RD26 mediates crosstalk between drought and brassinosteroid signalling pathways
Ye et al. Nature Communications (2017) 8:14573.
DOI: 10.1038/ncomms14573
ブラシノステロイド(BR)は植物の成長やストレス応答を制御していることが知られている。幾つかの研究から、BR処理によって植物の乾燥耐性が高まることが報告されており、一方でBR欠損変異体は乾燥耐性が高まることも報告されている。また、乾燥によって誘導される転写因子RESPONSIVE TO DESICCATION 26(RD26)やそのホモログがBRシグナル伝達に関与しているBRI1 EMS SUPPRESSOR 1(BES1)やBRASSINAZOLE RESISTANT 1(BZR1)の直接のターゲットとなっており、ブラシノライド(BL)処理によってRD26 の発現が抑制されることが知られている。米国 アイオワ州立大学のYin らは、BES1はRD26 遺伝子のプロモーター領域にあるBRRE部位に結合することをクロマチン免疫沈降(ChIP)試験で確認し、BES1タンパク質が過剰蓄積するbes1-D 変異体ではRD26 の発現が抑制されていることを見出した。RD26 を過剰発現させたシロイヌナズナ(RD26OX )は成長が抑制され、bes1-D RD26OX 植物はbes1-D 機能獲得変異体の表現型を抑制した。しかし、この植物体でのBES1タンパク質量やBES1タンパク質のリン酸化状態に変化は見られないことから、RD26はBES1の下流においてBRを介した成長を抑制していると考えられる。RD26OX の芽生えは、胚軸が短く、BR生合成阻害剤のブラシナゾール(BZR)に対する感受性が高く、BL処理による胚軸伸長促進が低下していた。RD26とそのホモログであるANAC019 、ANAC055 、ANAC102 が機能喪失したrd26 anac019 anac055 anac102 四重変異体は野生型よりもBR応答性が高く、BRZ感受性が低下していた。よって、RD26とそのホモログはBRシグナル伝達経路において負の制御を行なっていると考えられる。RNA-seq解析の結果、RD26OX では、3246遺伝子の発現量が野生型よりも増加し、5479遺伝子の発現量が減少していることがわかった。野生型植物をBL処理すると2678遺伝子の発現量が増加し2376遺伝子の発現量が減少するが、発現量が増加する遺伝子の43%(グループ1、1141遺伝子)はRD26OX で発現量が減少し、20%(グループ3、539遺伝子)はRD26OX で発現量が増加していた。BL処理によって発現量が減少する遺伝子のうち、25%(グループ2、595遺伝子)はRD26OX で発現量が増加しており、35%(グループ4、823遺伝子)は発現量が減少していた。BR応答性が低下しているrd26 anac019 anac055 anac102 四重変異体では、405遺伝子の発現量が野生型よりも増加し、378遺伝子の発現量が減少していた。BES1はターゲット遺伝子のBRRE部位に結合して遺伝子の発現を抑制し、BZR1はターゲット遺伝子のE-boxに結合して遺伝子発現を活性化する。BRREエレメントは特にグループ2に属する遺伝子のプロモーター領域に多く見られ、E-boxはグループ1遺伝子のプロモーター領域に多く見られた。グループ1およびグループ2に属する遺伝子のプロモーターにレポーターとしてルシフェラーゼ遺伝子を融合したコンストラクトを用いで一過的発現解析を行なったところ、グループ2遺伝子の発現はBES1によって抑制され、RD26によって活性化されること、逆にグループ1遺伝子の発現はBES1によって活性化され、RD26によって抑制されること、RD26 とBES1 を共発現させるとレポーター遺伝子の発現は中程度になることがわかった。したがって、RD26とBES1はBRによって発現制御される遺伝子に対して拮抗的に作用していることが示唆される。RD26を含むNAC転写因子が結合するDNAモチーフの配列はE-boxやBRREと類似しており、RD26とBES1は同じ部位に結合してターゲット遺伝子の発現を調節していることが推測される。酵母two-hybridアッセイ、クロマチン免疫沈降、ゲルシフトアッセイ、BiFCアッセイから、RD26はBRRE部位においてBES1と相互作用をしてBES1によるターゲット遺伝子の発現抑制を阻害し、E-boxにおいてBES1と相互作用をしてBES1によるターゲット遺伝子の活性化を阻害することが示された。乾燥ストレスによって2503遺伝子の発現が誘導され、2862遺伝子の発現が抑制される。RD26OX では乾燥ストレス制御を受ける遺伝子のうち、乾燥で誘導される遺伝子の38%(963遺伝子)と抑制される遺伝子の12%(346遺伝子)の発現量が増加しており、乾燥で抑制される遺伝子の45%(1299遺伝子)と誘導される遺伝子の19%(488)の発現量が減少していた。このことから、RD26は乾燥ストレス応答において主要な役割を演じていると考えられる。また、BRによって発現制御を受ける遺伝子の38%は乾燥による制御を受けていた。BR受容体の機能が低下したbri1-5 変異体は乾燥ストレスに対する耐性が増加しており、bes1-D 機能獲得変異体は乾燥ストレス耐性が低下していた。RD26 、ANAC019 、ANAC055 、ANAC102 および乾燥耐性に関与する遺伝子(BOS1 、ERD1 、At1g29395、At3g62650、At1g10070)の発現は、bri1-5 変異体で増加し、bes1-D 変異体で減少していた。したがって、乾燥応答遺伝子は機能喪失BR変異体では恒常的に発現し、機能獲得変異体では抑制されており、BRシグナル伝達経路は乾燥応答を、おそらくRD26 とそのホモログの発現を抑制することで阻害していると考えられる。bes1-D RD26OX 二重変異体では、乾燥応答におけるbes1-D 変異の表現型が打ち消されていた。また、RD26OX やbes1-D RD26OX 二重変異体ではbes1-D 変異体で発現誘導されていた幾つかの遺伝子で発現量の低下が見られた。BES1とRD26/ホモログの遺伝子制御ネットワーク(GRN)を比較すると、RD26 と3つのホモログは直接もしくは他の遺伝子を介して発現の相関性が見られるが、BES1 は他の遺伝子との関連性が低くなっていた。またRD26/ホモログのクラスターとBES1のクラスターはBOS1 遺伝子のみを介して繋がっていた。RD26-BES1 GRNの103遺伝子のうち、82%の遺伝子にRD26OX で発現量に変化が見られたが、これはRD26OX で発現量変化した遺伝子のわずか1/3であった。同様に、GRNで提示された遺伝子の72%が乾燥によって、52%がBRによって発現量が変化したが、どちらも実際に発現量変化を示した遺伝子の1/4程度であった。GRNとRNA-seqデータから、BES1を介したBRシグナル経路とRD26による乾燥応答との間には相互作用が見られ、その相互作用は転写レベルにおいても見られるが、多くは両者のタンパク質相互作用のような転写後の制御であると思われる。以上の結果から、ブラシノステロイドと乾燥応答はRD26を介して関連しており、BRシグナル伝達に関与するBES1はRD26 遺伝子の発現を抑制し、RD26はBES1と相互作用をすることでBES1によるターゲット遺伝子の転写活性化を阻害していることが明らかとなった。この相互の阻害機構は、BRによって誘導される成長を乾燥条件下で阻害するだけでなく、植物がBRに応答して成長する際の不必要な乾燥応答を妨げる役割があると考えられる。
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