以前の投稿で、ホセ・クーラが、チリのノーベル賞詩人パブロ・ネルーダの詩に作曲した、音楽ドラマ「もし私が死んだら」を紹介しました。
そのうちの2曲を、昨年11月、ドイツとルクセンブルクのコンサートで、クーラが歌い、ラジオ放送されたことも、すでに紹介した通りです。
●「2015年 ピエタリ・インキネンとホセ・クーラ プラハ響とクーラ作曲作品を初演」
●「2016年 ホセ・クーラ ドイツとルクセンブルクでラテンアメリカの曲コンサート」
実は私は、このドイツのコンサートの録音を、この間、何度も繰り返して聞いて、聞くたびに、表現や声のニュアンスに新しい発見をして、楽しんでいます。
もともと作曲家・指揮者志望で、作曲と指揮を大学でも専攻したクーラ。このネルーダの詩に作曲するについては、次のように語っていました。
(再掲 2016年インタビューより)
「この"Si muero, sobrevíveme!"(「もし私が死んだら」)は、何年も前に私が作曲したもので、詩人の妻、マティルデ・ネルーダとパブロとの間の、詩の形による、25分間の対話だ。」
「ハイ・バリトンのために書いた。なぜなら、私は、バリトンの声は、室内楽にとって最も美しいものと考えているからだ。女性にとってのメゾ・ソプラノのように。ミドルゾーンは、声がより甘く、より柔らかく流れる場所。これは私自身のボーカルを反映している。高い音を歌うことができる暗い声だ。
普通の歌のように歌うことはできない。聞くだけでは学ぶことができないという意味で、それらは知的で、音楽をよく読み、深く理解することが必要であり、実際には、ピアノと歌による長いデュエットだ。」
「ネルーダの詩は感覚を目覚めさせ、昔ながらの方法で演劇的。それぞれの言葉には演劇とドラマが満載されている。選択肢は、言葉にそってメロディーを書いたり、音楽を書くこと、しかしそれは、ネルーダの魅惑的な世界を開く感覚的な豊かさをともなうことが必要だ。」
「音楽の複雑さはテキストの複雑さに関係しているので、純粋なメロディーを聴く必要はない。メロディーそれ自体を提示することから離れて、詩に集中しなければならない。」
「私の曲で、私の心と魂にふれてほしい。ネルーダのドラマの中で、親密な愛の物語を描きたかった。
この作品は音楽だけでなくドラマ。パブロと妻との会話。人間が書くことができる最もロマンチックで官能的な言葉。」
“メロディを追うのではなく、詩に集中してほしい”というのが、作曲家としてのクーラの願いです。
しかし私には、スペイン語はまったく理解ができないために、せっかくのクーラの思いを受け止めることができずにいました。
それで今回は、再度、クーラの「もし私が死んだら」からの2曲の音源リンクを紹介するとともに、スペイン語の歌詞と、恥ずかしながら自作のその簡易的な日本語訳を掲載したいと思います。
やはり詩は比喩などが難解で難しく、日本語の訳は、訳詞とはとてもいえないレベルのもので、とりあえず単語を訳して並べた程度です。誤訳も多々あると思います。さらに意味が通らない部分もありますが、やむをえない事情によるものとご容赦ください。
ぜひ、つぎに紹介する音源、クーラの表現するネルーダの愛の世界を味わいながら、スペイン語、そしてその意味(まことに不十分で申しわけありませんが)を参照にしていただければと思います。
本当は正しい訳詞があれば良いのですが・・。もしスペイン語に堪能の方で、訳の誤り、改善案をご教示いただければ、本当にありがたいです。
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→ ホセ・クーラ作曲 「もし私が死んだら」から2曲
*2曲あわせて6分ちょっと。音源がファンページのブラボ・クーラにアップされいますので、そのページに飛びます。
歌詞を見ながら聞いていだたくためには、右クリックで〈新しいタブで開く〉にしていただいたほうがよいと思います。
≪ 1曲目 ≫
DE NOCHE, AMADA 79番目のソネット
PABLO NERUDA(パブロ・ネルーダ)
De noche, amada, amarra tu corazón al mío
夜には、私の愛、あなたの心と私に結んで
y que ellos en el sueño derroten las tinieblas
そして夢の中で、暗闇を破るために
como un doble tambor combatiendo en el bosque
森の中でふたつの太鼓がたたかうように
contra el espeso muro de las hojas mojadas.
濡れた落ち葉の厚い壁に抗して。
Nocturna travesía, brasa negra del sueño
夜の交差点、黒炭のような夢
interceptando el hilo de las uvas terrestres
地上の葡萄との糸を断ち切りながら
con la puntualidad de un tren descabellado
風変りな列車の時間厳守さとともに
que sombra y piedras frías sin cesar arrastrara.
それは影と冷たい石を引きずりながら。
Por eso, amor, amárrame el movimiento puro,
だから、愛する人よ、私を純粋な動きに結びつけて
a la tenacidad que en tu pecho golpea
あなたの胸を打つ強さに
con las alas de un cisne sumergido,
水のなかの白鳥の翼とともに
para que a las preguntas estrelladas del cielo
天の星たちの質問に
responda nuestro sueño con una sola llave,
ひとつだけの鍵がある私たちの夢をこたえるために
con una sola puerta cerrada por la sombra.
影によって閉ざされたたったひとつのドアの。
≪ 2曲目 ≫
PENSÉ MORIR 90番目のソネット
PABLO NERUDA(パブロ・ネルーダ)
Pensé morir, sentí de cerca el frío,
私は死ぬのかと思い、体に冷たさを感じ
y de cuanto viví sólo a ti te dejaba:
私が生きた後、そこに残すすべてである、あなたを思う
tu boca eran mi día y mi noche terrestres
あなたの口は、私の大地の昼と夜
y tu piel la república fundada por mis besos.
そしてあなたの肌は、私のキスで築かれた共和国。
En ese instante se terminaron los libros,
その瞬間、本も
la amistad, los tesoros sin tregua acumulados,
友情、これまでに蓄えられた宝もの
la casa transparente que tú y yo construimos:
あなたと私が建てた透明な家も、終わる――
todo dejó de ser, menos tus ojos.
すべてがなくなる、あなたのふたつの瞳の他には。
Porque el amor, mientras la vida nos acosa,
人生がわたしたちを苦しめるとき、愛だけが
es simplemente una ola alta sobre las olas,
押し寄せる波よりも、高く波打つ
pero ay cuando la muerte viene a tocar a la puerta
しかしもし、ああ、死が近づいてきてドアをノックするなら
hay sólo tu mirada para tanto vacío,
あなたのまなざしだけが、その空虚に対し残り
sólo tu claridad para no seguir siendo,
あなたの輝きだけが、失われず
sólo tu amor para cerrar la sombra.
あなたの愛だけが、暗闇を閉じる。
終