Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

Minoru Honda, Die Beiträge zur Geschichte des japanischen Strafrechts

2020-09-26 | 旅行
 Die Beiträge zur Geschichte des japanischen Strafrechts(『日本刑法史研究』)の出版に寄せて 本田 稔
 この度、ドイツ・ハーゲン通信大学現代法史研究所叢書第1部(総論研究)第25巻として『日本刑法史研究』を出版することができました(Minoru Honda, Die Beiträge zur Geschichte des japanischen Strafrechts, Juristische Zeitgeschichte Hrsg. von Prof. Dr. Dr. Dr. h.c. Thomas Vormbaum (FernUniversität in Hagen, Insititut für Juristische Zeitgeschichte, Abteilung 1: Allgemeine Reihe, Hrsg. von Prof. Dr. Dr. Dr. h.c. Thomas Vormbaum, Band 25, Redaktion: Simone Walkowiak, 2020)。
本書は、戦前の日本刑法理論史に関する私の研究をまとめたものです。それをドイツ語によって公表できたことを非常に嬉しく思います。ドイツの刑法研究者が本書を読み、多くの批判と疑問が出されることを心から期待しています。
 本書に収められた論文は、元々は日本語で書いたものです。私がそれをドイツ語で書き直した原稿をドイツ語に翻訳したのは、ソフィア・ミュラーさんです。ミュラーさんは、フランクフルト大学で日本学を専攻する研究者で、日本留学の経験もあり、非常に日本語が堪能な方です。私が2012年度にフランクフルト大学で在外研究をしているとに、日本学研究所のスタッフの方からタンデムパートナーとして紹介していただき、ドイツ語会話の学習の機会をいただきました。このフランクフルトの日本学研究者の協力がなければ、私の刑法史研究がドイツで公表されることはなかったでしょう。ソフィア・ミュラーさんに深く感謝します。
 戦前の日本刑法史を研究する方法には、様々なものがあります。その方法の指針を探し続けてきました。私が強く惹かれたのは、ヴォルフガング・ナウケ教授のナチ刑法研究とトーマス・フォルンバウム教授のドイツ近代刑法史研究でした。ナウケ教授のナチ刑法研究の方法は、「連続性のテーゼ」ともいえるものです。ナチがドイツを支配した12年間の刑事立法・判例・学説を「法治国家刑法理論からの逸脱・倒錯現象」として通史から切り離して捉えるのではなく、「近代刑法・刑事政策の適用事例」として通史に一コマとして位置づけ、先行するワイマール期や後続の占領期、西ドイツ成立後の刑事立法や刑法学説との相互関連性を検証する点に特長があります。フォルンバウム教授のドイツ近代刑法史研究は、19世紀以降の刑事立法、刑法判例、刑法学説を、国内外の政治的・経済的な諸要因によって受けたインパクトとともに叙述する点において非常に興味があります。その集大成である『ドイツ近代刑法史入門』は名著であり、また『ドイツ近代刑法思想家』は、様々な時代に活躍した刑法家の思考を集約した素晴らしい資料集です。
 私は彼らの研究に学びながら、日本刑法史研究の固有の方法を模索してきました。そして、自分で考えた結果をまとめたものが本書です。19世紀後半から20世紀初頭にかけてドイツの刑法学界は、自然主義・実証主義の時代から、新カント主義を経て、新ヘーゲル主義へと方法論的軸足を移しながら、敗戦を迎えます。カール・ビンディングの法実証主義刑法学、フランツ・フォン・リストの刑事政策的刑法学、マックス・エルンスト・マイヤーやエドムント・メツガーの構成要件論を基礎に据えた犯罪論、ハンス・ヴェルツェルの刑法イデオロギー批判などには各々の時代の思想的特徴が反映しています。私はそれらの特徴を個別的に研究すると同時に、相互に関連づけながら内的連関を明らかにする必要があると考えています。そのような理論的な変遷過程を同時代の日本において辿ったのが小野清一郎でした。彼は1920年代の初頭にM・E・マイヤーに師事して新カント主義の法学方法論と構成要件論を学び、客観主義的な犯罪論を体系化しましたが、1930年代の半ばに新ヘーゲル主義に影響を受け、ヴェルツェルの教授資格請求論文を紹介した論文の結語の中で新カント主義の立場に立ってきたことを自己批判し、それを契機に日本法理運動へと転進しました。私は、日本法理運動には新カント主義と新ヘーゲル主義、そして皇国史観の3つの源泉があると考えていますが、それを本書で指摘できたことは大きな成果でした。そのような研究に対する責任は全て私にあります。しかし、それでも私は2人の教授に対して感謝せずにはいられません。
 本書を出版するにあたり、ハーゲン通信大学現代法史研究者から多大な援助を受けることができました。フォルンバウム教授は現在でも同研究所の所長を務めておられます。2019年2月にミュンスターにある教授の自宅を訪問し、市街を散策し、休憩のために入った美術館のカフェで、私が出版の相談を申し出たところ、それを快く受け入れていただきました。本書が、ハーゲン通信大学現代法史研究所の叢書の一部として公表されたことは、私の最大の名誉です。あらためてナウケ教授とフォルンバウム教授に感謝を申し上げます。