人類の知の集積」である書籍をスキャンしてデジタル化するプロジェクトが着々とすすめられています。著作権のある書籍でも、スタンフォード大学にある蔵書では、本文の1ページ分が表示されます。

 早稲田大学大学院の野口悠紀雄教授は、グーグルの事業の中で最も驚異的なものは、この書籍のデジタル化プロジェクトだと話しています。

 ”プロジェクトに参加しているのが、ほとんど英語圏の図書館というのが問題だ。これが自由に検索できるようになったら、知識のインフラという意味では、日本語と英語の間に格段の差がひらく。英語でなければおよそ知的な作業ができなくなってしまう。人類が誕生してから蓄積した知識のほとんどが図書館にある。これをグーグルが支配し、自由自在に検索できるようになったら、何が起こるか想像もつかない。彼らは、またもやビジネスに生かすことになるだろう。こうしたことを民間企業がやっているということが恐ろしい。通常の企業とは発想がまったく異なりる異様な企業だと思う” 


(ユーチュブの影響力)
 
 2006年10月、グーグルは創業以来最大規模となる16億5000万ドルを投じてユーチュブを買収しました。シュミットCEOが言うように、インターネットが映像革命の幕をあけた。ビデオが、インターネットで最も重要なメディアになづでしょう。

ユーチュブは訴訟問題を抱えつつも大きく発展してゆくのですが、その影響は政治の世界でも無視できなくなっています。2006年11月のアメリカの中間選挙で、次期大統領候補として呼び声が高かった共和党のジョージ・アレン候補は思わぬことで落選の憂き目をみたのです。それは、敵情視察の来ていた民主党候補に対して人種差別発言をしたと批判される動画の投稿があったからです。過去の発言や今までの政策と矛盾する言動が証拠の映像として投稿され、またたくまに広がって支持率を大きく揺さぶることになります。
日本の選挙でも、候補者の演説の様子や過去の問題発言が投稿され話題になりました。日本の公職選挙法ではインターネットを使った選挙運動は禁じられており、こうしたネットの世界での有権者の反応をどう捉えるかも課題となるでしょう。

  注)日本の選挙に関連しての私見ですが、グーグルのクローラーのようなものによって候補者の過去の国会での発言や行動を収集し、それにAIによるある一定の評価を加えて、各候補の評価をするのも一案かと思っています。また地方議会での各議員の行動も把握、評価すべきでしょう。

 明治学院大の川上和久教授(政治心理学)は、このようにユーチュブの使い方を述べています。

 ”国家も企業もユーチュブを使った情報発信のあり方を探るべきだ。対外的に自らの立場をアピールする手段、あるいはイメージ戦力として、外交や危機管理の面でも活用できる” 


(誰が検索順位を決めるのか? 「中国問題」)

 検索順位は、公正に決められていると、誰でも思うでしょう。必ずしもそうではないのです。検索順位を上げようと、「検索エンジン・スパム」が現れます。先にお話したレーザー治療法のハイバー・病院の検索順位が競争相手よりも下がったのです。これは、スパムで操作されたのです。誰しも、検索順位を上げて顧客にクリックしてもらい、その結果ビジネスにつなげたいですから。

 しかし、こんなことは可愛いものです。問題は政治的な案件です。グーグルの検索結果が、どこまで公正に決められているのか。そのことに疑念を抱かせる事件が起こったのです。

2006年2月、アメリカの下院委員会で検索サービスの公正さを揺るがす問題が議論されました。それは中国国内での検索サービスについてであります。中国では、たとえばチベット問題やダライ・ラマ、法輪功と呼ばれる宗教団体、天安門事件など、ある種の政治的な話題はネット上での掲載や議論が法律で禁じられています。これに対してアメリカなどは、人種問題だとして、こうした用語を検閲する姿勢に疑問を呈してきました。そうした中、中国政府が禁止している話題に関して、検索結果が意図的に削られているという指摘が、アメリカの下院議会で行われ、その検索結果を提供しているアメリカ企業の姿勢に対して、議論が行われたのです。これは、「中国問題」とも呼ばれ、検閲された一定の検索結果の中からしか情報が提供されていないと、いう公正性に関する大きな問題となりました。NHKの取材班は、その背景を探るべく、中国問題を議論した下院委員会の公聴会の議事録を入手して、そこから、中国という巨大市場への参入と「検索結果をいじる」という不本意な選択との板挟みの状況下でで、グーグルが行ったギリギリの判断であったことが伺える、と記しています。以下は下院議員の発言です。

 ”グーグルおよびマイクロソフトは、二つとも同じようにネット上で「繊細な話題」について議論したり、検索したりしするのを禁じる中国の国内法に従う必要があったと述べている。そして、グーグルは、ドイツ国内でネオナチズムのプロパガンダが禁じられていることを引き合いに出している。しかし、これは私を失望させる。ドイツは自由民主主義の国であり、自由選挙によって選ばれたリーダーが三世代まえのアウシュビッツの悲劇を嫌悪し、こうした措置を決めている。しかし、中国は信仰の自由や表現の自由にきびしい制限を加えている、自由とオープンな社会を目指すグーグルのリーダーが北京の検閲に手を貸すのは整合性がないではないか。・・・”


これに対してグーグルの副社長の一人はこう答えた。

 ”不完全な世界では、不完全な決定をせざるを得ないこともあります。それが中国で起きたことです。私たちはユーザーにとって、そしてグーグルにとって、最高の選択をしたと思っています。中国のユーザーは私たちのサイトによって、難しい政治の話題に関する検索以外は、多大な利益をうけることができるのです。政治の話題に関しては、政府の規制であり、私たちはそれを快くは思っていないことなのです”

たしかに、グーグルは「検索結果から除外された情報がある」ということも明示しています。しかし、一定の圧力によって検索結果から除外されるページが出てくるということは、政治家や時の政府の都合で検索結果を勝手に操作され、思想統制の道具に利用される可能性があることも意味しているのです。

 これらの他にもグーグルについては、いくつもの問題点があります。その一つは「グーグルに蓄えられている個人の履歴」の問題です。ユーザーは、過去にどんな検索をしたのか個人の履歴を蓄えています。自分ですら意識ぜずに検索したものが、検索回数でトップになる時があり、無意識に自分が何を望んでいるのかを覗かれているような気分にすらなります。また人々のネット依存が進んだ結果、表現の自由や民主主義がうまく機能するのかどうかという問題提起が、憲法学の分野でなされています。検索結果に依存することは「自分の好みに満足していればよい」という考え方を助長し、人々の視野を狭くすく懸念もあり、シカゴ大学ロー・スクールのキャス・サンスティーン教授はインターネット上で自分の立場と異なる言論との「思いがけない出会い」を可能にする仕組みを提唱しています。

 「グーグルは知ではない」という見方があります。東京大学小宮山総長(現名誉教授)は2007年4月の入学式の式辞で、インターネットを通じて誰もが簡単に情報を手にいれられる時代の危うさについて、警鐘をならしています。

 ”最近は、インターネットを駆使して誰でも大量の情報を短時間のうちに入手できるようになった。しかし、ひと昔前は違っていた。学術情報を入手するためには多くの論文に目を通したり、人に話を聞いたり、カードを作って整理したりと大変な手間が必要だった。もちろん現在の方が便利に決まっている。しかし、その便利さにこそ落とし穴がある。情報収集にかけた膨大な手間と時間は、無駄のように見えて決して無駄ではなかった。その作業を通じて、頭の中で多様な情報が関連づけられ、構造化され、それが「閃き」を生み出す基盤となっていたからだ。インターネットで入手した、構造化されていない大量の情報は「思いつき」を生み出すかもしれないが、「閃き」を生みだすことは極めて稀だ”
小宮山総長は式辞の中の「インターネット」という言葉をそのまま「グーグル」に言い換えてもよいとした上で、グーグルをはじめとする検索サービスは、情報を整理する手段でしかなく、構造化された「知」とは異なるものだと述べています。


     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 私たちは、これまでにお話ししたようなグーグルの問題をどう受け止めたらよいのでしょうか?単に「ググる」ということで言葉を調べるだけでなく、検索の持つ意味それも社会的な意味合いを改めて考えてみたいと思います。


最後に『The Four』を読んで感じたことを少し書いておきます。ここで取り上げた本書は、2007年に出された古いものです。これに対し、『The Four』は、10年後の2017年に出版されました。10年の差があります。そして著者のエッセイのようなものです。しかし、『The Four』で著者が書いていることは、NHKスペシャル取材班の書いた『グーグル革命の衝撃』という本の中でなんらかの形で取り上げられています。グーグルの実体に迫って凄いものです。NHK取材班の果たした仕事は高く評価されてしかるべきかと思います。

さて、『The Four』では、グーグルは強大であること、もっとも高いIQ集団で、今なお成長を続けていること、メディアとの確執があること、そして政府や議会のよる規制の問題があること、などなど。そしてスコット・ギャロウェイはその文章の中で、”Enter the New God" という表現で、グーグルが全知かつ不滅であるということを示唆しています。 であればこそ、「グーグルが引き起こす問題」については、私たちも、もっと深い注意を払わなけばならないと考えます。




 長文をお読みいただき、ありがとうございました。



(余滴)

 「グーグル」の社会的な意味合いについては、「中国問題」などでご紹介しましたが、グーグルを上回る速度で拡大し、世界最強を誇る「アマゾン」もさまざまな社会的な責務を負っています。個人情報の独占/国家以上の強大な影響力/小売業の衰退による社会の弱体化などなど。そのアマゾンを、さらに上回る速度で拡大し、成長を続けている中国企業があります。ジャック・マー率いる「アリババ」です。習近平は中国で新秩序を押し進め、統制を強めています。その一方で、もともとは中国の基幹産業以外の業種とみなされたアリババが担ってきた事業は皮肉にも国有企業が担うべきであるとされる基幹産業にまで育ってきています。中国国内で帝国と化したアリババ最大のリスクは、国有化リスクや中国政府からのコントロールが強まるというリスクになるかもしれません。そのような雰囲気下で、ジャック・マーも最近ではかなり中国政府に配慮した発言をするようになってきます。ごく最近も、アメリカでの100万人雇用の計画を取りやめると発言しました。もっとも、中国政府への忠誠心を明らかにしていくことは、欧米など先進国への本格進出の大きな障害になる可能性もあります。「世界をよりよい場所にする」企業ではなく、。実際には「中国の国益だけを考える」企業とみなされてしまうリスクが顕在化するのか・・・難しい問題です。





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4 コメント

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面白かったです (九分九厘)
2018-09-30 17:55:32
 今日(9月30日)の日経朝刊はかなりの紙面をフェイスブックのデータ危機管理の欠陥に関連する記事に費やしています。本ブログと合わせて読んでいくと、GAFAの過去からの歩みと現在の世界が抱える問題点についてよく理解することができます。本ブログの丁寧な説明と長文の記述に敬意を表します。
 フェイスブックは単なる交流サイトの大手ではなく、ユーザー認証の仕組みを数千規模の第三者企業に提供する門番役である。企業はフェイスブックの認証確認を使って他のサービスの本人確認を省略することができる。このシステムに脆弱性があれば、なりすましによる金銭搾取や個人情報に基づく脅迫などが起こることになる。そして「SNSはスパイ活動の標的の情報が大量に集まる格好の情報源」ともいわれ、いまや国家安全保障上の懸念材料の一つであるという。GAFAはデータ覇権を制し社会インフラの重要な役目を背負って行く宿命にあり、その社会的責任が大きいというのが、日経記事のフェイスブック・ハッキングについての要点です。ここまではよく理解することができました。
 一方、同じ朝刊の5面のコラム記事「風見鶏」では、米欧日中の四者のデータ覇権争いについての情報が記載されています。中国では国家管理による個人・企業のデータ管理であって、データの利用度は抜きん出ているが、データの個人権利は殆ど無い。欧州はGAFAに対抗して今年の5月にGDPRと称する一般データ保護規制を作って、個人のデータについての権利を大幅に強化した。欧州ではデータを扱う主体は企業から個人に移ることになる。米国はGAFAを中心とした大手企業がデータ覇権の行く末を握っているが、中国に比べれば利用度の高さに関しては遅れを取っている。このまま、米国と欧州が個人のデータ権利についていがみ合っていては、そのうち完全に中国にデータ管理システムの世界覇権を握られることになり大変なことになる。ということで日本が米国と欧州の仲立ちをして三者で共同してシステムの構築を図る。・・・というのが「風見鶏」の内容です。
 データシステム管理と一概に言われると、具体的に何を言っているのか分かり兼ねるものですが、ここでは中国にける個人情報の国家管理手法に対して対抗手段を論じています。中国ではあらゆる個人データや監視カメラでによる個人行動記録まで国家に握られ、それだけにデータの集積度は高くシステム構築のスピードも早い。日米欧では、現在のところ個人・企業・国家の三者が如何なる相関関係を構築して個人データ管理を行うかの模索段階にあるとしか言えない。いずれにしても国の関与が必要であるというのが前提での話。
 国がどこまで個人情報にアクセスして如何なる国家経営をするのか、中国は明らかな路線を歩んでいこうとしている。民主主義・資本主義を標榜する日米欧において、国がどこまで個人情報の管理に関与できるのか、そして日米欧の三者で共通のルールを構築することなど、そもそも可能なのか? 踏み込んでいくと、個人の分散型ネットワークのブロックチェーンのグローバル化問題にまで関係して行くのでしょう。国境の概念そのものが変わってしまう可能性のほうが大きいように思います。生半可な勉強しかしていないので、この先の論議に筆を奮うことは難しいようです。超アナログの世界に逆行している私なのですが、この問題は気になるもので今後もウオッチしていかねばと思っています。
 
返信する
超想像の世界 (龍峰)
2018-10-01 15:22:02
ゆらぎ 様

深く論ずるにはあまりにも無知なる自分ですが、日頃PCやスマホで使用しているGAFAの裏の世界、水面下の動きを読ませて頂いて、ただただ驚くばかりです。
知らぬ間に世界の覇権争いは、想像を超える次元に突入しているのですね。この先、少なくとも日米欧で結束して中露に対抗、凌駕しておかないと自由と民主主義が敗北してしまいそうです。油断も隙もありません。日経新聞の30日のAIがらみの記事、本日(10月1日)のAIの記事をそれぞれ、関心をもって読みました。現時点では残念ながら日本は遅れ気味で、企業もあらゆる面で対応に戸惑っている感じ。それでも本日の日経の記事で、経産省が「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」を業界に示したことは、データ提供者、利用者、プラットホーム構築者など、関係者に対し、暗中模索の関係に、具体的な一つの足掛かりを提供するもので、地道な一歩前進と言えよう。
この先米欧の仲立ちを日本ができれば上出来であると考えます。それにしてもGAFAが全てアメリカで誕生していることに、群を抜いている実力を感じます。
返信する
お礼 (ゆらぎ)
2018-10-01 20:29:47
九分九厘さま
 個展の準備など日々ご多忙な中で、ていねいにお読みいただき恐縮です。”GAFAはデータ覇権を目指し・・・”、とコメントで書いていただきましたが、どうやら中国では、アリババなどがそれを主導し、一歩先を進んでいるようです。つい先日、手にした『INOVATIN in CHAINA』(チャイナ・イノベーション)では、「データを制するものは世界を制する」というアリババのジャック・マーの言葉を紹介し、中国の動きを報じています。
著者によれば、データのコントロール権をめぐる主導権争い以前に、日本の場合ビッグデータの蓄積がまだ発展途上国である、と言っています。そしてデータの流通問題を解決する以前に、データが生まれる場面の創出とデータの収集が、より優先的な課題であろうと指摘しています。中国の動きは、ますます目が放せませんね。
返信する
お礼 (ゆらぎ)
2018-10-01 20:30:47
龍峰さま
 拙文をお読みいただき、ありがとうございました。ご指摘のように、日本はデータ問題、またAIの開発・利用面で相当立ち遅れています。特許出願件数をみても、横ばいで中国やアメリカに水を開けられています。その遠因の一つには大学のレベルの低下があります。東大や京大もアジア圏では数十位以下という有様。そもそも、日本の大学はティーチング・ユニバーシティとして教授が、自分が学んできたことを教える。欧米の大学は、リサーチ・ユニバーシティとして、相互に討論し、研究するところです。このあたりから改革し、またアメリカの大学への留学生の数を増やしていかねばならないと愚考いたします。
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