刑法Ⅱ(各論)第4回(10月22日) 個人的法益に対する罪――自由に対する罪
(5)性的自由に対する罪 (6)住居侵入罪
(5)性的自由に対する罪
1基本的性格
個人の性的自己決定権(社会的法益に対する罪から個人的法益に対する罪への再編)
2強制わいせつ罪(176)
客体 13才以上の男女と13才未満の男女に区別
行為 わいせつな行為
性的な意味を有し、一般に被害者に対して性的な羞恥心や嫌悪感を感じさせる対象
暴行または脅迫
「わいせつな行為」という目的を達成するための手段行為
主観 姦淫目的は手段行為の時点で存在していなければならない
被害者の年齢を錯誤した場合の罪の成否
13才未満者を13才以上と誤信、暴行・脅迫なしのわいせつ行為を行なった
13才未満の者へのわいせつ罪の構成要件該当の違法行為を実行。しかし、その故意なし→無罪
13才以上者を13才未満と誤信、暴行・脅迫なしのわいせつ行為 13才未満の者ヘの未遂
13才以上の者へのわいせつ罪の既遂罪の構成要件該当の違法行為を実行していないが、
13才未満の者へのわいせつ罪の未遂罪の構成要件該当の違法行為を実行し、その故意もある。
3強姦罪(177)
客体 13才以上の「女子」と13才未満の「女子」
主体 姦淫は男性のみが行なう行為(強姦罪を構成する身分)
ただし、手段としての暴行・脅迫は女性も可能→間接正犯、共同正犯・共犯が可能
行為 13才以上の女子の場合の暴行・脅迫(被害者の反抗を著しく困難にする程度)→姦淫
手段行為としての暴行・脅迫→姦淫(一般には男女間の性交にあたる行為)
主観 姦淫目的は手段行為の時点で存在していなければならない
被害者の年齢を錯誤した場合の罪の成否(強制わいせつ罪のところを参照)
4準強制わいせつ罪(178①)・準強姦罪(178②)
客体 心神喪失若しくは抗拒不能の状態にある13才以上の人(準強姦の場合は女子)
心神喪失 精神の障害により、被害の内容の意味・是非を正常に判断できない状態
抗拒不能 身体的な自由を奪われ、また恐怖や錯覚などの事情により反抗できない状態
行為 わいせつ行為・姦淫
暴行・脅迫は不要。ただし、それに代えて心神喪失・抗拒不能の状態の利用・作出が必要。
5集団強姦罪・集団準強姦罪(178の2)
2人以上の者が現場において共同して行なう強姦罪・準強姦罪(必要的共犯=集団犯)
集団強姦罪を行なった2人以上の者には「共同正犯」(刑60)の適用は不要。
AがXの手足を押さえ、BがXを姦淫。Cはそれを容易にするため見張りをした。
A・Bは集団強姦か、強姦の共同正犯か(それによって、Cの幇助罪の罪責も決まる)
本罪の立法趣旨 「集団的な輪姦」の厳罰化→強姦罪の成立には2人以上の者も「姦淫」が必要。
A・B・Cが京都で「大阪でのXの強姦」を共謀。B・Cが大阪でXに共同して強姦。
→B・Cは集団強姦罪。Aの共謀は「現場性」なし→Aは集団強姦ではなく、強姦の共謀共同正犯
6未遂(179)・親告罪(180)
強制わいせつ罪・強姦罪・準強制わいせつ罪・準強姦罪・集団強姦罪・集団準強姦罪の未遂
(準)強制わいせつ罪・(準)強姦罪・その未遂は親告罪(被害者の告訴が起訴の必要的要件)
集団(準)強制わいせつ罪、(準)強制わいせつ罪の現場での共同実行は非親告罪
7強制わいせつ等致死傷罪(181)
強制わいせつ・準強制わいせつ・それらの未遂→死傷(1項)
強姦・準強姦・それらの未遂→死傷(2項)
集団強姦・集団準強姦・それらの未遂→死傷(3項)
死傷結果 暴行・わいせつ・姦淫(基本犯)から発生したものであり、
さらに、基本犯に付随する行為(東京高判平12・2・21判時1740号107頁)
結果的加重犯 基本犯と加重結果との因果関係が必要。基本犯についてのみ故意が必要。
死傷について故意がある場合は、原則的に180条の適用対象から除外される。
殺人の故意で強制わいせつ等致死罪→強制わいせつ等罪と殺人罪の観念的競合
傷害の故意で強制わいせつ等致傷罪→強制わいせつ等罪と傷害罪の観念的競合?
処断刑の上限が傷害罪の法定刑の上限になる問題→例外的に、強制わいせつ等致傷罪が成立
(6)住居侵入罪
1基本的性格
判例 旧住居建設→平穏説→新住居権説」
学説 平穏説(平穏侵害説)と新住居権説(意思侵害説)
2客体
人の住居 (他)人の起臥寝食の場所
邸宅 住居用に作られた建物で住居以外の部分(中庭などの囲繞地[いじょうち])
建造物 住居目的以外の目的で作られた建造物(学校の校舎、銀行の建物など)
艦船 軍艦・船舶
人の看取 邸宅・建造物・艦船を事実上の管理・支配するための人的・物的設備(施錠・門衛)
囲繞地 住居の囲繞地は「邸宅」として、建造物の囲繞地は建造物の一部として扱われる。
3住居侵入罪(130前)
侵入 許諾権者の意思に反した立ち入り(最判昭58・4・8刑集37巻3号215頁)
許諾権者 居住者と看守者
立ち入りへの許諾=住居侵入罪の構成要件該当性を否定する理由(「正当な理由」)
不特定多数の人の立ち入りが一般に認められている場所の立ち入りについては、許諾権
しかし、「包括的許諾」があっても、犯罪や違反行為を実行するために立ち入る者には、
「個別的許諾」の推定が否定される場合がある→「正当な理由」なし→侵入罪が成立
「個別的許諾」の推定の否定根拠=許諾権者の「錯誤」→そのような許諾は無効
4不退去罪(130後)
適法な住居への立ち入り後に成立(最決昭31・8・22刑集10巻8号1237頁)
→退去要求を受けたにもかかわらず、退去しなかった
退去要求を受けた人=不退去罪を構成する身分(構成的身分犯・真正身分犯)
退去しないという不作為(真正身分犯)
第4回 練習問題
(1)強制わいせつ罪・強姦罪について
・強制わいせつ罪・強姦罪の成立には、手段行為として暴行・脅迫が必要ですあるが、それと暴行罪や脅迫罪の暴行・脅迫との違いを述べなさい。
・強制わいせつ罪における「わいせつな行為」を説明しなさい。強姦罪における「姦淫」を説明しなさい。
・強姦罪の行為主体は男性に限られると解されているが、その理由を述べなさい。また、女性が強姦の正犯になりうる要件について述べなさい。
・Aは13才未満のXを13才以上と勘違いし、暴行・脅迫を伴わずに、わいせつな行為を行った。
Bは13才以上のYを13才未満と勘違いし、暴行・脅迫を伴わずに、わいせつな行為を行った。
AとBの罪責を論じなさい。
(2)集団強姦罪
・集団強姦罪の立法化の経緯を調べ、強姦罪の共同正犯より重罰化されている理由を考えなさい。
・AはXの手足を押さえ、Bは抵抗できなくなったXを姦淫した。Aは姦淫しなかった。
CはYの手足を押さえ、Dは抵抗できなくなったYを姦淫した。その後、CはYを姦淫した。
強姦罪の共同正犯と集団強姦罪の異同について言及し、A・BとC・Dの罪責を論じなさい。
(3)住居侵入罪について
・住居侵入罪の保護法益は何か。論じなさい。
・Aは、Xの住居に附属する中庭に侵入した。
Bは、Yが看取する建造物に附属する駐車場に侵入した。
AとBの罪責を論じなさい。
・大学生Aは、女子トイレに盗撮用の録画機を設置するために、自分の大学の校舎に立ち入った。
そして、学生共同研究室のある階の女性専用トイレに入って、録画機をセットした。
Aの罪責を論じなさい。
(5)性的自由に対する罪 (6)住居侵入罪
(5)性的自由に対する罪
1基本的性格
個人の性的自己決定権(社会的法益に対する罪から個人的法益に対する罪への再編)
2強制わいせつ罪(176)
客体 13才以上の男女と13才未満の男女に区別
行為 わいせつな行為
性的な意味を有し、一般に被害者に対して性的な羞恥心や嫌悪感を感じさせる対象
暴行または脅迫
「わいせつな行為」という目的を達成するための手段行為
主観 姦淫目的は手段行為の時点で存在していなければならない
被害者の年齢を錯誤した場合の罪の成否
13才未満者を13才以上と誤信、暴行・脅迫なしのわいせつ行為を行なった
13才未満の者へのわいせつ罪の構成要件該当の違法行為を実行。しかし、その故意なし→無罪
13才以上者を13才未満と誤信、暴行・脅迫なしのわいせつ行為 13才未満の者ヘの未遂
13才以上の者へのわいせつ罪の既遂罪の構成要件該当の違法行為を実行していないが、
13才未満の者へのわいせつ罪の未遂罪の構成要件該当の違法行為を実行し、その故意もある。
3強姦罪(177)
客体 13才以上の「女子」と13才未満の「女子」
主体 姦淫は男性のみが行なう行為(強姦罪を構成する身分)
ただし、手段としての暴行・脅迫は女性も可能→間接正犯、共同正犯・共犯が可能
行為 13才以上の女子の場合の暴行・脅迫(被害者の反抗を著しく困難にする程度)→姦淫
手段行為としての暴行・脅迫→姦淫(一般には男女間の性交にあたる行為)
主観 姦淫目的は手段行為の時点で存在していなければならない
被害者の年齢を錯誤した場合の罪の成否(強制わいせつ罪のところを参照)
4準強制わいせつ罪(178①)・準強姦罪(178②)
客体 心神喪失若しくは抗拒不能の状態にある13才以上の人(準強姦の場合は女子)
心神喪失 精神の障害により、被害の内容の意味・是非を正常に判断できない状態
抗拒不能 身体的な自由を奪われ、また恐怖や錯覚などの事情により反抗できない状態
行為 わいせつ行為・姦淫
暴行・脅迫は不要。ただし、それに代えて心神喪失・抗拒不能の状態の利用・作出が必要。
5集団強姦罪・集団準強姦罪(178の2)
2人以上の者が現場において共同して行なう強姦罪・準強姦罪(必要的共犯=集団犯)
集団強姦罪を行なった2人以上の者には「共同正犯」(刑60)の適用は不要。
AがXの手足を押さえ、BがXを姦淫。Cはそれを容易にするため見張りをした。
A・Bは集団強姦か、強姦の共同正犯か(それによって、Cの幇助罪の罪責も決まる)
本罪の立法趣旨 「集団的な輪姦」の厳罰化→強姦罪の成立には2人以上の者も「姦淫」が必要。
A・B・Cが京都で「大阪でのXの強姦」を共謀。B・Cが大阪でXに共同して強姦。
→B・Cは集団強姦罪。Aの共謀は「現場性」なし→Aは集団強姦ではなく、強姦の共謀共同正犯
6未遂(179)・親告罪(180)
強制わいせつ罪・強姦罪・準強制わいせつ罪・準強姦罪・集団強姦罪・集団準強姦罪の未遂
(準)強制わいせつ罪・(準)強姦罪・その未遂は親告罪(被害者の告訴が起訴の必要的要件)
集団(準)強制わいせつ罪、(準)強制わいせつ罪の現場での共同実行は非親告罪
7強制わいせつ等致死傷罪(181)
強制わいせつ・準強制わいせつ・それらの未遂→死傷(1項)
強姦・準強姦・それらの未遂→死傷(2項)
集団強姦・集団準強姦・それらの未遂→死傷(3項)
死傷結果 暴行・わいせつ・姦淫(基本犯)から発生したものであり、
さらに、基本犯に付随する行為(東京高判平12・2・21判時1740号107頁)
結果的加重犯 基本犯と加重結果との因果関係が必要。基本犯についてのみ故意が必要。
死傷について故意がある場合は、原則的に180条の適用対象から除外される。
殺人の故意で強制わいせつ等致死罪→強制わいせつ等罪と殺人罪の観念的競合
傷害の故意で強制わいせつ等致傷罪→強制わいせつ等罪と傷害罪の観念的競合?
処断刑の上限が傷害罪の法定刑の上限になる問題→例外的に、強制わいせつ等致傷罪が成立
(6)住居侵入罪
1基本的性格
判例 旧住居建設→平穏説→新住居権説」
学説 平穏説(平穏侵害説)と新住居権説(意思侵害説)
2客体
人の住居 (他)人の起臥寝食の場所
邸宅 住居用に作られた建物で住居以外の部分(中庭などの囲繞地[いじょうち])
建造物 住居目的以外の目的で作られた建造物(学校の校舎、銀行の建物など)
艦船 軍艦・船舶
人の看取 邸宅・建造物・艦船を事実上の管理・支配するための人的・物的設備(施錠・門衛)
囲繞地 住居の囲繞地は「邸宅」として、建造物の囲繞地は建造物の一部として扱われる。
3住居侵入罪(130前)
侵入 許諾権者の意思に反した立ち入り(最判昭58・4・8刑集37巻3号215頁)
許諾権者 居住者と看守者
立ち入りへの許諾=住居侵入罪の構成要件該当性を否定する理由(「正当な理由」)
不特定多数の人の立ち入りが一般に認められている場所の立ち入りについては、許諾権
しかし、「包括的許諾」があっても、犯罪や違反行為を実行するために立ち入る者には、
「個別的許諾」の推定が否定される場合がある→「正当な理由」なし→侵入罪が成立
「個別的許諾」の推定の否定根拠=許諾権者の「錯誤」→そのような許諾は無効
4不退去罪(130後)
適法な住居への立ち入り後に成立(最決昭31・8・22刑集10巻8号1237頁)
→退去要求を受けたにもかかわらず、退去しなかった
退去要求を受けた人=不退去罪を構成する身分(構成的身分犯・真正身分犯)
退去しないという不作為(真正身分犯)
第4回 練習問題
(1)強制わいせつ罪・強姦罪について
・強制わいせつ罪・強姦罪の成立には、手段行為として暴行・脅迫が必要ですあるが、それと暴行罪や脅迫罪の暴行・脅迫との違いを述べなさい。
・強制わいせつ罪における「わいせつな行為」を説明しなさい。強姦罪における「姦淫」を説明しなさい。
・強姦罪の行為主体は男性に限られると解されているが、その理由を述べなさい。また、女性が強姦の正犯になりうる要件について述べなさい。
・Aは13才未満のXを13才以上と勘違いし、暴行・脅迫を伴わずに、わいせつな行為を行った。
Bは13才以上のYを13才未満と勘違いし、暴行・脅迫を伴わずに、わいせつな行為を行った。
AとBの罪責を論じなさい。
(2)集団強姦罪
・集団強姦罪の立法化の経緯を調べ、強姦罪の共同正犯より重罰化されている理由を考えなさい。
・AはXの手足を押さえ、Bは抵抗できなくなったXを姦淫した。Aは姦淫しなかった。
CはYの手足を押さえ、Dは抵抗できなくなったYを姦淫した。その後、CはYを姦淫した。
強姦罪の共同正犯と集団強姦罪の異同について言及し、A・BとC・Dの罪責を論じなさい。
(3)住居侵入罪について
・住居侵入罪の保護法益は何か。論じなさい。
・Aは、Xの住居に附属する中庭に侵入した。
Bは、Yが看取する建造物に附属する駐車場に侵入した。
AとBの罪責を論じなさい。
・大学生Aは、女子トイレに盗撮用の録画機を設置するために、自分の大学の校舎に立ち入った。
そして、学生共同研究室のある階の女性専用トイレに入って、録画機をセットした。
Aの罪責を論じなさい。