Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅰ(総論)2019年度第04回 ケース問題(085・089)

2019-04-30 | 日記
 第04回 緊急避難(ただし問題は正当防衛)

 ケース85
 A市B区のアパート2階の一室に居住していた甲(男性・58才)は、同じアパート2階の別室に居住する乙(男性・56才)と日ごろから折り合いが悪かった。
 平成20年9月10日午後2時13分ころ、甲は、アパート2階の北側奥にある共同便所で用を足していた。すると、突然背後から乙に長さ81センチメートル、重さ2キログラムの鉄パイプで頭部を1回殴打された。続けて乙がその鉄パイプを振りかぶったため、甲はそれを取り上げようとしてつかみかかり、乙ともみ合いになった。
 そのままもみ合いながら2階の通路に移動するなか、甲は再度鉄パイプでなぐられたらやられてしまうと感じ、2回にわたって大声で助けを求めたが、誰も現れなかった。甲が助けを求めた直後、乙が油断したすきに、甲は乙から鉄パイプを取り上げることに成功した。ところが、乙はなおも両手を前に出して向かってきたため、甲は乙の頭部を鉄パイプで1回殴打した。
 その後も両者一進一退の状況が続くなか、乙が甲から鉄パイプを取り戻し、それを振り上げて甲を再び殴打しようとしたため、甲は通路の南側にある1階に通じる階段のほうへ向かって逃げ出した。甲が会談上の踊り場までいたった際、背後で風を切る気配がしたので振り返ったところ、乙は、通路南端に設置されていた転落防止用の手すりの外側に勢い余って上半身を前のめりに乗り出した姿勢になっていた。しかし、乙がなおも鉄パイプを手にしているのを見た甲は、乙に近づいてその左足を持ち上げ、乙を手すりの外側に押しやった。その結果、乙は、1階のひさしにあたった後、手すり上端から約4メートル下のコンクリート道路上に転落した。
 乙は、甲による一連の暴行(乙の頭部を鉄パイプで殴打した行為および乙の左足を持ち上げて手すりの外側に追い落とした行為)により、全治3ヶ月を要する前顔、後頭部打撲傷、腰椎圧迫骨折等の傷害を負った。
 甲の乙に対する一連の暴行に、傷害罪が成立するか。




 ケース89
 甲(男性・45才)は、平成20年6月28日午後4時10分ごろ、A市内のBショッピングセンターの屋外喫煙所の外階段下で喫煙し、屋内に戻ろうとしたところ、知人である丙および丁と一緒にいた乙(男性・50才)に遭遇した。乙は、「ちょっと待て。話がある。」と甲に呼びかけた。甲は、以前かも乙に因縁を付けられて暴行を加えられたこどがあり、今回も因縁を付けられて殴られるのではないかと考えたものの、甲の呼び掛けに応じて、共に上記屋外喫煙所の外階段西側へ移動した。
 そこで、乙に近づいた甲は、乙からいきなり殴り掛かられ、何とかこれをかわしたものの、甲は乙に超し付近を持たれて付近のフェンスまで押し込まれた。乙は、さらに甲を自己の体とフェンスとの間に挟むようにして両手でフェンスをつかみ、甲をフェンスに押し付けながら、ひざや足を数回蹴ったため、甲も乙の体を抱えながら足を絡めたり、蹴り返したりした。そのころ、2人がもみ合いになっている現場に丙と丁が近づくなどしたため、甲は、1対3の関係にならないように、乙に対し「おれはやくざだ。おれに手を出したらどうなるかわかってんのか。」などと述べて威嚇した。そして、甲をフェンスに押さえつけていた乙を離すようにしながら、その顔面を1回殴打した。
 すると、乙は、その場にあったアルミ製灰皿(直径19センチメートル、高さ60センチメートルの円柱形をしたもの)を持ち上げ、甲に向けて投げ付けた。甲が、投げ付けられた灰皿を避けながら、灰皿を投げ付けた反動で体勢を崩した乙の顔面を右手で殴打すると、乙は、頭部から落ちるように転倒して、後頭部をタイルの敷き詰められた地面に打ち付け、仰向けに倒れたまま意識を失ったように動かなくなった(以下、ここまでの甲の乙に対する暴行を「第1暴行」という)。
 甲は、意識を失ったように動かなくなって仰向けに倒れている乙を見て、これ以上乙が反撃し、自己に危害を加えるおそれはないと感じた。それにもかかわらず、甲は憤激の余り、乙に対し、「おれを甘く見ているな。おれに勝てるつもりでいるのか。」などと言い、その腹部等を足げにしたり、足で踏みつけたりし、さらに、腹部にひざをぶつける(右ひざを曲げて、ひざ頭を落とすという態様であった。)などの暴行を加えた(以下、乙が転倒した後の甲の乙に対する暴行を「第2暴行」という)。その後、甲は乙をそのままにして、同日午後4時25分ごろ、その場を立ち去った。
 乙は、Bショッピングセンターから付近の病院へ救急車で搬送されたものの、6時間余り後に、頭部打撲による頭蓋骨骨折に伴うクモ膜下出血によって死亡した。乙は、第2暴行により、肋骨骨折等の傷害を負っていたが、死因となる傷害は第1暴行によって生じたものであることが、後に判明した。
 甲の第1暴行および第2暴行に、傷害致死罪または傷害罪が成立するか。