人と、オペラと、芸術と ~ ホセ・クーラ情報を中心に by Ree2014

テノール・指揮者・作曲家・演出家として活動を広げるホセ・クーラの情報を収集中

2019年 ホセ・クーラ、プッチーニのトゥーランドット、カラフを歌う in マーガレット島 ブダペスト夏フェスティバル

2019-07-04 | オペラの舞台ートゥーランドット

 

 

今年も欧州で始まった夏のフェスティバルシーズン、各地で多彩な音楽祭が開催されています。

ホセ・クーラは今年の夏、ハンガリー(「トゥーランドット」)、イタリア(プッチーニフェスティバル・「トスカ」)、ブルガリア(「オテロ」)の3か所で、サマーフェスティバルの野外公演に出演します。その第1弾、ハンガリーの首都ブダペストの伝統あるブダペスト・サマーフェスティバルに出演しました。

6月7、9日の2回公演で、演目はプッチーニのトゥーランドット、クーラは放浪の王子カラフ役です。場所は、ブダペストを流れるドナウ川の中州、マーガレット島の野外シアターです。幸い、天候にも恵まれ、会場いっぱいの観客から大喝采を受けたようです。SNSで沢山の写真や動画、”素晴らしかった”というコメントがアップされていました。

主催者のFBなどから写真などをお借りして、その様子を紹介したいと思います。

またクーラが公演に向けて受けたインタビューから、トゥーランドットとカラフについてクーラが語って部分を抜粋してみました。

 

 

 

Turandot - Margaret Island Open-Air Festival 2019
Date: 2019.06.7-9

Starring
Turandot: Rally Szilvia
Calàf: José Cura
Liù: Cristina Pasaroiu 
Timur: Laszlo in Sveti 
Altoure Emperor: Stephen Fox
Ping: Geiger Louis
Pang: Zoltán Megyesi
Pong: Peter Kiss
A mandarin: Eger Alexander

Conductor: Balázs Kocsár
Director: Balázs Kovalik
Designer of the set: Éva Szendrényi
Costume Designer: Márta Jánoskuti
Head of the Children's Arm : Nikolett Hajzer
Chief Executive Officer: Gábor Csiki

 


 

≪野外ステージのトゥーランドットーー華やかな舞台の様子≫

 

まずは、主催者や関係者のフェイスブックにアップされた写真から、夏の野外オペラの華やかな雰囲気、舞台の様子を。

右上のFマークをクリックすると、それぞれのFBページで沢山の写真を見ることができます。好天にも恵まれ、ステージの裏手に見える緑は本物の公園の木々、そして徐々に日が暮れて、ステージ上のクーラには、月が昇るのが見えたそうです。美しい音楽、美しい舞台と満場の観客、そして昇っていく月の光・・こういう場を体験できることについて、クーラは、アーティストとして自分たちは特権的な立場に恵まれ、神に祝福されていることを実感した、とインタビューで語っていました。

 

 

 

 

 

 

≪動画 ー クーラの ”泣くなリュー” と ”誰も寝てはならぬ” ≫

 

ネット上に動画もたくさんアップされました。公式のものではなく、画質・音質はあまり良くありませんが、比較的良好なもののリンクを。野外ステージで、マイクを使っているという条件ではありますが、クーラの声、演技、存在感は圧倒的です。

*音が聞こえない場合は、右下のボリュームをチェックしてください。

 

●第1幕より、「泣くなリュー」~ラスト。カラフの死を賭した挑戦をとどめようとするリューに対し、語りかけるように歌うカラフ。途中から始まりますが、最後、銅鑼を打ち鳴らし、意気揚々と歩むカラフの様子まで、舞台の流れもわかります。ファンページFBより。

 

 

●第3幕、カラフの「誰も寝てはならぬ」 遠くからのため表情はよく見えませんが、音質はこれが一番良好でした。FBにアップしてくれたのは、在ハンガリーのアルゼンチン大使夫人。 最後、お祭りならではのロングトーンで大喝采を浴びています。

 

 

≪カラフは非常に冷酷な人間ーークーラのインタビューより≫ 

 

クーラは2003年のロールデビュー以来、数多くカラフを歌ってきましたが、カラフの人間像については、非常にリアルな分析をしています。クーラは2016年にトゥーランドットの演出・舞台デザインも行っており、詳しい研究にもとづいた演出メモも公表しています。今回のインタビューに加え、興味のある方は、以下の記事もお読みいただけるとありがたいです。

 → 「ホセ・クーラ トゥーランドットの解釈」

 → 記事のまとめ 「演出―トゥーランドット」 (5つの記事)

 

Q、ブダペストで、トゥーランドットの名を知らぬ王子カラフを歌う。カラフについては?

A(クーラ)、カラフは人間的には恩知らずの性格だ。彼はいい奴だとは言えない。疑いなく非常に冷酷な人間。権力を得るために、他の人の命を犠牲にするーー それが彼の父親であろうと、奴隷の少女であろうと。

テキストを注意深く読むなら、カラフが「愛」という言葉を一度も使っていないことがわかる。トゥーランドットや他の誰かと話している時、彼はいつでも、欲望について語っている。彼は決して "ti amo"(「あなたを愛している」)と言わず、”ti voglio"(「あなたが欲しい」)と言う。"I love you"か、 "I want"かーーこの2つは非常に異なっている。そしてカラフは後者を感じている。

彼はトゥーランドットが欲しいーー自分の力、失われた王国、運、自分の使命を取り戻す必要がある。目標を達成するためには、誰であろうと何であろうと、犠牲にしても構わない。

 

Q、役柄に一体感を持てない場合は?

ある作品が何なのかわからない人、あるいは、テノールがいい音楽を歌っているからいい人物のはずだと考えるかもしれない。

プッチーニの蝶々夫人から、ピンカートンの例を言おう。彼は美しいアリアを手に入れた。しかしどう考えても、彼は小児性愛者ーー誇張ではない。彼は15歳の女の子との行為のために金を支払うことを望んだ。私はセックスツーリズムについて言及したくはないが、しかしそれはまだ存在し、貧しい国々において行われている。

ここでも、それはオペラの矛盾を明らかにしている。ピンカートンが非常に美しい歌を歌うという事実にもかかわらず、そのことは、彼が愛すべき人間であるということを意味しない。


Q、あなたは常に強い存在感を持つ役割を好んでいる?

A、もちろん、愛する愚か者よりも、そうしたキャラクターの肌の中に隠れる方が面白い。よりカラフルで、より面白く、より挑戦的だ。

 

Q、トスカのカヴァラドッシ、椿姫のアルフレード、道化師のカニオ、オテロ、サムソン、などをはじめ、大きな役柄をあげることができる。お気に入りは?

それぞれが違っていて、私はそれぞれが好きだ。最近、ピーター・グライムズ(ベンジャミン・ブリテンのオペラ)を加えた。私はそれを多い楽しみ、面白い挑戦だった。

しかし、素晴らしい役柄の一部については、私は年をとりすぎていることを受け入れなければならない。私は少年を演じることはできない。

 

Q、そういうことは、何度も、世界のステージでも見られるが?

A、そう、オペラの矛盾の一つ。良いことではない。もちろん、音は最も重要だが、役柄も適切であるべきだ。

もちろん、その役が14歳であるならば、オペラが要求するように彼は歌うことができない。50歳を超えていて、20歳になることはできない。たとえ神の声を持っていたとしても、21世紀において、60歳でティーンエイジャーの役は、それは面白いというより、さらに哀れだ。

しかし、幸いなことに、問題にならない多くの役柄がある。オテロ、カニオ、グライムズ、すべて素晴らしい。必ずしもいつもアルフレード、ロドルフォをやる必要はない。後を継ぐ若いボヘミアンがいるだろう。

(「magyarhirlap.hu」)

 

 

≪リハーサル、舞台裏の様子≫


リハーサルの合間に、インタビューを受けたりと、なかなか多忙だったようです。

 

 

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 Cristina Pasaroiuさん(@crispasaroiu)がシェアした投稿 - <time style=" font-family:Arial,sans-serif; font-size:14px; line-height:17px;" datetime="2019-06-05T06:51:54+00:00">2019年 6月月4日午後11時51分PDT</time>

●↑こちらはリハーサルの動画で、1幕の最後、カラフが挑戦を宣言して、ドアに消えているシーンのようです。

 

 

●バックステージの様子、クーラとソプラノ2人のインタビューなどがある動画。 

 

●観劇に来たアルゼンチン大使夫妻と。

 


 

夏の野外ステージにはぴったりのトゥーランドット、なんといってもプッチーニの美しいドラマティックな音楽、そしてクーラの迫力ある声と存在感、これら全体が公演の成功を大きく支えたようです。

レビューでも、「クーラは”Nessun dorma”での長い最後の高音を含むすべての主要な音を歌い、彼の声は素晴らしく、偉大なキャラクターのイタリア語の表現として響き渡った。・・それは正しい声の勝利。要するに、カラフの強いボーカルの特徴を持ち、戸外に開かれたトゥーランドットは素晴らしいショーだった」と評価されていました。

インタビューでは、年齢に合った役柄について語っていますが、まだまだこのカラフ、歌い続けてほしいと思いました。今後、私にとって、生で聞くチャンスが得られるかどうか・・。

 

*画像は主催者、関係者のFBなどからお借りしました。

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2003年 ヴェローナのアレーナでトゥーランドットのカラフ・デビュー / Jose Cura / Turandot in Verona

2016-08-21 | オペラの舞台ートゥーランドット



プッチーニの最後のオペラ、トゥーランドットでカラフが歌うアリア「誰も寝てはならぬ」は、TVCMやフィギュアスケートなどでもよく使われ、有名な曲です。ホセ・クーラも、コンサートのアンコールでほとんど必ず歌っているように、テノールのアリアのなかでも、最も人気がある曲の1つではないでしょうか。

クーラがトゥーランドットのカラフ役にデビューしたのは、意外に遅く、2003年、イタリアの野外劇場ヴェローナのアレーナでした。ヴェローナのアリーナは、夏のオペラで大変に有名です。クーラは2000年代前半に何回も出演しています。巨大な石造りの野外会場に、巨大な迫力の舞台です。

このデビュー以来、クーラは、現在もこの役を歌い続けています。今年2016年の9月には、ベルギーのリエージュにあるワロン王立歌劇場で、クーラ自身が演出・舞台デザインなどを行い、カラフでも出演するプロダクションが予定されています。ワロン王立歌劇場の2016/17シーズンのオープニングを飾る舞台となります。今後、詳しい情報が入りましたら、またまとめて投稿したいと思います。

今回は、2003年カラフデビューのヴェローナの舞台について、その時のクーラのインタビューの言葉や、舞台の画像、そしていくつかの動画を紹介したいと思います。

*以下の投稿でも、クーラのトゥーランドットの解釈を詳しく紹介しています。2006年にチューリッヒ歌劇場の出演の際のインタビューや、動画を掲載しています。とても興味深く、ユニークです。ぜひこちらもご覧ください。
 → 「ホセ・クーラ トゥーランドットの解釈」

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――2003年のインタビューより
●クーラの声にとって、困難なカラフ

バリトンに似た私のような深い声にとって、カラフは困難な役柄だ。
私の声の重心は、少しトーンが深い。カラフの声は非常に甲高いために、彼の解釈には、工夫が必要だった。






●アレーナの演技や声楽上の制約

音響の面では、アレーナより悪い劇場もあるほどで、特に問題はない。
唯一の問題は、テノールの伝統的スタイルとは違う私の演技スタイルには、適していないことだ。
私は、動きや身振りを必要最低限にしている。しかしアレーナでは、演技の全てが大規模で、ジェスチャーや動きが拡大される。
またボーカル・ダイナミクスは、全てが2、3度上昇し、プッチーニのオーケストラの密度によって、オペラ劇場におけるピアノは、アレーナでメゾフォルテになる。






●カラフのキャラクターは、すべて自分の反対

カラフのキャラクターは、私が人生で信じていることの、そのすべてで反対であり、彼に自分を投入することはない。
私は、私と私の家族の犠牲のおかげで、現在の場所に到達した。私は、誰も傷つけ利用したことはない。




●トゥーランドットは寓話

カラフは権力を求める野心家だ。欲しいものを手にするために、躊躇なく、大切な人の命を危険にさらす。
トゥーランドットは寓話であり、カラフによって、人間の悲惨さとエゴイズムが、道徳的に実証される。

リューの死にあっても、彼は止まらない。彼は自分が探し求めるものを得るまで、最後まで、トライし続ける。それは権力だ。
カラフは、「愛している」とトゥーランドットに一度も言わない。それは、彼女の権力のみに興味があるからだ。








●素晴らしい音楽、しかしメッセージは・・

カラフと同様に、ヴェルディのオペラ、アイーダのラダメスも、アムネリスの権力を見ている。
アイーダにおいて、その最後に、ラダメスは罪を贖う。しかしカラフは違う。
トゥーランドットのオペラの終りは、非常に感情的な音楽を伴っている。にもかかわらず、ひどいメッセージを内包している。
それは、権力志向が最終的に成功するというものだ。

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2003年ヴェローナ・アレーナでのプッチーニのトゥーランドットから、「泣くなリュー」の動画をYouTubeから。
トゥーランドットの感動的なシーンの1つ、リューに語りかけるカラフ。
Jose Cura 2003 "Non piangere, Liù" Turandot


2003年ヴェローナのトゥーランドットから、ホセ・クーラの歌うカラフ「誰も寝てはならぬ」を。TouTubeより。
鳥かごみたいな枠のなかで歌う、カラフ。
Jose Cura 2003 "Nessun dorma" Turandot


2003年ヴェローナのトゥーランドット、「死のプリンセスよ! 」からラストまで。
Jose Cura 2003 " Principessa di morte!" Turandot


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カラフのキャラクターには共感できない、自分とはすべて反対、と断言するクーラですが、プッチーニの音楽的な到達に対しては高い評価と敬意をもち、「ヴォーカリストの地平を開く作品」と述べています。そういうことから、現在に至るまで出演を続けているのだと思います。

こうした解釈、長年の舞台経験をふまえて、今年の9月にクーラが演出する作品は、どのようなものになるのか、とても楽しみです。フェイスブックでのクーラのコメントによると、プッチーニが亡くなり、その後、弟子が引き継いだ部分については、カットすることになりそうだという話です。そうすると、ハッピーエンドではなく、リューの死で終り、よりいっそう、カラフの冷酷さ、権力志向をきわだたせて、終る・・ということになるのでしょうか?

ワロン王立歌劇場のトゥーランドットは、放映されるという情報もあります。ますます、楽しみです。

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