人と、オペラと、芸術と ~ ホセ・クーラ情報を中心に by Ree2014

テノール・指揮者・作曲家・演出家として活動を広げるホセ・クーラの情報を収集中

2021年 ホセ・クーラ、クロアチアの新音楽フェスティバルの音楽監督に就任

2021-09-23 | 音楽監督として

 

 

2021年9月11日、ホセ・クーラは、クロアチアのオレビックで、新規サマーフェスティバルの発足記念コンサートに出演しました。

キャプテンズタウン・サマーフェスティバルと名付けられたこのフェスティバルは、来年2022年から正式に発足の予定で、クーラが音楽監督を務めることになっています。

今回のコンサートの様子、今後のフェスティバルに関する情報などを、クーラのインタビューや関係者のSNSなどから紹介したいと思います。

 

 

 

 

 

Captain's Town Summer Festibal Inaugural Concert

Dubrovnik Symphony Orchestra
conductor:Marija Ramljak
soprano:Kristina Kolar
soprano:Marija Jelić
guitar soloist:Barbora Kubíková
founder and director:Sandra Milankov
tenor,conductor, artistic director:José Cura

 

 

 

 

オレビックは、イタリアの東側、アドリア海に面したクロアチアのペリェシャツ半島にあります。ワインが名産の、美しい海岸と自然に恵まれたリゾート地で、古くからの港町のようです。

地域の文化振興、観光資源としても期待されているのでしょう、今回の発足記念コンサートは、クロアチアの文化省やドゥブロヴニク・ネレトヴァ郡、オレビックの自治体、観光局などによって支援されているそうです。クロアチア国営放送がテレビ放送し、またラジオでも生放送されました。残念ながら日本からはテレビを見ることはできなかったようですが、ラジオ放送は良い音質で聞くことができました。

前半は、アルゼンチンの歌曲を数曲クーラが歌い、その後、クーラ作曲の「ギター協奏曲 ”復活”」の1つの楽章が演奏されました。後半はオペラアリアのコンサート。途中、オペラの間奏曲などをはさみながら、ソプラノ2人の方の歌と、クーラは指揮とともに、トスカ「星は光りぬ」、トゥーランドット「誰も寝て張らなぬ」を歌い、最後に全員で椿姫の「乾杯の歌」で終演でした。

 

 


 

 

 

≪ コンサート当日の様子 FBより ≫

 

 

●リハーサルと本番のステージなど、カメラマンによる150枚以上の画像投稿

 

沢山の写真が掲載されています。アルバム名をクリックしてぜひご覧になってみてください。表にはリハーサル時の様子が写っていますが、中には本番の舞台写真が沢山あります。

海岸のヨットハーバー?の横にあるスペースにコンサート会場をつくり、感染防止対策の上で入場無料ということで開催されたようです。席に座り切れず、周りを囲むようにして、大勢の地元の人や観光客らしき人々がコンサートを楽しみ、最後は沢山の花火も打ち上げられ、お祭り気分を盛りあげていました。

 

 

●現地のドゥブロヴニク=ネレトヴァ郡長官のFBより

 

” 昨夜、世界最高のテノール、ホセ・クーラによって素晴らしいコンサートがオレビックで開催された。 またオレビックとペリェシャツ全体での新しい文化イベントの発表でもあった。アンチッチ市長と他のペリェシャツの市長、そしてサンドラミラノコフ氏、この特別なイベントの企画を手伝ってくれた他の人々に称賛を送りたい。ソプラノスのクリスティーナ・コラーとマリヤ・ジェリッチ、ギタリストのバルボラ・クビコワ、指揮者のマリヤ・ラムジャク、ドゥブロヴニク交響楽団がコンサートに大きく貢献した。 ペリェシャツにブラボー!”

 

 


 

 

≪ 新しいフェスティバルにむけて ーー クーラのFBより ≫

 

●クーラのよびかけ

 

” コンサートの告知というだけでなく、ビジネスパートナーのサンドラ・ミランコフと一緒につくろうとしている新しいフェスティバルのキックオフを発表したいーーキャプテンズタウン・サマーフェスティバル!!!  来年9月にすぐには会えないかもしれないが、この場所が毎年夏の再会の場となり、質の高い、心のこもったパフォーマンスの組み合わせを愛するすべての人にとっての旅の街になることを願っている。そこでの再会を!!! ”

 

 

●美しいクロアチアのオレビックの海 ホテルの窓から ーー現地に到着したクーラのFBより

” 私の新しいお気に入りの場所、キャプテンズタウンの窓からの眺め。伝説によると、背景にある島はマルコポーロが生まれた場所… 詳しくは後ほど。現在、私たちの将来のフェスティバルの土台になるものを調査中。 乞うご期待! ”

 

 

●現地クロアチアのマスコミから取材を受けるクーラ

 

 

●会場の視察後にオレビックの市長と

 

 

●来年のフェスティバル正式発足にむけ、現地の有力者たちと視察中 クーラの感謝のコメント

 

 

 

●宿泊したホテルの従業員の方たちと。感謝の思いを込めて

 

 

 

 


 

 

≪ クーラの現地でのインタビュー記事より ーー 抜粋して紹介  ≫

 

 

●地域にとって重要なフェスティバルに

「私はペリェシャツ半島に行ったことがなかった。この半島への初めての訪問だが、きっと去りがたいだろうことはすでにわかっている。このフェスティバルの芸術監督に就任したとき、すぐに素晴らしいアイデアだと思ったが、ここに来て、将来一緒に仕事をする協力者やパートナーに会うことを強く希望していた。 ここで3日間を過ごした後、クロアチアのこの地域にとって大きくて重要なフェスティバルになると確信しており、特別でユニークなものを作ることができると思う。」

(クロアチアHRTニュースより)

 

 

 

 

 

 

●有名なアルゼンチンのテノール・指揮者のホセ・クーラが、オレビックのフェスティバルの芸術監督を引き受けた。彼が計画について語ったが、彼には恐れもある

 

最初に9月11日土曜日にオレビッチの人々、次に日曜日にクロアチアのテレビ番組でクロアチア中の視聴者が、有名なアルゼンチンのテノール、指揮者、作曲家のホセ・クーラを見る機会がある。今回のオレビッチでのパフォーマンスは、クーラの手に芸術的リーダーシップを委ねたフェスティバルの創設者兼ディレクターのサンドラ・ミランコフのアイデアによると、最初のキャプテンズシティ・サマーフェスティバルの発足記念コンサートだ。 ホセ・クーラは作曲と指揮の分野で学術的な音楽教育を開始したが、暗いバリトンの色合いを持つ彼の大胆で明るいテノールは、彼を国際的な名声に導いた。つまり、彼は舞台へのきっかけを得るために歌うことに専念したが、「人生は、他の計画を立てている間に起こることである」(ジョン・レノン)。

クーラは1999年に指揮者としてのキャリアに戻り、世界中のトップオーケストラと協力し、2014年から作曲に積極的に取り組んでいる。

 

Q、あなたはブカレストからクロアチアに到着した。ブカレストではエネスク・フェスティバルの25周年の一環として、あなたの曲「テ・デウム」の初演が行われたが、作曲家兼指揮者として、パフォーマンスに満足した?

A(クーラ)、2つの優れたルーマニアの合唱団、傑出したソプラノのポリーナ・パスティルサクと卓越したロンドン・フィルハーモニー管弦楽団によって初演されるというのは、夢のようだった。

 

Q、オレビックのコンサートのプログラムには、9月19日にザールブリュッケンで初演される「復活のための協奏曲」の最初の楽章の初演も含まれる。名前の意味は?

A、パンデミックで課せられた大きな「膠着状態」により、私は再び作曲に完全に集中することができた。このギターとオーケストラのための協奏曲だけでなく、「テ・デウム」と「シンフォニー組曲」も。 ”Resurgir(Awakening)”(目覚め、覚醒などの意)という名前は、それにふさわしい瞬間に応じてつけられた。

とても軽快で楽観的な音楽を書いた。最初の楽章はブラジルのリズムに基づいており、「アルボラダ」(夜明け "Alborada" )の2番目の楽章は新しい一日がもたらす光を呼び起こし、「ロンド」の3番目の楽章では ロンド型の構造を使用している。そこには、「我々は社会の多くのことを再編成するのか、それとも失うのか」というメッセージが込められている。

 

Q、多忙なスケジュールの中、作曲するのに十分な時間は?

A、コロナウイルスのパンデミックの前の30年間、私はノンストップで「自転車」に乗り続けた。それはバッテリーのように充電しながら多くの人々に光を当てたが、私自身を盲目にした。その「自転車」も含めて世界が止まったとき、突然何も見えなくなった。 少しずつ暗闇が意味をなし、影から形が浮かび上がり、私が気にも留めていなかったことがたくさん浮かび上がってきた。

このことは、作曲も含めて、時間がないために私が長い間無視していたことを行う機会を私に与えた。

 

Q、サンドラ・ミランコフとのコラボレーションは?なぜクロアチアでフェスティバルの芸術監督を?

A、共通の友人である素晴らしいソプラノのクリスティーナ・コラーに紹介されたとき、私たちのチームは結成された。サンドラが彼女の夢について語り、私はすぐにコラボレーションを受け入れた。

すべてをゼロから作り出す必要がある。これは、「穴」だらけの「船」を引き継ぐよりもはるかに面白いことだ。必要な支援がなければ、そのような新造船の「船長」の役割を引き受けることはできない。

パンデミック後の新しい世界には、これ以上の悪夢ではなく、「夢」が必要だ。

 

 

 

 

 

Q、アルゼンチンの歌曲はクロアチアの聴衆にはあまり親しみがないが?

A、アルゼンチンの室内楽曲は親密で、ほとんどがノスタルジックなものだ。この分野の第一人者であるカルロス・グアスタヴィーノは、南米のシューベルトと見なされている。

 

Q、ドブロブニク交響楽団や他のミュージシャンとのコラボレーションに満足?


A、私たちの目標は、フェスティバルが成長し続ければ、地元のミュージシャンに場所を提供することだ。私の芸術的なガイダンスの下で、観客がフェスティバルに期待するレベルの品質を確立できるように、彼らの専門的な努力に最善を期待している。

 

Q、オペラ「道化師」や「サムソンとデリラ」の演出や舞台美術の経験は、あなたの芸術的リーダーシップにも影響を与える?

A、すべての知識を、最高の結果をもたらすために投入する。

 

Q、キャプテンズシティ・サマーフェスティバルのビジョンは?観客は将来何を期待する?

A、私のビジョンはこれ以上ないくらい明確だ。しかしショービジネスでの長年の経験で、私はあらゆることを見てきた。サンドラ・ミランコフのような情熱的な起業家や私のような経験豊富な専門家であっても、何かを「やりたい」というだけでは十分ではない。

地域社会全体の支援が必要であり、それはフェスティバルが誇りにすべきことで、また成長していく活動の中で通常より多くの障害に遭遇しないように、政治家によってプロジェクトがサポートされる必要がある。私たちが愛情を込めて創造したものを破壊しかねない態度と戦わなければならないのでは「ばかげている」だろう。また大都市と文化メディア省からの支援が必要であり、これはオレビックで成熟していることを誇りに思ってもらうことだ。

最後に大事なことは、この冒険をすべての関係者にとって可能で実りあるものにするためには、スポンサーの経済的支援が必要であるということだ。ご覧のとおり、私たちの計画は大きい。これらの計画がこの地域の中心部でも成長するかどうかを見極める必要がある。時が教えてくれるだろう。

(「slobodnadalmacija.hr」)

 

 

 

 

 


 

 

≪ 放送と録画 ≫

 

●こちらはクロアチア国営放送の放送画面 残念ながらクロアチア国内だけ?で視聴可能だったようです。

 

 

 

 

ーーコンサート全体の録画はありませんが、いくつかアップされた動画を

 

 

●とてもリラックスして親密な雰囲気でアルゼンチン歌曲を歌う

 

●アンコール曲?「誰も寝てはならぬ」 最後の音を長ーく伸ばし、さらに花火でお祭りモード最高潮に

 

 

 

 

 


 

 

パンデミックによる長いステイホームを経て、クーラの新しい挑戦がまたひとつ始まりました。

1つのフェスティバルを新たに立ち上げ、軌道に乗せていくというのは、かなり大変なことだと思います。とりわけ長引くパンデミックのもと、今後どうなるのかの先行きの不安もまだまだあります。クーラもふれていたように、経済的な支援が得られなければ続けていくことは困難になってしまいます。

しかし、「パンデミック後の新しい世界には ”夢” が必要だ」とクーラも述べていましたが、本当に、そう思います。クーラが長年、蓄積してきた芸術的経験を生かして、充実した良質のフェスティバルが新たに誕生するとしたら、こんなに嬉しいことはありません。とりわけこれまでも何度か紹介してきたように、クーラ自身は、大手のレコードレーベルやエージェントに所属することなく、自分自身が信じる芸術の道をひとりで歩んできた人物です。そのクーラのビジョンを実現できる夏のフェスティバルが実現し、若いアーティストたちを育て、また世界からファンや音楽を愛する人々が毎年集える場ができるとしたら、本当に夢のようです。いつか、近いうちに、私もぜひ夏のクロアチア・オレビックにクーラに会いに行きたいものです。

 

 

 

*画像は報道や関係者のSNSなどからお借りしました。

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(インタビュー編) ホセ・クーラ、初演含む自作の3曲を指揮ーージョルジェ・エネスクフェスティバル

2021-09-18 | 指揮者・作曲家として 2020~

 

 

前回の記事でご紹介したように、ホセ・クーラは2021年9月5日、ルーマニアのジョルジェ・エネスクフェスティバルに出演し、指揮者・作曲家として、自作の宗教的作品3曲を演奏しました。

その際、いくつかのインタビューにこたえています。フェスティバルの公式サイトやメディアに掲載されたインタビュー記事より、抜粋して紹介したいと思います。

いつものように訳が不十分ですが、原文へのリンクをはっていますのでご照会いただくようお願いいたします。

 

 

 


 

 

 

≪ ジョルジョ・エネスク国際フェスティバルでのホセ・クーラの記者会見より ーー ラジオ・ルーマニア ≫

 

ーー初めてホセ・クーラを見たのは14年前、やはりエネスク音楽祭で、ブカレスト国立歌劇場で行われたビゼーの「カルメン」の公演だった。そのとき、このような公演に参加し、生のホセ・クーラを見ることができたことがどれほど嬉しかったことか......。

その時、最初の印象は、彼、ホセ・クーラがショーを牽引しているということだった。もちろん、彼にはそれに見合うメゾソプラノのパートナーがヒロインを演じていた。私はあの公演を一生忘れることができないと思う。ピットのオケの演奏者からダンサー、ソリスト、コーラスまで、すべてのアーティストがクーラのドン・ホセの周りに集まり、彼らを自分の舞台に引き込んだように思えたからだ。すべてが生きていて、真実であり、舞台上の感情を我々全員が体験したのだった。

私は長い間、ホセ・クーラを世界で最も偉大なテノールの一人として記憶してきた。そして、彼はまず本当の意味での音楽家であり、優れた指揮者であると同時に、興味深いオペラ作品を生み出す才能ある演出家でもあることに気づいた。

ここ、2021年のジョージ・エネスク国際フェスティバルにおいて、ホセ・クーラは、彼自身の作品の作曲家および指揮者という全く異なる装いで戻ってきた。宮殿の大広間でのコンサートを2日後に控えた9月3日、リハーサルの最中に、ホセ・クーラはジャーナリストを招いて記者会見を開いた。彼の作品の新しいリハーサルが始まるラジオ・ホールのステージで行われたのは、形式にとらわれない会見だった。実際、それは会見というよりも、どんな質問にも答えてくれる対談相手との、友人同士の会合のように感じられた。そしてもう一度、私はホセ・クーラ、彼の自然さ、彼のカリスマ性に魅了された。……

 

(クーラ) 「ラジオ合唱団は素晴らしい...。素晴らしい数日間を過ごすことができた。とても感動的な時間で、彼らは全力を尽くしてくれた。

昨日、私が初めて自分の作品である「テ・デウム」を聴いたことは知っているだろう(注*世界初演なので作曲者のクーラも演奏を聞くのは初めてのこと)。私は泣かずにはいられなかった。最高水準の音楽で、エキサイティングな数日間だった。声は質が高く、合唱団の指揮者がとてもよく準備してくれたので、文句のつけようがなく、すべてが素晴らしかった。もちろん、フィルハーモニア管弦楽団とは25年間一緒に仕事をする機会がなかったし、合唱団とオーケストラを一緒にする時間もほとんどなかったが、両方のアンサンブルを別々に聴いてみると素晴らしいサウンドだった。

ソリストについては、ロクサナ・コンスタンティネスクとは昔からの知り合いで、ウィーン国立歌劇場で一緒に歌ったこともある。私にとっては驚きではなく、プロとして、また同時に友人として再確認した。私はここでマリウス・ブドイに会ったが、彼は非常によく準備されていてプロフェッショナルだ。この作品での彼の役は「悪い奴」なので、彼の声色は危険な男を想像させなければならない。あるリハーサルで、彼が私に尋ねた。

” マエストロ、僕はもっとエレガントであるべき?”

” いや、いや...。危険であってくれ、『悪いやつ』になるのは悪くない。”

そう私は彼に言った。」

 

ーーコンサートで演奏される曲がすべて宗教的なものである理由を聞かれたホセ・クーラはこう答えた。

(クーラ) 「私が書いた曲のすべてが宗教的なわけではない。コミック・オペラを書いている。今回は宗教的な音楽のコンサートだが、『テ・デウム』はミハイ・コンスタンティネスクの招待で書いた。彼はこのフェスティバルの25回記念のために何か書いてほしいと依頼してきた。私はそうすると約束したが、しかしそのときは、いつそんなことができる時間がとれるのかと自問自答していた。その後、コロナのパンデミックが起こり、急に時間ができた...。この間ずっと、私は作曲をしていた。『テ・デウム Te Deum』、ギター協奏曲、交響的組曲を書いていた。『Te Deum』は今ここブカレストで初演され、11月15日にドイツ・ザールブリュッケンのコンサートでも演奏され、交響的組曲も初演される。初めての3曲を演奏するコンサートを2回開催できて嬉しい。」

 

(romania-muzical.ro)

 

 

 

 


 

 

≪ 私たちは、文化が多くの問題を抱える世界に生きている ≫



ホセ・クーラ  "私たちは、文化が非常に苦しんでいる世界に生きている。ある音楽祭が25回目を迎えるということは、並大抵のことではなく、これは大きな声で叫ぶ必要がある。"

"ホセ・クーラは真に純粋なアーティストであるとともに、現代において最も誠実で妥協を許さないアーティストの1人であり、芸術においても人生においても常に誠実さを保ち続けている" (Classical Singer Magazine)

1962年にアルゼンチンで生まれたホセ・クーラは、指揮者、作曲家、ヴォーカルソリスト、演出家として、世界の大舞台で賞賛される複合的な音楽家だ。9月5日には、ブカレストで初めて彼の自作曲の指揮を見る機会がある。

 

Q、あなたはブカレストに戻り、エネスク・フェスティバルで特別なコンサートを行う。2007年には、ブカレスト国立歌劇場で「カルメン」を歌ったが?

A(クーラ)、イエス。ブカレストはこの数年でずいぶん変わったと思うが、再びこの街を見るのが楽しみだ。

 

Q、あなたは非常に多才なアーティストであり、今回は指揮者、作曲家としてのあなたに会うことになる?

A、指揮と作曲は、大学での私のキャリアであり、それは私がミュージシャンになった理由だった。その後、歌えることに気づき、ソリストとして素晴らしいキャリアを積むことができた。だから元のキャリアに戻るのは自然なこと。今有名になったからやっているのではなく、自分のルーツに戻っているだけだ。だからといって、もう歌わないという意味ではない。つい最近も、ブルガリアのプロブディフで「トスカ」に出演した。

 

Q、パンデミックの制限期間はどのようなものだった?

A、 他の人と同じように、家にいた。幸い、家が大きいので、それほど苦痛ではなかった。もちろん、私たちミュージシャンにとっての最大の苦痛は、本来の呼吸の場であるステージに立つことができないことだ。私はたくさんのステージの機会を失った。幸い、家族を亡くすことはなかったが、何人かの友人を失った。悲しくて辛い1年だった。

 

Q、パンデミックの間に、ブカレストで世界初演となる「テ・デウム」と、同じく9月にザールブリュッケンで初演される「ギター協奏曲」の2つの作曲を完了したとを聞いている。今回のテ・デウムは、このエネスク音楽祭の記念に捧げられたが?

A、2019年にこの作品を紙にスケッチしたのだが、ミハイ・コンスタンティネスク氏がこの音楽祭に招待してくれたとき、25回目ということもあって、ブカレストで最初の初演を行い、作品をこのイベントに捧げることができたら嬉しく光栄に思うと伝えた。

いま、文化が苦境に立たされている世界に私たちは生きており、あるフェスティバルが25回目を迎えるということは並大抵のことではなく、このことを声高に叫ぶ必要がある ーー ”我々はまだ生きている、我々はここにいる!”と。このような制限のある時代に、このような大きなイベントを開催することがどれほど難しいか、私はよく知っている。このフェスティバルの記念日は、ある意味で英雄的な行為であり、このイベントに参加できたことを誇りに思う。

 

 

 

 

Q、また、1980年代にあなたが作曲した「レクイエム」のキリエの部分である「Modus」も?

A、レクイエムは1985年に書いたものだ。私たちの世代(1962年から1963年生まれ)は、アルゼンチンとイギリスの間で起こった愚かで無駄な戦争(注*フォークランド紛争やマルビナス戦争と呼ばれる)を戦った世代だということを知っておいてほしい。私には戦争で戦った多くの友人がいるが、私は幸運にも招集されず、予備役にいただけだった。だから私は、両陣営で失われたすべての命に敬意を表してこのレクイエムを書いた。

20世紀から21世紀にかけて、いまだに戦争が行われているのはとても愚かなことだ。戦争には勝者と敗者がいるのではない。実際には、敗者、損失しかない。

この作品は、アルゼンチンとイギリスの2国間の和解と平和のシンボルとして、少なくとも1度はアルゼンチンとイギリスの合唱団によって演奏されるという夢をもって、2つの合唱団のために書いた。初演はアルゼンチンかイギリスでと考えていたが、政治的な問題もあって、作曲から36年後の今日まで実現しなかった。

この作品は、2022年にブダペストで、ハンガリー放送管弦楽団と合唱団との共演で、ついに完全な形で初演されることになった。いつそれが可能かわからなかったので、ここ数年は、他のコンサートでレクイエムの一部を紹介してきた。このキリエ(別々に歌うときはModusと呼ぶ)だけでなく、ディエス・イレやラクリモサの一部も、私のコミックオペラ『モンテズマと赤毛の司祭』に組み込んでいる。いつの日か、ブカレストのエネスク・フェスティバルで、このレクイエムを完全な形で演奏できるのを願っている。

 

Q、プログラムの最後に、オラトリオ「この人を見よ(Ecce Homo)」が演奏される。この作品をつくるアイデアはどのようにして生まれた?

A、第1部のマニフィカトは、1988年にさかのぼる。私の妻は2回の妊娠を流産し、非常に辛かったが、3度目の妊娠で幸運にも第1子を授かることができた。このマニフィカトは、やっと父親になれたという喜びを込めて、オマージュとして書いた。

1年後、マニフィカトを補完する意味でスターバト・マーテルを作曲し、さらに数年後に、2つのパートをつなぐカルバリウム(ゴルゴダの丘)を作曲した。つまり、「マニフィカト」はキリストの人生の始まり、「カルバリウム」は受難、「スタバト・マーテル」は十字架の上で息子の死を見守る聖母マリアの祈り、という3つのパートがある。

 

Q、あなたは声楽とオーケストラのための曲を書くのが最も好きで、それがあなたの考える完全な作曲方法だということだが、ブカレストのプログラムを見ると、宗教的なものがあなたの芸術の重要な部分を占めていると言えるのでは?

A、私にとって音楽のアルファとオメガ(第一歩であり、究極のもの)は、ヨハン・セバスティアン・バッハであり、声を大にして言うことができる。私の宗教音楽への情熱は、バッハから来ていると思う。信仰の観点からだけでなく、精神性や、極めて演劇的なテキストの強さという点でも、バッハは重要だ。

演劇の起源は、教会での祝祭にある。キリストの生涯は、祈りであり、神学と信仰の問題であるとともに、ある意味、驚くべきドラマ、おそらく最も有名で強力なドラマといえる。

 

Q、自分の作品を指揮することになるが、これは特別な経験になる?

A、それは大変な経験だ!(笑)。作曲家はすべての音を頭の中に入れていて、すべてを自分が思い描いたとおりにしたいと思っている。作業をしているときは、常に変更を加えなければならないと考えていて、それは継続的なプロセスだ。作曲家でなければ、それほど感情的に関与することがないので、おそらくそれほど苦しむことはないだろう。

作者としては、最高のものを求める。今回は、世界最高のオーケストラ、素晴らしい合唱団、世界最高のソリスト、そして友人のラモン・バルガスがイエスの役を歌ってくれるということで、私はとても恵まれている。通常、『Ecce Homo』をプログラムに入れる時は、私がこの役を演じ、別のマエストロが指揮をしている。他の誰かのイエス役を私が指揮するのは今回が初めてで、これは私にとって重要な瞬間だ。

 

Q、音楽以外の趣味では、写真に興味が?

A、アーティストは誰でもそういうものを持っている。それ以外の多くの人にとっての趣味は音楽だ。しかし音楽家である以上、何か他の趣味を見つけなければならない。健康であるためにも。私の場合は写真だが、他のミュージシャンの場合、多くは絵だ。でも、それはプロであるということではなく、ただの楽しみだ。2008年にスイスの出版社から私の写真集が出版されたが、私はそれを自分の魂の単なる反映だとみなしているだけで、自分が撮ったという事実を除けば、特別なことは何もないと思っている。

 

festivalenescu.ro

 

 

 

 

 


 

 

≪ ベートーヴェンの交響曲第9番は人類の遺伝子の中にある ≫

 

ホールでリハーサルが始まる前に、ホセ・クーラに会った。リラックスして、冗談を言っているが、自分が何であるか、そして何ができるのかについて、自身にも周りの人々にもしっかり示していることに変わりはない。彼は世界的にも最高の一人と言うことができるにもかかわらず、自身と自分の才能を惜しみなく提供することを選択した人物との対話を以下で読んでほしい。それは贈り物だ。

 

Q、あなたは世界中で公演をしてきた。今回、ブカレストにはどこから?

A(クーラ)、マドリッドの家から。

 

Q、キャリアについて。いつも外出中のこのような生活はどのようなもの?

A、30年のキャリアの中で、約3000の公演とコンサートを行ってきた。毎年100回ほどで、かなりの数になる。

しかしこの自転車に乗っている時は、ペダルを漕いでいると、自転車にダイナモがあり、ダイナモが電球に電気を送り、電球が周りの人々や自分の顔を照らしてくれる。前方からこの光が差し込んでくるので、まわりはあまり見えない。それゆえただひたすらペダルを漕ぎ、あるところにたどり着き、また止まらずに、ただ漕ぎ続ける、そういうようなものだ。

それから、ある日、コロナパンデミックがやって来て、自転車の車輪の間に棒を差し込んだ……PANG! 再スタートできず、それはすぐにSTOP!だった。そしてさっき話したライトもすぐに止まった。

最初は、誰もが経験することだが、周りを見回しても何も見えない。明かりが消えて真っ暗になり、どうしたらよいものかと思っていた。しかし、残念なことに、しばらくパンデミックが続いているため、目が暗闇に慣れ、今まで気づかなかったものが見られるようになってくる。そして驚いて、周りの人たちに「ねえ、これを見て!」と言うと、「昔からあったけど、光のせいで見えなかった」と言われる。私はこうしたことを、周りの多くのことや人々、家族、子供、妻、庭、友人と一緒に経験した。突然、それまで自分の光に目がくらんで、今まで見たことのないものがたくさん見えてきた。そして、それは最も愚かなことだった。他人の光に目がくらんでいるなら、それはそれだが、自分で目を見えなくしていたのなら愚かなことだ。

 

Q、未来は今どのように見えている?


A、わからない。しかし絶対にもうあの自転車には乗らない。

もうすぐ599歳になる。引退した自転車で(笑い)、周りを照らすけれど自分は目立たないという、この生活が気に入っている。今では、慎重にペダルをふみ、そして、私はルーマニアに来て、素晴らしい芸術家、コーラスと美しい場所を発見することができる。もう、大きな車輪に乗ってメットやコベントガーデンにいるわけではない。私は今、他の場所を見る機会があるわけだが、本当に見ることができる。その自転車に乗っていたために気づかなかった場所、スピードを落とせば見えてくる世界がある。

 

 

 

 

Q、上から「教育する」ことに抵抗があるということだが、音楽教育に関心があり、多くのマスタークラスを提供している?


A、誤解しないでほしいが、私は教育に反対するものではない。私が問題にしているのは、「私たちがあなたを教育する」という姿勢であり、それは完全に間違っている。

自分が素晴らしい人生を送ることができたのは特権的だったと私は言うし、そう思っている。困難はあるが、人口の98%と比べればかなり恵まれている。自分自身が蓄積してきた情報や経験を、死ぬまでに共有できなければ非常に悔しいし、愚かなことであり、何のために生きてきたのかということになる。


だから情報を求めている人に提供して、これらの人々から順番に学んでいける場がとても好きだ。鏡のように機能すると思うから。だからといって、「私はソクラテスの生まれ変わりであり、人生が何であるかをすべて教える!」などと言って歩き回るわけではない。人生の一定の時期を経ると、その点が変わる。若い頃はそんな風に考えて、理想主義者でロマンチスト、そして動くものはすべて撮影したくなる。50歳を超えると、例えば、ストイックな理想主義者になって、本当に必要なときしか撮らなくなる。これが大きな違いだ。

 

Q、6つの楽器を演奏すると聞いたが?

A、いやいや! 6つを演奏できるわけではない。 音楽の訓練の一環として、これらの6つの楽器を演奏するテクニックを学んだが、歌うこととは別。もし今、トロンボーンを演奏するとしたら、とても辛い経験になると思う(笑い)。

 

Q、想像するとして、現代音楽は、70年後、または100年後、何と呼ばれる?

A、どこに線を引くかわからないので、複雑な話になる。

ジャンルと時代のこの境界線はどこにあるのか?ベートーヴェンの交響曲第9番は、今では一種のポップミュージックであり、人気があり、人々のものであるという意味で、博物館の中にはない。

ポップミュージックはレゲトン(ラテン音楽)を意味する?もちろん違う。レゲトンは唯一のポップのジャンルか?もちろん違う。ポップミュージックの本当の定義は、業界が売るためにつくるものではなく、人々がすぐに結びつき、共感するような、力づよく、深く示唆に富んだ音楽のことだ。誰かに第九を聞かせれば、誰もが「ああ、そうか」と納得するだろう。「これが『歓喜の歌』だ」と。

「歓喜の歌」はポップソング?イエス、ポップだ。ポップスとは、人々のものであり、人々の心と魂の奥底にあるものだとう意味で、おそらく他のどの音楽よりもポップスだ。今年の夏に流行っている音楽が来年の夏には忘れられるとしても、ベートーヴェンの第9交響曲は誰も、絶対に忘れないだろう。それは人類の遺伝子の中にある。

より正確に言えば、呼称は本質的にラベルと同等だ。しかし、クラシック音楽は、誰かが分離しなければならないと決める前には存在しなかった。それ以前は、聖楽と俗楽しかなく、その中にクラシックが入っていた。20世紀になると、レコードやアーティストを販売するために、レーベルの多様化が進み、ポップミュージックが生まれ、クラシック音楽は退屈な少数派のものと認識されるようになった。史上最高の音楽はクラシック音楽から生まれ、それに触発され、クラシック音楽教育を受けたミュージシャンによって書かれたものであり、フレディ・マーキュリーはその最高の例だ。コンピューターを使って音楽を作る方法ではなく、クラシック音楽を学び、彼の分野で最高の偉大なアーティストだった。

 

Q、フェスティバルの今年のテーマは「愛の物語」。 あなたのラブストーリーを音楽でどのように表現する?


音楽は、他の人の前に座り、一緒に愛をもって何かを作る絶好の機会。私が譜面台に立ち、オーケストラと一緒になって、音楽への愛情をもって何かをするときのようなものだ。だから、音楽や譜面台に向かって、攻撃的で、独裁的で、傲慢で、うんざりするような態度でやってくる人のことは理解できない。彼らは何も理解していない。それは特権であり、あなたはその一部なのだ。

festivalenescu.ro

 

 

 


 

 

すこし長くなってしまい、申しわけありません。相変わらずクーラは、多岐にわたる話題に、縦横に答えています。

若い頃にクーラが作曲したレイクエムに触れた時、「いまだに戦争が行われているのはとても愚かなことだ。戦争には勝者と敗者がいるのではない。実際には、敗者、損失しかない」と語っていました。本当に、21世紀の今でも、各地で紛争とテロ、戦争、大国の介入などによって、多くの人々が苦しみ続けています。クーラの作曲の動機が、困難な世界と人々の苦しみに対する思い、よりよい世界をめざす情熱が土台にあることを思わされます。

また印象的だったのは、バッハの影響とバッハへの情熱です。これまでもクーラは、バッハのミサ曲やマニフィカトなどを指揮してきたし、バッハの魅力を語っていましたが、クーラにとっては、「私にとって音楽のアルファとオメガ」というほどの存在だったのですね。そこから宗教音楽への情熱が生まれ、クーラ自身のカトリックの信仰とも結びついて、多くの宗教的な作品を作曲することにもつながってきたのだということがよくわかりました。同時に、宗教的なものも、とりわけそのドラマとしての素晴らしさとしてつかんでいることも理解できました。

「作曲はやむにやまれぬものであり、創造的なものはすべて、その人の内面と深く結びついたものだ」と語っていたクーラ。作曲家としての姿勢や楽曲を知ることは、クーラ自身の人となり、生き方を深く知ることにつながると実感しました。

 

 

 

*画像は、フェスティバルのFB、動画などからお借りました。

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(公演編) ホセ・クーラ、初演含む自作の3曲を指揮ーージョルジェ・エネスクフェスティバル

2021-09-09 | 指揮者・作曲家として 2020~

 

 

ホセ・クーラは9月5日、前回の記事で告知した、ルーマニアのブカレストを中心に開催中のジョルジェ・エネスクフェスティバルでのコンサートで、イギリスのフィルハーモニー管弦楽団を指揮して、自作の3曲を演奏しました。

長引くパンデミック下でさまざまな困難な条件があったと思いますが、コンサートは無事終了、フェスティバルの公式サイトで生中継、終了後12時間のオンデマンドということで、世界中で視聴することができました。オンデマンド視聴はすでに終了していますが、今回は報道やSNSなどの情報から、当日の公演の様子などをお伝えしたいと思います。

また、クーラが作曲した3曲は、音楽の美しさやドラマティックな展開が感動的ですが、聖書のなかのキリストをめぐる物語を題材としているために、宗教の素養のない私には言葉やその意味がわからないという問題がありました。フェスティバルの公式サイトに、曲の内容と場面に関する簡単な解説が掲載されましたので、それも紹介したいと思います。

 

 


 

 

 

PHILHARMONIA ORCHESTRA, LONDON

George Enescu Festival 
Sunday, September 5, 2021 19:30 - 20:40

≪Artists≫
José Cura – conductor
Polina Pasztircsák – soprano
Elisa Balbo – soprano
Roxana Constantinescu – alto
Ramón Vargas – tenor
Marius Vlad Budoiu – tenor
Nicolas Testé – bass
Ciprian Ţuţu – choirmaster
Radio Romania Academic Choir
Răzvan Rădos – choirmaster
Radio Romania Children’s Choir

≪Programme≫
JOSÉ CURA Modus (from Argentinian Requiem)
JOSÉ CURA Te Deum
— Interval —
JOSÉ CURA Ecce Homo

 

≪出演者≫

フィルハーモニア管弦楽団、ロンドン
ラジオアカデミック合唱団
ルーマニア放送子ども合唱団

ホセ・クーラ作曲家&指揮者

 

≪プログラム≫

ホセ・クーラ作 「Modus」(「アルゼンチンのレクイエム」よりキリエ)

ホセ・クーラ作 「テ・デウム」 フェスティバル25周年記念ヴァージョン(世界初演)
 POLINA PASTIRCHAK ソプラノ

ホセ・クーラ作 「この人を見よ」 (3曲構成=マニフィカト、ゴルゴダ、スターバト・マーテル)
   エリーザ・バルボ (マリア役・ソプラノ)
   ラモン・バルガス(キリスト役・テノール)
   ロクサナ・コンスタンティネスク(アルト)
   MARIUS VLAD BUDOIU (テノール)
   二コラ・テステ (バス)
   VLAD IVANOV   (ナレーター)

 

 

 

 

 

≪ クーラのFBより ≫

 

●無事成功し、満足そうな表情のクーラと出演者、オケ。合唱団の子どもたちに囲まれるクーラの姿も

 

 

"ミッション達成! コロナ禍の影響で困難を極めたが、やり遂げることができた。ミュージシャン、合唱団、ソリスト、カルメン・ヴィドゥ率いるビデオクルー、ロベルト・ガブリエル率いるラジオクルー、そして気配りのできる控えめな警備員を含むバックステージチーム、全員の努力に感謝する。スタンディングオベーションは皆さんのためにある。皆さん、ありがとう”

 

 

 

≪ 多彩な映像によって表現されたステージの様子 ≫

 

●クーラのFBで紹介されたカメラマンのアルバム

 

 

 

今回のコンサートでは、カルメン・ヴィドゥさんを中心とした映像チームによって、クーラとの打ち合わせをふまえ、舞台背景に様々な画像が投影され、曲のイメージをふくらませ、メッセージをより鮮明にするうえで効果を発揮していました。

前回の記事で紹介しましたが、クーラは映像チームに対し、”聖書の場面を使うのではなく、今を語ってほしい”と依頼したのだそうです。上記のカメラマンのFBに掲載された多数の舞台写真を見ていただければわかるように、基本的にはそのクーラの要望どおり、多くの、現代の世界をめぐる困難、紛争、難民、差別、貧困と格差の実態を示す画像がありました。苦しみと悲しみ、苦悩、絶望、怒り、そしてそれに抗して立ち上がる人々の姿、「人間の優しさを求めて」というプラカードにもあったように、祈り、善意、行動と連帯、愛と人間の温かさ、子どもたちの姿に託された未来への希望などを象徴するような画像もたくさん表示されていました。

クーラが3曲のキリストと聖書を題材にした曲を書いたのも、単に聖書の物語やキリスト教の世界観を表現したかったというより、現在の世界の困難を見すえ、それを変えていく方向で困難に打ち勝とうとする努力と行動、人間性、ドラマを描き出したのだと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪ 曲の解説ーーフェスティバル公式サイトより抜粋 ≫

 

フェスティバルの公式サイトに掲載された公演後の記事に、曲目の理解を助けてくれると思われる内容がありましたので、抜粋して紹介されていただきます。

 

●「Modus」について

” 最初の曲「Modus」(「アルゼンチンのレクイエム」からの抜粋の「キリエ」と表記)は、コラールボーカルによる聖歌で、ピアニッシモからクレッシェンドを経て、最後は破壊的なフォルテで終わり、宇宙に散るように退く。ヴォーカルはシンプルなメロディーラインだが、神を崇める賛美歌のようなイメージを持っている。”

 

●「テ・デウム」について

” 2021年の25周年に向けて、多面的な芸術性をもつクーラが作曲した、ソリスト、合唱団、児童合唱団のための「テ・デウム」が、伝説的なロンドン・フィルハーモニア管弦楽団の演奏によって、ブカレストの人々に初めて披露された。この作品は、合唱団(ルーマニア・ラジオ放送局のラジオ・アカデミック合唱団と児童合唱団の演奏で始まり、ソプラノのポリーナ・パスティルチャク(Polina Pastirchak)が加わった。会場は温かい拍手に包まれた。”

 

 

 

 

●「この人を見よ」について

” 最後はオラトリオ「この人を見よ Ecce Homo」で、1988年に作曲をスタート(Magnificat)、数年後に継続されて(Calvarium)、その後(Stabat Mater)で終結ーー聖書の場面、キリストの生涯の始まりの第1部と、受難と十字架にかけられたイエスのそばでの聖母マリアの祈りである残りの2部で構成された重厚な3部作が生まれた。

合唱団に加え、ソリストとしてエリーザ・バルボ(ソプラノ:マリア)、ラモン・ヴァルガス(テノール:キリスト)、ロクサナ・コンスタンティネスク(メゾソプラノ:マグダレーナ)、マリウス・ヴラド・ブドイウ(テノール:ユダ、トリビューネ、イオアネス)、ニコラ・テステ(バス:ヴォックス・クリューラエ、カイファ、ピラトゥス)、ナレーターのヴラド・イワノフが参加した。

オラトリオの構成は、プロローグ(「昔々、あるところに王がいた...予測不可能な王が...」)が語られた後、救世主イエスを讃えるソプラノの歌声が、澄んだ声色で、高音のアクセントがしっかりと支えられたデクラメーション(「私の魂は主を讃える...慈しみは世代を超えてとどまる」)で構成されていた。Calvariumへの準備にはほとんど光がなく、その後、テノールの宣言が特徴的であった(「父よ、私の魂を叱らないで。私の骨は傷つき、私の魂は悩んでいる」)。よく知られている「あなたたちの1人が私を売るであろう」は、「彼を十字架につけろ!」というシーンの前にイエスが発した予兆であり、コーラスの叫び声とオーケストラの効果が交互に繰り返され、ドラマを盛りあげている。子どもたちの声は求められる純粋さをもたらす。しかし、「父よ、彼らをお許しください。彼らは自分が何をしているのかわかっていないのだ」という答えが返ってくると、「彼らを十字架から降ろして」という猛烈な叫び声が聞こえてくる。

最後の「Stabat Mater dolorosa」(泣いている十字架のそばで)では、ソプラノが素晴らしい嘆きを歌い、メゾソプラノが「通り過ぎる人たち、私のような悲しみがあるかどうか見に来てください」と告げる。フィナーレは、イエス・キリストが「あなたの手に私の魂を委ねる」と言う。ECCE HOMO。アーメン。

作曲家はここで止めた。なぜか?主の復活の奇跡は現実から遠すぎるということかもしれない。

指揮者であるホセ・クーラは、慎重で規律正しい歌手としての生涯の経験から、劇場のピッチやコンサートのステージからヒントを得ずにはいられなかった。彼は正確に、入口を与え、ニュアンスを高め、快適に、大げさでなく。卓越した器楽奏者と素晴らしい合唱団が、ソリストたちとともに見事に応えてくれた。… "

festivalenescu.ro

 

 


 

 

 

 

 

 

≪ 視聴可能な録音と録画 ≫

 

●クーラの公式YouTubeチャンネル「José Cura MUSIC」より

 

クーラが公式に提供している動画チャンネルのなかで、これまで数回、「この人を見よ」の録音の抜粋をアップしています。

音声のみですが、2つリンクを紹介します。

 

Ecce Homo - Antiphona

 

 

 

 

●オペラ動画チャンネルにアップされた抜粋

 

こちらはオペラ動画チャンネルに今回演奏された「この人を見よ」の動画の一部がアップされ、そのリンクを紹介したツイートです。

いつまで視聴可能なのかわかりません。

 

 

 


 

 

≪ 出演者のSNSより ≫

 

多くの出演者、舞台、放送関係者、合唱団関係者などの方々が、たくさんSNSで発信していました。

 

●合唱団関係者のコメントから

なかでも印象的だったのは、合唱団の指導者、関係者の方たちのコメントです。子ども合唱団もふくめて、クーラの今回の作品には合唱の役割がとても大きかったのですが、本当に素晴らしく、ドラマを盛り上げ、展開させ、希望の光をもたらす役割を果たしてくれました。

 

” リハーサルは終了した。私たちは皆、アーティストであるホセ・クーラの個性に魅了されている...このコンサートがさらに数日後であれば、リハーサルの独特の雰囲気をもう少し長く楽しむことができたのにと、本当に思った。なんて美しい時間だったことか。しかしコンサートは今夜なので、合唱団、オーケストラ...みんなの努力の集大成にしたいと思う。”

 

また別の方からは、こういうコメントも。

” 何千もの感情。一生に一度のコンサートで一日が終わる。ホセ・クーラは芸術の魔術師であり、私たちを人間としての優しさ、つまり感謝に満ちた愛の状態に戻すために生まれてきた魂だ。… このような貴重な体験ができたことは、この上ない喜びだ。”

 

 

●アルトのロクサナさんのFB

その他、出演者の投稿のなかから1つだけ、アルトのロクサナさんがFBにアップしてくれた写真を紹介させていただきます。

今回の曲は、いずれも女声の役割はとても大きかったのですが、マリア役のエリーザさんをはじめ、みなさん本当に美しく、素晴らしいドラマティックな歌唱を披露してくださいました。もちろん、男声のラモン・ヴァルガスさん、二コラ・テステさん他、またナレーター役のルーマニアの俳優さんなど、全ての出演者の方々とオケの力が発揮されての成功だったと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

*画像などは動画や出演者、関係者のSNSなどからお借りしました。

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(生放送告知編) ホセ・クーラ、初演含む自作の3曲を指揮ーージョルジェ・エネスクフェスティバル

2021-09-03 | 指揮者・作曲家として 2020~

*この画像は、2017年プラハでの「この人を見よ」初演時のものをお借りしました。

 

ホセ・クーラは、2021年9月5日(日)、ルーマニアの首都ブカレストといくつかの都市で開催されているジョルジェ・エネスクフェスティバルに出演します。

今回は、プログラムがすべてクーラが作曲した世界初演を含む3曲で構成され、オケはイギリスのフィルハーモニア管弦楽団、指揮はクーラ自身が務めます。フェスティバルの公式サイトで生放送される予定です。

ジョルジェ・エネスクはルーマニア出身の作曲家で、ヴァイオリニストとしても著名だったそうで、今年は生誕140年(1981~1955年)にあたるそうです。エネスクを冠したこのフェスティバルは、東欧最大の規模を誇り、約4週間にわたり、国際的なオケ、指揮者、ソリストなど大勢が出演した沢山のプログラムが組まれています。

出演者のうち、目についた主な名前をあげただけでも、パーヴォ・ヤルヴィ、サイモン・ラトル、ウラディーミル・ユロフスキ、ジョイス・ディドナート、ユジャ・ワン、ダイアナ・ダムラウ、フィリップ・ジャルスキー、パトリシア・コパチンスカヤ、ソーニャ・ヨンチェヴァ、サイモン・キーンリーサイド等々、各分野で世界的に有名なアーティストがずらりと並んでいます。あまりにプログラムが沢山すぎて全容はよくわかっていませんので、ぜひフェスティバルの公式サイトをご覧ください。

クーラが出演するコンサートは、現地時間9月5日の午後7時半から。日本時間では、2021年9月6日午前1時30分からになります。終了から12時間はオンデマンドで視聴できるようですので(6日の午後2時半頃まで可能か?)、興味のある方はぜひ、下のリンクからどうぞ。

 

 

 


 

 

 

 

PHILHARMONIA ORCHESTRA, LONDON

George Enescu Festival 
Sunday, September 5, 2021 19:30 - 20:40

≪Artists≫
José Cura – conductor
Polina Pasztircsák – soprano
Elisa Balbo – soprano
Roxana Constantinescu – alto
Ramón Vargas – tenor
Marius Vlad Budoiu – tenor
Nicolas Testé – bass
Ciprian Ţuţu – choirmaster
Radio Romania Academic Choir
Răzvan Rădos – choirmaster
Radio Romania Children’s Choir

≪Programme≫
JOSÉ CURA Modus (from Argentinian Requiem)
JOSÉ CURA Te Deum
— Interval —
JOSÉ CURA Ecce Homo

 

≪出演者≫

フィルハーモニア管弦楽団、ロンドン
ラジオアカデミック合唱団
ルーマニア放送子ども合唱団

ホセ・クーラ作曲家&指揮者

 

≪プログラム≫

ホセ・クーラ作 「Modus」(「アルゼンチンのレクイエム」よりキリエ)

ホセ・クーラ作 「テ・デウム」 フェスティバル25周年記念ヴァージョン(世界初演)
 POLINA PASTIRCHAK ソプラノ

ホセ・クーラ作 「この人を見よ」 (3曲構成=マニフィカト、ゴルゴダ、スターバト・マーテル)
   エリーザ・バルボ (マリア役・ソプラノ)
   ラモン・バルガス(キリスト役・テノール)
   ロクサナ・コンスタンティネスク(アルト)
   MARIUS VLAD BUDOIU (テノール)
   二コラ・テステ (バス)
   VLAD IVANOV (ナレーター)

→ クーラの「この人を見よ」については、リュブリャナフェスティバルの記事や、初演時リハーサル編等をご参照いただけると幸いです。

 

 

≪ 生放送・オンデマンド(12時間のみ)リンク ≫

 

*この画像をクリックしてください。フェスティバル公式サイトのストリーミングのページにリンクしています。

 

●生放送は、日本時間2021年9月6日(月) 深夜 午前1時30分~

 オンデマンドは終了後、12時間可能 (6日の昼過ぎまでと思われます)

 

 

 

 

≪ フィルハーモニア管弦楽団のサイトよりーープログラムとクーラの紹介 ≫

 

 

 

”ルーマニアのエネスクフェスティバル2021での2回目の公演では、音楽的博学者のホセ・クーラが、21年ぶりにオーケストラ(フィルハーモニア管弦楽団)に戻ってきたことを歓迎する。

オペラの最も並外れたテノールのひとりとして世界中で知られているアルゼンチンのアーティスト、ホセ・クーラは、もともと指揮者として訓練を受けていた。彼は今夜、オーケストラ、合唱団、ソロのボーカリストのために書かれた彼自身の3つの作品の演奏で指揮台に上がる。

前半の「Modus」は、フォークランド紛争の犠牲者に捧げるクーラの大規模な作品「Argentinian Requiem」の中からの、非常にパーソナルな1曲。

ソプラノのPOLINA PASTIRCHAKが、25周年を記念してエネスクフェスティバルから特別に委託されたクーラの「テ・デウム」のワールドプレミアに参加する。20分間の演奏では、ルーマニア放送アカデミック合唱団と児童合唱団と力を合わせ、オーケストラ全体と一緒に演奏する。

最後に、クーラの記念碑的な「Ecce Homo(この人を見よ)」は、非常にスピリチュアルな3楽章のオラトリオで、最近ハンガリーで初めて録音された。今夜のパフォーマンスでは、ソリストとしてエリーザ・バルボ、ラモン・バルガス、ロクサナ・コンスタンティネスク、Marius Vlad Budoiu、二コラ・テステが出演する。”

 

 

 

≪ フェスティバルのプロデューサーのFBより ≫

 

 

”ホセ・クーラとの強烈なコラボレーション。指揮者であり作曲家でもあるホセ・クーラは、「この人を見よ」のビジュアル(*コンサートの背景に放送される映像のことと思われる)で、聖書の場面を再現することを望まなかった。彼は私に、「今」について話してほしいと言った。

抗議行動、#MeToo、Black Lives Matter、#resist、ランペドゥーサ、シリア-アレッポの「ガス攻撃」、アフガニスタン、気候変動、地球温暖化など...。

ヴラド・イワノフが9月5日の夜、パレス・ホールでのストーリー・テラーとしてチームに加わった。ジョルジェ・エネスク・フェスティバルでお会いしましょう。”

 

 

 


 

 

前回の記事で紹介しましたが、先月末のリュブリャナ・フェスティバルでも、後半にクーラの「この人を見よ」が演奏されました。

なぜ今、キリストの磔と死をめぐる宗教曲オラトリオなのか。その点は私もなぜなのか不思議でしたが、エネスクフェスティバルのプロデューサーのFBでのコメントで、とても納得しました。

クーラはプロデューサーに対して、自分の曲を表現する映像作品には、聖書の場面を入れるのではなく、現代のことを語る、様々な現代の世界をめぐる諸問題に対して、沸き起こっている抵抗運動、改革を求める運動の一場面で構成した映像作品となることを求めたということでした。このことから、これまでもクーラはいっかんして芸術や音楽の社会的役割、アーティストの責任ということを問い、訴え続けてきたように、キリストや宗教をテーマにした音楽においても、今の視点でとらえなおし、現代を生きる私たち自身に関わるものとして表現し、訴えているのだということがよくわかりました。

オラトリオ「この人を見よ」は1989年にクーラが書いた作品で、その後長らくテノールとして活動するためにしまい込まれていたそうですが、2017年にプラハで初演されました。「Modus」はプラハ響のレジデントアーティストの時代の書下ろし作品で2017年にプラハで初演されました。その後、クーラが1984年に作曲したフォークランド紛争の犠牲者を追悼するレクイエムを改訂し、その中に組み込んだようです。「テ・デウム」は、昨年来のパンデミックでコンサートやオペラがキャンセルになるもとで、自宅に籠らざるを得ない時間を使って、新たに作曲した曲だそうです。それぞれ、若い頃、作曲家をめざしていたクーラが、長年の歌手としての経験を経て、熟成させ改訂、または新たに作曲した音楽であり、クーラの人生を様々に反映したものということができると思います。

深夜の生放送ですが、月曜日の昼くらいまでオンデマンドが可能です。そのあとは削除されてしまうようですので、条件のある方はお早めにご覧になることをおすすめします。

 

 

 

●フェスティバルのクーラ紹介ページ

 

 

 

*画像はフェスティバルやオケのSNS、HPなどからお借りしました。

 

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