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論文)エチレンによるイネの根の伸長角度の制御

2024-09-10 18:28:29 | 読んだ論文備忘録

Ethylene regulates auxin-mediated root gravitropic machinery and controls root angle in cereal crops
Kong et al.  Plant  Physiology (2024) 195:1969–1980.

doi:10.1093/plphys/kiae134

オーキシンはシロイヌナズナやイネの根の伸長角度を決定する重要な因子であり、オーキシンシグナル伝達の変異体では根の重力応答性が変化して根の角度が減少する。エチレンはオーキシンの上流で働くが、シロイヌナズナのエチレン変異体では重力屈性に異常がないことが示されており、根の角度の決定にエチレンが関与しているかは不明である。中国 上海交通大学Huangらは、イネの根の角度に対するエチレンの役割を解明するために、エチレン非感受性変異体ethylene insensitive2osein2/mhz7)ethylene insensitive like1oseil1/mhz6)を用いて解析を行なった。その結果、osein2 変異体、oseil1 変異体の幼苗および成熟個体は冠根の伸長角度が野生型植物よりも小さくなる(横に広がる)ことが判った。したがって、シロイヌナズナとイネでは、根系構造の制御におけるエチレンの役割が異なることが示唆される。osein2 変異体、oseil1 変異体の主根と冠根は、正常に伸長したが、重力屈性応答が低下していた。また、野生型植物をエチレン前駆体である1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸(ACC)もしくはエチレン作用阻害剤の1-メチルシクロプロペン(1-MCP)で処理すると、冠根の重力屈性が促進もしくは抑制され、それぞれの根系がより深くもしくはより浅く発達した。これらの結果から、エチレンは根の重力屈性に影響を与え、冠根の角度を変化させることが示唆される。エチレンは他の植物ホルモンとのクロストークを介して生長制御を行なっており、イネの根ではオーキシンとアブシジン酸がエチレンの下流で作用していることが報告されている。ホルモンプロファイリング解析の結果、osein2 変異体の根はオーキシン含量が低下していることが判った。また、エチレン非感受性変異体にオーキシン(NAA)処理をすると根の重力屈性の欠損が完全に回復した。これらの結果から、エチレンはオーキシン量を制御することで根の重力屈性を調節していることが示唆される。エチレンシグナル伝達因子であるOsEIL1は、エチレンを介した根の伸長阻害の際に、オーキシン生合成に関与する遺伝子のOsYUCCA8OsYUC8)MAO HU ZI10MHZ10)/TRYPTOPHAN AMINOTRANSFERASE2(OsTAR2)を直接活性化することが示されている。エチレン非感受性変異体の根ではMHZ10 の発現量が減少しており、mhz10 変異体は、エチレン非感受性変異体と同様に、根の重力屈性が低下していた。mhz10 変異体にオーキシン処理をすることで重力性欠損が回復したが、ACC処理に対しては応答しなかった。したがって、エチレンはMHZ10に依存して根の重力屈性を制御していることが示唆される。水田栽培したmhz10 変異体成熟個体の根系は浅くなっており、エチレンを介したオーキシン生合成による根の重力屈性の調節は根系構造にとって重要であると考えられる。エチレン-オーキシンによる根の伸長角度制御がトウモロコシにおいても見られるかを、CRISPR-Cas9技術で作出したZmEIN2 の機能喪失変異体を用いて解析したところ、zmein2 変異体の根は重力屈性が低下しており、この欠損はNAA処理によって回復することが確認された。また、zmein2 変異体は、ACC処理に対する応答性が低く、浅い根系を形成したが、オーキシン処理後は深い根系を形成した。以上の結果から、エチレンはオーキシンに依存した根の重力屈性機構を制御することでイネとトウモロコシの根の伸長角度を制御していると考えられる。

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