人と、オペラと、芸術と ~ ホセ・クーラ情報を中心に by Ree2014

テノール・指揮者・作曲家・演出家として活動を広げるホセ・クーラの情報を収集中

(舞台写真編)2021年 ホセ・クーラ、道化師のカニオを歌うーーハンガリーでコンサート形式

2021-11-15 | オペラの舞台―道化師

 

 

2021年11月9日、ホセ・クーラはハンガリーのブダペストで、レオンカヴァッロのオペラ「道化師」に出演しました。

すでに前回の記事でご紹介したように、ラジオ生放送され、いつまで可能かはわかりませんが現在まだ、オンデマンドで録音を聞くことができます(11月15日現在)。ぜひ記事のリンクをクリックしてみてください。

今回は、この公演の舞台写真が、主催者のハンガリー放送芸術協会のフェイスブックに大量に掲載されましたので、その一部をご紹介するとともに、リハーサルの様子を収めた動画や写真などもありますのでリンクを掲載しています。

写真を見ていただくとよくわかりますが、今回の公演はコンサート形式なのですが、クーラは完全に役になり切っていて、まわりの出演者も巻き込んで、セットはないけれども、あきらかにドラマの空間ができあがっているのがわかります。ぜひとも動画も見てみたいものです。

 

 

 

 

 

 

Leoncavallo's 'Pagliacci' 

Canio: José Cura.
Nedda: Polina Pasztircsák.
Tonio: Zoltán Kelemen.
Beppo: János Alagi.
Silvio: Zsolt Haja.

Hungarian Radio Children's Choir, Choir and Symphony Orchestra. 
Conductor: János Kovács.

9th November, 2021    Müpa Budapest

 

 

 

●舞台写真ーーハンガリー放送芸術協会のFBより

協会のFBに2度にわけて掲載されました。右上のFマークをクリックするとFBの投稿ページに移り、画像を拡大してみたり、その他の大量の写真を見ることが可能です。

 

 

 

 

 

 

●リハーサルの写真

こちらはリハーサル中の様子を撮影したもの。同じくハンガリー放送芸術協会のFBより。

 

 

 

 

 

●インタビュー動画 リハーサルの様子も少し

クーラがインタビューに答える様子(英語)とリハーサルの様子も収録したニュース動画(3分半)です。

 

 

 

 

●クーラのFB投稿ーー劇場の公演紹介記事をとりあげて

公演会場であるMUPAブダペストの告知に、クーラについての短い紹介が掲載されています。以下の投稿は、クーラがその紹介記事を取りあげて、感謝の言葉を述べたものです。

 

 

 

”ドン・キホーテのように、長年、風車とたたかってきた私にとって、このような真面目な言葉を読むのはとてもうれしいことだ。 正確な観察をしてくれたMolnár氏に感謝する。あなたの判断が常にどれほど厳しいかを知っているだけに、それは私にとって大きな意味がある。”

 

(引用された紹介文)


”歌手、俳優としてのクーラの業績は、しばしば批評家を困惑させる。しかしこれは、楽しい困惑の一種だ。彼らが見ているのはクーラ自身ではなく、彼が演じているキャラクター(オテロであれ、カラフであれ、場合によってはカニオであれ)であるため、舞台上でパフォーマーが実際に何をしているのかを語ることができないことに気づくからである。

クーラの歌は常に正確で、楽譜に書かれていることを忠実に守っているのだが、彼の口から出てくる言葉はすべて、精神状態の表明やその表現のように思える。彼の芸術的な存在感が呼び起こすもので、大きな影響を受けるのは視聴者だけではない。キャストの仲間の歌手たちは、彼の周りの舞台を熱狂させるクーラを常に頼りにしている。”

 

 

 

 

 


 

 

公演のラジオ生中継を実施し、たくさんの写真を掲載してくださったハンガリー放送芸術協会には、本当に感謝です。

クーラの舞台上の存在感の大きさは、ラジオ放送からも十分感じ取れました。上記でクーラが紹介した文章のとおりで、写真を見ても録音を聞いても、クーラ自身がまるで酷く傲慢で、暴力的で威圧的な人物そのものに感じられますが(笑)、スコアとリブレットに忠実に、ドラマを描き出しているだけであり、そのリアルさと迫力が、見るものの胸をうち、時には錯覚させるのではないでしょうか。

オペラ道化師の解釈については、これまでクーラはたびたび発言してきています。このブログでも何度かご紹介していますので、興味のある方はご覧いただければ幸いです。

*例えば「ホセ・クーラ 道化師の解釈 "私は仮面の背後にいる"」など

お読みいただいてありがとうございました。

 

 

 

*写真は放送芸術協会FBや劇場HPからお借りしました。

 

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(録音編)2021年 ホセ・クーラ、道化師のカニオを歌うーーハンガリーでコンサート形式

2021-11-11 | オペラの舞台―道化師

 

 

 

ホセ・クーラは、2021年11月9日、ハンガリーの首都ブダペストのバルトーク国立コンサートホール(Müpa Budapest)に出演しました。演目は、レオンカヴァッロのオペラ「道化師」、クーラはおなじみの主人公カニオです。

今回は1回だけの公演で、コンサート形式。クーラは、主催側の要求にこたえて、通常バリトンの役であるトニオが歌うプロローグも歌いました。

 

この公演は、日本時間11月10日早朝の3時35分から、ハンガリーのバルトークラジオで生中継されました。そしてしばらくの間は、オンデマンドで聞くことができます(いつまでかは不明)。

音響も音質、録音状態もとても良かったです。クーラも冒頭から声が伸びやかで、カニオの慟哭「衣装をつけろ」の迫力、後半からラストにかけての緊迫のドラマの盛り上がりはやはり素晴らしく、観客も大喝采の舞台でした。

映像がないのが残念ですが、後日、ハンガリーのテレビで放映されるという情報もあります。日本で視聴できるかどうかはまだわかりませんが、情報が出ましたらまたお知らせしたいと思います。

 

以下の画像にリンクをはっています。クリックするとバルトークラジオにつながります。それでは「道化師」の録音(約80分)をお楽しみください。

 

 

 

 

Leoncavallo's 'Pagliacci' 

Canio: José Cura.
Nedda: Polina Pasztircsák.
Tonio: Zoltán Kelemen.
Beppo: János Alagi.
Silvio: Zsolt Haja.

Hungarian Radio Children's Choir, Choir and Symphony Orchestra. 
Conductor: János Kovács.

9th November, 2021    Müpa Budapest

 

 

●バルトークラジオの紹介ページ

なおこの写真ではクーラが指揮をしていますが、今回の道化師ではクーラは指揮ではなく歌手としての出演です。

 

 

 

 

●ハンガリー放送文化協会のFBに掲載された告知

 

 

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(録画編)2011年 ホセ・クーラ、ミラノ・スカラ座で道化師のカニオを歌う

2020-03-29 | オペラの舞台―道化師

 

 

世界を覆う新型ウイルス拡大の脅威のもと、各地のオペラハウスは公演キャンセル・閉鎖を余儀なくされています。そんななか、多くの劇場が、外出禁止のため自宅で過ごさざるをえない人々のために、公演のライブ放送や録画のアップをしてくれています。本当に感謝です。

今回は、イタリアのテレビ局RaiがネットサイトRaiPlayにアップしてくれた、ホセ・クーラ主演のレオンカヴァッロのオペラ、道化師を紹介したいと思います。

2011年1月~2月、イタリアのミラノ・スカラ座での公演です。指揮はダニエル・ハーディング。通常通り、カヴァレリア・ルスティカーナ(トゥリッドウが故リチートラ)とのダブルビルで上演されましたが、現在(3/29時点)公開されているのは道化師だけのようです。日本でもNHKの深夜枠で放映されたので、ご覧になった方もいらっしゃると思います。

オペラ情報サイトのoperawire.comによると、2020年4月6日と12日に、この道化師とカヴァレリアの2作品が同時にストリーミングされるそうです。これは、スカラ座がRaiと協力して、3月23日から4月21日までの間、オペラを無料ストリーミングする一環のようです。RaiPlayなどで、2008年から19年に上演された、バレエを含む30の作品が公開されるそうです。ストリーミング後も、1か月ほどはオンデマンドで視聴可能なようです。素晴らしい作品、第一線のアーティストによる舞台がずらりと並んでいますので、ぜひ興味のおありの方はチェックされてみてはいかがでしょうか。

 

 

 


 

 

 

PAGLIACCI 
TEATRO ALLA SCALA 2011

Directed : Mario Martone
Scenes: Sergio Tramonti
Costumes: Ursula Patzak
Orchestra: Orchestra of the Teatro alla Scala
Conductor: Daniel Harding
Choir: Chorus of the Teatro alla Scala
Chorus Master: Bruno Casoni
Lights: Pasquale Mari

Nedda:  Oksana Dyka
Canio:  José Cura
Tonio:  Ambrogio Maestri
Beppe: Celso Albelo
Silvio: Mario Cassi

 

 

*この画像に、Raiの動画サイトRaiPlayの道化師のページにリンクを張ってあります(全編、約1時間20分)。

このリンク先がいつまで視聴可能なのかわかりませんが、4月6日に道化師とカヴァレリアがストリーミングされ、その後も1か月はオンデマンド放送されるそうですので、リンク切れの際は、RaiPlayで検索してみてください。

 

 

 


 

 

≪舞台の様子≫

 

この道化師のプロダクション、現代的で、なかなか美しい舞台です。カニオ一座の劇団員たちや、観客など、それぞれが生き生きと演技をしていて、ドラマティックに緊迫感を増していくクーラの演技・歌唱とも、しっかり相互に支え合っているように思います。

 

 

 

何より見どころは、クーラが演じる道化師一座の座長カニオです。クーラはいかにも支配欲、権力欲が強い、嫉妬深く暴力的な夫の役をいやらしく演じています。自然でリアル、ドラマティックな演技、一瞬たりとも気を抜かない、役柄になりきったクーラの姿は、クーラ本人がこういう嫌な性格の人物かと錯覚するほどです(笑)。特に、ラストシーンに向けて、たたみかけるような緊張感と緊迫感。客席まで巻き込んで巧みに動線をつくった演出、ラストのクーラの迫力は、最前列の観客をかなり驚かせたらしいです。

クーラのこのようなドラマティックな歌唱には賛否両論あり、この公演でも初日は天井桟敷からブーも出たそうです。批評でも、ドラマ性を評価しつつ、歌のフレージングが失われているというような指摘もありました。このあたりは、好みもありますし、オペラに何を求めるか、ということもあるかと思います。現代のオペラのあるべき姿として、キャラクターの人間性とドラマを演技と歌唱によってリアルに描きつくすことをめざしているクーラ。キャラクターとドラマのリアリティためにはメロディや音を歪ませることも厭わないと考えています。この点については、様々なお考えの方がいらっしゃることと思いますが、私にとっては、ここがクーラに惹きつけられる大きな魅力のひとつでもあります。

 

 

 

 

 

≪クーラとスカラ座≫

 

クーラは1991年、母国アルゼンチンから、祖母の出身地でもあったイタリアに移住しました。まずは親戚を頼って、イタリア北部、トリノやジェノヴァに近いサント・ステーファノ・ベルボという町に行ったようです。

その後、北部のジェノヴァやヴェローナ、トリノ、そしてミラノなどの劇場で活動の場を得て、テノール歌手として知られるようになっていきました。1997年1月には、このミラノ・スカラ座で「ジョコンダ」のエンツィオ役でデビューを果たします。それ以降、98年(マノン・レスコー)、99年(運命の力)、2011年(道化師)、15年(カルメン)に出演しています。

クーラのミラノへの思い、当時の様子、移民として重ねた苦労、キャリアが順調になるまでの苦闘については、これまでのいくつかのインタビューを紹介しています。クーラの人となりがよくわかりますので、お読みいただけるとうれしいです。

→ 「インタビュー 私にとってミラノは、壮大な都市であり、成功へのハードな闘争の象徴

→ 「2013年 ホセ・クーラ キャリアを拓くまでの苦闘、決断と挑戦、生き方を語る

 

またクーラの道化師の作品論と解釈、カニオ論についても、以下の記事などで紹介しています。

→ 「カヴァレリア・ルスティカーナと道化師の演出

→ 「道化師の解釈 "私は仮面の背後にいる"

→ 「2005 ~ 2016年 ホセ・クーラ ベルリンの道化師

 

 

 

 

ーーこれらのインタビューから、いくつかの言葉を

 

●ミラノで開け始めたキャリア

1991年、私は2つの目的をもってイタリアに到着した。1つは、私自身のルーツを再発見するため。母方の祖母はイタリアのクーネオ県サント・ステーファノ・ベルボ Santo Stefano Belbo の出身だった。もう1つは、仕事を探すことだった。

私はオーディションを探し、エージェントをまわった。しかし、誰も私を評価してはくれなかった。私の最後のカードを使うことに決めた。テアトロ・コロンの歌の教師からもらった電話番号にかけた。テノールのフェルナンド・バンデラだった。彼は電話にでて、ミラノで会う約束をしてくれた。この街に着いたのは4月で、重い雨が降っていた。

(2015年インタビュー)

 

 

●ミラノで受けたオーディション

マエストロ・バンデラは、彼をミラノに来るように言った。そしてホセは、小さいビアンキで高速道路上のトラックの間にはさまれながら、再び大洪水のなか、風の中の葉っぱのようにミラノに向かった。

「私はミラノに初めて行ったので道に迷い、30分遅れて到着した。」

彼がバンデラの前に姿をあらわした時、先生は遅れのためにほとんど時間がなくなっていたが、ホセは3分間のチャンスを懇願した。

「認めよう」と彼がついに言った、「君は何を歌いたい?」

「アンドレア・シェニエの『ある日、青空を眺めて』を」とホセ

「それは偉大なテノールのためのものだ。難しすぎる」

「見てほしい。私に何らかの才能があるかどうか、あなたに示すのにはたった2分しかかからない。それは完璧ではないだろうが、あなたが判断するのに役立つはずだ」

生き残った。ピアノで伴奏していたバンデラ氏は、手を止め、そのような声がどこから来たのかと尋ねた。彼は自分の話と、帰国のチケットがあと数日で期限切れになるという事実を語った。「どこにも行ってはならない!」、バンデラ氏は急いで、エージェントに電話した。遅かれ早かれ何かがクーラに起こるだろうと確信し、イタリアで1か月暮らすための資金を提供しながら、ホセに忍耐するよう求めた。

(2013年)

 

 

●スカラ座のブーイングについて

これは全ての観客に関係することではない。また私だけにあることでもない。これらの人々は、個性あるアーティストをターゲットにして否定し、ブーイングの恐ろしさに対して何も配慮することがない。スカラでは多くのアーティスト、カラスでさえその対象にされた。口笛は、設計者ピエル・マリーニの時代以来、劇場の歴史の一部だ。今では、反対の意思表示以上のものになっている。

20年以上のキャリアを経て、私は、アーティストに敬意を示してくれる場所で観客の前に行き、演奏する喜びを感じている。非常に残念なことだ。オペラ劇場としてのスカラ座は、オーケストラ、合唱団、技術設備、もっとも優れたものを兼ね備えており、本当に驚くべき素晴らしさであるのに。

(2015年)

 

 

 

 

 


 

 

 

ミラノなどのイタリア北部の町々、ミラノスカラ座やボローニャ、トリノ、ヴェローナ、ジェノヴァと、それぞれの町にある世界でも有名な歌劇場の数々ーーそれらはクーラにとって、欧州移住とデビュー、キャリアの開始と展開の地であり、第2の故郷ともいえる場所ではないかと思います。クーラもスカラ座を愛し、スカラ座のオケ、合唱団、スタッフを高く評価しています。しかし、前述のインタビューでも紹介したように、天井桟敷に象徴される特殊な問題もあり、また緊縮財政、劇場首脳の経営方針等も相まってか、2015年のカルメン以来、残念ながらクーラはスカラ座には出演していません。

現在、イタリア北部は、新型ウイルスで非常に困難なたたかいを強いられています。クーラが現在住んでいるマドリードも、そして私たちの日本、東京も・・。世界中で劇場閉鎖も続いています。劇場の厚意で、無料のストリーミングや動画アップがなされているのは、本当に嬉しいし、大歓迎です。でも一方で、本来、これらによって収入を得ることができたはずの劇場、アーティスト、技術者やスタッフの方々が苦境におかれるのは困ります。

そんな中、欧州の国々の多くで、芸術文化事業、アーティストやフリーランスの方々に対し、助成金や給与補償などが実施されていることは本当に素晴らしい、希望ある動きだと思います。日本でも早く実現してほしいと切に願います。そして早く事態が好転し、安心して芸術・文化を楽しめる日が訪れることを。何よりも、クーラと、スカラ座をはじめとする劇場関係者、イタリアの皆さんが健康を維持され、再び劇場再開の日を無事に迎えられることを心から願っています。

 

 

*画像は動画や報道などからお借りしました。

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2005 ~ 2016年 ホセ・クーラ ベルリンの道化師 / Jose Cura Pagliacci in Berlin

2017-02-07 | オペラの舞台―道化師



ホセ・クーラは、レオンカヴァッロの道化師を長年、各地で演じていますが、ベルリンドイツ・オペラ(Deutsche Oper Berlin)でも、2005年に劇場デビューで道化師のカニオに出演して以来、同じプロダクションで、2007年、2016年3月と、3シーズン合計10ステージに登場しています。
もちろん、他の、オテロ、トゥーランドット、サムソンとデリラ、カルメンなどの役柄でも、ベルリンでこの間、多く出演してきました。

今回は、2005年の劇場デビューと、昨年2016年のベルリンの道化師の舞台について、動画や写真、インタビューなどで紹介したいと思います。
トップの写真も、左が05年、クーラ42歳、右が2016年、53歳。
11年を経ているので、当然、年を重ね、経験を積み、外見的にも、心理的にも、よりいっそう、道化師カニオのキャラクターに近づいてきたのではないでしょうか。
このベルリンのカニオは、まるでマフィアのボスかと思うような、黒服にサングラス姿、そして煙草。2005年のクーラの写真を見ると、とてもスタイリッシュな印象です。
2016年は、貫禄がつき、さらに凄みと迫力を増したようです。そして妻を奪われる中年の道化師カニオとしてのリアリティも・・(笑)


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≪2016年≫

2016年の時は、故ヨハン・ボータのキャンセルによって急きょ、3月19日と27日のザルツブルク復活祭音楽祭に出演することになり、ザルツブルクとベルリンとを何度も行き来するという、たいへんハードな状況でしたが、無事に、舞台を成功させることができました。

レビューも非常に好評で、「ビッグシーン“衣装を着けろ”はこの夜の文句なしのハイライトになった」などと評価されていました。

2016年3月23、26日の公演から、YouTubeにアップされている2つの動画を。


一座が到着して村人に参加をよびかけるシーン。旅芸人というより・・。
José Cura - Pagliacci - Un tal gioco, credetemi



「もう道化師じゃない」からラストまで。迫力あるカニオに、このネッダは、負けずに応酬、そして最後は・・(通常とは違う終り方のようです)。
José Cura - Pagliacci - No, Pagliaccio non son



≪2005年≫

2005年の時の動画は、残念ながらネット上にもアップされていないようです。
いくつか舞台写真と、当時のインタビューから発言を紹介したいと思います。








――2005年インタビューより

●人生と芸術、その境界線について

Q、道化師では、すべてが、人生と芸術をめぐって、そして、どのように芸術が人生に侵入してくるのかを中心に展開する。
あなたはそのようなことを知っている?


A、当然。
私がここでやっていることは、私の仕事。私が非常に愛する仕事だ。
しかし、そこで大事なことは、境界線を確立する方法を知り、線を引くこと。一度ステージから離れれば、あなたは何者でもないからだ。


Q、舞台裏ではディーヴォから離れるために、あなたはどうしている?
 
A、私は20年間結婚し(2005年当時)、3人の子どもがいる。
彼らは、私が地に足をつけて、私が現実との接触を失わないように、しっかりと見ている。
そして、私がそうなるなら、彼らは私のズボンを蹴って、言うだろう・・「やめなさい」と。
 




Q、道化師は、通常、年老いて、嫉妬深いピエロとして描かれるが?
 
A、我々は、彼を、残酷で暴力的なボスと見ている。彼の力を乱用するタイプの人間として。
そして彼は言う―― "私と一緒に寝るなら、スターにしてあげる"――と。
そんなことがどこでも起こる。

 
Q、あなたもそのようなオファーを受けた?
 
一束ほど。私はそれらを非常に丁寧に断った ―― 私は幸せな結婚をしている男であり父親であると言って。





●外見の美しさとキャリア

Q、あなたの美貌は、キャリアの目標を追求するのに役立った?
 
A、むしろ反対だ。初めの頃、私はいつも、“エロティックなテナー”、“サニー・ボーイ”、“ラテンの恋人”だった。
それは良いかもしれないが、しかしまた無価値なものだった。
私は30年にわたって舞台に立ってきて、常に真剣なミュージシャンだった。しかし、もし外見が良いと、愚かに違いないと思われる。
 

Q、あなたは良い年のワインのように、年を重ねることによって、より良くなる?
 
A、私の妻に聞いてほしい(笑)。
 

Q、あなたはどんなワイン? 

A、私がワインだったら、スペインのリオハ。またはイタリアのバローロ。





●年を重ねること、キャリアについて

Q、年をとるのは難しい?
 
A、今までは、まだ。私の髪はゆっくりと灰色に変わり、薄くなる。そして腹回りはより大きく。
しかし、私の妻は、私の外見はもっと興味深くなると思っている。さらに、それからメガネを追加する。すると今、人々は突然、「ああ、彼はかなり良いミュージシャンだ」と言う。

 
Q、あなたは指揮、作曲、ピアノ、声を勉強した。どのようにキャリアとして歌を選んだ?
 
A、それが私の家族を養う一番早い方法だった。私は22歳で結婚し、25歳で父親になった。私が学生の時にパートタイムの仕事をしたフィットネススタジオに、赤ちゃんを連れて行って働いた。テノールだと、より多くの収入を得ることができる。そのためだった。
しかし、私が天職だと考えているのは指揮。そして、私はゆっくりとそれに戻りたいと思っている。
 

Q、あなたはベルリンで初めて歌おうとしている。ここのオペラハウスは破産している。少ない報酬で歌う?
 
A、世界中のオペラハウスがダウンしている。私はドイツオペラの経営陣と妥協について交渉した。私は少し少ない額でデビューを歌う。その代わりに、繰り返し戻ってくる。

『Berliner Zeitung』 (2005年4月)


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同じ役柄を、繰り返し、何年にもわたって演じていくなかで、ドラマとキャラクターの解釈を深めているクーラ。このインタビューでも触れていますが、クーラは、道化師について、これまでも繰り返して、「ジョービジネスの縮図」であり、「仮面の下の顔こそ、その人間の真の姿」であると語っています。自ら演出もしている、こうしたクーラの解釈などについては、他の投稿で詳しく紹介してますので、お読みいただけるとうれしいです。
 → 「カヴァレリア・ルスティカーナと道化師の演出」
 → 「道化師の解釈 "私は仮面の背後にいる"」

インタビューで、良いワインのように成熟するというたとえがありましたが、近年のクーラは、まさに成熟と実りの時を迎えています。

2017年前半は、2月19日から初挑戦のワーグナーのタンホイザーでロールデビュー、5月にはこれも初挑戦のブリテンの英語オペラ、ピーター・グライムズの演出と主演、そして6月はリエージュで円熟のオテロの新プロダクションを迎えます。しかもその間には、プラハ響で、クーラ作曲作品「あの人を見よ」の世界初演もあります。

少しずつ、本来の志望である、指揮者、作曲家に軸足を移しつつありますが、まだまだ歌手としても、演出家としても、つぎつぎに新しいチャレンジを続けています。まずは、間もなく初日を迎える、初めてのワーグナーが、無事成功することを心から願っています。




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2011年 ホセ・クーラ 回転劇場の道化師 チェスキー・クルムロフ / Jose Cura at Revolving theater of Český Krumlov

2016-12-17 | オペラの舞台―道化師



ホセ・クーラは、レオンカヴァッロのオペラ、道化師のカニオを世界各地で歌ってきました。
今回は、その中でも、とてもめずらしい、回転劇場での道化師の公演を紹介したいと思います。2011年と翌12年、世界遺産にも登録され、世界で最も美しい街ともよばれる、チェコのチェスキー・クルムロフの国際音楽祭での公演です。

チェスキー・クルムロフには、美しい公園の中に、回転する劇場があるのです。舞台が回るのではなくて、観客約600人を乗せた観客席が回転するという、たいへんユニークなものです。
まずは、どんな劇場なのか、クーラが回転劇場を紹介した短い動画がありますので、ぜひご覧ください。

José Cura - Revolving Theatre 2011



そして出演者たちは、回転する観客席の周りで、さまざまな演技を行います。
野外ですので、天候の影響も受けますし、森の中での公演、歌にはマイクを使わざるを得ないなど、さまざまな難しい条件もあったようです。
次の動画は、2011年の公演のダイジェストです。童話の中のような美しくかわいらしい街並み、公演の様子、またクーラのインタビューなどがコンパクトに紹介されています。
とてもカラフルな衣装や小道具、アクロバットの芸人も大勢登場して、魅力的なパフォーマンスとなったようです。

José Cura Český Krumlov 12. 8. 2011



こちらは、2010年に同地でコンサートに出演した際に、回転劇場の下見をする様子がおさめられています。
好奇心旺盛で、あたらしいことにチャレンジするのが大好きなクーラだけに、このユニークな回転劇場とロケーションには大興奮で、大いに意欲をもったようです。
(動画の後半は、同じ場所での別の公演の様子です)

José Cura na Otáčivém hledišti 2010



以下、画像とインタビューからのクーラの言葉を紹介したいと思います。

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――公演前、2011年7月のインタビューより

私たちは木々や植物に囲まれて歌う。 しかし、私はそれが、興味深く思い出深い経験になると確信している。 問題が発生した場合は、問題を解決することが挑戦であり、ルーティンを壊すので、チャレンジは楽しいものだ。

――同じく、公演前のインタビュー

Q、回転する観客席の前で演奏する気持ちは?

A、私はさまざまなアウトドアイベントで働いてきたが、観客が私の周りを回る状況は体験したことがない。
どのように動作するのか不思議に思っている。聴衆を見逃したり、自分が間違った方に行ったりしないことを願っている。

Q、道化師はイタリア南部の村が舞台。今回、ロマンチックな城の庭で、この作品をどう演じる?

カニオの物語はどこでも起こりうる。彼はドラマティックな俳優であり、彼自身の問題と疑念のためにアルコール依存症になった老人。彼は殺人犯だが、彼の恐ろしい行為のために、どこでも演じることができる悲しい物語だ。

Q、カニオの有名なアリア「衣装をつけろ」は俳優の運命の要約か?常に人々を楽しませなければならない?

A、私はもっと重要な場面は第2幕にあると考えている。
カニオは、劇中劇の間に、「私を見てくれ。マスクの後ろの男とその苦しみを見て」という。それは非常に重要なメッセージだ。
聴衆はしばしば、アーティストが機械ではないことを忘れる。そしてキャラクターと俳優を同一のものと考えてしまう。
映画では、アンソニー・ホプキンスは強い個性を演じているが、実際に彼に会うと、非常にシャイな人であることを知る。





Q、イタリアオペラの大きな役をたくさん歌っているが、他に試してみたい役柄は?

私はピーター・グライムズをやりたい。私があまり年をとりすぎる前に、誰かがオファーをくれることを願っている。
チャイコフスキーのスペードの女王のゲルマン役でオファーを何度も受けたし、いくつかワグナーの役でも受けた。しかし、私は言語のためにそれらを断った。私は覚えただけのオペラを歌いたくない。やることは可能だが、もし本当にそのキャラクターを描写したいのであれば、その言語をよく知らなければならない。私にはロシア語を学ぶ時間がない。

Q、今日の若い歌手の状況をどう見ている?

非常に複雑であり、若い歌手にとっては決して容易ではない。
しかし今日の世界は、ますます皮相なものに集中している。今日のオペラ・ビジネスは、とりわけ歌手のルックスに関心がある。
もし彼に声があるならば良いが、もし、そうでなければ・・。また、その反対のタイプの現象もある。これらの人々は、商業目的で利用されている。芸術的な職業の本質は才能でなければならない。





――2011年8月、公演後のインタビュー

Q、回転劇場を経験してみて?


A、これは普通の劇場ではない。それが回転するからではなく、それは楽しい部分だが、自然の中で歌うということ。
ここでは全く別の状況にあり、もし密閉された劇場や録音と同じ音を期待する人は、失望するかもしれない。
私はカニオをこれまで何度も歌ってきて、これは言い訳でも正当化でもないが、大事なことは、観客が期待するものを調整し、いつもとは異なる体験に備える必要があるということだ。

Q、それはまた体力的な要求も?

A、イエス、私たちは非常に素早く動かなければならない。
私はシルヴィオに向かって走っていき、ついに後ろの茂みで彼をつかまえた時には、呼吸が荒くなっている。
アクロバットのように、要求が厳しい。

Q、ここの天候は?

A、私はラテン系なので、この天候には慣れていない。私にとっての問題は寒さと湿気。リハーサルの時、私が歌うと、口から白い息が出た。 その夜は疲れた。

Q、チェコのアーティストは?

A、彼らは非常に勤勉だ。私のキャリアの30年間で、雨の中でリハーサルをし、不平を言うことのない一群の人々を初めて見た。
彼らは、プロフェッショナリズムと演出家への尊敬について、多くのことを教えてくれる。





Q、演出家との関係は?


A、最初の日、彼が私のところに来て、何か変えたいことはと尋ねたが、唯一、椅子を1メートル動かすことだけだった。
私は、彼が庭園のスペース全体をうまく利用していることに驚いた。例えば、プロローグでは、私は回転劇場から非常に離れて歌い始める。

Q、マイクで歌うことは?

A、オペラはマイクなしで歌うため、その点については私たちは満足していない。
しかし、私たちは講堂の隣に立たなければならず、庭を使うことができないので、必要となる。





Q、リスクはあるが、こういう劇場での公演は?

特に観客にとって、パフォーマンスはチャレンジングだ。スタンダードなオペラが見たい人は、回転式オーディトリアムには行かず、オペラハウスで見るべきだろう。
ここでは、私たちは巨大な空間の真中にいる。観客は、完璧な音、完璧な声、オペラハウスで提供される芸術的なパフォーマンスを聞くことはできない。
ここでは、それはまさにショーだ。視覚的に魅力的だ。
馬や牛、鶏がいる農場にいて、歌を待っていると想像してみてほしい。それ以上でもそれ以下でもない。
さらに、この作品は多くのスペースを使用するので、木々の後ろ、茂みの後ろで歌う。音響の欠陥を補うために使用できる特別な装置はない。我々は劇場で歌うように歌うが、同じようには聞こえない。

しかし、ショーとしてそれをとらえるなら、他のすべてのショーと同様に、私たちは楽しむことができる。
なぜオペラをそのような条件で演じるのかという人もいるかもしれない。それに対しては、私は、このオペラは、人々とともに素敵な時間を過ごすために書かれたものだと言う。それは、音楽だけでなく、すべての芸術における感覚。
純粋主義者にとっては、ノートに書かれているとおりに純粋な形で音楽を聴く機会が、他に無数にある。今日の芸術は、それとはまったく異なる何かを意味している。









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唯一のフリーの時間に訪れたという、サイドゥル・フォトスタジオ・ミュージアムで、共演のトニオ役マルコ・ダニエリと。







充実して楽しそうなリハーサルの様子。

 

 

 

 

 


野外のために、雨で場所を講堂内に移した日もあったようです。天候の他にも、クーラが述べていたように、音響の問題、出演者が移動で体力的に負担が大きいことなど、さまざまなリスクもあり、大変ではあったようです。

しかし2年連続して出演して、大好評を得ました。
そしてクーラ自身も、このユニークな公演を大いに楽しみ、さまざまな条件を乗り越えて良いパフォーマンスにするために力をつくしたようにみえます。チェコの演出家や出演者、パフォーマーとの協力もうまくゆき、連帯感が生まれ、その結果、この公演が、その後のチェコ、南ボヘミアでのクーラのさまざまな活動の発展にもつながっていったようです。




*画像は、現地の報道などからお借りしました。
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