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論文)強光+高温ストレスとジャスモン酸

2020-01-17 22:27:37 | 読んだ論文備忘録

Jasmonic Acid Is Required for Plant Acclimation to a Combination of High Light and Heat Stress
Balfagon et al.  Plant Physiology (2019) 181:1668-1682.

doi:10.1104/pp.19.00956

ここ数年、植物は夏の日中に強光(HL)と高温ストレス(HS)に曝されることが多くなっている。このような環境条件は光合成装置に大きく影響し、植物の成長を制限している。米国 ミズーリ大学 ボンドライフサイエンスセンターのZandalinas らは、HLとHSを組合せて処理をしたシロイヌナズナのトランスクリプトーム解析を行なった。HL+HS処理に応答して転写産物量が増加する6314遺伝子のうち、2125遺伝子(34%)はHL処理によっても転写産物量が増加し、3166遺伝子(50%)はHS処理でも増加しており、2239遺伝子(36%)はHL+HSによって特異的に増加していた。HL+HS処理で転写産物量が増加する遺伝子には、PSⅡタンパク質(PsbC、PsbA、PsbB、PsbE)、PSⅠタンパク質(PsaA、PsaK、PsaC、PsaH)、チトクロームb6f 複合体タンパク質(PetB、PetC)、電子伝達に関与するタンパク質(PetE、PetF)をコードする遺伝子が含まれていた。さらに、PSⅡのD1タンパク質の分解に関与するタンパク質(PtsH1、PtsH5、PtsH6、PtsH8)、修復に関与するタンパク質(CYP20-3、PSB27)、PSⅡの再構成に関与するタンパク質(CYP20-3、LQY1、PBF1、HCF136、PSB33)をコードする遺伝子発現量が増加していた。このことから、PSⅡのD1タンパク質はHL+HSに感受性が高く、このストレス組合せを受けた植物はD1を修復するように作用することが示唆される。ストレス処理による葉緑体構造の変化を見ると、HL処理はデンプン粒が減少してチラコイド膜が増加し、HS処理はデンプン粒の増加とチラコイド膜の減少、HL+HS処理は歪んだデンプン粒の増加とチラコイド膜の減少が見られた。したがって、HL+HS処理は葉緑体構造と代謝に影響していることが示唆される。また、ストレス組合せはシロイヌナズナのジャスモン酸(JA)とJA-Ileの含量、JA生合成に関与する転写産物の量を増加させることがわかった。そこで、JA欠損aos 変異体のストレス応答性を見たところ、野生型と比較してaos 変異体はストレス組合せに対する感受性が高いことがわかった。したがって、JA応答はHL+HSに対する耐性にとって重要であると考えられる。以上の結果から、強光と高温の組合せは植物の光合成能力を著しく低下させ、植物ホルモンのジャスモン酸はこのストレス組合せに対する応答を正に制御していると考えられる。

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