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論文)WRKY転写因子によるイネ葉身傾斜角度の制御

2024-08-28 09:02:08 | 読んだ論文備忘録

Transcription factor OsWRKY72 controls rice leaf angle by regulating LAZY1-mediated shoot gravitropism
Liu et al.  Plant Physiology (2024) 195:1586–1600.

doi:10.1093/plphys/kiae159

イネの葉身傾斜角度は、栽培や収量に影響を及ぼすと考えられている重要な形質である。葉身傾斜角度は様々な因子やシグナル伝達経路によって制御されているが、詳細な分子機構は解明されていない。中国 雲南大学のYuらは、WRKY転写因子のOsWARK72 がラミナジョイント(葉身基部)で強く発現していることを見出し、葉身傾斜角度に関係しているのではないかと考え、解析を行なった。CRISPR/Cas9によって作出したoswaky72 変異体幼苗の第2葉、第3葉の葉身傾斜角度は野生型植物よりも小さくなっていた。また、OsWARK72 をトウモロコシユビキチンプロモーター制御下で過剰発現させたOsWARK72-OE 系統幼苗の第2葉、第3葉の葉身傾斜角度は野生型植物よりも大きくなっていた。これらの結果から、OsWRKY72はラミナジョイントにおける葉身傾斜角度を正に制御していることが示唆される。野生型植物とoswaky72 変異体の幼苗を用いてRNA-seq解析を行なったところ、oswrky72 変異体において677個の発現上昇遺伝子と750個の発現減少遺伝子が検出された。発現量が変化している遺伝子の中には葉身傾斜角度の制御に関与していることが知られているものがいくつか含まれており、葉身傾斜角度を正に制御しているNutrition Response and Root GrowthNRR)、OsCYP51G3OsFTL12Mitogen-Activated Protein Kinase Kinase Kinase 55OsMKKK55)、OsDWARF4 の5遺伝子はoswrky72 変異体において発現が低下しており、葉身傾斜角度を負に制御しているLAZY1OsWAK11oswrky72 変異体において発現が上昇していた。また、LAZY1OsWAK11OsWARK72-OE 系統において発現が減少していた。OsWRKY72によって制御される標的遺伝子を探索するために、DNA親和性精製シーケンス(DAP-seq)解析から得られたOsWRKY72結合遺伝子のデータセットとRNA-seq解析のデータセットを組み合わせ、OsWRKY72が直接標的としていると推測される861遺伝子を同定した。LAZY1OsFTL12OsWAK11 プロモーター領域には少なくとも1つの顕著なOsWRKY72結合ピークがが確認されたことから、これら3つの葉身傾斜角度関連遺伝子はOsWRKY72の直接の下流標的であると思われる。EMSAアッセイから、OsWRKY72がLAZY1 遺伝子プロモーター領域のTTGACモチーフに結合することが確認された。また、一過的発現解析から、OsWRKY72はLAZY1 の発現を直接抑制することが判った。OsWRKY72がOsFTL12OsWAK11 遺伝子のプロモーターにも直接結合することがEMSAアッセイによって示され、OsWRKY72は他の下流遺伝子とも相互作用をして葉身傾斜角度を制御している可能性がある。これまでの研究から、LAZY1はオーキシンの極性輸送を制御することによってイネシュートの重力屈性を調節し、それによって葉と分けつの角度を変化させることが知られている。そこで、OsWRKY72による葉身傾斜角度の制御に重力屈性が関与しているかを調査した。その結果、oswrky72 変異体のシュートは 野生型植物よりも強い重力応答を示すが、OsWRKY72-OE 系統は重力応答性が弱いことが判った。重力刺激後の葉身傾斜角度を見ると、oswrky72 変異体と野生型植物は、対照群(重力刺激なし)と比較して葉身傾斜角度が有意に拡大し、oswrky72 変異体は野生型植物よりも角度の増大が大きかった。しかし、OsWRKY72-OE 系統では対照群との間に葉身傾斜角度の有意差は見られなかった。これらの結果から、OsWRKY72はLAZY1 の上流で機能し、イネ幼苗の重力屈性に影響を与えることで葉身傾斜角度を調節していることが示唆される。OsWRKY72による葉身傾斜角度の制御がイネの農業形質に影響しているかを見たところ、OsWRKY72-OE 系統は、野生型植物と比較して、止葉角度、分けつ数、籾長は増加したが、草丈、止葉幅、穂長、二次枝梗数、籾幅、籾厚、1穂籾数が減少し、その結果、籾千粒重と1株あたりの収量が減少していた。oswrky72 変異体は、止葉角が小さく、草丈が高く、籾が長くて幅広であったため、籾千粒重が増加し、1 株あたりの収量が幾分増加した。以上の結果から、OsWARK72は、LAZY1 の発現を直接抑制することでイネシュートの重力屈性を阻害し、葉身傾斜角度の拡大に対して正に寄与していると考えられる。

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