(新)緑陰漫筆

ゆらぎの読書日記
 ーリタイアーした熟年ビジネスマンの日々
  旅と読書と、ニコン手に。

ダイソンの経営について~その真髄

2019-02-04 | 時評
ダイソンの経営について~その真髄

 ダイソンという会社のことをご存知だろうか? 世界で初めてのサイクロン掃除機
やロボット型掃除機、空気清浄機ファンヒーターなどの製品をお使いの方もおられるかも知れない。私自身、新車を買ったときにおまけでダイソンのファンヒーターをもらったが、そのリモコンの小さなことシンプルなことには驚かされた。

ダイソンは、本社と研究開発の拠点を英国はマーズベリーに置くが、基幹部品のひとつであるデジタルモーターはシンガポールで生産されている。このシンガポールにダイソンはEV(電気自動車)の専用工場を建設中である。(2120年完成予定) トヨタ自動車やBMWなどのドイツの自動車メーカーと手を組むことなく、単独でEVの生産に乗り出す。

 一体、このダイソンはどういう会社なのであろうか? 疑問に思って、そのことを調べていくうちに、実に驚くべき人材の活用仕方が見えてきた。


     



このグラフを見るとわかるように、ここ3年ほどは売上高およびEBITDA(税引前利益に支払利息、減価償却費を加えて算出される利益。国際的な企業の収益力を比較・分析する際に用いられることが多い)が高い伸び率を示している。製品は掃除機/空調家電/美容家電である。美容家電という言葉は、聞き慣れないかも知れないが、ドライヤーはスタイラーと呼ばれる女性用の髪の巻き付け器である。これらの製品群のコアとあんる技術は、まずデジタルモーターである。これはPC(直流)モータの技術で、独自のアルゴリズムでコイルの電流を電子制御する。エネルギー効率がよく、機器の小型化・計量化につながる。ダイソンは2003年に初代のデジタルモーターを開発して以来、累計で500億円近い研究開発費を投じてきた。

 二つ目のコア技術は流体力学である。2018年10月にダイソンは2種類目の美容家電として発表したのが、スタイリング用アイロン。女性が髪をカールさせるときに用いる。一般的な製品では、自分の髪の毛をアイロンの周りに巻き付けて使うが、ダイソン製品はまったく違う仕組みを用いている。デジタルモーターから送り出された高速・高圧の空気が、アイロンのヘッドに空けた隙間から流れることで、髪が勝手にアイロンに巻き付く。これにより、高温の熱に髪を押し当てることなくスタイリングができると言うわけだ。発表後、SNSのインスタグラム上では、自らの髪を巻く様子を投稿する女性が相次いで、評判になった。このアイロンに髪が巻き付くのは「コアンダ効果」と呼ばれる流体力学の知見を応用したもの。もともと、羽根のない扇風機の用いられた技術をヘアスタイリングの応用したものである。

     


ところが、どっこい。応用するといってもそんな生易しいものではない。髪の量や硬さは人種や個人によって千差万別。シンガポールのモーター工場の研究開発拠点では、どんな髪質の人でも使える交換ヘッドを作るのに一苦労した。アフリカ系からアジア系まで、あらゆる種類の髪の毛を採集し、トータルで1800キロメートル分もテストした。


 三つ目のコア技術が電池である。ほとんどの家電メーカーはサムスン電子やパナソニックから調達している。ダイソンは自社で材料からの開発を行っている。2015年には、次世代電池の「全個体電池」ベンチャーである米国サクティ・スリーを買収し、EVへの搭載も目指して開発を進めている模様だ。

 これらのコア技術を活用して、羽根のない扇風機、穴の開いたドライヤーなど何十年も技術の発展がないような日用家電の分野でイノベーションを起こしてきた。


 (生産体制)はどうか。シンガポールの中心部から車で30分ほどのところに複数の企業が入る巨大な建物があり、その一角にダイソンが400億円を投じて2013年に立ち上げた工場がある。ここは、デジタルモーターの設計製造を行う拠点であり、掃除機用と小型美容家電用モーターを年間2000万個製造している。ラインは、ほとんど自動化されている。

本社のある英国では、慢性的なエンジニア不足に陥っているのに対し、シンガポールには国立工科大学を初め、工学系の大学が複数あり、優秀なエンジニアを輩出している。
2018年に発売されたコードレス掃除機「V10」では前モデルより回転数を1割向上させ電池のもちも40分から60分に伸ばした。しかも前モデルの6割の重量に抑えた。
ダイソンは社員数の約半分にあたる4450人がエンジニアという技術者中心の企業である。その平均年齢も若い(詳しくは後述する)そして長期的な視野で投資を続け、忍耐強く技術を育むことを考えている。短期的な利益を求める株主の意向を気にする必要のない家族経営の企業である。


 (電気自動車分野への進出)ダイソンがEVの開発を始めて、約2年。20億ポンド(2800億円)を投じ、他社とは根本的に異なるEVを出すという計画が進んでいる。実際のEV製造を担う工場はシンガポールに建設中である(2020年完成予定)

     


シンガポールは製造業が未発達で地価や人件費も高い。とくに人件費は、一般工の月額平均賃金で、テスラが工場建設を進めている中国上海の3倍にも及ぶ。それでもダイソンがこの地を選んだ理由は、家電用モーター工場と研究開発拠点がすでにあるからだ。加えてシンガポール政府が税制優遇措置などの支援をしたらしい。(詳しくは後述する)

家電と自動車では、モーターに求められる馬力やサイズが大きく違うが、ダイソンでは、”これまでに蓄積した技術の延長線上にあることは確かだ”、と自信を見せる。車体以前にも不安要素はある。それは電池だ。全個体電池開発ではトヨタ自動車/パナソニック/サムソン電子や中国CATLなどがしのぎを削っているが、まだ実用化には至っていない。1921年に出るEVにはリチウムイオン電池を採用するのが現実的だとの見方もある。今回のEV開発による自動車分野への参入は、ダイソンにとって大勝負である。


(エンジニアの平均年は26~27才)ダイソンが手がけてきた製品は、何年間も技術革新がおきていない日用品である。市場は成熟している。ここに、市場平均よりも何倍も高価格の製品を投入している。2016年発売のドライヤーは平均価格の10倍ちかい5万円。それでも消費者がダイソン製品を選ぶのは、その機能やデザインに革新性を見出すからである。

 では何故、ダイソンは革新的な製品を出し続けることができるのか? コア技術という観点以外に、開発の最前線に立つエンジニアの年令が若いことである。


(続く)

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ここまでは序論です。ダイソンが、どんな会社なのかをご説明したにすぎません。次の本論ではダイソンの人材活用と、教育にかける思いをご紹介します。二三日中にアップいたします。







 
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