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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)フィトクロム相互作用因子(PIF)7によるオーキシン生合成の活性化

2012-05-10 05:57:15 | 読んだ論文備忘録

Linking photoreceptor excitation to changes in plant architecture
Li et al.  Genes & Dev. (2012) 26:785-790.
doi:10.1101/gad.187849.112

植物は自身や周囲の植物によって日陰となって光の赤色光:遠赤色光(R:FR)比が低下すると、この変化をフィトクロムB(PHYB)が感知し、避陰反応(SAS)と呼ばれている茎や葉柄の伸長促進、葉や根の成長抑制、葉の角度の変化を起こして形態を変化させる。シロイヌナズナ芽生えを日陰条件下に曝すと100以上の遺伝子の発現量が増加するが、米国 ソーク研究所Chory らは、これらのうち発現量変化が100倍以上あるPHYTOCHROME INTERACTING FACTOR 3-LIKE 1PIL1 )に着目し、日陰に応答するプロモーター領域の探索を行なった。その結果、2つのG-box(CACGTG)を含んだ210 bp(-1494~-1284)領域が必須であることを突き止めた。酵母one-hybrid法によってシロイヌナズナの1600の転写因子をスクリーニングし、この領域に結合するタンパク質として幾つかのbHLH型転写因子を同定した。その中の1つに、フィトクロム相互作用因子(PIF)7が含まれていた。シロイヌナズナpif7 T-DNA挿入系統の芽生えは白色光下では野生型と同じ形態を示すが、日陰条件では胚軸が短くなり、子葉が拡張してSASを示さなかった。pif7 phyB 二重変異体はphyB 変異体が白色光下で示す恒常的なSASを回復させることから、PIF7はPHYBの下流で作用するSASの正の制御因子であることが示唆される。シロイヌナズナ芽生えはSASの初期に内生オーキシン量の増加が観察され、オーキシン生合成酵素をコードする遺伝子のTAA1 が機能喪失したshade avoidance 3sav3 )変異体は白色光下においても内生オーキシン量が低く、日陰条件下での胚軸伸長や内生オーキシン量の増加が見られない。日陰条件でのpif7 変異体芽生えの成長はsav3 芽生えに類似していることから、PIF7は日陰条件下でのオーキシン応答を制御していることが示唆される。野生型植物芽生えを日陰処理すると144遺伝子の転写産物量が増加するが、pif7 変異体では144遺伝子のうち109遺伝子で日陰処理による変化が見られず、sav3 変異体では104遺伝子の変化が見られなかった。pif7 変異体とsav3 変異体で共通して転写産物量の増加が見られない遺伝子は86あり、それらのオントロジーを見ると、オーキシン応答に関連するものが多く(35%)あった。野生型植物ではオーキシンによって発現誘導される遺伝子の転写産物量が白色光下と日陰条件下で異なっていたが、pif7 変異体やsav3 変異体ではそれらの遺伝子の転写産物量の差が見られなかった。よって、PIF7はオーキシンに関連した遺伝子の発現を制御していることが示唆される。pif7 変異体において日陰処理による発現量変化の見られない遺伝子の中には、オーキシン生合成関連遺伝子(YUCCA2YUCCA5YUCCA8YUCCA9 )、オーキシントランスポーター遺伝子(PIN3PIN4 )、オーキシン応答遺伝子(IAA29GH3.3 )が含まれており、PIF7は日陰処理において様々な局面でオーキシン制御に関与していると考えられる。白色光下において野生型植物とpif7 変異体の内生遊離IAA量に差は見られないが、日陰処理による内生IAA量の増加はpif7 変異体では野生型よりも少なく、PIF7は日陰処理によって誘導されるオーキシン生合成に影響していると考えられる。野生型植物とsav3 変異体では日陰処理によってYUCCA2YUCCA5YUCCA8YUCCA9 の発現が誘導されるが、pif7 変異体ではそれらの遺伝子の発現誘導量が低下していた。YUCCA 遺伝子の幾つかはプロモーター領域にG-boxを含んでおり、YUCCA8YUCCA9 遺伝子のプロモーター領域にPIF7タンパク質が直接結合することが確認された。yuc3, 5, 7, 8, 9 五重変異体芽生えは日陰処理による胚軸伸長が見られないことから、YUCCA5YUCCA8YUCCA9 の発現量増加は日陰処理の初期応答に関与していると考えられる。PIF7タンパク質の翻訳後修飾を調査したところ、白色光下でPIF7タンパク質はリン酸化型と脱リン酸化型の2つのタイプが存在し、日陰処理をするとリン酸化型が急速に減少し、脱リン酸化型が増加することが判った。以上の結果から、以下のモデルが考えられる。白色(高R:FR比)光下では、PHYBが細胞質から核へ移行してリン酸化型PIF7と相互作用をするためターゲット遺伝子の転写活性化は起こらないが、日陰(低R:FR比光)条件ではPHYBが不活性(Pr)型となってリン酸化型PIF7と会合しなくなる。するとPIF7は脱リン酸化されてオーキシン生合成酵素遺伝子や他のターゲット遺伝子のG-boxに結合して転写活性化を引き起こす。このことによって内生遊離IAA量が増加し、胚軸伸長等のSASの形態変化が起こる。

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