リーメンシュナイダーを歩く 

ドイツ後期ゴシックの彫刻家リーメンシュナイダーたちの作品を訪ねて歩いた記録をドイツの友人との交流を交えて書いていく。

287. 17回目のドイツ旅行(15) リエージュへの旅は難関でした。

2023年01月29日 | 旅行

▶今日は国境を越えてベルギーのリエージュ(ドイツ語ではリュッティッヒ)まで出かけます。

 


ロストックで啓子さんが譲ってくれた運動靴を履いている私と、サンダルで歩く啓子さん。申し訳ない🙏 


リエージュの駅

 

▶なぜリエージュへ出向いたのかという理由

 しつこいようですが、今回の旅の大きなテーマの一つがダニエル・マウホの足跡を辿ることでした。最初のドライブ旅行も主にマウホ作品を訪ねたのでしたが、リエージュのクルティウス博物館には三津夫の大のお気に入り「三日月の上の聖母子像(ベルゼリウスのマドンナ)」があるのです。優しい顔の聖母マリア、穏やかな顔をした幼子イエス、マリアの服の襞から顔を覗かせる2人の天使も子どもらしい無邪気な表情(下のマウホのカタログ表紙)で、この博物館の宝と言える存在です。また同じ市内の聖ジャック教会、聖ポール大聖堂にもマウホ作品があるとカタログや『地球の歩き方』には書かれていたので、一日かけて市内を歩き回ることにしたのでした。


クルティウス博物館の「三日月の上の聖母子像」
   
カタログ『DANIEL MAUCH Bildhauer im Zeitalter der Reformation 』表紙


◆2022年9月16日(金曜日)16992歩
 まずは7時42分の ICE で出かけようと駅からホームに出たところで不穏なアナウンス。「大変な事故がアーヘンで起きたため列車は1時間ぐらい遅れます」といったような内容でした。列車の編成も変わったようで皆走り回っています。何とか皆と同じ方に走って行き、取りあえず乗り込みました。数分遅れで出発したものの途中からノロノロ電車となり、1時間経っても途中の要所、アーヘンにすら到着しません。それなら今日はアーヘン見学にして明日と予定を入れ替えたらどうかと三津夫が言いましたが、明日はケルンの最終日となるので帰国間近の啓子さんはお土産を買う予定もあるでしょうから、近くのアーヘンの方が時間にゆとりができてよいと思うと話し合い、やはりリエージュまで行くことにしました。結局2時間遅れで着いた時には11時を大分過ぎていました。

 駅前はトップ写真のようにスッキリしていましたが、一歩ここから出ると町中が工事中という感じで歩く道幅も狭くて落ち着かず、予想していた穏やかな町とはイメージが大違いでした。地図を見ながら歩くのですが、なかなか一番近い目的のジャック教会が見つかりません。若い人には英語で聞くと反応がありますが、大半の人はフランス語のようなベルギー語のようなことばで返事が来ます。まぁ、それでも地図を示しながらなので大体通じました。何とかジャック教会(教会・修道院⑭)にたどり着くとちょうど12時になっていて「今からお昼休みなので2時過ぎに来てください」とのこと。仕方がないので次に近いはずの大聖堂を訪ねました。ここもずいぶん苦労してやっとわかりました。ただ、残念なことに中に入っていくら探してもマウホ作品の石彫レリーフは見つけられませんでした。その後ゆっくり昼食をとってから再び聖ジャック教会に戻りました。



聖ジャック教会(教会・修道院⑭)


聖ポール大聖堂(教会・修道院⑮)

  
聖ジャック教会に戻ってようやく拝観できた彫刻たち(左2体は名前がわからず。最後は洗礼者ヨハネ)(緑)
 

 2回目にようやく拝観できた聖ジャック教会では、マウホのカタログに出ていた
4体だけでなく合計8体見られて感激でした。ただ今回も半数以上がきれいに撮れていなかったので三脚がなかったにしても我が技量にはがっかりしています。アマチュア写真家と名乗るのはもう無理な状況です。もっと練習しなければ…。

 

▶本日の最終で最大の目的地クルティウス博物館

 クルティウス博物館は、地図で見るとジャック教会からマース川沿いに出て、ずっと北上して歩けば到着するはずでした。それは正しかったのですが、その道の長かったこと。最大の難関は大雨でした。しかもランダムに土砂降りになるのです。傘を差したりすぼめたりも忙しい上に歩道が圧倒的に狭くて歩きにくいのです。この雨で啓子さんのサンダルを履いた足がずぶ濡れになりました。心の中でお詫びし続けながら歩きました。濡れれば体も冷えます。本当に申し訳ないことでした。

 
 
クルティウス博物館(美術館・博物館⑩)に向かって歩く間は雨が降ったり止んだり。降り出すととても激しい雨でした。やっとたどりついた博物館。


▶クルティウス博物館は命が縮まる迷路のような博物館でした。

 やっと着いたクルティウス博物館ですが、入口がわかりません。近所の方に聞いてこの赤い壁の裏側に入り口があると教わりました。その入り口は下の写真のようにまったく雰囲気が違います。


クルティウス博物館の正面

 入館してからどこでマドンナに出会えるかと楽しみにしながら回りましたが、グルグル回り込んでようやく出会うことができました。想像していたよりずっと小さな彫刻でした。ガラスケースに入った状態で写真も写しにくかったのですが、やはり本当に優しげな聖母のお顔が心に残る作品でした。カタログの表紙の何倍も優しげでした。服の裾や襞から顔を出す天使たちはハンス・ラインベルガーでも見かけましたが、ラインベルガーの天使たちはいたずらっ子風で、マウホの天使たちには何だかおっとりした無垢な子どもらしさを感じました。

 ホッとしたらお手洗いに行きたくなって啓子さんと一緒に行ったのはいいのですが、エレベーターがなかなか動かず、動いたと思ったら上がったり下りたりでようやく地下1階のトイレに到着。2階に戻るときもスッと動いてくれないエレベーターでした。それにしてもここの館員は2階の角に椅子を丸く並べてずっとお喋りをしていました。会議という雰囲気ではないので「もっと働いたら?」と3人でこっそり言い合うほどでした。

 さて、マドンナもしっかり拝観できたし、3人揃って1階に戻ろうと思ったら何とも複雑なのでした。近くには階段が見当たらないのでエレベーターに乗って地上の0回を押しても、どうしてもそこに止まってくれないのです。地下一階に舞い戻り、そこから乗ってきた地元のカップルと一緒にあがったり下りたりしているうちに階段で下りれば行けるのかなと思い付きました。入館したときに上ってきた階段を探しましたが見つからず、それなら非常階段で下りられるのではないかと気が付いたのです。日本ではどのビルでもこうした非常階段に出入りできますからね。
 ところがこれが魔物だったのです。うかつに非常階段に下りるとこうなるかもしれませんから皆さんも気をつけてくださいね。私たち3人が一度非常階段に出てドアが閉まりました。地上0階(日本の1階)に戻ってドアを開けようとしたところ、そこのドアにはガッチリ鍵がかかって開きません。慌てて出てきた地下1階に戻ったのですが、ここも既に鍵がかかっているので戻れないのです。さぁ、困りました。どうしようと胸がドキドキしてきました。電話をして助けを求めようかどうしようかと3人で困り果てていると、ちょうど先程の夫婦も同じ非常階段のドアを開けて入ってきたのです。チャンス!「ここからは行けませんから戻らないと」と言いながら慌ててドアを押さえ、私たちもそのドアから中に戻ったのでした。セーフ!! 

 でも、彼らがいなかったらどうなっていたでしょう。今思い出しても寿命の縮む思いで体が熱くなります。もう一度皆で、つまり5人でエレベーターに乗り直したら鞄を持った紳士がちょうど乗ってきました。渡りに船と、受付に戻りたいけど戻れなくて困っていることを訴えると、彼は「私の後についていらっしゃい」と、一旦2階まで上がってからスタスタ歩き、部屋のずっと奥にある階段に案内してくれたのでした。「ああ、ここから最初は上がってきたんだったわ」と思い出しました。入り組んだ建物なのだからせめて館内案内図とか出口のサインとか矢印とかがあればこんなに苦労しなかったのに…と安堵すると共に腹が立ってきました。でもまぁ、この迷路のような博物館から出られて本当に良かった、二度と非常階段に入ってはいけないと肝に銘じました。また何かの時には外部と連絡できるようにスマホはいつも持って歩かないと危険だと思い知らされたことでした。


▶風の吹き抜ける寒い駅

 クルティウス博物館からの帰り道も周りの人たちに何度も教えてもらって迷いながらバス停に行きましたが、どうもここから駅に行くバスが来ないようです。若い女性に英語で尋ねてみると、もっと先のクルティウス博物館のマース川沿いにあるのだと教えてくれました。ほとんどさっきまでいた場所の方角に逆戻りです。そうしなければ駅行きのバスには乗れないことがわかりました。大分寒くて腰もしんどいのでバスが待ち遠しくてたまりませんでした。

 リエージュ駅に戻ると、ケルンに行く列車は1時間後に来ることがわかったのですが、地下にいても風が冷たく吹き抜けて寒いのです。以前この駅で列車を待っていた心細い体験を思い出しました。当時はこんなカフェもなかったように思います。今日も風が段々冷たくなって、外にいると体が冷え切ってしまいそう。駅のデザインは大変モダンで美しいのですが、地上のホームは風避けがなく吹き抜けるので寒さは相当なものです。風を避けるためにはこうしたカフェに入らなければなりません。私たちも取りあえずカフェに入って一休みすることにしました。

 少しおつまみと飲み物を頼んで暖を取り、無事にケルン中央駅に戻ったのは8時を回った頃でした。今日は目的はなんとか達したけれど、今までの旅の中で最も波瀾万丈の日となりました。

 明日はアーヘンの美術館と大聖堂を訪ねます。

※このブログに掲載したすべての写真のコピーをお断りします。© 2015-2023  Midori FUKUDA

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