人と、オペラと、芸術と ~ ホセ・クーラ情報を中心に by Ree2014

テノール・指揮者・作曲家・演出家として活動を広げるホセ・クーラの情報を収集中

(初演当日編)2022年 ホセ・クーラ作曲レクイエム ハンガリーで世界初演

2022-05-14 | クーラ作曲「レクイエム」

 

 

ホセ・クーラが作曲したレクイエム「REQUIEM ATERNAM」、ついに2022年5月9日、ハンガリー・ブダペストのMUPAで、世界初演を実現しました。

放送は告知通り、ハンガリーのバルトークラジオで生中継されました。しばらくの間は、オンデマンドで聞くことができるようです。

今回は、公演後のクーラのFB投稿やハンガリー放送芸術協会のFBに掲載された写真、オンデマンドのリンクなどを紹介したいと思います。

なお、クーラのこの作品に託した思いや経過などについては、前回の記事「ラジオ生中継告知編」にクーラの解説をFBから紹介しています。また「告知編」でも以前のインタビューなどから抜粋して掲載しています。

 

 


 

 

 

 

≪ バルトークラジオのオンデマンドへのリンク ≫

 

下の画像にリンクをはっています。いつまで聞けるのかは不明ですが、音質も良く、興味をお持ちの方はぜひお早めにどうぞ。約1時間半の公演です。

始まる直前のタイミングで携帯電話の着信音がなり、クーラが「チェックして」と呼びかけるやり取りがありました。最近では残念なことにおなじみの光景になっていますが、ユーモラスに観客の直接語り掛けるのがクーラらしいところです。

 

 

JOSÉ CURA: REQUIEM ATERNAM - CONNECT THE BÉLA BARTÓK NATIONAL CONCERT HALL
2022-05-09
Klára Kolonits (soprano), Dorottya Láng (alt), Dániel Pataky (tenor), Marcell Bakonyi (bass)
Hungarian Radio Singing and Orchestra (conductor: Pad Zoltán), Hungarian Radio Children's Choir (conductor: Dinyés Soma), National Choir (conductor: Csaba Somos)
Conductor: José Cura

 

 

≪ 初演当日の舞台写真ーーハンガリー放送芸術協会のFBより ≫

 

●初演の演奏を終え、観客の喝さいを受けるクーラ

 

 

●他にも多数の舞台写真が掲載 (右上のFの字をクリックすると沢山の写真が見られます)

 

 

●バックステージ写真も沢山

 

 

●終演後、児童合唱団の子どもたちに囲まれるクーラ

 

 

 

≪ 初演を終えての思いーークーラのFBより ≫

 

作曲から40年近くかかった念願の初演を成功させることができ、クーラの感慨もひとしおだったようです。終演後、FBに投稿したコメントを紹介します。

 

●初演実現へ感謝のコメント

 

ーー昨日のコンサートを実現させてくれたすべての人々に感謝する。愛とプロ意識に満ちた250人の魂で満たされた、このような素晴らしいステージを作るのは、今日、簡単ではない。構想から40年後、そして私の故郷でレクイエムを初演しようと何十年も試みた後、私はついにそれをハンガリーで初演することができた。私が生まれた土地ではないが、いつももうひとりの息子として受け入れてくれる!永遠の感謝の気持ちを込めて!

 

 

●名誉指揮者タマシュ・ヴァザーリとともに

 

ーー昨日のコンサート終了後に、ハンガリー放送芸術協会の名誉指揮者である伝説のピアニスト、タマシュ・ヴァザーリ氏とともに。私の「レクイエム ・エテルナム」の初演の後、そのような偉大な人物が心動かされ涙を流すのを見るのは、とても感動的で名誉なことだった。タマシュは私よりちょうど30歳年上だが、彼の恵まれた頭脳と素晴らしい人生経験は、私のような「若者」にとって光となるものだ。

 

 

●合唱団の子どもたちとともに

 

ーーレクイエム初演後の忘れられない瞬間は、児童合唱団の子どもたちみんなが私をハグしにきてくれた時だ。いま体験した素晴らしい人生経験に深く感動して。しかし、あまりの純粋さと希望に涙したのは、本当は私だった。 愛する子ども合唱団、あなたたちの信じられないほどの愛と献身に感謝!

 

 

●指揮を終え、舞台裏に戻るクーラを待っていたのは…

 

ーーミッション達成:レクイエムの後、舞台裏に歩いていく。15分間の拍手の前に力を集める。予期していなかったのは、舞台裏でもみんな涙を流していたことだった...。

 

 

 


 

 

感動と涙の世界初演だったようです。情熱的で涙もろいクーラ。初演成功による感動とともに、そのために力をつくしてくれた舞台上の総勢250人ものオケ、ソリスト、合唱団と、スタッフ、劇場、芸術協会関係者など、様々な人々への感謝の思いがこみ上げ、何度も涙を流していたようです。写真をみても、劇場全体、出演者全体が、心から称え合い、喜び合っている様子が伝わってきて、子どもたちの純粋に喜び合う姿とともに、本当に素晴らしい公演だったのだと思います。

とりわけロシアによるウクライナ侵略の悲惨さ、事態が深刻化し、世界中で戦争NOの声が広がっているこの時、そしてクーラの母国アルゼンチンとイギリスとのフォークランド戦争(マルビナス戦争)から40年という節目の年、若きクーラが体験した戦争の犠牲者を追悼するレクイエムの初演が実現したことは、幾重にも意味があることだと思います。

動画の放送がなかったのは残念ですが、バルトークラジオによる生中継で、私も日本でリアルタイムで聞くことができ、クーラ指揮のレクイエム初演に立ち会う(ネットを通じてですが)ことができたのは、本当に嬉しいことでした。

ぜひオンデマンドで聞いてみてください。クーラのレクイエム、多彩なテーマが組み込まれ、宗教曲ではあるけれど、児童合唱団の声をはじめとして何とも言えない美しさに満ち、人間的な感情がほとばしるかのように、深い悲しみと痛み、怒り、怖れ、安堵、希望、祈り、崇高さ…戦争と平和、人間の生と死、命への深い思いが表現されていたと思います。同時に、全体を通じて、不思議な温かさに貫かれ、人間愛溢れる平和な世界への希求を感じさせ、それがクーラらしいなと私は思いました。

この曲は、自らのアーティスト人生の集大成だと語ったクーラ。今年12月にはちょうど60歳の誕生日を迎えます。歌手から、指揮・作曲・演出などに軸足を移してきたクーラ。ますますオペラ出演は減り、歌の公演も少なくなっていて、音楽産業、マスコミ等への露出もほとんどなくなっています。しかし、着実に自らの本来の志望であった、作曲家・指揮者としての道をあゆみつつあります。スターダムや商業的成功、金銭的利益より、真のアーティストをめざし、自分の足で歩み続けることを選択したクーラ、この世界初演は、その一つの重要な結節点のひとつであり、大きな成果になったと確信します。

 

 

*コンサートマスターと抱き合うクーラ。画像は協会のFBからお借りしました。

 

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(ラジオ生中継告知編)2022年 ホセ・クーラ作曲レクイエム ハンガリーで世界初演

2022-05-08 | クーラ作曲「レクイエム」

 

 

ホセ・クーラが作曲した「レクイエム」の世界初演、ハンガリーのバルトークラジオで生中継されることになりました。

ハンガリー放送芸術協会のゲストアーティストを3年の任期で務めたクーラ。パンデミックの時期にあたりキャンセルになった公演もありましたが、クーラ作曲の初めてのオペラ『モンテズマと赤毛の司祭』世界初演を実現したのをはじめ、とても実りあるものとなりました。今回は、ゲストアーティストとしては最後の公演になるようです。今後も協力関係が続くことを願っています。

すでに「告知編」で、これまでのインタビューから、「レクイエム」作曲の背景やクーラの思いなどを紹介してきました。今回は、ラジオ生放送のリンクや、その後の情報などについて掲載したいと思います。

 

 


 

 

 

 

 

BARTÓK RADIO
Requiem ternam   Premiere of José Cura's work live from Müpa

 

Klára Kolonits (soprano)
Dorottya Láng (alt)
Dániel Pataky (tenor)
Marcell Bakonyi (bass)
Dinyés Soma
National Choir (conductor: Csaba Somos)
Conductor: José Cura

 

José Cura: Requiem Æternam

premiere on 9 May at 19:30 in the Béla Bartók National Concert Hall of MÜPA

live on Bartók Radio

 

 

 

 

ホセ・クーラ作曲・指揮「レクイエム・エテルナム」(世界初演)

2022年5月9日(月)19時30分~

(日本時間)5月10日(火) 深夜2時30分~

ブダペストMUPAより、バルトークラジオで生中継

 

*画像にバルトークラジオの生放送サイトをリンクしています

 

 

*番組表より

 

 

 

 


 

 

≪ レクイエム世界初演に向けてーークーラのFBより ≫

 

 

●私のレクイエム ”Requiem æternam”(ラテン語で”永遠の安息”の意)について

 

 

 

私が『Requiem Argentino (アルゼンチンのレクイエム)』を書き始めたのは1982年だった。フォークランド諸島をめぐるアルゼンチンとイギリスの戦争が始まったばかりのとき、私は19歳だった。私の世代(1962年生まれ)は兵役を終えたばかりで、まだ正式に除隊していなかったため、真っ先に戦地に送られた。そのため私も戦わなければならなかったが、運命によって派兵を免れた。

80年代、アルゼンチンでは、兵役義務(後に廃止)に就く高校生を、政府が毎年くじ引きで全国から選んでいた。くじが引かれ、ラジオで生放送され、その年、IDカードの番号が100未満の私たちは、兵役を免除されることが発表された。私の番号は093だったか、097だったか(42年経ち、少し記憶があいまいになっている)。運命か、偶然かが......何と呼んでもいいが、私が兵役に呼ばれることを防いだ。私の世代の非常に多くの若者たちが悲しくも得られなかった幸運によって。

1982年4月、私は音楽院のカフェテリアのテーブルに座り、歴史上最も不必要な戦争の1つの始まりに関するニュース報道を見ていた(本当に不必要な戦争はこれまでにたくさんある)。私の親しい友人の何人かが「準備」状態に招集され、大西洋の戦場に送られるのを、不幸な徴兵の第一波のすぐ後で待機していることを知った... 。幸いなことに紛争が短期間で終わり、私の友人たちは島へ飛ぶ前にとどまった。しかし、私と同じくらいの年齢の多くの若者が、その約8週間の悲惨な期間に死んでいった。両方の側で。

このことは特定の場所、時代だけのことではなく、私には誰かを指さす権限もない。しかし、それまで平和に共存していた2つの国の間に起こった、このような無意味な戦争がもたらす恐怖と深い悲しみを、当時の私が感じたことは事実だった。

そしてその年、私は「Fac eas, Domine, de morte transire ad vitam」(主よ、死から生へと受け継ぐことをお許しください)という言葉にとりつかれ、レクイエムの「Offertorium」(奉献唱)が生まれた。この「アカペラ」の部分は、当初は1つの合唱団のために書いたが、その後、「アルゼンチンのレクイエム」の残りの部分は3つの合唱団(子どもの合唱団を含む)によるものへと大幅に発展し、2番目の合唱をより大規模な「パレストリーナ」(16世紀イタリアの作曲家)スタイルで書きあげた。

残りの部分は1984年から1985年にかけて書いたが、キリエについてはあまり満足していなかったため、最終的に2016年に現在の最終的な作品に差し替えた。その時点では、『アルゼンチンのレクイエム』は「Agnus Dei」(アニュス・デイ)の後、合唱が再開する「Señor, pon tus ojos en tus hijos y dales tu Santa Bendición(主よ、あなたの目をあなたの子どもたちに向け、彼らにあなたの聖なる祝福を)」で終了していた。しかし、2020年のパンデミックによって世界が一時停止され、この大きな休止は、私にレクイエムのフルスコアを刻む機会を与えた。元のAマイナーの追悼のトーンでなく、より前向きな方法で作品を締めくくるために、最後に「Lux æterna」を追加する必要性を感じた。

実現の見通しのないまま、私は90年代から「アルゼンチンのレクイエム」を初演しようと試みてきた。アルゼンチンとイギリスの合唱団が平和的で象徴的なコラボレーションのために集まることを願って、その実現につながる可能性のあるあらゆる扉を叩いてきたが、残念ながら実現しなかった。だから私は、「アルゼンチンのレクイエム」を「レクイエム・エテルナム Requiem æternam(æternamはラテン語で永遠の命の意味)」という新しい名前で初演することが、最終的にこの作品を生かす、より非政治的な方法になることを理解した。

しかし、レクイエムが初演される頃に、世界がまたしても別の無意味な戦争に巻き込まれていることを私は予期していなかった…。

ホセ・クーラ
マドリード、2022年4月26日

 

 

●クーラの「レクイエム」スコアーーウィーンのドブリンガー社発行

 

 

”私の「レクイエム・エテルナム」世界初演は、中央ヨーロッパ時間2022年5月9日(月)にハンガリーのラジオで放送される”

 

 

 

≪ ハンガリー放送芸術協会のFBより ≫

 

●リハーサル中の様子

 

 

 

 

 

●ブダペストに到着し、インタビューのためTV局へ






 


 

 

80年代から作曲し推敲を重ねてきたクーラの「レクイエム」、ついに初演の日を迎えます。

今回ご紹介したFBでのコメントに見るように、母国アルゼンチンの青年期、軍事独裁政権が起こした無謀で無意味な戦争に直面し、戦争の「恐怖と深い悲しみ」を痛感したクーラ。自身は派兵を免れたものの、戦争が長引けばいつ出兵となるか、その不安は本当に大きなものだったと思います。この戦争での両国の犠牲者は900人にものぼったようです。

戦争終結後も、経済的混乱は続き、音楽で生活していくことはできず、渡欧を決意して今日に至る歩みは、これまで何回かこのブログでも紹介してきたとおりです。戦争は本当に多くの犠牲をもたらし、人々の運命を狂わせました。また当時の軍事独裁政権は、自由な発言を圧殺し、暗黒の政治を行っていました。このことは独裁・専制政治と戦争が一体のものとなることを示していると思います。当時のアルゼンチンについては多くの映画や書籍、証言が残され、今も事実が発掘されているようですが、私が鑑賞した映画「ローマ方法になる日まで」でも描かれていました。

(ブログ記事「ホセ・クーラと母国アルゼンチン――映画『ローマ法王になる日まで』を見て」

今年はフォークランド戦争(マルビナス戦争)からちょうど40年です。1982年4月~6月にかけてのことでした。直後に作曲され、長い間、初演の日を待ち続けていた作品が念願の初演を迎えますが、クーラがFBで触れていたように、まさかロシアによるウクライナ侵略戦争の最中になるとは。本当に、クーラの言う「意味のない戦争」は、ウクライナだけでなく、今も世界からなくなっていません。

クーラが作曲に込めた平和への願い、追悼の思いと世界の未来への希求、世界へのラジオ放送で伝わることを願っています。

 

 

 

 

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