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2016年3月11、12日、チェコの南ボヘミア州チェスケー・ブジェヨヴィツェでのコンサートで、ホセ・クーラの指揮により、クーラ作曲のマニフィカトとバッハのマニフィカトが演奏されました。
クーラは、テノールとして国際的にその名が知られましたが、もともと大学で指揮と作曲を専攻、指揮者、作曲家をめざして勉強してきた経歴をもちます。これまでも何回か紹介しましたが、1991年にイタリアに渡り、本格的な歌手活動を始める前に、書きためていた多くの作曲作品がありました。長年しまい込まれ、発表の機会をもてずにいたクーラの作品ですが、ここ数年、演奏される機会が相次いでいます。
今回紹介するマニフィカトは、クーラがアルゼンチン在住時代の1988年に作曲したもの。2014年4月に、イタリアのマッシモ・ベリーニ劇場で、クーラ指揮で世界初演されました。
→ その際の様子を紹介しています 「ホセ・クーラ 平和への思い、公正な社会への発言」
そしてかねてから、好きな作曲家を1人あげるとしたらバッハと答えていたクーラ。自作と敬愛するバッハの2つのマニフィカトを、同じに日に指揮するというのは、喜びもひとしおだったのではないでしょうか。
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クーラのフェイスブックの告知画像
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会場は、チェスケー・ブジェヨヴィツェの聖ニコライ大聖堂です。
2014年10月30日、クーラ作曲のスターバト・マテールを世界初演した同じ場所です。とても美しい教会のようです。
→ スターバト・マテールの初演を紹介した記事 「ホセ・クーラ 作曲は、やむにやまれぬもの」
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この時期クーラは、ヨハン・ボータのキャンセルを受けて急きょ出演が決まった、ザルツブルク復活祭音楽祭のオテロ(3/26初日)のリハーサルと、このコンサートの準備のために、ザルツブルクとチェコの間で移動を繰り返しており、体力的には大変だったようです。
→ ザルツブルク復活祭音楽祭2016のオテロについては、(レビュー編)をはじめいくつかの投稿で紹介しています。
マニフィカト=「わが心、主を崇め」とは、キリスト教の聖歌で、ラテン語で、聖母マリアの祈りだそうです。
コンサートの前半は、1988年にホセ・クーラが作曲したマニフィカト。ソプラノのために書かれ、子どもたちの合唱団、混声合唱、そして、オーケストラで構成されています。
そして後半では、ヨハン・セバスチャン・バッハ(1685 - 1750)作曲の、Dメジャーのマニフィカト(BWV243)。2人のソプラノ、アルト、テナー、バス、混声合唱とオーケストラによって演奏されました。
クーラがいくつかのインタビューで、このマニフィカトの作曲の思いを語っています。抜粋して紹介したいと思います。
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――2015年ドイツ誌でのインタビューより
1988年にマニフィカトを作曲した。私の妻は、2回流産した後、3回目に妊娠した自分自身に気づいた。今回は明らかに確実に思われた。
長男が生まれた時、私は25歳だった。マニフィカト誕生と同時だった。
その3年後に、私たちは幸運を求めて、ヨーロッパに移住した。そして私の歌手としてのキャリアが始まった。当時の楽曲は、27年間、ボックスに仕舞い込まれていた。
私が思うこのマニフィカトは、聖母マリアの歓喜の歌であるだけでなく、夢でいっぱいの若者、そして彼女にいま起こっていることに直面して抱いている怖れの歌でもある。
1988年、テキストにこういう思いを込めて音楽をつけた。プレミア(2014年4月)は非常にうまくいった。私に信頼を寄せてくれたベリーニ劇場(初演の場となったイタリアの劇場)には本当に感謝している。
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――2016年2月プラハでのインタビューより
マニフィカトは聖母マリアに捧げたもの。しかし、主要なインスピレーションは、私がついに父親になったということであった。
――チェコでの報道より抜粋
チェコでバッハとクーラ作曲の2つのマニフィカトを指揮する。現代とバロックの2つのスピリチュアル・ソングによる純粋なプロセスになるだろう。
「観客には、コンサートを絶対に逃さないようにといいたい。それは歴史的な出来事になるだろう」とクーラ。
マニフィカトは、イエス・キリストの誕生の前に聖母マリアが歌う賛美歌。ラテン語の詩に由来する。
「2つのバージョンでは、リスナーは、精神的な音楽の強さに、涙をさそわれることになるだろう。そこには時間の境界がないことを知らされる。」
「それは特別なコンサート、この劇場のシーズンの偉大な文化的なイベントになるだろう」と南ボヘミア劇場の支配人。
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――2016年3月チェコでのインタビュー
当時、私は25歳だった。妻は2回の流産を経て3度目の妊娠をした。法王が聖母マリア年を宣言した年だった。
歌は私たちが子どもを得た喜び、そして聖母マリア出現への喜びを表現した。しかしそれだけではない。
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マリアがその事を知った時、彼女はまだティーンエージャーだった。そして彼女は恐らく、かなりのショックを受けただろう。
私のマニフィカトでは、マリアが砂漠に1人で座っているところから始まる。作品のメッセージが表示される。
1人でいる場合には、人は何もできない。もし我々が団結せず、戦争、テロリズム、経済的道徳的危機を別のものに置き換えようとしない限り、我々は勝利することはできない。
これがマニフィカトに託した、私のメッセージだ。
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第2部では、ヨハン・セバスチャン・バッハ作曲の1723年、D長調のマニフィカトを演奏する。バロック時代の象徴的なマドンナの音楽的肖像画だ。
南ボヘミア劇場との連携は5回目となる。2011年にチェスキークルムロフの回転劇場で、道化師のカニオを引き受けたことから始まった。
野外公演で雨が降り始めたが、パフォーマーの誰もがその場を離れなかった。プロの99%は雨で止める。全員がとどまったことを見たことがなかった。私はとても感動した。この人たちと一緒に仕事をしたいと思った。
最初のリハーサルの時、誰もが緊張するが、彼らもかなり緊張していた。彼らは自分自身のベストを尽くし、それらが良いことを私に証明したかった。30分後に、全員が感じた――それは美しい音楽だった。
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ホセ・クーラ指揮、3月11日の2つのマニフィカトのコンサート。多くの写真がフェイスブックなどネット上に掲載されました。
オーケストラ、ソリスト、合唱団、総勢128人のパフォーマーによるステージだったそうです。
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いくつか動画もアップされています。
オーケストラとリハーサル中。
JOSÉ CURA
コーラスとのリハーサルの様子。
Jose Cura Magnificat / Rehearsal 2016
ソリストとのリハーサル中。
まるでシェークスピア劇のようなセリフ回しで、ソリストに解釈を伝えるホセ・クーラ
Jose Cura Magnificat / Rehearsal with soloists 2016
オケ、ソリスト、合唱がそろったリハーサル風景がチェコのニュースで紹介された。
Jose Cura Magnificat rehearsal news video
ホセ・クーラと。ソプラノ歌手のマリア・ヴィーソ、3/12のマニフィカトのコンサートを終えて。
“Thank you! Such a wondefull concert”とコメント。
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出演したソリストたちとホセ・クーラ。
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マニフィカトをめぐるエピソードからは、クーラの妻シルヴィアさんと子どもへの深い愛が感じられます。クーラは、長男に続き、長女、二男の3人の子どもに恵まれました。
*クーラの家族については → ホセ・クーラ 妻、家族、愛について
クーラ作曲の諸作品は、これからも世界初演が予定されています。しかし残念ながら、コンサートに参加した人以外には、まだ作品に触れる機会はありません。CDやDVD、それ以外でも何らかの形で、視聴できるようにしてほしいものです。
もちろん、日本で、日本のオーケストラとともに作品を演奏する機会があれば、それが一番うれしいですが・・。どこか日本のオーケストラが招聘してくれないものでしょうか。
クーラは今、プラハ交響楽団のレジデントアーティストとして契約・活動してますので、その縁で、プラハ響の首席指揮者であるインキネンが常任指揮者に就任する日本フィルで、こういう企画が実現したら素晴らしいと思うのですが、いかがでしょう?
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