Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

衆議院議員(前法相)河井克行氏の事前買収罪の成否について

2020-05-15 | 旅行
 先日、***通信社から、衆議院議員(前法相)の河井克行氏の事前買収罪に関する疑問について問い合わせを受けました。以下は、その問い合わせに対する回答です。

 ***通信社
 ご連絡ありがとうございます。
 河井克行・前法相の事前買収罪の正否については、次のように考えます。
1 克行氏は、2019年4月の統一地方選挙の前後に、広島県内の首長や県議、市議などの地元の政治家に対して、現金入りの封筒を渡した。
2 受け取った議員らによると、この現金が2019年の統一地方選挙の陣中見舞いや当選祝いの名目で配布された。
3 現金を受け取った議員のなかには、2019年7月の参議院選選挙(7月4日告示、21日投票)に妻の河井案里氏が広島選挙区から自民党公認候補で立候補することが決まっていたので、この現金が参議院選挙と関連していると疑って返金したものもいた。
4 克行氏の行為は、公職選挙法の事前買収罪に該当する可能性があるが、郷原弁護士の指摘によると、事前買収罪が適用されるのは、選挙運動期間中など、直接的に、投票や選挙運動の対価として金銭など供与した場合に限られ、選挙の告示日よりも前の時点で金銭などを供与しても、買収罪が適用されることはほとんどなかった。
5 克行氏による金銭供与(19年3月)と参議院選挙(同年7月)との間に関連性があれば、買収罪の適用の可能性が出てくるが、関連性がなければ、克行氏が地元の市長・議員の候補者・当選者に政治献金・寄付をしただけである。
6 参議院選挙の告示日よりも3ヶ月前に行われた克行氏の金銭の供与に対して事前買収罪の規定を適用するためには、検察官は、次のことを立証する必要がある。

1)参議院選挙が7月に実施されることが確定していたこと、妻の河井案里氏が広島選挙区の自民党公認候補に決まっていたこと、
2)克行氏が妻の案里氏に当選を得させる目的を持っていたこと、
3)克行氏がこの目的を実現するために市長や県議・市議に金銭を供与したこと、
4)市長や県議・市議が参議院広島選挙区の選挙運動者または選挙人(有権者)であること

 1)について
 弁護士の**先生は、法律家としての経験から、事前買収罪が成立するのは、選挙の告示日以降であって、その場合でなければ事前買収罪の規定は適用されてこなかったと述べておられます。告示日以降に限定されてきたのは、金銭供与と特定の選挙との関連性、金銭の供与によって特定の選挙の公正が歪められた事実を立証しやすいからであると思われます。告示日前であれば、金銭の供与によって、いつの選挙の、どの選挙の公正さが歪められたのか特定できない、また困難だからです。しかし、この問題に関して、判例や過去の裁判例の動向について「選挙期日の告示又は公示があれば選挙が特定されることはいうまでもないが、これがなくとも、目標となる選挙の種類とおおよその時期が予測できるときは選挙は特定しているといえる」(伊藤榮樹・小野慶二・荘司邦雄編『注釈特別刑法3巻』36頁)と論評するものもあります。参議院選挙は3年に1回、改選は6年に1回、必ず実施される選挙です。それはすでに既定の事柄です。2019年4月の時点において、3ヶ月後の7月に参議院選挙が実施されることはすでに決まっています。しかも、妻の案里氏が広島選挙区の自由民主党公認候補として出馬することも決まっていました。
 ただし、これは選挙の実施が確実であり、案里氏が候補者として出馬することが決まっているだけであって、克行氏が広島県の政治家に金銭を供与したこととの関連性を証明する根拠にはなりません。
 2)について
 克行氏は、妻の案里氏が当選してほしいと願っていたことは認めるでしょう。しかし、4月の統一地方選挙時に地元の政治家に金銭を供与したのは、案里氏に当選を得させる目的からではなかったと主張するでしょう。あくまでも、統一地方選挙の「陣中見舞い」、「当選祝い」として金銭を供与したと言い張るでしょう。従って、検察官の最大の課題は、克行氏に妻の案里氏に当選を得させる目的があったこと、その目的を実現するために地元の政治家に金銭を供与したことを証拠で裏付けることです。
 3)について
 2)が証明されれば、金銭の供与は4月の統一地方選挙の陣中見舞いや当選祝いのために行われたものではなく、7月の参議院選挙において妻の案里氏の当選を得る目的で行われたものであることを証明することができます。案里氏を当選させる目的と金銭供与との関連性を証明できます。
 4)について
 これは明らかであると思われます。
 克行氏は、1)と2)について、全面的に争うことが予想されます。
 以上です。
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