人と、オペラと、芸術と ~ ホセ・クーラ情報を中心に by Ree2014

テノール・指揮者・作曲家・演出家として活動を広げるホセ・クーラの情報を収集中

2016年ホセ・クーラ インタビュー (2) キャリアについて、ネット、クラシック音楽の未来、若い世代に / Jose Cura interview in Gyor

2016-06-30 | 芸術・人生・社会について①


2016年4月に、ハンガリーのジュールでヴェルディのオテロを指揮した際の、記者会見、インタビューからの抜粋、つづきです。 → インタビューの前半

 *クーラが指揮したオテロのコンサートそのものについては、すでに2回の投稿で紹介しています。
  2016 オテロを指揮 ジュールフィル (本番編)   (告知編)
 
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●キャリアとエージェント、劇場について
Q、かつてあなたを拒否した人たちから招待を受けることも?

人は、憤りを抱えて生きることもあるが、それは愚かだ。人生は、それだけで十分複雑であり、ポイントは、いかに人生をステップアップしていくかだ。

若い時、多分、私はまだ十分に良くなかったのだ。かつて自分の可能性を拒否され、私は幻滅を味わった。 指揮者、エージェント、芸術監督には巨大な責任がある。今だけでなく、可能性を判断しなければならない。

確かにロビーやマフィアがいるが、それはまた別の話。意味なく熟練した歌手を排除する興行主があるとは思わない。キャリアの始めは、誰をも脅かすような存在ではないので、ロビーもその歌手をつぶそうとはしない。

かつて私を受け入れなかった事実にもかかわらず、現在、非常に良好な関係をもっているエージェントがある。30年前には想像もできなかった。今ではジョークのようだが、どれほどの機会を逃したことか。

毎日100通の招待状を受け取り、次のパヴァロッティやカラスの誕生だ、といわれる時、それに対処するのは困難だ。しかしこれへの非常に正直な答えは、「申しわけないが、私はあなたを信じることはできない」だ。ただいえるのは、10年たった後から新たな関係がつくられるということだ。スポーツのように人を見下すことは、極めてまずいこと。遅かれ早かれ、あなたは仕返しを受けるだろう。

何年も前、私は小さな劇場のオーディションに行った。しかし彼らは、私が水準に達していないといった。2、3年後に私はなりたかった自分になった。するとその劇場が接触してきた。私は、名前を覚えてくれていたことに感謝を述べたが、しかしその時はもう十分ではなかった。すでに大劇場があるのだと断った。それは非常に丁寧な会話だった。復讐に駆り立てられたのではない。

小劇場はリスクをとり、新人に機会を与えるべきだ。コベントガーデンであるかのように自らをみなすのでなく、若者に投資すべきだ。さもないと、全体が困難になる。これは非常にトリッキーなビジネスだ



●携帯電話、テクノロジーと実生活
Q、あなたは携帯電話が鳴るとショーを止める。テクノロジーには我慢できない?

いやいや、私はそれを憎んでいるわけではない。愛している。

しかしもし、あなたが誰かと恋に落ちた時、2人のベッドの中で、携帯電話にメッセージを書いたり、Facebookに投稿するなら、あなたは深刻な問題を抱えているといえるだろう。

私たちは、感情を共有し、舞台、アーティストと、愛し合うためにコンサートに行く。いまいましい携帯電話を切り、バッグに入れて!重要なメッセージが届くとしても、あなたが終わるまで待ってくれるだろう。

パン焼きを学んだ。熱中している。オーブンの中で膨らんでいくのは、感動的でショッキングだった。急いで何でも電子レンジに投げ込むことはできる。しかしパンを焼くための2時間を惜しまないことが必要だ。電子レンジと本当の料理の間に、バランスをうまく見いだせれば、それは幸せだ。しかし人生においても、電子レンジに頼るだけの人たちについては、私は非常に気の毒に思う。

インターネットはクレイジーだ。それは、アレクサンドリア図書館そのものだ。私も、もちろん利用する。パンを焼くにも何百万ものレシピを借りてきて、バーチャルコミュニティで共有することができる。それでも、何かをシェアするためには、自分で本当にパンを焼く必要がある。我慢できないのは、ネットで検索、クリックするだけで、他人の人生に毒を吐きかけることだ。

私の子どもたちは、私のキャリアについて、家族の生活を稼ぐ方法として見ているが、自分たちの人生の道としては興味をもっていない。私の息子のガールフレンドの両親は、私が誰なのか知らなかった。彼らは1回も、グーグルで私の名前を検索していない。素晴らしい。私たちは、座って、お互いに、最大限、自然に語り合う。
家族は家族、ビジネスは別のことだ。



●仕事以外の時間と音楽
Q、仕事以外に、一番時間をついやすことは?音楽以外?

生活の中で、音楽ではないものがあるだろうか。スポーツ、ガーデニング、読書...良い例は、スポーツだ。リズムによって動いている。

私はスポーツやガーデニングをするが、ガーデニングでトマトの苗を植える時、ピットの中にいるようにリズムをとり、スポーツをする時も、私の足と手で、自分のリズムを整える。だから人生自体が音楽。無音も音楽、すべてのものが声をもち、すべての音が互いに調和して響きあう。

この声を壊すと、この調和が分解され、人間はバランスを破壊する。そして、これが問題を追加する。私たちは、お互いを理解せず、同じことを話さない。内面の精神的な言語を聞くことができないばかりか、互いの相違を理由に、お互いを殺害する。

●若い世代に
Q、いま、25歳のホセ・クーラに何と言う?

私の人生は恵まれていた。私はこう言うだろう。“あなたのやり方で、すべてのことをやりなさい”と。

私はいつも理想主義者だった。これまで多くの経験をし、信じがたいような事も少なくなかった。しかし一方で、今日、シリアの若者のおかれた状況は、私たちが想像することさえできないということも知っている。

だから全体的には、私たちは恵まれた立場にある。ヨーロッパの若者は、おそらく一般的には、本当の闘争の感覚を失っている。インド、アフリカ、南アメリカなどを見て歩くならば、ヨーロッパはまだディズニーランドだ。



多くの人々が私に尋ねる。どうして今、素晴らしい歌手が、世界の特定の地域からヨーロッパに来るのかと。
答えは簡単だ。南米に住む人びとにとって、毎日の生存のための糧を得ることが、彼の成功に依存するからだ。

私たちは、言葉の良い意味での、健全な「生活のための怒り」を失っている。だが、それをやらなければならない。我々は、この強力なエンジンを取り戻す方法を見つける必要がある。新しい世代がより「ソフト」になる前に。

オスカー・ワイルドは、「自分自身であれ」と言う。しかし今の子どもたちは、互いによく似ている。彼らは皆、同じ香水を使い、同じ匂い、似た服、同じ音楽を聴き、同じ物を食べる。頭ひとつ抜けだす者は、傲慢のラベルが貼られる。

若者がリードする必要がある。そして彼らの手に未来はある。
なぜなら世界の混乱の責任は、我々の世代、その親の世代にあるからだ。世界を腐敗させた国のトップを退陣させなければならない。彼らは全員50代、60代だ。

混乱を作りだした者に、それを修正することはできない。古いでたらめの左右の全体主義、ファシストらは消えるべきだ。ゼロからスタートする必要がある。
それから、我々は、新しい地球を手に入れることができるだろう。

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さまざまなテーマで語っているクーラですが、「コンサートでは携帯電話を切って欲しい」というのは、実際にステージで困ることが多いのでしょう。「愛し合う場では携帯を切って」と、冗談めかしてはいますが、切実な問題なのだと思います。
パン作りの話を引いて、リアルな体験、人と人、人と物との直接のふれあいを大切にしたいというのは、クーラのアーティストとしての信念を感じます。
また、最後の若い世代へのメッセージは、とても熱い内容になっています。社会に対して、平和や社会正義に対して、つねに積極的に発言してきたクーラです。つよい言葉で、新しい社会への探求、若者に未来を託す思いを語っていて、心に響きます。

→ インタビューの前半




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