Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

基礎演習Ⅰ(02)

2020-05-19 | 日記
 基礎演習Ⅰ(第20クラス)                    2020年05月20日

 最高裁HPは、砂川事件大法廷判決(昭和34年12月16日)の要旨を次のようにまとめている。

1 刑訴法第35条但書の特別の事情がなくなつたものと認められた事例
刑訴規則第254条の跳躍上告事件において、審判を迅速に終結せしめる必要上、被告人の選任すべき弁護人の数を制限したところ、その後公判期日および答弁書の提出期日がきまり、かつ弁護人が公判期日に弁論をする弁護人の数を自主的に〇人以内に制限する旨申出たため、審理を迅速に終結せしめる見込がついたときは、刑訴第35条但書の特別の事情はなくなつたものと認めることができる。

2 憲法第9条の立法趣旨
 憲法第9条は、わが国が敗戦の結果、ポツダム宣言を受諾したことに伴い、日本国民が過去におけるわが国の誤つて犯すに至つた軍国主義的行動を反省し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し、深く恒久の平和を念願して制定したものであつて、前文および第98条第2項の国際協調の精神と相まつて、わが憲法の特色である平和主義を具体化したものである。

3 憲法第9条第2項の戦力不保持の規定の立法趣旨
 憲法第9条第2項が戦力の不保持を規定したのは、わが国がいわゆる戦力を保持し、自らその主体となつて、これに指揮権、管理権を行使することにより、同条第1項において永久に放棄することを定めたいわゆる侵略戦争を引き起すことのないようにするためである。

4 憲法第9条はわが国の自衛権を否定するか
憲法第9条はわが国が主権国として有する固有の自衛権を何ら否定してはいない。

5 憲法はわが国が自国の平和と安全を維持しその存立を全うするための自衛の措置をとることを禁止するか
わが国が、自国の平和と安全とを維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置を執り得ることは、国家固有の権能の行使であつて、憲法は何らこれを禁止するものではない。

6 憲法は右自衛のための措置を国際連合の機関である安全保障理事会等の執る軍事措置等に限定し、他国にわが国の安全保障を求めることを禁止するか
 憲法は、右自衛のための措置を、国際連合の機関である安全保障理事会等の執る軍事措置等に限定していないのであつて、わが国の平和と安全を維持するためにふさわしい方式または手段である限り、国際情勢の実情に則し適当と認められる以上、他国に安全保障を求めることを何ら禁ずるものではない。

7 わが国に駐留する外国軍隊は憲法第9条第2項の「戦力」にあたるるか
 わが国が主体となつて指揮権、管理権を行使し得ない外国軍隊はたとえそれがわが国に駐留するとしても憲法第9条第2項の「戦力」には該当しない。

8 日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約(以下安保条約と略す。)と司法裁判所の司法審査権
 安保条約の如き、主権国としてのわが国の存立の基礎に重大な関係を持つ高度の政治性を有するものが、違憲であるか否の法的判断は、純司法的機能を使命とする司法裁判所の審査に原則としてなじまない性質のものであり、それが一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外にあると解するを相当とする。

9 安保条約がいわゆる前提問題となつている場合と司法裁判所の司法審査権
 安保条約(またはこれに基く政府の行為)が違憲であるか否かが、本件のように(行政協定に伴う刑事特別法第2条が違憲であるか)前提問題となつている場合においても、これに対する司法裁判所の審査権は前項と同様である。

10 安保条約は一見明白に違憲と見められるか
 安保条約(およびこれに基くアメリカ合衆国軍隊の駐留)は、憲法第9条、第98条第2項および前文の趣旨に反して違憲無効であることが一見極めて明白であるとは認められない。

11 特に国会の承認を経ていない安保条約第3条に基く行政協定(以下行政協定と略す。)の合憲性
 行政協定は特に国会の承認を経ていないが違憲無効とは認められない。

 最高裁HPは、砂川事件判決の内容を以上の11項目において要約している。
 ここで次の点について、考察してみよう。

 日本国憲法9条は、交戦権の否定と戦力の不保持を定めている。では、日本が自国を防衛する権利、すなわち自衛権についてはどのように定めているか。要約の(4)(5)を中心に考えよう。かりに、憲法が自衛権を認めているならば、自衛権を行使するための措置は、憲法9条が禁止した「戦力」にはあたらないと考えなければならない。反対に自衛隊が「戦力」にあたるならば、自衛権を行使するにあたって、自衛隊を活用することは認められない。自衛隊は、「戦力」にあたるのか。自衛権を行使するための措置として認められるのか。

 そもそも、「自衛権」というものは、自らが自らを衛る権利のことである。他国に対して日本の防衛をお願いすることは、自衛権といえるかどうか疑問である。では、日本が自分の国を衛るために他国にその措置を委ねることについて、憲法はどのように考えているのか。要約の(6)(7)を中心に考えよう。日本は、そのためにアメリカと安全保障条約を結んで、アメリカの軍隊を日本に駐留させている。日本に対して急迫不正の侵害があった場合、日本はアメリカに日本の防衛を委ねている。このアメリカの軍隊が憲法9条が禁止した「戦力」にあたるならば、アメリカ軍の駐留は憲法違反であり、認められない。これに対して、アメリカ軍が日本を防衛するために日本に駐留する場合に限って、「戦力」にあたらないと考えることができるならば、在日アメリカ軍による日本の防衛を憲法は認めていることになる。

 このようにアメリカ軍は日本の防衛のために日本に駐留している。外国が日本に対して武力行使してきた場合、アメリカ軍は日本の自衛隊と共同して日本を防衛することができる。では、次のような場合はどうであろうか。外国がアメリカに対して武力行使してきた場合、日本の自衛隊はアメリカ軍と共同してアメリカを防衛することができるか。つまり、問題になっている集団的自衛権を行使することができるか。憲法はどのように定めているか。しかも、外国がアメリカに対して武力行使し、それが日本の存立にも影響しているような場合、日本はどのような対応ができるか。憲法はそれをどのように定めているか。砂川事件判決から、それを読み取ることができるか。

 インターネットで、砂川事件などのキーワードで検索して、集団的自衛権行使の容認論を調べてみよう。