Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)光シグナル伝達においてELONGATED HYPOCOTYL 5の制御を受ける因子

2011-02-08 19:21:54 | 読んだ論文備忘録

HYPOSENSITIVE TO LIGHT, an Alpha/Beta Fold Protein, Acts Downstream of ELONGATED HYPOCOTYL 5 to Regulate Seedling De-Etiolation
Sun & Ni  Molecular Plant (2011) 4:116-126.
doi: 10.1093/mp/ssq055

米国 ミネソタ大学Ni らは、シロイヌナズナT-DNA挿入集団の中から赤色、遠赤色、青色光条件下で芽生えの胚軸が野生型よりも伸長し、暗黒下では差が見られない変異体hyposensitive to lighthtl-1 )を得た。この変異体の芽生えは、胚軸伸長の他に、赤色、遠赤色、青色光条件下での子葉面積の減少、白色光条件下での葉柄の伸長と葉面積の減少といった形態異常が見られた。また、赤色、遠赤色、青色光条件下で育成したhtl-1 変異体芽生えは、クロロフィル、アントシアニン蓄積量が野生型よりも低く、CAB3CHS の発現量が減少していた。HTL 遺伝子(At4g37470)は、alpha/beta fold proteinファミリーに属する30 kdのタンパク質をコードしており、シロイヌナズナゲノム中には2つのホモログと推測される遺伝子(At3g03990、At3g24420)が存在していた。HTLタンパク質には膜貫通ドメイン、核局在シグナルといったシグナルペプチドは見出されなかったが、GFPとの融合タンパク質は主に核に局在し、赤色光下と暗黒下で局在の差異は見られなかった。HTL プロモーターでGUS 遺伝子を発現させてHTL 発現部位を推定したところ、若い芽生えでは胚軸と根、成熟個体ではロゼット葉、がく片、長角果の柄と先端が染色された。HTL 遺伝子の発現は赤色、遠赤色、青色光処理によって増加した。htl-1 変異体の赤色、遠赤色、青色光条件下での胚軸伸長変化は、ELONGATED HYPOCOTYL 5(HY5)の機能喪失変異体hy5-ks50 の表現型と類似しており、hy5-ks50 変異体ではHTL 遺伝子の光による発現量増加が弱くなっていた。HTL 遺伝子プロモーター領域にはHY5結合部位であるG/C-box(GACGTG)モチーフが2箇所とG-box(CACGTG)モチーフが存在し、HY5がG/C-boxの1つおよびG-boxに結合することがゲルシフトアッセイ(EMSA)とクロマチン免疫沈降アッセイにより確認された。以上の結果から、HTL はHY5によって直接発現が制御される光シグナル伝達に関与した因子であると考えられる。

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論文)RNAサイレンシングと側根形成

2011-02-07 22:30:51 | 読んだ論文備忘録

The bifunctional abiotic stress signalling regulator and endogenous RNA silencing suppressor FIERY1 is required for lateral root formation
Chen & Xiong  Plant Cell Environ. (2010) 33:2180-2190.
doi: 10.1111/j.1365-3040.2010.02218.x

シロイヌナズナFIERY1FRY1 )/SAL1 /HOS2 遺伝子は、イノシトール 1, 4, 5-三リン酸と3'-ホスホアデノシン-5'-リン酸(PAP)を異化する2つの機能を持った酵素をコードしている。FRY1 遺伝子座はストレス応答遺伝子の負の調節因子として同定され、RNAサイレンシングの抑制に関与していることが報告されている。サウジアラビア アブドラ国王大学Xiong らは、fry1 変異体芽生えは、野生型植物に比べて葉が湾曲して小さくなり、葉柄や胚軸が短く、草丈が低くなることを見出した。野生型植物の成熟したロゼット葉は細長い長円形をしているが、fry1 変異体のロゼット葉は丸みがあり、これは植物体の成熟期への移行が遅れていることが原因と思われる。また、fry1 変異体芽生えは側根の成長が非常に悪くなっていた。このような形態異常はオーキシンの変異体において見られる表現型と類似していることから、内生オーキシン量を調査したが、野生型と変異体で差は見られなかった。野生型芽生えにオーキシン処理をすると側根数が増加するが、fry1 変異体では側根数の増加は殆ど見られなかった。よって、fry1 変異体はオーキシン応答性が低下しているために側根形成能が低いものと思われる。オーキシン応答プロモーターDR5 によるGUS 遺伝子の発現を野生型植物とfry1 変異体で比較したところ、fry1 変異体はオーキシン処理によるGUS の発現誘導が非常に低いことがわかった。酵母のFRY1ホモログでPAP分解活性のみを有しているMET22fry1 変異体で発現させたところ側根形成能が回復した。よって、fry1 変異はPAP分解活性の低下が原因であると考えられる。PAPは硫黄同化経路の副産物で、閾値を越えると毒性を示して硫黄同化やRNAサイレンシングに関与しているエキソリボヌクレアーゼの活性を阻害することが知られている。シロイヌナズナにはXRN2、XRN3、XRN4の3種類のエキソリボヌクレアーゼが存在し、XRN3 ノックダウン個体やxrn2 xrn3 二重変異体は丸い葉、短い葉柄、花成の遅れといったfry1 変異体と似た表現型を示すことが報告されている。今回、xrn 各変異体についてIAAによる側根誘導を調査したところ、xrn4 変異体がfry1 変異体と同様にIAA非感受性となっていることがわかった。XRN4/EIN5は、エチレンシグナル伝達に関与する転写因子EIN3をターゲットとしているF-boxタンパク質をコードするEFB1EFB2 の発現を負に制御していることが知られている。よって、fry1 変異体においてPAPが蓄積してXRN4が阻害されればエチレン非感受性となることが推測される。fry1 変異体のエチレン感受性をエチレン(ACC)処理による芽生え胚軸の伸長阻害と茎頂フック形成を調査したところ、fry1 変異体はエチレン非感受性であることがわかった。fry1 efb1fry1 efb2 二重変異体はfry1 単独変異体に比べて胚軸伸長阻害に関してエチレン応答性が増していたが、オーキシンによる側根形成誘導に関してはfry1 単独変異体と同等であった。以上の結果から、fry1 変異体における側根形成阻害はエチレン応答性の変化によるものではなく、XRN4を介したRNAサイレンシングが関与していると考えられる。

Genetic interaction of two abscisic acid signaling regulators, HY5 and FIERY1, in mediating lateral root formation
Chen & Xiong  Plant Signaling & Behavior (2011) 6(1).

fry1 変異体は低温ストレス、塩ストレス、アブシジン酸(ABA)、光刺激に対する感受性が高い。光シグナル伝達に関与しているELONGATED HYPOCOTYL 5(HY5)はABAシグナル伝達や側根形成にも関与していることが知られていることから、fry1 hy5 二重変異体芽生えの形態を観察したところ、二重変異体ではfry1 単独変異体で見られる胚軸伸長抑制や側根形成阻害が弱まっていることがわかった。ただし、葉の形態に関しては変化は見られなかった。xrn2 xrn3 二重変異体芽生えはfry1 変異体の表現型の1つである光感受性が高くなって胚軸が短くなる特徴を示し、xrn4 変異体は側根形成が抑制される。よって、HY5はFRI1の下流において作用して、XRN2/XRN3を介した光シグナル伝達とXRN4を介した側根形成制御の両者を統合していると考えられる。

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論文)フィトクロムによる胚軸の負の重力屈性阻害機構

2011-02-04 21:26:51 | 読んだ論文備忘録

Phytochromes inhibit hypocotyl negative gravitropism by regulating the development of endodermal amyloplasts through phytochrome-interacting factors
Kim et al.  PNAS (2011) 108:1729-1734.
doi:10.1073/pnas.1011066108

植物の胚軸は上に向かって成長するが、赤色光や遠赤色光照射下では胚軸の負の重力屈性が失われてランダムな方向へと成長する。これはフィトクロムが光受容して発せられたシグナルがbHLH型転写因子Phytochrome interacting factor(PIF)の分解をもたらすことで引き起こされる。韓国科学技術院(KAIST)Choi らは、フィトクロムとPIFによる胚軸の負の重力屈性の制御について解析を行なった。暗黒下で育成したシロイヌナズナ芽生えの重力方向を変えると、胚軸は重力と反対の方向に屈曲するが、赤色光下で育成した芽生えでは重力方向変化に応答せず同じ方向へと成長した。しかし、pif1 pif3 pif4 pif5 四重変異体(pifQ )の胚軸は光条件に関係なく重力方向変化に応答しなかった。暗黒化で育成したpifQ 変異体芽生えでは、胚軸伸長領域の内皮に重力センサーとなるアミロプラストが見られず、小さなデンプン粒やプロラメラボディ、プロチラコイドを含んだエチオプラストのようなプラスチドが存在していた。よって、pifQ 変異体の重力屈性の喪失は、内皮のアミロプラストが他のプラスチドへと変化したことによって引き起こされたものであり、PIFは暗黒下でのアミロプラストが他のプラスチドへの変化を阻害していると考えられる。光照射による内皮デンプン粒の縮小にはフィトクロムが関与しており、phyA 変異体では暗黒下と遠赤色光下で育成した芽生えの胚軸でデンプン粒が見られ、phyB 変異体では暗黒下と赤色光下で育成した芽生えにデンプン粒が見られた。黄化芽生えを赤色光下に移した際のデンプン粒の喪失には12時間かかり、赤色光照射によるアミロプラストの他のプラスチドへの変化、すなわち芽生えの重力感受性喪失は比較的ゆっくりしている。pifQ 変異体でPIF1 を内皮特異的に発現するSCARECROW プロモーター制御下で発現させると、暗黒下での胚軸の負の重力屈性が回復し、内皮にアミロプラストが見られるようになった。以上の結果から、フィトクロムはPIFを阻害することで内皮のアミロプラストを他のプラスチドに変換する過程を誘導していると考えられる。フィトクロムによる重力屈性喪失とプラスチド分化は異なる機構であると考えてしまうが、両者は密接に関連していることを今回の結果は示している。

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論文)オーキシンと結合する新規F-boxタンパク質

2011-02-03 19:22:35 | 読んだ論文備忘録

The Arabidopsis Cell Cycle F-Box Protein SKP2A Binds to Auxin
Jurado et al.  The Plant Cell (2010) 22:3891-3904.
DOI:10.1105/tpc.110.078972

IN BRIEF
Auxin Binding by SKP2A Activates Proteolysis of Downstream Cell Cycle Regulators and Promotes Cell Division
Jennifer Mach  The Plant Cell (2010) 22:3877.
DOI:10.1105/tpc.110.221210

オーキシンはF-boxタンパク質のTRANSPORT INHIBITOR RESPONSE1(TIR1)が標的タンパク質のAux/IAAと結合する際の分子糊として機能していることが知られており、現在のところ、TIR1とそのホモログが唯一のオーキシン受容体とされている。スペイン マドリード工科大学-国立農業・食品研究所(INIA) 植物バイオテクノロジー・ゲノミックスセンター のdel Pozo らは、以前に、シロイヌナズナにおいて細胞周期を制御している転写因子のE2FCとDPBの分解に関与しているF-boxタンパク質のS-Phase Kinase-Associated Protein 2A(SKP2A)がオーキシン処理によって速やかに分解されることを見出しており、今回、SKP2Aはtir1-1 変異体でも蓄積されないことを明らかにした。このことは、SKP2AはTIR1に受容されて分解されるのではないことを示唆している。プロテアソーム阻害剤のMG132やオーキシンシグナル伝達阻害剤のterfestainA(TerfA)はSKP2Aの蓄積をもたらすことから、SKP2Aの分解はユビキチン-プロテアソーム系によってなされ、オーキシンシグナルによって制御されている。植物体粗抽出液を用いた実験においても、生物活性のあるオーキシンを添加した場合にのみSKP2Aの分解が起こることが示された。よって、オーキシンが直接SKP2Aの分解に関与しているのではないかと考え、プルダウンアッセイによりSKP2Aタンパク質とIAAが結合するかを調べたところ、SKP2Aはオーキシンと結合することが確認された。さらに、C末端側を削ったSKP2Aタンパク質によるプルダウンアッセイ、ヒトSkp2タンパク質やIAA分子の結合したTIR1タンパク質の立体構造を参考にして、SKP2Aのオーキシン結合部位を同定した。そして、オーキシンとの結合にとって重要であると推定されるアミノ酸残基を置換した変異SKP2Aタンパク質ではオーキシン結合能が低下していることを確認した。変異SKP2Aタンパク質は生体内で通常のSKP2Aよりも多く蓄積し、オーキシンを添加しても分解されず、MG132やTerfA処理をしても蓄積量に変化は見られなかった。よって、変異SKP2Aはユビキチン-プロテアソーム系による分解を受けず、オーキシンシグナルによって制御されないことが示唆される。SKP2A を過剰発現させるとE2FCやDPBの量が減少するが、変異SKP2A を過剰発現させた場合にはそのような減少は見られなかった。よって、SKP2Aタンパク質のオーキシン結合部位はE2FCやDPBの分解にとって重要であると考えられる。SKP2A 過剰発現個体では根の分裂組織での皮層細胞数の増加が観察されるが、変異SKP2A の過剰発現ではそのような変化は起こらなかった。SKP2AとDPBの結合はオーキシン添加によって促進されたが、変異SKP2AではDPBとの結合が減少していた。よって、SKP2AとDPBはオーキシン結合部位を介して結合しているものと思われる。skp2a 変異体の根は、オーキシンによる伸長阻害が野生型に比べて僅かに低減しており、tir1-1 skp2a 二重変異体はtir1-1 単独変異体よりもオーキシン抵抗性が増加していた。よって、この2つの遺伝子は協働してオーキシンによる根の伸長阻害に対して作用していることが示唆される。tir1-1 変異体においてSKP2A を過剰発現させることで側根原基の元となる始原細胞の細胞分裂促進がもたらされたが、低濃度オーキシン処理をした際にはtir1-1 変異体以上に側根が形成されることはなかった。以上の結果から、SKP2Aはオーキシンシグナルによる細胞分裂を制御するオーキシン結合タンパク質であることがわかった。オーキシンが低濃度の時には、SKP2AがEF2C-DPBと結合しないためにこれらの転写因子により細胞分裂が抑制されているが、オーキシン存在下ではDPBやEF2CはSKP2Aを介してユビキチン化されてプロテアソーム系によって分解され、細胞分裂・分化が引き起こされる。さらにSKP2Aの機能が行き過ぎとなるのを制限するためにSKP2A自身もユビキチン化されて分解される。SKP2Aがユビキチン化される機構については、現時点では明らかではない。

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論文)ストリゴラクトンによる側根形成と根毛形成の制御

2011-02-01 20:09:27 | 読んだ論文備忘録

Strigolactones affect lateral root formation and root-hair elongation in Arabidopsis
Kapulnik et al.  Planta (2011) 233:209-216.
DOI:10.1007/s00425-010-1310-y


イスラエル国立農業研究所ボルカニセンターKoltai らは、以前に合成ストリゴラクトンGR24が細胞からのオーキシン排出に影響を及ぼすことでトマト芽生えの根の形態に変化をもたらすことを報告している[Koltai et al.  J Plant Growth Regul (2010) 29:129-136.]。今回、シロイヌナズナのストリゴラクトン(SL)合成変異体(max3-11max4-1 )やシグナル伝達変異体(max2-1 )を用いてストリゴラクトンが根の形態形成に及ぼす影響を調査した。通常の生育条件下で育成した芽生えの根を観察すると、max2-1max4-1max3-11 各変異体とも野生型よりも側根形成密度が高くなっていた。よって、内生SLは側根形成を負に制御していると考えられる。野生型芽生えをGR24処理すると、その濃度に応じて側根形成密度が低下した。この現象はmax4-1max3-11 変異体においても観察されたが、max2-1 変異体では見られなかった。GR24処理した芽生え側根の成長ステージの比較から、GR24は側根誘導に対して影響を及ぼしていることが示唆された。また、GR24処理した野生型植物芽生え根の根毛は無処理区のものよりも長くなっていた。このGR24処理による根毛伸長促進はmax4-1max3-11 変異体においても観察されたが、max2-1 変異体では根毛伸長は起こらなかった。また、高濃度のGR24処理をすると野生型、max3-11 変異体芽生え根の根毛伸長促進は低下していった。以上の結果から、SLはMAX2シグナル伝達経路を介してシロイヌナズナの側根形成を阻害し、根毛伸長を促進するすることがわかった。根毛の伸長はAUX1オーキシントランスポーターによる根毛形成表皮細胞でのオーキシン濃度の上昇によって引き起こされることが知られており、GR24は根でのオーキシン輸送を制御することで根毛伸長を引き起こしていると思われる。しかし、GR24が高濃度になるとオーキシン蓄積が高すぎて根毛伸長促進が見られなくなると考えられる。根毛形成はリン酸、鉄、窒素量の低い条件下で誘導され、菌根栄養性植物では低リン酸、低窒素条件においてSL生産が誘導されることが知られている。シロイヌナズナは菌根栄養性植物ではないが、低栄養条件での根毛形成促進はSLが関与しているとも考えられる。

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