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論文)トライコームと根毛の形成を制御するbHLH型転写因子の分子機構

2012-05-22 20:28:12 | 読んだ論文備忘録

A Single Amino Acid Substitution in IIIf Subfamily of Basic Helix-Loop-Helix Transcription Factor AtMYC1 Leads to Trichome and Root Hair Patterning Defects by Abolishing Its Interaction with Partner Proteins in Arabidopsis
Zhao et al.  JBC (2012) 287:14109-14121.
DOI:10.1074/jbc.M111.280735

トライコームと根毛は、いずれも表皮細胞に由来する細胞であり、その形成は類似した機構によって制御されている。WD40リピートタンパク質のTRANSPARENT TESTA GLABRA1(TTG1)、R2R3リピートMYBタンパク質のGLABRA1(GL1;トライコーム)もしくはWEREWOLF(WER;根毛)、IIIf サブファミリーbHLHタンパク質のGLABRA3(GL3)もしくはENHANCER OF GLABRA3(EGL3)からなるMYB-bHLH-WD40複合体がトライコームおよび無毛細胞への分化を誘導しており、これらの因子の変異体はトライコームの減少や異所的な根毛形成が起こる。中国 河北師範大学のMa らは、シロイヌナズナT-DNA挿入集団の中からロゼット葉や主茎のトライコーム数が減少し、根毛数が増加したrtd1-1reduced trichomes density )変異体を単離した。しかしながら、T-DNA挿入と表現型が連鎖していなかったので、rtd1-1 変異体の原因遺伝子の探索を行なったところ、AtMYC1 (At4g00480)のORFに点変異(G518A)があり、この結果、翻訳産物にアミノ酸置換(R173H)が生じることが判った。このことから、この変異体をAtmyc1-1 と改名した。AtMYC1 は、GL3EGL3 と同じbHLH型転写因子IIIf サブファミリーに属し、AtMYC1タンパク質の173番目のArg残基はホモログタンパク質において保存されていた。T-DNA挿入によりAtMYC1 が機能喪失した系統は、Atmyc1-1 変異体と同様にトライコームの減少、根毛の増加が観察され、Atmyc1-1 変異体において野生型AtMYC1 を自身のプロモーター制御下で発現させると表現型の回復が見られることから、Atmyc1-1 変異体の表現型はAtMYC1 の機能喪失によるものであると判断した。GL1-GL3-TTG1複合体の直接のターゲット遺伝子であるGL2 はトライコームや無毛細胞の形成に関与する転写因子をコードしているが、その転写産物量はAtmyc1-1 変異体において減少していた。よって、AtMYC1はGL2 発現の正の制御因子であることが示唆される。AtMYC1 のホモログであるGL3EGL3 の二重変異体gl3 egl3 は、地上部の器官が無毛になり、地下部では根毛が著しく増加し、GL3EGL3 は機能重複している。Atmyc1-1 gl3 二重変異体は花序茎が無毛になり、根毛が増加するが、葉のトライコームの減少の程度はgl3 egl3 二重変異体よりも低く、AtMYC1GL3 は茎のトライコームと根毛の制御に関しては機能重複しているが、葉のトライコーム制御に関する機能重複は部分的であると考えられる。Atmyc1-1 egl3 二重変異体は、Atmyc1-1 単独変異体と比較して、わずかに葉のトライコームの減少と根毛の増加が見られ、茎のトライコームについては差が見られなかった。よって、AtMYC1EGL3 の機能重複の程度はAtMYC1 GL3 よりも低いと考えられる。AtMYC1 とそのホモログの機能の類似性と多様性を見るためにプロモーター交換試験を行なったところ、Atmyc1-1 変異体においてAtMYC1 プロモーター制御下でGL3EGL3 を発現させた場合、Atmyc1-1 のトライコーム数の減少が回復したが、gl3 egl3 二重変異体でAtMYC1GL3 もしくはEGL3 プロモーター制御下で発現させた場合には表現型の変化が見られなかった。同様の結果は根毛数の制御においても観察された。したがって、GL3/EGL3はAtMYC1と同様の活性を示すが、AtMYC1はGL3やEGL3の代わりとはならず、AtMYC1とGL3/EGL3の機能は類似/機能重複する点と異なる点とがあることが示唆される。AtMYC1 の発現パターンを見たところ、根では根毛形成する細胞列で発現しており、GL3EGL3 の発現パターンと類似していたが、ロゼット葉ではトライコームの基部の細胞で発現しており、トライコームで強く発現するGL3EGL3 の発現パターンとは異なっていた。花序茎ではトライコームの少ない基部において強い発現が見られた。AtMYC1は、GL3やEGL3と同様に、GL1、WER、TTG1と相互作用することが酵母two-hybridアッセイ、in vivo BiFCアッセイによって確認された。 また、GL3、EGL3はホモ/ヘテロ二量体を形成するが、AtMYC1は形成しなかった。Atmyc1-1 変異体の点変異/アミノ酸置換は、転写産物量やAtMYC1-1タンパク質の細胞内局在に変化をもたらさなかったが、GL1、WER、TTG1との相互作用能力が低下しており、AtMYC1タンパク質のArg-173残基は複合体形成にとって重要であることが示唆される。AtMYC1タンパク質において、タンパク質相互作用に関与するとされている低複雑性領域(LCR)の予測を行なったところ、bHLHドメイン近傍に3箇所のLCRが見出され、R173Hアミノ酸置換はLCRの1つに含まれており、このアミノ酸置換によってGL1タンパク質との相互作用が低下することがわかった。また、AtMYC1ホモログのGL3、EGL3において、このArg残基をHis残基に置換した場合もGL1との相互作用能力が低下した。よって、IIIf bHLHファミリーにおいて保存されているArg残基はタンパク質相互作用にとって重要であると考えられる。以上の結果から、AtMYC1はトライコームと根毛の形成を制御する転写因子として作用し、そのホモログであるGL3やEGL3とは異なり単量体で機能し、組織によって3者の間には機能の重複や相違があると考えられる。

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