ホセ・クーラは現在、エストニア国立歌劇場で間もなく初日(2018年9月21日)を迎えるプッチーニのオペラ、西部の娘の準備中です。
この新プロダクションでは、クーラは、舞台デザインと演出、そして指揮(初日と23日のみ)を行います。
これまでに、(告知編)、(インタビュー編)も掲載していますので、そちらもご覧いただければうれしいです。
今回の記事では、SNSや劇場HPなどに掲載されているリハーサルの様子を中心に紹介したいと思います。
ホセ・クーラのフェイスブックに掲載された告知画像
●セットをつくる
演出をひき受ける時には、必ず舞台デザインも一体のものとして担当するクーラ。
今回もクーラが手がけた西部の娘の舞台には、どうやら巨大な岩山が登場するようです。
次の2つは、クーラがFBとインスタグラムに投稿した動画です。
クリックすると見ることができます。
「多くの人は、舞台の裏側がどれほどのハードワークか、あまり想像したり考えたことはないだろう。私たちはいつも、それがもともとそこにあったかのように、物事を当たり前のように考えるが・・。
1つの山全体をペイントするのは毎日の仕事ではないけれど、これらの素晴らしいアーティストたちが、魔法をかける・・。
このあとのことは、9月21、23日、見に来て!」
とクーラのコメントです。
また2番目の動画には、「おはよう!名前は?素晴らしい仕事をありがとう!」と作業中のスタッフに話しかけるクーラの声も入っています。
劇場を愛し、スタッフをリスペクトして、みんなで心ひとつに舞台をつくるチームワークを大切にするクーラです。
●演技と歌唱ーー出演者とのリハーサル
出演者とのリハーサル風景の写真が、エストニア国立歌劇場のHPにたくさん掲載されました。
いくつかお借りして紹介しましたが、劇場HPには20枚以上の写真が掲載されていますのでぜひご覧ください。
→ 劇場HP
こちらは、楽譜にもとづいて、ピアノに合わせて音楽の流れをつくっているところでしょうか。
立ち稽古というのでしょうか。リハ室で実際に演技をしてみせるクーラ。いつも自分で動いてみないではいられないようで(笑)。
クーラが主演かと思うような画像が多数です。
――劇場HPの解説より
8月中旬以降、演出家、舞台デザイナー、照明アーティスト、指揮者のホセ・クーラは、国立歌劇場に完全に彼自身を捧げている。
一緒に、彼らは、プッチーニの音楽の深みに潜入し、キャラクターの内面を見直し、各シーンのあらゆる詳細を引っ張り出す。
この舞台は、19世紀半ばのワイルドな西部のゴールドラッシュの時代であるという事実にもかかわらず、プッチーニのオペラは非常に現代的だ。
ホセ・クーラーー「みすぼらしく、邪悪で、攻撃的、しかし愛すべき鉱夫たちは、本当にノスタルジアでいっぱいになっている。
これは、移民のノスタルジアであり、彼らとその隣人たちは、それぞれの人間としての″精神的人格”に従って反応する。
つき動かしているもの。それはその人にとってのノスタルジア。必死に頑張って生き抜いてきた人々、まだ彼らの夢を背後に残しているが、しかしメランコリックな思いを抱えている。
プッチーニは、この息苦しいような寂しさと望郷の思い、孤独感、それらを酒と女性、またはカードゲームで紛らわしていることリアルに理解している。」
・・・
●拳銃の試し撃ちも大事な仕事(?!)
舞台を成功させるためには、大小ふくめ本当にいろんな仕事がある、と思わされるのが、次の動画です。
西部の娘は、アメリカ西部のゴールドラッシュの時代を背景にしています。そのため、拳銃の出番があるのですが、その試し撃ちをする様子を、クーラがインスタに投稿しました。
実はこれには、その前からのエピソードがあります。昨年12月にテアトロコロンでアンドレア・シェニエのリハーサル中、演技の中で、はじめて拳銃を撃った(もちろん音だけ)ところ、その音の巨大さ、衝撃で、舞台上の出演者、クーラ含め、みんなが飛び上がって驚き、心臓を抑えた、ということがあったのでした。今回の試し打ちは、出演者を心臓発作から守るためにも、不可欠だった(笑)というわけです。
●指揮者としてオーケストラとのリハーサル
そして指揮者でもあるクーラには、きわめて重要な、オーケストラとのリハーサルの仕事もあります。
下の写真は、劇場のインスタに掲載されたもの。
いつもハードワーカーのクーラですが、それにしても舞台デザインと演出、指揮者も兼ねるということは、クーラには全く休む間がないということのように思えます。
この後は、舞台上での動き・演技の確認、オケと出演者と合わせるリハーサル、そしてドレスリハーサルと続きます。出演者、スタッフ、劇場のあらゆる部門の進行状況をチェックしながら、初日に向けて最高のものをつくるために、今日も奮闘中のことと思います。
――西部の娘の音楽への思い
「私は1992年に初めて、西部の娘のジョンソン(実は強盗ラミレス)を歌った。以来、この素晴らしいオペラを愛し続けてきた。
人は、このオペラが、プッチーニの最高の脚本ではない、または、円熟した音楽の傑作ではない、と主張するかもしれない。しかし西部の娘は、ハーモニーとメロディの革命によって当時の音楽界に衝撃を与え、その後の作曲家に巨大な影響を与え、多くの模倣者さえもたらした。
こうした恥知らずの模倣は、時には現代においても続く。それでも(これが傑作ではないという)この意見が、真実といえるだろうか。
私はいつも、この素晴らしい作品の中の、感情的で心理的な深みのある多くの瞬間を表出させたいと夢見てきた。
エストニア国立歌劇場が私にチャンスを与えてくれた。美しい真のコラボレーションを楽しみにしている。これが今後の多くの共同の土台となることを願う。 ホセ・クーラ」
(エストニア国立歌劇場HPより)
●PR動画のための小旅行
リハーサル期間のある1日には、宣伝用の動画の撮影のためにロケもしたようです。
採石場の跡地をアメリカ西部の岩山に見立て、出演者たちはみんな衣装を着けてポーズをとりました。ちょっとした小旅行みたいで楽しそうですね。
この場所は、エストニアのルンム採石場跡地。ここは旧ソ連時代の刑務所跡地なのだそうです。ソ連に併合され、支配されてきたエストニアの悲劇的歴史の遺跡のひとつです。
また一方では、現在は、レジャーを楽しむ場になっているとのこと。長年放置されているうちに、地下水が溜まって建物が水没し、美しい澄んだ湖面の下に不思議な光景が広がっているとか。
クーラがキャストに演技をつけ、いろんなポーズで宣伝用の写真や動画を撮影したようです。アメリカ西部にも似た岩山を背景にして、出演者たちと、キャラクターたちの思いを深める機会になったのかもしれません。
これも劇場のHPに掲載された写真。衣装を着けた出演者たちに囲まれて、撮影した画像を確認しているのでしょうか。
クーラのインスタに掲載された写真。なぜかクーラがカメラマンも?
たぶん本職のカメラマンが同行しているのだと思いますが、写真が趣味のクーラとしても、当然"マイカメラ”持参で参加したのでしょう。
そしてこちらが、撮影旅行の成果のひとつ、劇場の「西部の娘」の紹介ページのトップ写真です。
エストニア国立歌劇場のHPより
さらに動画もアップされました!クーラのFBにリンクしています。
この演奏は、クーラの指揮なのでしょうか?
舞台デザイン、演出、指揮、そして全体の統括・・クーラの多面的な能力をいかんなく発揮して、全面的に取り組んでいるエストニアの新プロダクション、西部の娘。長年歌い続けてきたこの作品への思いと、深めてきた解釈、経験と蓄積がすべてつぎ込まれることでしょう。本当に楽しみです。
もう少しエストニアが近ければ・・。飛んでいけないのがあまりに残念です。録音だけでも放送してほしいと切に願います。
舞台が成功し、クーラ渾身のこのプロダクションが、エストニアの人々に長く愛されることを願っています。