人と、オペラと、芸術と ~ ホセ・クーラ情報を中心に by Ree2014

テノール・指揮者・作曲家・演出家として活動を広げるホセ・クーラの情報を収集中

2018年 ホセ・クーラの演出ノート カヴァレリア・ルスティカーナ&道化師 in サンフランシスコ

2019-02-15 | サンフランシスコのカヴァレリアと道化師




すでに何回か紹介しましたが、昨年2018年9月に、ホセ・クーラが演出・舞台デザインを手がけた道化師とカヴァレリア・ルスティカーナのプロダクションが、アメリカ・サンフランシスコオペラの2018/19シーズンの開幕公演として上演されました。
  → (レビュー編)    (告知編)

ただし、ちょうど同じ時にエストニアでプッチーニの西部の娘の演出・指揮に取り組んでいたクーラは、残念なことに、再演の演出も出演もできませんでした。そのためこの再演にあたって、クーラは、サンフランシスコで演出を担当したホセ・マリア・コンデミと一緒に、事前に時間をかけてしっかり準備をしたということです。

そういう経過をふまえ、サンフランシスコオペラのHPには、クーラのディレクターズ・ノート(演出ノート)が掲載されています。今回は、その内容を紹介したいと思います。

「ヴェリズモ・マニア」を自称するほど、ヴェリズモのオペラの研究を深めてきたクーラの、カヴァレリアと道化師の作品論、今回の演出のコンセプト、現代社会への批判として今日に通用する作品のテーマに関することなどが記されています。

クーラが書いたセットのスケッチや、発想のもとになったアルゼンチンのイタリア系移民地区のストリートアートの写真なども掲載されています。

また、クーラのプロダクションが2015年にテアトロコロンで上演された時の様子や、クーラの詳しい作品解釈、動画などもブログ記事で紹介しています。よろしければご覧いただけるとうれしいです。
  → 「カヴァレリア・ルスティカーナと道化師の演出」


なお、いつものように和訳の誤りや直訳、ご容赦ください。








CAVALLERIA RUSTICANA / PAGLIACCI
Director's Note  by José Cura

カヴァレリア・ルスティカーナ / 道化師  ディレクターズ・ノート  ホセ・クーラ




私が最初にカヴァレリア・ルスティカーナと道化師の演出と舞台デザインを依頼された時、この2つのオペラを、1900年代初頭のアルゼンチンのイタリア人移民へのオマージュとして形づくるという考えがすぐにわきあがった。

ヴェリスモ運動のこの二つの象徴的な作品の精神――その両方、過激さと臆病さ、明るさと暗さ、愛情深さと残忍さ――それらは、そのルーツであるイタリア人の祖先たちに非常によくあてはまるように思われた。そしてブエノスアイレスのイタリア人地区であるラ・ボカは、そのすべての歴史と、絵になる色とりどりの美しさによって、理想的な設定だった。



台本に合わせて、私は、実際には存在しないスペースをセットに追加することにした――食堂、教会、アルフィオとローラの家など。それ以外の風景 - 広場、物干しの綱がついた窓、教区――はすべて計画段階からあった。

私はコスチューム・デザイナーのフェルナンド・ルイスに、衣装について、カヴァレリア・ルスティカーナで通常見られるようなグレーの色合いである必要はないという考えを投げかけた。むしろ、色彩やその「即興的」な感覚は、つつましい暮らしの人々の集団が、自分が持っている最高の服を着たときのものだ。

ブエノスアイレスのレサマ公園にある壁画(Escenográfico)の写真を見つけたとき、啓示は起きた。ラ・ボカ地区の入り口を彩っている1999年に完成したこのストリートアートは、私にとって、道化師と完全に関連づけられる一連のキャラクターを描いている。



カヴァレリア・ルスティカーナと道化師は、イタリアのヴェリズモ(リアリズム)の文学的伝統にもとづいている。ジョヴァンニ・ヴェルガ(イタリアの作家、カヴァレリア・ルスティカーナの原作者)とルッジェーロ・レオンカヴァッロの両者が、人生そのもので起こったイベントから、彼らの文学的なインスピレーションを見出した。

道化師の物語の由来を説明する2つの説がある。1つめは、レオンカヴァッロ自身が幼い頃、コメディアンのネッダが、その愛人を現行犯で捕らえた彼女の演技のパートナーであり夫であるジョバンニ・ダレッサンドロの手によって殺されたことを目撃したというもの。
2つめは、ルッジェーロ・レオンカヴァッロの父親が、自分の息子に彼自身が裁判に関わった同じ様な犯罪を語ったものだという。

さらに複雑なことに、レオンカヴァッロの作品は、スペインの劇作家マヌエル・タマーヨ・イ・バウス(Manuel Tamayo y Baus)による『新演劇』(Un Drama Nuevo:1867)と題された戯曲に「危険なほど」似ていると示唆した音楽学者がいる。

レオンカヴァッロを盗作だと非難するのは少し行き過ぎだ。私はむしろ、彼が劇場の動向に精通していたことについて彼を「非難」したい。それは彼がおそらくタマーヨの作品を知っていて、そこから影響を受けたことを意味する。それは伝統的に、創造の世界ではいつもそうであり、これからも続く。

大体において、道化師とカヴァレリア・ルスティカーナのプロットは、互いにかなり似ている――既婚女性の違法な関係は、裏切られた夫の嫉妬を引き起こす。しかし、カニオのキャラクターと今日との関連性は圧倒的だ――人生とアルコールに押しつぶされた、盛りを過ぎたアーティスト。

今日においてほど、「目新しさ」が一旦なくなったために、多くの才能が捨てさられるのを見ることはない。2本の映画の後、人気を失った俳優、あるいはもっと悪い場合、舞台とスクリーンの巨人たちがちょっとした役を演じるだけに追いやられ、かろうじて食べていくことができる―― これらは、一瞬だけ輝く「瞬間のスター」の背景の効果的な装飾。

犠牲者のリストは非常に長く、そこに含まれてるのは俳優だけではない。準備のないままに、目まぐるしく動きの速いキャリアに投げ込まれた歌手や、勝利のプレッシャーの下でドーピングに頼るアスリートたちがいる。





そのリストはさらに大きくすることができる――ただ私たちのまわりを注意深く見るだけで。「カニオ症候群」は今日、これまで以上に蔓延している。
「私たちの衣装だけでなく、私たちの魂を考えてみてください。私たちもまた、肉と骨をもつ人間なのだから」とプロローグのなかで著者は訴える。

プロローグは、私にとってこのプロダクションの最も感動的な瞬間の一つであり続ける。その言葉は、物乞いと新聞配達の少年だけが聞き、感じた。関連づけられた物語を描き出すためにこれらのキャラクターを使用することは、ステージングの非常に重要な部分を活気づける――両方のオペラを通じた2つのキャストの存在。

両方のオペラで同じセットを共有するという選択において、課題は、司祭や市長、バーテンダー、理髪師、食料雑貨屋、子どもたちなどによって、社会的に構造化された町を構築することだった。

そこで、カヴァレリアの冒頭には、ネッダとピエロが一座のポスターを掲示するのが見える。道化師では、サントゥッツァが妊娠7ヶ月のお腹を抱えていて、同様に、マンマ・ルチアは、ウェイターのシルヴィオに助けられながら、まだ彼女の居酒屋を経営しているようにした。



しかし、私の一番気に入っている瞬間は、依然としてエンディングだ。ルチアが、「喜劇は終わった」( “La commedia è finita”)と叫ぶ―― 彼女の本来の権利として、まるで「信託」のように。

それはただ老いた女性の声なのではなく、地球の声、全宇宙の声でもあり、全世界にむけて「バスタ!」 “Basta!”――「もうたくさんだ!」と叫んでいる。


(原文:サンフランシスコオペラHP)









*画像は、劇場のHPなどからお借りしました。
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(レビュー編)2018 ホセ・クーラ演出・制作のカヴァレリア・ルスティカーナ&道化師 サンフランシスコで再演

2019-01-14 | サンフランシスコのカヴァレリアと道化師




年が明けて、早くも半月近くがたちました。すっかり更新が滞ってしまいました。

ホセ・クーラの2019年初の公演は、1月19日、スペイン・リェイダでのコンサートです。
クーラは指揮者として、ロドリーゴ「3つの古い舞曲の調べ」、「アランフェス協奏曲」、ベートーヴェン「交響曲第4番」を振ります。オケは、フリア・カボネル・デ・レス・テレス・デ・リェイダ交響楽団。    → クーラ2019年カレンダー紹介記事

近々、リハーサル風景などがアップされるかもしれません。楽しみに待ちたいと思います。

ということで新年の公演の紹介記事はまだ先になりそうですので、今回は、昨年2018年に、クーラが舞台デザイン、演出を手がけたカヴァレリア・ルスティカーナと道化師のプロダクションの、サンフランシスコでの再演の様子、レビューの抜粋などを紹介したいと思います。

2018年はクーラにとって、演出の分野で大きな仕事が相次いだ年でした。すでに紹介しましたが、6月にプラハでナブッコ、9月にエストニアの西部の娘の新プロダクションの演出・舞台デザインを手がけ、西部の娘は指揮も行いました。そして米国サンフランシスコオペラでは、クーラが演出・舞台デザインしたカヴァレリア・ルスティカーナと道化師のプロダクションが、シーズン開幕公演として再演されました。演出家・舞台デザインを手がけるアーティストとして、クーラは、すでに国際的な評価が確立しているといえるのではないでしょうか。





≪CAST AND CREATIVE≫
Conductor= Daniele Callegari *
Production= José Cura
Revival Director= Jose Maria Condemi
Chorus Director= Ian Robertson

Turiddu= Roberto Aronica
Santuzza= Ekaterina Semenchuk
Alfio= Dimitri Platanias *
Lola= Laura Krumm
Mamma Lucia= Jill Grove
Canio= Marco Berti
Nedda= Lianna Haroutounian
Tonio= Dimitri Platanias *
Silvio= David Pershall
Beppe= Amitai Pati

2018年9月7~30日

(告知編)でも紹介しましたが、このサンフランシスコオペラでの再演にあたっては、ちょうど、エストニアの新プロダクションの準備・初演と時期が重なっていたために、クーラは歌手として出演しなかっただけでなく、演出としても参加していません。再演の演出は、同郷アルゼンチン出身のホセ・マリア・コンデミがおこないました。
カヴァレリアのトゥリッドゥはロベルト・アロニカ、道化師のカニオはマルコ・ベルティが歌いました。

初日の様子、SNSなどに投稿された舞台写真、劇場がアップした動画、レビューの一部などを紹介します。



≪SNSより、舞台の出演者の様子≫


●クーラの姿も見える、劇場を飾る大きな垂れ幕




●初日を迎えた劇場内の様子――オケのFBより




●最終日、出演者揃って――劇場ゼネラルマネージャーのインスタより



「ブエノスアイレスとホセ・クーラのCav / Pagの鮮やかな色彩にお別れ。私たちはサンフランシスコオペラにおいて、観客を人間の情熱への燃えるような旅に連れ出した作品の、このような素晴らしい芸術に恵まれた。この素晴らしいものをつくりだしたサンフランシスコの全ての皆さんにありがとう。」



≪華やかな初日≫

初日には、沢山のセレブが豪華な衣装で集い、記念レセプションも行われて、非常に華やかなものだったようです。








サンフランシスコオペラの拠点であるこの歌劇場は、「戦争記念オペラハウス」と呼ばれている歴史的な建造物です。
1951年、第二次世界大戦後の日本と連合国側との講和条約が、ここで締結されたのだそうです。ここで結ばれたから「サンフランシスコ条約」とも呼ばれるということです。

この劇場で締結されたサンフランシスコ条約にもとづいて再出発した戦後の日本。平和は回復されたものの、米軍基地は残り、アメリカのつよい影響力のもと、その後の複雑な歩みと現在に至る状況がもたらされました。いま朝鮮半島で新しい平和への模索が進みつつありますが、アジア、世界の平和、そこへの日本の立ち位置を考えるうえで、サンフランシスコ条約のもたらしたもの、現在と未来を考えずにはいられません。この劇場は、日本の歴史の大きな曲がり角になった、その条約調印を見とどけた場所でした。





≪好評だったレビューより≫

レビューはおおむね好評でした。特にクーラのカラフルで美しいセット、2つの物語を有機的に結び付けたコンセプトは、ドラマを深め、人間的な感情を掘り下げて大きな感動をよんだようです。





●コミュニティと家族の重要性のリアリティ

両方のオペラが非常に感動的だ。しかし今回のサンフランシスコオペラのダブルビルでは、カヴァレリア・ルスティカーナがより魅力的で説得力のあるオペラであることを感じた。
..
ホセ・クーラによって設計・演出され、ここではホセ・マリア・コンデミによって再演された上演では、カヴァレリア・ルスティカーナと道化師の両方が、ブエノスアイレスのイタリア移民地区に置かれる。アルゼンチン人であるクーラは、イタリア移民が定住したブエノスアイレスのラ・ボカ地区のローカル・カラーをよく知っている。

中央広場、居酒屋、色とりどりのアパート、教会がある、同じ舞台セットの中、両方のオペラを演出するにあたって、クーラは、地域のコミュニティと家族の重要性を強調する。

この点でそれは、ブエノスアイレスのイタリア人移民コミュニティと、これらのオペラが最初に設定された南イタリアのコミュニティの両方において真実だ。

(「berkeleydailyplanet.com」)





●人を飽きさせない独創的作品、並外れてドラマティック

ホセ・クーラの、人を飽きさせることのない独創的な作品は、ベルギーのワロン王立歌劇場のために制作された(2012年)。
よく知られているオペラの物語を別の時間と場所に移す非伝統的な作品は、元の作品に新しい洞察をもたらすことができることを、これまでも主張してきた。クーラのこの2作品のコンセプトは、並外れて、激しくドラマティックであり、そしてクーラの暖色系のセットは人の目を惹きつけるものだと感じた。

ロイヤルオペラのプロダクションのサンフランシスコオペラでの再演は、ホセ・マリア・コンデミ――クーラ同様にアルゼンチン生まれで- イタリアのルーツを持つ家族の出身――によって演出された。
オリジナルプロダクションのクーラのステージングの細部に忠実であるか、それとも新しい機能を追加するのかにかかわらず、コンデミの演出は、スタイリッシュでオペラの作曲家の意図に忠実であることが期待される。
特に「カヴァレリア」で注目に値するのは、マンマルチアの居酒屋に隣接するアパートや他の上層階のスペースを含む、村の空間を移動する村人としてのコーラスの効果的な使用だ。
(「operawarhorses.com」)


●物語の心に強く訴える再編成


ホセ・クーラは、マスカーニとレオンカヴァッロのオペラの舞台となるコミュニティを統合した。クーラの唯一の新しい村は、ブエノスアイレスのラ・ボカ地区のエネルギーを反映したものだ。

それによってクーラは豊かな環境を創り出した。アクションは映画的に動く。コーラスのすべてのメンバーは、コミュニティの中でユニークなストーリーと場所を持つ個人として行動する。再演の舞台でコンデミによって実現されたクーラのビジョンは、「カヴァレリア・ルスティカーナ」の物語の心に強く訴える再編成をもたらした。


●興味深い新鮮な工夫

サンフランシスコオペラの第96シーズンは、ホセ・クーラによってリエージュの王立歌劇場のために上演されたマスカーニとレオンカヴァッロによる2つのオペラの大胆なプロダクションによって金色の幕を上げた。

クーラによるカラフルな舞台、コスチューム、鮮やかな照明によって、定番オペラのカップリングに興味深い新鮮な工夫が施された。
それは時には混乱を招くように感じるが、背景の変更は、愛、裏切り、殺人の物語の間にテーマ別のつながりを提供した。
暑苦しいほどの情熱と危険な接触の雰囲気、住民がそれぞれの個人的なドラマをもち、熱心な祈りを求める声が頻繁に聞こえてくる中で、全員が演じているのは驚くべきことだった。

舞台の動きと官能的な振り付けは、戦争記念館の舞台を活気に満ちた引き潮とイタリアの雰囲気で満たしている。演奏は灼熱の感動的な体温にマッチした。






≪出演者のインタビューより≫

道化師のシルヴィオを演じた若い歌手が、インタビューでクーラのプロダクションについて語っている部分を抜粋して紹介します。
このプロダクションでは、2作品の舞台が連続してひとつの村での出来事として描かれます。道化師ではカニオの若い妻の愛人となる青年シルヴィオが、カヴァレリアでもマンマルチアのお店の店員として出演しています。クーラの演出は細部まで非常にきめ細かく、歌わない時、またコーラスもその1人ひとりが、それぞれの役柄と生活をずっと演じ続けています。非常にリアルでカラフル、そしてそうした描写を通して、登場人物の人生とドラマが浮き彫りにされています。この作品に出演したことは、若いこの歌手にとっても、非常に印象的な体験だったようです。


●キャラクターにより人間的側面をもたらしたプロダクション

シルヴィオを演じたデビッド・パーシャルにとって、ホセ・クーラのプロダクションでは、シルヴィオが「道化師」と「カヴァレリア・ルスティカーナ」両方に登場するために、彼の登場時間は拡大された

「演出のアイデアは、旅芸人一座が訪れた村は、カヴァレリア・ルスティカーナの舞台と同じ村だったというものだ。私は以前にオペラ全体に出演したことがあったので、それは物事を面白くした。楽しかったし、思ったよりもずっとステージタイムが長かった。」

パーシャルにとって、これは彼のキャラクターがより大きな発展を遂げ、より多くの行動をとることを可能にした。

「私はステージ上にいた時間がずっと長くなり、シルヴィオの物語は大きく変わった。カヴァレリア・ルスティカーナでは、私はマンマ・ルチアの居酒屋を手伝っている。そして彼女の息子トゥリッドウが殺害された後、私は彼女の息子になった。私はそれは、シルヴィオへの同情を築く良い方法だと思った。さもなければ、彼を正しく演じないと、彼はネッダとカニオの本当の関係を破壊する悪者として登場することになってしまう。
それは、ほとんどのプロダクションと比べても、キャラクターにより人間的な側面をもたらした。」
(「operawire.com」)






≪劇場が公表した舞台やリハーサルの動画≫


サンフランシスコオペラの動画サイトに掲載されている関連動画から、いくつか紹介します。


サンフランシスコオペラの予告動画①
クーラが両方を主演した2012年リエージュの舞台の抜粋です。




サンフランシスコオペラの予告動画②
リハーサル風景。動画の中では、非常に細かく書き込まれた演出ノートのようなものにもとづいてリハが進められている様子が写っています。クーラが参加していないこの再演の準備のために、コンデミ氏はクーラと打ち合わせと準備を積み重ねたということです。演出ノートも、こうした打ち合わせを経てクーラと共同作業で作られたものなのでしょうか。








サンフランシスコオペラの予告動画③
道化師のカニオ「衣装をつけろ」 マルコ・ベルティ




サンフランシスコオペラの予告動画④
カヴァレリア・ルスティカーナのサントゥッツァとトゥリッドゥの2重唱




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クーラ渾身のプロダクションが、初めて北米で上演されました。しかも、アメリカ西海岸の代表的なオペラハウス、歴史あるサンフランシスコオペラのシーズン開幕公演です。
2012年の初演では、クーラが両方の主演もおこない、2015年アルゼンチンのテアトロコロンでの再演では、クーラが演出、そしてカニオだけを歌いました。そして今回は、クーラのプロダクションだけが海を渡り、再演演出も、主演も、クーラ以外の人が担って成功しました。このことは、プロダクションが素晴らしく、高い評価を受けているからこそ、当初の制作者の手を離れて、プロダクション自体が独自に歩み出しているということなのかもしれません。

一方で、そうは思いつつ、クーラファンとしては、少し複雑な思いもありました。この演出、この主演は、クーラあってのもの、クーラにしかできないのではないか、クーラの情熱、演技力、歌唱あってのプロダクション、そういう思いがあったからです。

正直に言うと、サンフランシスコオペラの抜粋動画を見ただけの範囲の印象ではありますが、道化師カニオのベルティ、カヴァレリアのトゥリッドゥのアロニカは、それぞれ熱演でしたが、クーラとは歌唱のテイスト、演技力が違いすぎて、クーラがこのプロダクションに込めた情熱とドラマがどれだけサンフランシスコの観客に伝わったのだろうかという思いもありました。

でも、クーラが参加できない条件を知りつつ、あえてどうしても開幕公演にこのプロダクションをと考えたサンフランシスコの劇場関係者の情熱も、非常につよいものだったのでしょう。そしてそれが大きく成功したことは、本当に素晴らしいことでした。

以前投稿した、このプロダクションに込めたクーラの解釈を紹介した記事や、サンフランシスコ再演の(予告編)に、クーラが主演したリエージュの舞台の紹介動画もリンクしています。非常に美しい舞台、情熱的な歌唱、キャラクターの人間性、人生の切なさとドラマを掘り下げる演技・・動画は舞台のごく一部分なのが残念ですが、クーラのインタビューやリハ風景もあります。ぜひご覧ください。



初演時のリエージュでのクーラの舞台写真




*画像は、劇場のHPや関係者のSNSなどからお借りしました。
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2018 ホセ・クーラ演出・制作のカヴァレリア・ルスティカーナ&道化師 サンフランシスコで再演 / Jose Cura / Cav & Pag in San Francisco

2018-01-20 | サンフランシスコのカヴァレリアと道化師




昨年12月以来、コロン劇場のアンドレア・シェニエの感動に浸って(笑)録画・録音を繰り返し聞き直しているうちに、はや1月も後半に入ってしまいました。
ご挨拶が大変に遅れてしまいましたが、どうか今年もよろしくお願いいたします。


●クーラのプロダクションがサンフランシスコの開幕公演に

そうこうしているうちに、嬉しいニュースが入ってきました。クーラ制作のカヴァレリア・ルスティカーナ&道化師のプロダクションが、2018/19シーズンのサンフランシスコ・オペラで再演されるそうです。何とサンフランシスコの2018/19シーズン開幕公演です。
日程は、2018年9月7,12,16,19,22,28,30の7公演のようです。


以下の画像をクリックすると、サンフランシスコオペラのHPにリンクしています。




≪CAST AND CREATIVE≫
Conductor= Daniele Callegari *
Production= José Cura
Revival Director= Jose Maria Condemi
Chorus Director= Ian Robertson

Turiddu= Roberto Aronica
Santuzza= Ekaterina Semenchuk
Alfio= Dimitri Platanias *
Lola= Laura Krumm
Mamma Lucia= Jill Grove
Canio= Marco Berti
Nedda= Lianna Haroutounian
Tonio= Dimitri Platanias *
Silvio= David Pershall
Beppe= Amitai Pati




●クーラが舞台デザイン・演出・主演を行ったリエージュでの初演

このプロダクションは、もともと2012年にベルギーのリエージュにあるワロン王立歌劇場で、クーラの舞台デザイン・演出・主演(トゥリッドウとカニオ両方)によって初演され、観客からも批評家らも大好評だったものです。その後、2015年にクーラの故郷アルゼンチンのテアトロコロンで再演されました。その時には、クーラが演出、そしてカニオだけに出演したのでした。

このプロダクションの特徴と2015年のテアトロコロンでの再演の様子を、以前の記事で紹介しています。クーラの作品への思い、解釈、最愛のトゥリッドゥと呼んでいるカヴァレリアの主人公への思い入れをその一端だけでも知っていただけるかと思います。

カヴァレリア・ルスティカーナと道化師の演出


●サンフランシスコではクーラは演出も主演もしない・・😞

そして今回は、スタッフ・キャストの一覧を見ていただいてお分かりのように、クーラは、演出も出演もせず、クーラのプロダクションだけがサンフランシスコに渡ることになるようです。トゥリッドゥはロベルト・アロニカ、カニオはマルコ・ベルティ。

とても残念ですが、そのあたりの事情をクーラがFBで説明してくれました。




クーラはちょうどこの時期(2018年9月)に、エストニアのタリン国立歌劇場で、プッチーニの西部の娘の新制作を演出・セットデザイン、そして指揮するためでした。このFBで書いているように、クーラ自身、サンフランシスコでの再演は大変、喜ばしいことであるとともに、自分の「子ども」の晴れ舞台を見届けられないことは、残念を通り越して怒りを感じるほどだそうです。開幕公演という時期でのオファーのために、うまく調整できなかったのでしょうか。ファンとしては、クーラが演出して、せめてカニオだけでも歌ってほしかったというのが率直な感想です。

幸い、再演を同郷の演出家が担うということで、今後、緊密に連携しながら準備していくとのことです。
エストニアの西部の娘のプロダクションについては、以前の記事で紹介しています。クーラのインタビューや録音を紹介したラジオ番組のリンクなども紹介しています。

→「(告知編)2018年 ホセ・クーラ プッチーニの西部の娘を演出・指揮


●サンフランシスコオペラのHPより

こちらの画像は、サンフランシスコオペラのHPにアップされている2018/19シーズンパンフレットから、クーラのプロダクション紹介ページです。








●リエージュでの初演時の紹介動画

初演の際のワロン王立歌劇場がアップした紹介動画です。

Cavalleria Rusticana & Pagliacci (Pietro Mascagni) - Extraits


同様に劇場がアップした動画で、リハーサルの様子やクーラのインタビューが収録されています。
Cavalleria Rusticana & Pagliacci (Pietro Mascagni) - Répétitions



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このプロダクションは、舞台をイタリアのシチリア島から、クーラの故郷アルゼンチンのイタリア移民の街に移し、バンドネオンの音楽、タンゴなど、ブエノスアイレスの雰囲気たっぷりに設計されています。2作品が同じ街、時間的にもつながった事件として描かれていて、登場人物の人間像、行動の動機と因果関係、感情の掘り下げが深く、とにかくエモーショナルです。セットの細部や小物、登場する群衆の一人ひとりにまで目配りされ、映画のような美しい舞台となっていました。
私はリエージュでのクーラ主演の公演を、ARTEでオンデマンド放送されていた際に視聴することができました。DVDになるかと期待していたのですが、現在までリリースされていません。それは今回のように、他の劇場からプロダクション利用の要請があるからなのでしょうか?そのあたりの事情はまったく分かりません。








現在クーラは、2月のモンテカルロ歌劇場でのピーター・グライムズ再演(演出、舞台デザイン、主演、2017年ボンで初演)を控えています。
これはおまけの話ですが(笑)、先日、クーラがインスタグラムとFBにアップした、マドリードの自宅近くの森の写真に、私がちょっとしたコメントを書き込んだところ、たまたま目をとめたクーラが返信をくれました(#^^#) これまでも運が良いと返信してくれることがあり、ほんのささやかな対話ですが、クーラのファンを大切にする優しい人柄が感じられてとても嬉しかったです。





今年はこのプロダクションの他に、クーラは、先ほど紹介したタリンでの西部の娘と、プラハでのヴェルディのナブッコと、2つの新演出に取り組みます。
ますます演出家・舞台デザイナーとして、また作曲家、指揮者としての仕事が増え、多忙になっているように思われます。
健康を維持して、多面的で豊かな実りがもたらされることを祈るとともに、コロンのシェニエで見せてくれたように、歌手としても、まだまだ美しく魅力的な歌声を聞く機会が増えることも願わずにはいられません。



*画像は劇場HPからお借りしました。
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