(新)緑陰漫筆

ゆらぎの読書日記
 ーリタイアーした熟年ビジネスマンの日々
  旅と読書と、ニコン手に。

時評 『ドイツリスク』(三好範英 光文社新書)を読んで

2017-03-12 | 読書
時評 『ドイツリスク』(光文社新書)を読んで


一口に欧米というが、アメリカのニュースはかなり入ってくるが、欧州なかんずく大国のドイツやフランスのニュースは余り目にしない。最近でこそ3月中旬のオランダの下院選挙、4月23日のフランス大統領選挙、そして8月から10月とみられるドイツの連邦議会選挙などに関連して新聞紙上を賑わすことがあるが、単発的な情報ばかりで、いわゆる調査報道のように、じっくり問題を掘り下げた報道はほとんど見られない。投資の関連でユーロの行方には目配りをしているが、やはり情報量が少ない。

 そんな時に、『ドイツリスク~「夢見る政治」が引き起こす混乱』(三好範英 光文社新書(2015年9月)という本を手にしたのである。そこには、想像もしたこもないようなドイツの現実の姿が描かれていた。著者の説くところの信憑性には、問題もあるかもしれない。しかし、読売新聞に入社後、さまざまな国の特派員として、なかんずくベルリンには特派員として、3度駐在している、さらに彼の語るところは、”ファクト&ロジック”にもとづいており、たんなる伝聞や想像での記事ではないように思える。そういう意味では、目からうろこでもあった。


(ドイツといえば・・・)
 今日も、たまたまハノーヴァーからきたドイツ人夫妻と話をしていたが、なんと言っても音楽の国。バッハ、ブラームス、ベートーヴェンそしてシューマン、カラヤンなどというと話が弾む。また、日本はドイツから多くを学んできた。明治初年、岩倉使節団が米欧を回ったが、その時欧州ではプロイセンがドイツ帝国を樹立(1871年)しており、その内情をつぶさに見聞した。そして、日本と同時代に国を大きくして、ドイツを統一したプロイセンに深い親近感をいだき、プロイセン憲法をお手本として、明治憲法を策定した。さらに医学分野でも多くをドイツに学んでいる。私自身が大学に入って、学部で学んだときにまず、手にしたのが、いわゆるPBリポートである。これは第二次大戦後アメリカ政府がドイツから収集したもので、とくに化学関係ものが多い。ドイツ語で書かれた、このレポートを読んで勉強したことを覚えているます。その後、アメリカから学ぶことになったが、当初はドイツから学んだのである。

 それゆえ、技術の先進国というイメージが私にはある。さらに時代は近年のことになるが、東西ドイツ統一の4年前に西ドイツの大統領にして、その後統一ドイツの初代大統領になったリヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカーが、1985年5月8日に行った演説「荒野の40年」は感動的なスピーチである。それは、第二次大戦でのドイツの敗戦40周年にあたって西ドイツ国会で行われ、篤いキリスト教信仰にたって歴史の真実を直視すべきことをじゅんじゅんと説いた。感動的ですらある。(スピーチの一文は、「追記」に記すことにする)

 そんなこともあって、私自身にとってはドイツには尊敬と、そして親しみすら覚えるようなよいイメージがあった。

 ところが、今日の実態は、かなり異なった様相を呈している。『ドイツリスク』で取り上げているところを見てみると、ドイツの報道の問題/自然エネルギーを推進するエネルギー転換の問題/ユーロの問題そして中国に共鳴するドイツの歴史観などに関して、様々な問題があるようだ。
 では、『ドイツリスク』で取り上げられた事例の幾つかを見てゆくことにする。以下は、著者の云うところをかいつまんでの要約。

 2013年3月11日の福島第一原発事故を受けて、メルケル政権は、2020年までに国内の全原発を廃止し、また自然エネルギーを2020年までに35%に、2050年には80%にまで高める目標を掲げた。(「エネルギー転換」と称されれる)こんも実現には送電線網の増設に加え、予備発電所/蓄電施設/スマートグリッドなどの整備をすすめ、全国規模あるいはヨーロッパと結びついた新たな給電ネットワークを構築しなければならない。そこから4年以上経過した今日(2015年)、消費者に転嫁される賦課金の高騰で、電気料金は2000年の2倍以上に達している。不安定な自然エネルギーの増大で、電力供給の安定性確保は困難さを増す。一方、ドイツメディアでは、福島の事故は当初からチェルノブイリ事故(1986年)を上回る惨事になるなどと悲観的な予測が横行し、事故による被害を過小に発表したとして、東京電力や日本政府への道義的糾弾に満ち満ちていた。ドイツメディアによる原発事故報道と、ドイツ社会のヒステリックな社会現象は相互に増幅し合う関係だった。メルケル政権が2022年までの脱原発決定を行った背景には、こうしたドイツ社会の背景があった。


(偏向したフクシマ原発事故報道)

 著者は、ドイツのいくつものメディア、例えば公共放送ZDF(日本のNHKテレビに相当する)/同じくARD/またヴェルト紙/南ドイツ新聞/大衆紙ビルト/フランク・フルターアルゲマイネ紙/リベラル系のフランクフルター・ルントシャウ紙など、数数の報道をつぶさに検証し、それらが予断に満ちたかつ偏向した報道であった、と述べている。

 注)福島の原発事故に関する現状については、日本でも多くの誤解と偏見に満ちた報道や発言がある。それについては、昨年12月の『初めての福島学』と題して本ブログに書いているので、それを参照いただきたい。ちなみに、この本も、量的データと理論に基づいて、問題を扱っており、単なる抽象論や感情論ではない。その意味で信頼性は高いと言える。

ドイツでの報道の幾つかを、

 ・3月12日、ドイツメディアの中核の一つZDFのニュースでは、”日本は原発の大災害に直面している。・・・福島原発にはチェルノブイリの20倍の使用済み核燃料があるため、チェルノブイリよりはるかにひどい結果になる可能性もある”、とキャスターが解説した。ほかのニュースでも、チェルノブイリと関連付けた悲観的な報道となった。ヴェルト紙では、「死の不安にある東京」として、”東京でも高い放射線量が測定され、多くの住民は、とくに女性と子どもは放射性雲の恐怖から、すでに南へ向かっている”と報じた。そして、放射能の粒子から身を守ろうとするマスク姿の日本人の写真を掲載している。・・・日本人なら誰でも分かるように、当時は花粉症の季節と重なったからに過ぎない。

 さらに2013年3月、環境政党「緑の党」の党首クラウディア・ロートは震災2周年に際して、フェイスブクに次のような書き込みをした。地震・津波の死者が、あたかも原発事故による死者であるかのように

 ”2年前の今日、福島の壊滅的な原発事故が起きた。この大事故において、1万6000人が死亡し、2700人がまだ行方不明である。福島の原発事故は、非常の危険な原子力がいかに制御不能で、命にかかわるものであるかを示した”

ロートの頭からは日本を襲った大地震や津波のことは消えてしまっていたらしい。

このようなドイツの報道に対し、英国の報道は冷静であった。3月13日、英国BBCテレビが福島1号機の爆発を受けて放送したニュースでは、「混乱する情報の中、確実に言えることは何か」と前置きした上で、こう報道した。”爆発は視覚的には劇的であるが、放射能の拡散という点では、必ずしも危険というわけではない。炉心溶融という言葉も非常に感情的な言葉だが、人々にとっての主な脅威は、大気中に舞い上がった放射能を帯びたプルーム(放射性雲)だ。チェルノブイリでも、英国のウインズスケール原発事故(1957年)でも原子炉の燃料が数日間にわたりくすぶった。福島の爆発は、チェルノブイリのような爆発ではなく、火災の情報もない。遥かに低いレベルであり、汚染がごく周辺地域を越えて拡散することはないだろう”、と。3月15日付のフィナンシャル・タイムズでも”専門家はもう一つのチェルノブイリの可能性は低いと見ている”と報じている。 ドイツの原発事故報道は、事実認識の甘さ、悲観的見通しの強調や、早急に倫理的な判断を下す傾向にある。一言で言えば、英国メディアとの比較において見るように、経験的な事実を積み上げ、帰納的に判断するのではなく、予断を持って演繹的に認識、判断しがちである。さらには、そうした自分の認識のありかたに無自覚なことである。

  注)著者は、ドイツの偏向した報道のことを繰り返し取り上げている。それは、地震・原発事故のことのみならず、日本の歴史認識問題にまで及んでおり、それが中国とドイツの外交においても、影響がでてくるからである。(詳しくは、のち ほど「中国に共鳴するドイツの歴史観」の章で詳しく述べる)

 さらに、日本人を倫理的に低いものとみなし、ホロコースト故に国際社会からの厳しい道義的非難にさらされてきたドイツ人が、他に倫理的非難の対象を発見して安堵する心理である。ドイツ人の目からみれば、原発事故を起こしたにもかかわらず脱原発に踏み切れず、過去の負の歴史を反省せず、近隣諸国との摩擦を解消できない日本人は、倫理的にもとる存在としてひとつながりに把握されているのではないか・・・。

 この章の最後に、ドイツ人の原発事故対応の極端さを示す一つのエピソードを紹介する。ベルリン在住のある日本人女性デザイナーが体験したことである。地震発生から5日ほど経ったある日の夜、ベルリン市内の電車に乗って席に座っていたところ、隣の席の中年ドイツ人男性が、”日本人か。最近日本に行ったか”と聞いてきた。女性は、たまたま10日間の一時帰国から帰ったばかりだったので、”行った”と答えたところ、男性は”あなたは被爆しているかもしれない”と言って離れた席に移っていった。この女性は、放射能汚染の深刻さばかりを強調する報道に毎日接しているので、一部のドイツ人はパニックに陥っていると、いささか呆れていたとか。


(隘路に陥ったエネルギー転換)

 前述したようにメルケル政権は、2050年までに自然エネルギーを80%とする計画を掲げている。(2022年までに、すべての原発を廃棄する)福島第一原発事故の後、3月26日にはベルリン、ハンブルグ、ミュンヘン、ケルンの4都市で26万人が参加して、ドイツの原発稼働停止を求める大規模デモが行われた。

 脱原発決定の直後から電気料金高騰の懸念が急浮上した。色々の問題点が自然エネルギーによる発電には問題がある。自然エネルギーのうち風力発電が最も割合が多いが、洋上発電には厖大な建設コストがかかる。(陸上発電の4倍以上、維持費も2~3倍)太陽光発電も、発電が不安定で維持コストがかかる。

 というようなことで、この10年で電気料金は2倍になっている。電力需給システムも不安定になった。電気は、常に需要と供給をバランスさせねばならないが、その調整は自然に困難になってきている。

不安定な自然エネルギー発電の性格上、供給過剰あるいは過多に陥った時、その凹凸をできるだけ迅速に埋めることのできる発電所が必要である。そのバックアップの役割は、火力などの既存電源でしか果たせない。ドイツ環境省によると、皮肉なことに自然エネルギーの普及にともない、、2020年までに新たにおよそ原発8基分(1万メガワット)の化石燃料発電所が必要である。そして、その大半は褐炭を利用した石炭火力発電で、現在石炭火力は43.2%を占めている。

  注)温暖化対策は、どうなっているのだろう? 実はドイツの温室効果ガス排出削減が進んでいないことは以前から指摘されているのである


(ユーロ加盟と導入)

 2009年秋にギリシャで総選挙が行なわれて政権交代になった。新政権(PASOK9は、それまでの政権による09年度の財政赤字4%という数字は偽りであり、実際には12.7%台と発表した。ギリシャは、ユーロ危機の震源地となったのである。年の明けた2010年、EU財務省会議が行なわれ、ギリシャに財政赤字削減を求めた。そこでギリシャは公務員の人員整理、増税などの緊縮策を打ち出し、労働組合や左翼からの反発を招いた。そんな中、ドイツの大衆紙「ビルト」の3月4日付けの記事である。”ギリシャはたくさんある島の一つをを売ったらよい”。 注)ギリシャには3000の島があるが、人が住んでいるのは87に過ぎない。・・・この後、中国が買うというようなニュースが流れた。・・・安全保障上、大きな問題であるのではないか。
このドイツメディアの報道はギリシャの反感を買った。ギリシャ政府は、”ドイツは第二次大戦の賠償を行っていない”、と歴史問題まで持ち出して反発した。

 実は、1996年のユーロ導入以前から、反ユーロ運動がドイツ国内で一定の広がりをみせていた。1998年2月に、ユーロ導入反対を唱えるヴィルヘルム・ハンケル(フランクフルト大)など4人の経済学者は、ユーロの違憲訴訟を憲法裁判所に起こした。提訴の理由は、ドイツ政府はユーロ圏に加盟する国々が加盟条件を満たすまで、ユーロの発足を延期する義務があったのにそれを怠った、というものであった。そして2月には、『ユーロ訴訟ー通貨同盟はなぜ必然的に失敗するのか』という著書を出版した。この裁判では、経済学者側の敗訴の終わった。しかし、この本には、次のようなことが書かれている。
 ”政治的な基礎のない通貨同盟は続かない。・・・マーストリヒト条約は不十分である。通貨同盟の強制的な拡大によって政治同盟に至るという希望は、現在の統合の枠組みでは満たされなかったし、今後も満たされないだろう。紛争の可能性を持った通貨同盟はユーロ圏の平和に資するどころか、連帯を破壊する爆薬であることが明らかになるだろう”
その後のユーロの展開を見れば、大筋で同書の予言どおりになったと言えるのではないか、と『ドイツリスク』の著者は述べている。この後も、ドイツの右派知識人、左派知識人などの、ユーロの現状に対する批判を紹介している。ユーロを理想主義的にとらえる政治家、コールやシュミットの考えかたも紹介しているが、本記事では細部にわたるので、省かせていただく。そして日本とドイツとの付き合いかたという観点からは、元ドイツ日本大使だった有馬龍夫の回想録からの言葉を引用した著者の見方をご紹介するにとどめる。

 ”「通貨統合はコール首相の信念にもとずくもの」 ユーロは、第一義的にはナチズムやホロコーストといった歴史の負債の克服に促された産物だった。過去の克服をヨーロッパ統合という夢に求めるドイツと、対ドイツ恐怖心からドイツ封じ込めを外交の指針とするフランスの共同作業が生み出した政治通貨である。それにしても、ナチズムやホロコーストを教訓に発足したユーロが、ナショナリズムや右派政治運動の活性化の一因となっていることは、歴史の大きな皮肉である。

 ユーロの成立過程をたどると、ユーロはヨーロッパ固有の現象であると思わざるを得ない。ヨーロッパの特殊な歴史的条件の蓄積なくしては成立しなかったし、他の地域に適用できる普遍性を持ったシステムでもないだろう。そのことをよく自覚することが、日本にとって賢明な指針を得る上でも不可欠と思われる”


(中国に共鳴するドイツの歴史観)
 
 本章にはいるまえに、「プーチンの理解者」としてのドイツの顔のことに触れておく。2014年3月18日、プーチンロシア大統領はクリミアを併合した。そしてプーチンの行動に理解を示す言論がドイツ国内に横行した。平和的な国際解決を旨としてきたはずのドイツ人の多くが、国際法秩序より歴史を根拠として武力行使をためらわないプーチンの論理と行動に共感を覚えたのである。メルケルも対ロシア制裁に関して、抑制された制裁を主張した。(日本政府も、そうだった)

リベラル系週刊紙「ツアイト」のインタビューで、ロシアによるクリミア併合は明らかな国際法違反だ、との問いかけに対し、”明らかな国際法違反かどうかは疑問だ。国際法は重要だが、国際法を引き合いに出すことよりも重要なのは、クリミア半島の歴史的発展だ”、といってプーチンの行動に納得を示した。これはエネルギー面でのロシアへの依存から脱却しようとするのは賢明ではない、という姿勢なのである。石油・天然ガスの35%をロシアからの輸入に頼っているのである。そして、ロシアへの接近、と米国離れが目立つようになっていった。2009年に顕在化したユーロ危機は、ヨーロッパでの中国の存在感を高めた。欧州金融安定基金債の購入を通じて、中国のユーロ安定化への貢献が期待された。・・・ドイツの東への志向が中国にまで至ることは、ドイツの持つ「危うさ」が日本にとって直接的なものになることを意味する。

 さて本論。中国との問題である。今、日本は中国と難しい局面にある。1937年に始まった日中戦争・太平洋戦争を通じて、日本軍はおよそ230万の死者をだした。そしてアジア全域では、2000万人の死者がでたが、そのうち1000万人は中国人犠牲者である。中国には、「100年の屈辱」という言葉がある。それは、1839年6月に始まったアヘン戦争いらい、先進諸国に国土を蹂躙され、屈辱にまみれたのである。日本軍の侵攻は、その植民地戦争の最後であったが、国際連盟などの近代化の歴史の中で起こったことなので、また犠牲者の数の多さもあった、中国人民の強烈な恨みをかっている。南京大虐殺の数が、あれこれ議論されているようだが、そんなことよりも、人の領土に多くの軍隊(100万人レベル)を送って、戦争をおこしたという事自体が問題なのである。きびしく反省しなければならない。

     ~~~~~~~~~~~~~~~~~

 そんなことを背景として、最近のドイツと中国の関係をみてみる。この章の冒頭で、著者はこう述べている。

 ”ドイツの東方への夢が中国に行きつくとき、日本として看過できない現実の懸念が生まれる。すなわち、歴史認識での共鳴を通じて、ドイツが様々な問題において中国の側に立つ懸念である。・・・ドイツが、現在では東アジアの国際政治に積極的に関与しようとする志向は薄い。しかし、歴史認識をめぐる日本と中国との激しい対立を見て、ドイツはメディアを中心に日本の「修正主義的」な歴史人認識への批判を強め始めている。”

 中国の習近平国家主席は。2014年3月22日から4月1日まで11日間に及ぶヨーロッパ歴訪を行った。とりわけ日本で注目されたのは、習近平はこの機会を対日歴史キャンペーンのために最大限利用するだろうと予想されたからだ。果たせるかな、28日ベルリンのホテルで行った講演で、中国の平和的発展を強調する一方、日本を名指して批判した。”歴史は最良の教師だ。1840年のアヘン戦争から1949年の人民共和国建国まで、中国はしばしば戦争と武力紛争の現場となった。日本の軍国主義者による侵略戦争だけで、3500万人の中国人犠牲者(ドイツで”Opfer”だから必ずしも戦争の死者の数ではない)が出た。”

 中国の対日批判キャンペーンは欧米主要国を中心に全世界を対象としている。ただ、先進主要国でも最も重点が置かれているのがドイツである。 そしてとりわけドイツメディアに効果を発揮している。さらに最近は、ドイツは過去の克服を真摯に成し遂げたが、日本人は過去の罪を隠蔽と自己正当化を行っている、という論理を掲げている。

 ここでもドイツと米英の報道の差は顕著である。たとえば、英紙フィナンシャル・タイムズ(2013年11月26日)は、「中国は係争の島に関して圧力を強めるのをやめるべきだ。中国は、ばかげた行いをしている。この島は、アメリカが沖縄の一部として1945年から1972年まで管理していた時期を除き、100年以上も日本によって管轄されている。中国は、この現状を脅迫によって変えようとしている。この島は重要な潜水艦の航路に位置しており、ここを管理すれば、中国が沿岸水域を越えて進出しようとする野望を実現する助けんになる」と報じている。
また米紙ウオールストオリートジャーナルは、12月5日付の社説で、「中国は勃興する権威主義的勢力であり、歴史の教訓によれば、すでに地位を確立した勢力がそうした膨張主義的行動を速やかにやめさせなければ、平和は危機に瀕する。もし世界が最初から中国の軍国主義が抵抗に遭うことを示さなければ、中国は(対外膨張政策をつづけ、第一次世界大戦の遠因になったとされるドイツ第2帝政のような)今世紀のドイツ帝政になる可能性もある」、と中国に対し厳しい姿勢を打ち出している。靖国神社参拝問題の議論もあるが、ここでは省く。

ドイツメディアは安倍第2次内閣にも、その発足以降、安倍首相を「ナショナリスト」「歴史修正主義者」と決めつけ、その政治の危険性を強調する報道を続けている。朝日新聞における「吉田誤報」を取り上げ、政権に批判的な朝日新聞を厄介払いしようとしている、と非難をし続けている。

  注)私自身は慰安婦問題について、コメントをするような情報を持ち合わせていなが、こういう話がある。ベトナム戦争のおり、韓国軍はある村の村民を虐殺したとか色んな情報がある。その一つとして、報じられているのが、米の同盟軍としてこの戦争に32万人の兵士を送ってこの戦争に参戦したが、そのおり、おり、数千人のベトナム女性を強姦または性的暴行を行い、韓国兵のための慰安婦としてはたらかせたという。(FOXニュス)。アメリカ軍兵士は、彼ら自身のの問題をどう処理していたのであろうか?

ドイツメディアの問題は枚挙に暇がないが、あと一つ。著者がフンボルト大学の研究室で歴史学者ヴィンクラーの話を聞いた時、ヨーロッパはナショナリズムに対してアレルギーを持っている。また日本で人権否定の動きが見える、というような言葉を聞いている。

  注)この話を目にした時、えっと思った。今の中国の現状そのものではないか?


 このようなメディアやアカデミズムの認識を受けて、偏向したイメージがドイツの政治家や外交当局に向かわせる懸念がありうる。歴史問題は現実にドイツの対日外交の方向に影響を与える要素となっている。一方、日本を知悉するドイツの外交当局者を中心に、冷めた目で東アジア情勢をみる見方があることも、著者は指摘している。事実、2013年11月27日に合意された第3期メルケル政権の連立与党間の連立協定では、対アジア外交を扱った項目で、中国より先に日本に言及し、「日本との友好は、ドイツ外交の重要な支柱だ」と記載された。

 注)それから3年以上経った今は、どうなのか? 以下は、私自身がネット系の情報ソースなどから集めた情報によるものである。ちなみにドイツも日本も、いずれも従来のメディアは勉強不足が否めない。

 「2015年3月、メルケル首相が来日した。日程はわずか、一泊、30時間という短いものであった。しかしメルケル首相は、ドイツが日本を軽視しているとの見方をこれ以上拡散するのを防ぐ思惑があったようだ。これまで、中国に偏り過ぎたドイツのアジア政策のりバランスという見方もあるが、中国市場はドイツの生命線であり、中国最重視路線が修正される可能性は少ない。メルケル首相は、9日に朝日新聞hボールで講演を行ったが、歴史問題に関するメルケル首相のことばは慎重に練られており、第2次大戦が終結した45年5月8日を「ナチスの暴虐からの解放の日だった」とするいわゆる「ワイツゼッカー・テーゼ」を表明した上で、「苦しみを欧州へ、世界へと広げたのが我が国であったにもかかわらず、和解の手が差しのべられたことを決して忘れない。まだ若いドイツ連邦共和国に多くの信頼が寄せられたことは幸運だった。こうしてのみ、ドイツは国際社会への道のりを開くことができた」とだけ述べ、フランスをはじめとする周辺国の善意をことさら強調してみせた。これまでドイツの政治階層は、戦後のドイツは近隣国との和解の努力を積み重ねてきたと自画自賛するのが常なのだが、メルケル演説ではそうしたくだりは鳴りを潜め、周辺国から和解の手が差しのべられたという謙虚な歴史観が披露され、日本を刺激しない配慮が施されていた。さらに東アジアの歴史認識の問題に絡め取られたくない、立場もあって”いずれの国も自分の進むべき道は自分で見出さねばならない、と表明した。東アジアの歴史問題に不干渉とも見られる考え方を明らかにしたのである。」
 
 最後に著者は、ドイツ人の考え方というか反省のしかたについて、こんなことを言っている。

 ”ドイツ人は、前世代の行いが、後世からみて失敗と評価されたとき、前世代の努力、葛藤をすべて無意味だと断じることに躊躇しないようである。戦後ドイツに、自国民の戦争犠牲者の慰霊をためらう傾向があったことは、先人に対する冷たい仕打ちだった、と感じる。歴史の継続性を自明の前提とし、大方の人々はその時代に常識の沿ってしか行きられない面があろうと考える多くの日本人にとっては、先祖の時代を全面的に否定することには違和感を覚えるだろう”

 たまたま、ひもといた『世界の歴史 第26巻 世界大戦と現代文化の開幕』の付録に著者たちの座談会のひとこまが書かれていた。そのなかに、ドイツの反省の仕方というところがあって、”ドイツ人の反省の仕方というものは、「昔に戻る」ことを絶対に「しない]、とあった。『ドイツリスク』の著者と同じような見方をしていると感じた。


     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

  長々と書いてきましたが、ドイツの現状について、諸兄姉はどのように感じられたでしょうか? いい勉強になりました。私自身の感想ですが、本書を読み通してみて、都度その云うところが正しいかどうか、別な情報ソースにもできるだけ当たったり、考えて見ました。その結果、著者の云うところには、ほとんど同感です。最近国際政治について、ヘンリー・キッシンジャーの近著『国際秩序』を手にして以来、東京での勉強会に参加させてもらったり、しながら勉強をしてきました。同時に、歴史に学ぶことの重要性に思い至り、『世界の歴史 全30巻』(中央公論社)を読み進めています。その中の、第26巻「世界大戦と文化の開幕」にはドイツのことも扱われているので、参考にさせていただきました。その付録の月報で、著者の一人柴宜弘氏はこう言っています。”現代の問題は、すべて第一次大戦から始まっている”、と。やはり歴史に学ぶことが大切だし、それしかないですね。それから、日本としては、ドイツがどういうか、あるいは中国がどうのように云うのかではなく、過去について反省すべきは、自ら反省しなけれならぬと思います。このことについては、別途書いてみたいと思っています。

 今回もまた、ご精読ありがとうございました。








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原発報道に関すすること (九分九厘)
2017-03-13 15:16:37
 メディアの報道に関しトランプ大統領のお陰でFakeNewsと言う言葉が流行っています。メディア側にもますます事実の検証責任が問われる事態になってきました。ドイツのフクシマに対する報道には徹底した検証が必要だったと思います。しかし、私の立場は脱原発主義ですから、ドイツの報道「チェルノブイリよりはるかにひどい結果になる可能性もある」ということに関しては事実であるという認識を持っています。放射線に関する風評被害の過剰報道などはFakeに近いものですが、長期的にみて日本人のフクシマ原発炉心溶融に対する危機感が低すぎると思います。ドイツ人のほうがよりセンシティブと言えます。
 「使用済み燃料」はまだ核反応をしていて熱を出しています。炉心からクレーンで引き上げ、そのまま平行移動する極めて不用心な建屋設計を行ったため、反応炉と同じレベルの二〜三階の空中に大きな水槽を作り、その中に「使用済み燃料」を大量に保管します。3号炉の使用済み燃料は地上に,既に降ろした報道はありましたが、1,2号はどうなっているのか知りませんが建物を補強しているものと考えます。問題は空中に燃料がある間に、建物が次の大地震で崩壊しすると、放射能の大飛散が再び起こる可能性があったことです。この使用済み燃料は、地上で黒鉛と鋼鉄のキャスクという巨大な容器に入れて保管されます。本来このキャスクを六ケ所村の使用済み燃料再処理機構に持ち込むはずのものですが、この工場はまだ稼働していません。したがって、日本中の原発の敷地内には出荷待ちのキャスクが一杯になってきて、一部をフランスに加工を依頼している現状です。因みに、アメリカは日本のごとく燃料サイクル方式は持たなくて、かつて核実験が行われたネヴァダ砂漠のような所にコンクリート製のキャスクをずらりと並べています。国土の大きさが決違いに大きく、人の住まない広い土地があります。
 次の問題は、フクシマ東電では汚染水をタンクに貯めています。デブリを取り出すのが40年先といいますから、このままではとてつもない汚染水の量なります。凍壁で地下水が汚染源を回避して海に果たしてうまく流れてくれるのか? 汚染水の放射能軽減装置の開発がうまくいくのか? さもなくば、果てしない汚染水貯槽の置き場は東電地域を越えて、現在の帰還困難地区に置かざるをえない。再処理工場から必ず出てくるガラス固化高濃度廃棄物の置き場も決まっていない。汚染除去の低廃棄物も帰宅困難場所に置かざるを得ないことであろう。汚染物の増加で帰還区域の更なる変更もやむを得なくなる可能性もある。ともかく、人間の住めない場所が半永久的に日本に固定化されてしまう。現在約5000人の人がフクシマ現場で防御服姿で働いている。これから半世紀の期間にかけて優秀な技術者・技能者が確保できるのであろうか。  
 最大の問題は、40年先にデブリが取り出されたとしてそれを保管する問題である。ドイツ人が言う「チェルノブイリの数倍」のシェルターを用意せねばならない。うまく行って最小3基である。シェルターの構造は決まったとしても、設置場所が問題である。数万年に近い年月を予想して安全における場所は日本には見つからない。内陸は人が住むところで不可能、フクシマの現在の地点が最も無難と思われるが、数万年の間に海に沈み込んでしまう。多分どこか太平洋の孤島を探さざるを得ないのかと思う。だれも解決が出来ない問題を将来に残してしまう。
 私の結論としては、絶対に地震国の日本で原発を持ってはいけないのである。小泉元総理の言うように、或いはドイツのごとく、できるだけ早く撤廃をすべきであると思います。民進党が早くも撤廃2030年を後退させている状況です。
 日本のメディアもデブリを40年先あたりに取るところまでしか報道していません。先のことがわからなく検証するすべもなく報道のしようもないのでしょう。なんとなく、日本は原発が大丈夫なものとなって来つつあります。しかし、メディは起きうる問題点を指摘すべきと思います。南海トラフ地震は世界で唯一、起こることが予想がつく地震です。あえてその発生時期機を唯一公表しているのは、『2038年南海トラフ地震』なる本です。著者は地震学者である元京大総長尾上和夫氏である。最も発生の確率が高いのは2038年と言っています。 フクシマを始め原発の事故が心配です。そのころには死んでいますが、日本は怖いところです。

主題のドイツの話から飛んでしまって、申し訳けありません
返信する
追記 (九分九厘)
2017-03-13 16:27:01
追記
原発についてもう一つ指摘すべき課題があります。原発稼働期間を30年から40もしくは50年に延期しようとする話が出ています。この稼働期間を決めるのは反応炉の鋼材の寿命です。鋼材は放射能によって脆化していきます。実験室予想から脆性破壊に至る寿命を30年として原子炉の運転を始めたが、内部にテストピースを挿入していて、定期的に脆性の進行度をチェックします。電力会社はできるだけ長く運転をしようとして、テストピースの評価を過大評価しようとします。原子力規制委委員会の田中委員長はテレビでよく見かける人ですが、一身に責任を負わされている様子です。電力会社と必死に戦っているようですが、政府の通産省は原発再開に向けて委員会に背を向けているようです。本質を見ていない通産官僚とこれに対抗すべきひ弱な環境省の官僚たち。止めるべき野党の弱いこと。問題が多いです。
返信する
新たな発見 (龍峰)
2017-03-17 15:23:52
ゆらぎ 様

今回も貴重なドイツの現状のご紹介は大変興味を引くものであり、再三繰り返し読みました。
彼らの中国への傾斜と日本への斜めに見た厳しい見方はドイツ人の特徴から来ているのでしょう。ナチドイツへの清算を表向き、スッパリやってしまうドイツ人からすれば日本人は中途半端なな対応と写るのでしょう。本の中にも書かれているように、歴史の継続性を自明の前提とする日本人にとってはドイツ人のやり方程には大方ついて行けないでしょう。司馬遼太郎の言を借りれば農耕民族と狩猟民族の違いかもしれない。それにしても現在の大方のメイデイアもメルケルも習近平に上手く乗せられ、市場の確保とで目が眩み、日本を誤解し、中国を良しとする風潮は許し難いです。中国寄りに時々なびくイギリスを当てに日本を理解してもらうように手を打たねばならないのでしょうか。
原発問題は、小生は、中期的なエネルギー政策の中で論じなければ単なる感情論に陥るだけであり、国家の安全とエネルギの安定確保の根本的な視座に立っての原発問題の議論が必要だと思う。現在日本では石炭火力がどんどん進んでいるが、環境問題より、世界の流れは石炭そのものを遠ざけつつある。中期的なベストミックスの議論が必要であると思う。
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遅ればせのコメントで失礼します (ゆらぎ)
2017-03-18 09:54:36
九分九厘さま
 早速お読み頂き、熱のこもった長文のコメントをありがとうございました。
原発問題は、よくよく議論をしなければならない問題ですので、少しだけコメントバックさせていただきます。”チェルノブイリより遥かにひどい・・・”というドイツの報道は、いささかセンセーショナリズムにあおられた感があります。福島の事故当初は、現実の姿がわからなのでの、こういう報道もあったのでしょう。では、今日ではどうでしょう。その後の放射線量の推移や被爆の実態についてフォローしているのでしょうか? 福島の米や野菜や果物などの数値をみてみると、どうもチェルノブイリより一桁小さいというのが事実ではないでしょうか。それから原発のあり方ですが、”原発反対”を唱える小泉元総理は、では、その代替はどうするのか考えておられるのでしょうか? 液化天然ガスは価格が高く不安定な上、そのソース確保に政治的セキュリティの問題もあります。自然エネルギーはコストが高く、不安定。石炭火力は、たしかにCO2の問題がありますが、技術の進歩でだんだん、発生量が低減しています。龍峰さんもご指摘のように、ベストミックスを考えなければならないと思います。

 原子炉の鋼材の劣化のご指摘には同感です。いたずらに、炉の稼働寿命を延ばすのではなく、対策を講じなければならないと思います。
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貴重なコメントありがとうございました。 (ゆらぎ)
2017-03-18 10:25:06
龍峰さま
 コメントありがとうございました。ご指摘のようにドイツの人と日本人には考え方に本質的な違いがあるようです。ドイツは、ユーロという理想を唱えつつ、なんでも大量に買ってくれ、大枚をはたいてくれる中国に擦り寄っています。私たちの目からすると、許しがたい思いです。AIIBにも、いの一番で出資しましたが、その後は人も金も、あまり集まっていないようです。でも、全てはお金なのですね。覇権主義/人権弾圧/情報統制/サイバー攻撃/軍事力の増大など帝国主義時代に戻った感がありますが、メルケル首相はそれらの事を理解しながらも経済面での依存もあって、中国を重視しています。

 エネルギーのベストミックス論には賛成します。今、発電ネルギーのソースとして大きく依存している天然ガスも、オーストラリア以外にも中東などから入ってきています。もし政治的な不安定や、中国が領海と主張しているような海域での海上ルートの封鎖などの問題もないとは言えない。そういう状況では、コストの安い石炭火力も技術開発でCO2を抑制しつつ、うまく使いこなす必要もあるでしょう。


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