Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅱ(各論)(第14回③ 2016年01月07日)

2016-01-04 | 日記
 刑法Ⅱ(各論) 第14週 練習問題
(1)基本問題
1犯人蔵匿罪・証拠隠滅罪・証人等威迫罪
・犯人蔵匿罪(103)とは、「罰金刑以上の刑に当たる罪」(拘留・科料の罪を除く)を「犯した者」(真犯人だけでなく被疑者も含む)または拘禁中に逃走した者(逃走罪と加重逃走罪の行為者)に対して隠れるための場所を提供し、官憲の発見・逮捕を免れさせる行為をいう。

 犯人隠避罪とは、その者に対して逃避行為を行なうことを容易にするための行為をいう。

 証拠隠滅罪(104)とは、「他人の刑事事件に関する証拠」を「隠滅」し、「偽造」し、もくは「変造」する行為であり、また偽造・変造された証拠を行使する行為をいう。

 共犯者の1人が他の共犯者の証拠を隠滅した場合、その証拠は自分の刑事事件の証拠でもあるが、それを自己の利益のために行なう意思がなかった場合には、本罪が成立する。

 犯人が他人を教唆して、自己の刑事事件の証拠を隠滅させた場合、その他人には証拠隠滅罪の正犯が成立し、犯人にはその教唆犯が成立する(防禦権の濫用)。

 親族が犯人蔵匿・隠避、証拠隠滅を行なった場合、その刑が免除される可能性がある(105)。犯罪の構成要件該当性と違法性が認めれるが、それ以外の適法行為を行なうことを期待することが難しいので、責任が阻却される場合があるからである。それは親族に限られ、懇意にしている友人には適用されない。

・証人等威迫罪(105の2)とは、自己もしくは他人の刑事事件の捜査・審判に必要な知識を有すると認められる者またはその親族に対して、その事件に関して、正当な理由がないのに面会を強請(ごうせい)し、強談威迫の行為を行なうことをいう。

・いずれも捜査や審判などを妨害し、司法の作用が適正に執行されるのを危険にさらす行為である(危険犯)。

2偽証罪・虚偽告訴罪
・偽証罪(169)とは、法律に基づいて宣誓した証人が、虚偽の陳述をする行為である。偽証により裁判の判断が誤り、司法作用の適正を害するおそれがある。

 虚偽の陳述とは、証人がその記憶に反する陳述を行なうことをいうのか(主観説)、それとも客観的な事実に合致しない陳述を行なうことをいうのか(客観説)。判例は主観説の立場に立つ。客観的には真実に合致する陳述を行なっていても、記憶に反している認識がある場合には偽証罪にあたる。また、客観的に真実に反する陳述を行なっても、記憶に合致している認識による以上、偽証罪にあたらない。

 客観説の場合、客観的事実に合致していれば、記憶に反する陳述であっても客偽にあたらない。また、客観的事実に反する陳述であっても、記憶通りに陳述している認識があれば、その故意が否定される。

 偽証を行なった者が、裁判の確定または懲戒処分の執行の前に自首した場合、その刑が減軽または免除される場合がある(170)。刑の任意的減免によって司法作用や懲戒処分の適正の侵害を回避すためである。

 虚偽鑑定等罪(171)とは、法律により宣誓した鑑定人、通訳人または翻訳人が、虚偽の鑑定、通訳、翻訳をした行為である。偽証罪と同じく扱われる。

・虚偽告訴罪(172)とは、人に刑事または懲戒の処分を受けさせる目的から、虚偽の告訴、告発その他の申告をする行為である。

 虚偽告訴等を行なった者が、裁判の確定または懲戒処分の執行の前に自首した場合、その刑が減軽または免除される場合がある。刑の任意的減免による司法作用や懲戒処分の適正の侵害回避が目的である(173)。

3職権濫用罪
・公務員職権濫用罪(193)
 公務員が、その職権を濫用して、人に義務のない行為を行なわせ、または権利の行使を妨害する行為である。

・特別公務員職権濫用罪(194)
 裁判、検察もしくは警察の職務を行なう者またはそれらの職務を補助する者が、その職権を濫用して、人を逮捕し、または監禁する行為である。

・特別公務員暴行・陵辱・加虐罪(195)
 裁判、検察もしくは警察の職務を行なう者またはそれらの職務を補助する者が、その職務を行なうにあたり、被告人、被疑者その他の者に対して、暴行、陵辱もしくは加虐の行為を行なうことである。

・194条・195条の致死傷罪(196)
 194条・195条の罪を行ない、よって人を死傷させる行為である。結果的加重犯である。

4汚職の罪
・単純収賄罪・受託収賄罪・事前収賄罪(197)
 単純収賄罪とは、公務員が、その職務に関し、賄賂を収受・要求・約束する行為である。職務関連性については、公務員に職務の一般的・抽象的な権限があれば足り、当該公務員がその職務を担当していることまで要しない。賄賂とは、有形・無形を問わず、人の需要・欲望を満たす一切の利益をいう。

 公務員が「請託」、すなわち職務に関し一定の行為を行なうよう依頼を受けた場合には、受託収賄罪が成立し、加重処罰される。

 事前収賄罪とは、公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受・要求・約束する行為を行ない、その後、公務員になった場合に成立する。この「公務員になった場合」を客観的処罰条件という。

・第三者供賄罪(197の2)
 請託を受けた公務員が、贈賄側に第三者に賄賂を供与させ、それを要求し、または約束させる行為である。その第三者が事情を知っていた場合、その幇助が成立する。

 請託を受けなかった公務員が、贈賄側に賄賂を第三者に供与させるなどした場合、第三者供賄罪は成立しない。また自ら収受していないので、単純託収賄罪も成立しない。ただし、第三者が事情を知らなかった場合には、公務員には単純収賄罪の間接正犯が成立する。事情を知っていた場合、公務員には単純収賄罪の正犯が、第三者にはその幇助が成立すると解される。

・加重収賄罪・事後収賄罪(197の3)
 197条、197条の2の罪を行なった公務員が、不正な行為をし、または相当の行為をしなかった場合に加重処罰される(1項)。

 公務員が、その職務上不正な行為をし、または相当の行為をしなかったことに関して、賄賂を収受・要求・約束し、または賄賂を第三者に供与させ、その要求・約束をした場合も1項と同様とする(2項)。

 公務員が在職中に請託を受けて職務上不正な行為をし、または相当の行為をしなかったことに関して、退職後に賄賂を収受・要求・約束する行為である(3項)

・あっせん収賄罪(197の4)
 ある公務員が請託を受け、他の公務員に職務上不正な行為をさせるよう、または相当の行為をさせないように「あっせんすること」または「あっせんしたこと」の報酬として賄賂を収受し、またはその要求・約束をする行為である。

・没収・追徴(197の5)
 収賄罪の犯人または情を知った第三者が収受した賄賂は、没収する。それができないときは、その価額を追徴する。

・贈賄罪(198)
 197条から197条の4までに規定する賄賂を供与し、または申込み・約束する行為である。

・対向犯
 賄賂の供与(贈賄)と収受(収賄)、賄賂の供与の約束と収受の約束は、客観的に対向関係にある。ただし、賄賂の供与の申込みとその収受の要求は対向関係にはない。賄賂の供与を申し込んでも、断られることがあり、また賄賂の収受を要求しても、断られることがあるからである。


(2)判例問題(☞事実関係、→裁判所の判断、○解説)
103賄賂罪の客体(最決昭和63・7・18刑集42巻6号861頁)
☞Xは、旧大蔵省証券局証券監査官として有価証券届出書および有価証券報告書の審査等を担当していた。A社は、自社の株式を東京証券取引所に上場させようとして、新規発行株式940万株の公募増資を行なうことにつき、それを担当していたXに対して、A社財務部長代理Yが審査に対する謝礼の趣旨で前記新株のうち1万株を親分け株として発行価格で提供する旨申し出をし、XはYの申し出を承諾して、前記1万株を引き受け、Yにその代金を支払った。

→本件は、A社、B社その他の株式会社の株式が東京証券取引所等において新規に上場されるに先立ち、あらかじめその株式が公開された際、贈賄側の者が公開に係る株式を交換価格で提供する旨の申し出をし、収賄側の者がこれを了承してその代金を払い込むなどしたという事案であるが、右株式は、間近に予定されている上場時にはその価格が確実に公開価格を上回ると見込まれていたものであり、これを公開価格で取得することは、これらの株式会社ないし当該上場事務に関与する証券会社との特別な関係にない一般人にとって、極めて困難であったというのである。以上の事実関係のもとにおいては、右株式を公開価格で取得できる利益は、それ自体が贈賄収賄の客体になるものというべきであるから、これを同趣旨に出た原判断は、正当である。

○新規株を購入すること自体、一般の投資家には困難なことであるので、それを得たことは一般には得られない利益を得たも同然であるといえる。たとえ公開価格での購入であっても、その後、確実に公開価格を上回ると予想されていたのだから、上回る分に相当する利益を得たといえる。

104社交儀礼と賄賂罪(最決昭和50・4・24判時774号119頁、判タ321号66頁)
☞被告人は、(国立)和歌山大学教育学部付属中学教諭であったが、生徒の父母9名から前後12回にわたり、贈答用小切手12通額面合計12万円を受け取った。

→生徒Aの母Bは、かねてから子女の教員に対しては季節の贈答や学年初めの挨拶を慣行としていたものであって、これらの贈答に関しては、儀礼的挨拶の限度を超えて、教育指導につき他の生徒に対するより以上の格段の配慮、便益を期待する意図があったとの疑惑を抱かせる特段の事情も認められないわけではないのであるから、本件小切手の供与についても、被告人が新しく学級担任の地位についたことから父兄からの慣行的社交儀礼として行なわれたものではないかとも考えられる余地が十分存するので…、学級担任の教諭として行うべき教育指導の職務行為そのものに関する対価的給付であると断ずるには、…合理的な疑いが残る。

○職務に関して利益を得た場合に収賄罪が成立する実質的な理由は、利益の供与を受けることによって、公務員の職務の純粋性や普遍不党性に不信や疑念が抱かれるからである。逆にいえば、そのような不信・疑念が生じなければ、職務に関連して利益を受けても、収賄罪にはあたらない。

105「職務に関し」の意義(1)(最決平成17・3・11刑集59巻2号1頁)
☞被告人Xは、警視庁警部補として、調布警察署地域課において交番勤務し、犯罪の捜査等の職務に従事していたとき、同庁多摩中央警察署刑事課が捜査中の事件に関し、告発状を提出していたYから、①告発状の検討、助言、②捜査情報の提供、③捜査関係者への働きかけなどの有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨で供与されたものであることを認識しながら、3回にわたり、現金の供与を受けた。

→警察官法64条等の関係法令によれば、同庁警察官の犯罪捜査に関する職務権限は、同庁の管轄区域である東京都の全域に及ぶと解されることなどに照らすと、被告人が、調布警察署管内の交番に勤務しており、多摩中央警察署刑事課の担当する上記事件の捜査に関与していなかったとしても、被告人の上記行為は、その職務に関し賄賂を収受したものであるというべきである。したがって、被告人につき刑法197条1項前段の収賄罪の成立を認めた原判決は、正当である。

○職務は、当該公務員が直接担当または執行する職務だけでなく、当該公務員が所属する機関・組織に権限がある職務全般を含む。従って、ある警察官が、その配属以外の警察署の職務に関連して利益を受けたとしても、その公務員が警視庁所属の警察官である以上、その職務もまた当該公務員の職務と見なされるので、職務関連性は否定されない。

106「職務に関し」の意義(2)(最決昭和59・5・30刑集38巻7号2682頁)
☞国立医科歯科大学教授Xは、大学設置審議会委員であったが、ある歯科大学設置準備委員会の実行委員のYから、この歯科大学の設置認可申請の調査審議に関して、便宜な取扱を受けたい旨で、あるいはその取扱を受けたことの謝礼として供与されたものであることの情を知りながら、そのころ自己が立候補していた日本学術会議会員選挙の陣中見舞名下に、現金合計150万円の供与を受けた。Xは、大学設置の審査基準等に照らし設立大学の教員組織の適否を判断し、書類の記載方法などの指導をし、歯学専門委員会の審査の結果を正式通知前に知らせた。

→Xは、……歯科大学設置の認可申請をしていた関係者らに対して、各教員予定社の適否を右専門委員会における審査基準に従ってあらかじめ判定してやり、あるいは同専門委員会の中間的審査結果を其の正式通知前に知らせてやったというのであって、Xの右各行為は、右審議会の委員であり且つ右専門委員会の委員である者としての職務に密接な関係のある行為というべきであるから、これを収賄罪にいわゆる職務行為にあたるとした原判断は、正当である。

○現金150万円は、設置認可申請の調査審議の便宜な取り扱いに対する対価であったのか、それとも学術会議選挙の陣中見舞いなのか。便宜な取り扱いを受けたい旨またはそれを受けたことの謝礼であると認定している。それは、事前に結果を知らせるなどした間接事実から推認されているのではないかと思われる。

107「職務に関し」の意義(3)(最大判平成7・2・22刑集49巻2号1頁)
☞昭和47年8月、米ロッキード社の日本における販売代理店である丸紅の社長Xら被告人が、ロッキード社製の航空機(L1011型機)の全日空への売り込みに際し、当時の内閣総理大臣Yに対して、全日空にL1011型機の購入を勧奨する行政指導をするよう運輸大臣に指揮するよう依頼し(Aルート)、そしてY自らが直接全日空に同趣旨の働きかけをするよう依頼して(Bルート)を依頼して、請託して、その成功報酬として現金5億円の供与を約束し、その後、全日空がL1011型機の購入を決定したことから、5億円の授受が行われた。

→(Bルートに関する判断は示されていない)本件で問題となった行為が、内閣総理大臣の職務権限に属するというためには、(1)運輸大臣が全日空にL1011型機の選定購入を勧奨する行為が運輸大臣の職務権限に属し、かつ、(2)内閣総理大臣が運輸大臣に対し右勧奨をするよう働き掛けることが内閣総理大臣の職務権限に属することが必要である。……運輸大臣が全日空に対しL1011型機の選定購入を勧奨する行為は、(航空法により)運輸大臣の職務権限に属する行為であり、内閣総理大臣が運輸大臣に対し右勧奨行為をするよう働き掛ける行為は、(憲法上)内閣総理大臣の運輸大臣に対する指示という職務権限に属する行為であるということができる。

○運輸大臣(国土交通大臣)の職務は航空法などの法律で定められている。その職務の具体的な内容や遂行については、閣議で審議され、決定される。総理大臣は、その審議を司り、運輸大臣に対して指示を出す。運輸大臣は、その指示なしに行政指導・勧奨することはできない。従って、被告人は、総理大臣の職務権限に属する行為に関連して、5億円供与したといえる。

108再選後の職務と賄賂罪の成否(最決昭和61・6・27刑集40巻4号369頁)
☞被告人は、M市が発注する各種工事に関し、入札参加者の指名および入札の執行を官吏する職務権限をもつ同市市長と共謀を遂げ、近く施行される同市長選挙に立候補を決意を固めていた同市長において、再選された場合に具体的にその職務を執行することが予定されていた市庁舎の建設工事等につき、電気・管工事業者Aから入札参加者の氏名、入札の執行等に便宜有利な取計いをされたい旨の請託を受けたうえ、その報酬として、現金3000万円の供与を受けた。

→市長が、任期満了の前に、現に市長としての一般的職務権限に属する事項に関し、再選された場合に担当すべき具体的職務権限の執行につき請託を受けて賄賂を収受したときは、受託収賄罪が成立すると解すべきである。

○受託収賄罪(197①)は現職の公務員が行なう犯罪であり、事前収賄罪は公務員となろうとする者が行ない、後に公務員になったという条件(客観的処罰条件)のもとで処罰される犯罪である(197②)。本件では、現に市長としての一般的職務権限に属する事項に関連して、請託を受けて賄賂を収受したと認定し、前者の受託収賄罪の成立が認められている。想像であるが、後者の事前収賄罪を問題にすると、かりに再選出馬して落選した場合、不成立となり、立候補を取りやめれば、そもそも罪には問われなくなるのを防ぐためでないかと思われる。

109抽象的職務権限の変更と賄賂罪の成否(最決昭和58・3・25刑集37巻2号170頁)
☞兵庫県職員Aは、昭和50年3月末まで同県建築部建築振興課宅建業係長であったが、同年4月から建築部総務課課長補佐に任命されると同時い、同県住宅供給公社に出向となり、同後者開発部兼開発課長についた。被告人は、兵庫県知事から宅地建物取引業の免許を受けて会社を営む代表取締役であるとともに、社団法人兵庫県宅地建物取引業協会の常務理事兼総務委員長であり、同協会の生田支部長であったが、昭和50年7月頃、かつてAから同協会の指導育成ならびに同協会生田支部所属の宅地建物取引業者に対する指導監督などに便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼の趣旨で、Aに対して、現金50万円を供与した。

→贈賄罪は、公務員に対し、その職務に関し賄賂を供与することによって成立するものであり、公務員が一般的職務権限を異にする他の職務に転じた後に前の職務に関して賄賂を供与した場合であっても、右供与の当時受供与者が公務員である以上、贈賄罪が成立するものと解すべきである。

○105の事案は、警視庁に所属する警察官が配属外の部署の職務に関連して賄賂を収受した場合でも、警視庁の職務関連性を認めた。この判断が、一般的職務権限の異なる職務であっても、被告人の職務との関連性を認めたのかどうかは明らかではないが、本件では、それを正面から認めている。ただし、それは兵庫県という自治体の範囲に限界づけられていることは明らかであろう。

110あっせん収賄罪の成否(最決平成15・1・14刑集57巻1号1頁)
☞→A建設株式会社の代表取締役副社長の職にあった被告人Xは、公正取引委員会が、埼玉県内の公共事業を受注するA社等の建設会社が同県内に設けている支店等の営業責任者らにより組織されていた「B会」の会員による私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反の事実があるとして調査を続けていたことに関し、公取委がA社等を同法違反で告発することを回避しようと企て、平成4年1月、議員会館において、元建設省事務官であり与党の「独禁法に関する特別調査会」会長代理を務める衆議院議員の被告人Yに対し、公取委が告発しないよう公取委委員長Cに働きかけてもらいたい旨のあっせん方を請託し、これを承諾したYに対し、その報酬として現金1000万円を供与した。Yは、Xから、前記あっせん方の請託を受けてこれを承諾し、同現金の供与を受けた。その後、YがCに対し告発の見送りを強く申し入れたが、Cはこれを拒絶した。同年5月、公取委は、証拠不十分のため不告発とし、B会会員に対し、独禁法3条違反を理由として、排除勧告をおこなった。

→独禁法73条1項は、公取委は、同法違反があると思料するときは検事総長に告発しなければならないと定め、同法96条1項は、同法89条から91条までの罪は、同委員会の告発を待って、これを論ずると定めているところ、公務員が、請託を受けて、公取委がどう法違反の疑いをもって調査中の審査事件について、同委員会の委員長に対し、これを告発しないよう働き掛けることは、同委員会の裁量判断に不当な影響を及ぼし、適正に抗しされるべき同委員会の告発及び調査に関する権限の行使をゆがめようとするものであるから、平成7年法律第91号による改正前の刑法197条ノ4にいう「職務上相当ノ行為ヲ為サザラシム可ク」あっせんすることに当たると解すべきである。

○衆議院議員が請託を受けて公取委の告発を見送るよう申し入れたことは、「他の公務員に相当の行為をさせないようあっせんした」ことに該当する。

111公務員職権濫用罪の成否(最決平成元・3・14刑集43巻3号283頁)
☞神奈川県警本部警備部公安第1課所属の警察官HとKは、日本共産党の情報を得るために、同党中央委員会国際部長A方の電話を盗聴した。その行為が公務員職権濫用罪にあたるとして起訴されたが、検察官は不起訴処分にした。Aは東京地裁に不審判請求した。

→刑法193条の公務員職権濫用罪における「職権」とは、公務員の一般的職務権限のすべてをいうのではなく、そのうち、職権行使の相手方に対し法律上、事実上の負担ないし不利益を諸ず得占めるに足りる特別の職務権限をいい、同罪が成立するには、公務員の不法な行為が右の性質をもと職務権限を濫用して行われたことを要するというべきである。……これを保険についてみると、被疑者らは盗聴行為の全般を通じて終始何人に対しても警察官による行為ではないことを装う行動をとっていたというのであるから、そこに、警察官に認められている職権の濫用があったとみることはできない。従って、本件行為が公務員職権濫用罪に当たらないとした原判断は、正当である。

○警察官が盗聴を行なうのであるから、「警察官による行為ではないことを装う行為をとっていた」は、ある意味では当然のことである。それを理由に「職務権限」による行為であることを否定し、その濫用もありえないと判断する論理は納得できない。

120「犯人」の意義(最判昭和24・8・9刑集3巻9号1440頁)
☞被告人Aは、恐喝事件の被疑者として逮捕状を発せられていたBを、逃走中であることを認識した上で自己の家に一定期間宿泊させてこれを蔵匿した。

→刑法103条は司法に関する国権の作用を妨害する者を処罰しようとするのであるから、「罪ヲ犯シタル者」は犯罪の嫌疑によって捜査中の者を含むと解釈しなくては、立法の目的を達しえない。

○被疑者が「真犯人」であるかどうかは司法判断を経て決まる。そのためには、被疑者を捉え、被告人として裁判にかける必要がある。従って、裁判を行なうためには、被疑者を蔵匿する行為を規制しなければならない。従って、「罪を犯した者」には真犯人はもちろん、被疑者も含まれる。

121捜査段階における参考人の隠匿と証拠隠滅罪の成立(最決昭和36・8・17刑集15巻7号1293頁)
☞AらによるVに対する殺人未遂事件について捜査が行われていたが、Aの配下であるBにも、共謀にもとづく被疑者として逮捕状が発布されていた。被告人は、Bから依頼され、約5日間情を知人宅にBを宿泊させた。被告人は、Bは上記殺人未遂事件の犯人の1人ではないが、同事件につき重要な知識を有しているため捜査機関から追及されているという認識を持っていた。

→なお、刑法104条の証憑湮滅(しょうひょういんめつ)罪は犯罪者に対する司法権の発動を阻害する行為を禁止しようとする法意に出ているものであるから、捜査段階における参考人に過ぎない者も右法条にいわゆる他人の刑事被告事件に関する証憑たるに妨げなく、これを隠匿すれば証憑湮滅罪が成立するものと解すべきであり、且つまた原判決の是認した第1審判決の確定した事実関係の下では被告人について犯人隠匿罪の成立する余地がないものとした原裁判所の判断は当審もこれっを正当として是認する。

○証拠(証憑)には、殺人未遂に使用されたナイフだけでなく、その目撃者や関係者なども含まれる。

122参考人の虚偽供述と証拠偽造罪(千葉地判平成7・6・2判時1535号144頁、判タ949号244頁)
☞被告人は、①法定の除外事由がないのに覚せい剤を使用し、②覚せい剤取締法違反で勾留中の被疑者Aに有利な処分を得させるため、甲地方検査庁検察官室において、担当検察官に対し、真実は、Aに覚せい剤を譲り渡したことがないのに、「東京新宿の乙という建物の前道路でAという男にカプセルに入れた覚せい剤1個をただでくれてやりました。Aはかぜをひいたと言うので、私がかなりききますよ、と言って風邪薬のような意味で渡したのです」などと虚偽の事実を供述して、内容虚偽の検察官調書を作成させ、もって他人の刑事被告事件に関する証拠を偽造した、として起訴された。

→参考人が捜査官に対して虚偽の供述をすることは、それが犯人隠匿罪に当たり得ることは別として、証拠偽造罪には当たらない。……参考人が捜査官に対して虚偽の供述をしたにとどまらず、その虚偽供述が録取されて供述調書が作成されるに至った場合、……形式的には、捜査官を利用して同人をして供述調書という証憑を偽造させたものと解することができる。……しかし、この供述調書は、参考人の捜査官に対する供述を録取したにすぎないものであるから、参考人が捜査官に対して虚偽の供述をすることそれ自体は、証憑偽造罪に当たらないと同様に、供述調書が作成されるに至った場合であっても、やはり、それが証憑偽造罪を構成することはあり得ない。

○被疑者Aが覚せい剤の使用で勾留されているときに、参考人である被告人が、Aはそれが風邪薬である認識していたと、捜査官に虚偽の供述を行なえば、Aは嫌疑不十分で不起訴にされる可能性が高まる。それは犯人の隠避にあたる可能性がある。その虚偽の供述が書面に記載され、供述書としてまとめられれば、それはAに有利な証拠となる。そうすると、被告人は捜査官に虚偽の供述をすることによって、それを信じた警察官をしてニセの証拠を作ったともいえるが、それは供述を録取したものに過ぎない。犯人隠避とは別に証拠偽造が成立しない。

123偽証の意義(大判大正3・4・29刑録20輯654頁)
☞被告人Xは、Aほか数名連署の借用証書の金20円という記載を30円と改ざんし、実際に貸した金額は20円であったにもかかわらず、30円の返済を受けたとして、文書偽造、同行使および詐欺で起訴された。その刑事裁判の第1審で、Xは、C・Dを通じてBを教唆し、借用証書を作成した当時、授受した金額が30円であることは記憶しているが、他にE名義の10円の借用証書をXに渡したかどうかは記憶していないと証言させた。原審では、文書偽造、同行使および詐欺の公訴事実については証拠不十分で無罪としたが、偽証教唆の公訴事実については有罪とした。これに対し、弁護人は、両公訴事実は互いに密接な関係を有しており、前者の公訴事実が認められないならば、後者の偽証教唆も当然否定されるべきであると主張した。

→証言の内容である事実が、真実に一致する場合、もしくは少なくともその証言が虚偽であると認められない場合であっても、いやしくも証人がその記憶に反して陳述をするというのは、偽証罪を構成することはもちろんである。偽証罪は、証言が真実に一致しないことを要件とするものではないからである。

○偽証とは、記憶に反した証言を故意に行なうことである(主観説)。たとえ真実に合致していても、記憶に反した故意の証言は偽証として処罰される。これに対して、記憶に反した証言を故意に行なっても、それが真実に合致していれば偽証にあたらないと解する立場もある(客観説)。従って、記憶通りに証言したが、それが真実に合致していない場合、客観的には偽証であるが、故意が否定され、無罪となる。

124共犯者による犯人蔵匿罪の成否(旭川地判昭和57・9・29刑月14巻9号713頁)
☞Xら7名は共謀してAを拉致し、Yが運転する自動車のトランクに監禁して同乗した。その後、被告人は、Zから報告を受け、Aを監禁し続けることを共謀し、Aを監禁し、窒息死させた。被告人は、Zと共謀し、Zを警察署に自首させ、Zが単独でAを殺害した旨の虚偽の事実を述べさせた。それによって、Xら7名およびYの発見、逮捕を免れさせるために旭川市内および北見市内に潜伏させ、Yを除く7名を高跳びさせて川崎市内に潜伏させ、犯人を隠避させるとともに、蔵匿した。

→刑法103条、104条の保護法益をみるに、これは、抽象的には、いずれも国家の刑事司法作用であるが、同法104条の証憑湮滅罪は他人の刑事被告事件に関する証憑の完全な利用を妨げる罪であるのに対し、同法103条の犯人蔵匿、隠避罪は犯人を庇護して当該犯人に対する刑事事件の捜査、審判及び刑の執行を直接阻害する罪であって、このような保護法益の具体的な態様の相違に着目すると、本件のように、共犯者に対する犯人蔵匿、隠避が、行為者である被告人自身の刑事被告事件に関する証憑湮滅としての側面をも併用しているからといって、そのことからただちにこれを不可罰とすることはできないものと解すべきである。けだし、かように被告人自身の刑事被告事件の証拠方法となるのみならず、終局的には共犯者である犯人自身の刑事被告事件における刑執行の客体ともなる者自体を蔵匿し、隠避せしめて、当該犯人に対する捜査、審判及び刑の執行を直接阻害する行為は、もはや防禦として放任される範囲を逸脱するものというべきであって、自己の刑事被告事件の証憑湮滅としての側面をも併用することが、一般的に期待可能性を失わせる事由とはなりえない。

○証拠隠滅罪は他人の刑事事件の証拠を隠滅し、その利用を妨げる行為であり、犯人隠避罪・蔵匿罪が犯人を隠避させ、それをかくまい、捜査、審判および刑の執行を阻害する行為である。行為態様と保護法益は異なる。ある犯人が自己の刑事事件に関する証拠にあたる場合、その犯人を隠避させる行為は一方で犯罪にあたるが、他方で自己の刑事事件の証拠を隠滅でもあり犯罪ではないので、犯人隠避としても処罰されないのではないかという意見があるが、保護法益が異なるので、証拠隠滅にあたらなくても、犯人隠避にはあたると解される。

125身代わり犯人と犯人隠避罪の成否(最決平元・5・11刑集43巻5号405頁)
☞被告人は、Aが殺人未遂の被偽事実により逮捕されたことを知り、Aをして殺人未遂罪での訴追および処罰を免れさせる目的で、BにAの身代わり犯人になるよう教唆して、Bに殺人未遂事件の犯人である旨の虚偽の事実を申し立てさせた。ただし、Aの身柄拘束状態には変化は及ばなかった。

→刑法103条は、捜査、審判および刑の執行等広義における刑事司法の作用を妨害する者を処罰しようとする旨の規定であって、同条にいう「罪ヲ犯シタル者」には、犯人として逮捕勾留されている者も含まれ、かかる者をして現になされている身柄の拘束を免れさせるような性質の行為も同条にいう「隠避」に当たると解すべきである。そうすると、犯人が殺人未遂事件で逮捕勾留された後、被告人が他の者を教唆して右事件の身代わり犯人として警察署に出頭させ、自己が犯人である旨の虚偽の陳述をさせた行為を犯人隠避教唆罪に当たるとした原判断は、正当である。

○犯人を逃げさせ、刑事司法の作用(捜査、審判、刑の執行)を妨害する行為が犯人隠避罪である。殺人未遂の嫌疑で逮捕・勾留されている者を釈放させれば、捜査、審判および刑の執行が妨害されるので、犯人隠避にあたる。では、勾留中の真犯人の身代わりとして出頭したが、真犯人の勾留は解かれなかった場合でも隠避にあたるか。本決定は、そのような場合(は、隠避の未遂で不可罰であると思うが)、隠避にあたると判断した。

126犯人の死亡と犯人隠避罪の成否(札幌高判平成17・8・18高刑集58巻3号40頁)
☞被告人は、飲酒帰りのA、B、C、Xから自動車運転を頼まれ、4名を乗せて出発したが、その途中、被告人と運転を交替したXがハンドル操作を誤るなどして車ごと川に転落した。被告人、A、Bは自力で脱出したが、C、Xは死亡した。その後、被告人は警察官に対し、自動車を運転したのは自分であると虚偽の事実を述べた。

→同条の犯罪が成立するかどうかは、同条にいう「罪を犯した者」に死者が含むかどうかによることとなる。ところで、同条は、捜査、審判及び刑の執行等広義における刑事司法の作用を妨害する者を処罰しようとする趣旨の規定である。そして、捜査機関に対して自ら犯人である旨虚偽の事実を申告した場合には、それが犯人の発見を妨げる行為として捜査という刑事司法作用を妨害し、同条にいう「隠避」にあたることは明らかであり、そうとすれば、犯人が死者であってもこの点に変わりはないと解される。

○真犯人を特定することは、刑事司法の重要な課題である。真犯人が死亡したからといって、それを明らかにすることも刑事司法の課題である。真犯人の代わりに虚偽の事実を申告する行為は、犯人を隠避させ、真相の解明を妨げる行為である。


(3)事例問題
 判例の事案を参照のこと。