≪ 2018・2・25 掲載記事 ≫
毎週土曜日の、朝、8時5分。
起き掛け、しばらくしての、ぼんやりした頭のまま、ラジオのスイッチを入れるのが、なかば習慣化している。
「ラジオ文芸館」なる、NHKの番組、
実質、37分ほどで読み切れる短編小説を、局の、老若男女、あらゆる世代の幅広い、全国各地で勤務しているアナウンサーが、毎週、朗読をするというものだ。
小説そのものが、冒頭15分くらいで、思わず、ぐぐ、ぐいっと惹き込ませるくらいの出来栄えでなければ、スイッチを切り、他のことをする。
落語など、芸事の、客への「掴み」ではないが、原作が面白くなければ、どんな巧みな話し手であっても、耐えて最期まで聴くのには、限界がある。
原作と、朗読する話し手が、見事に合体、且つ、融合し、その文と文の間にある行間さえも、にじませる読み手には、そうそう、巡り合えるものではない。
それが実現出来ていたのが、表題に掲げた「梅の蕾(つぼみ)」であった。
すでに、残念なことに、他界された小説家・・・・というより、ルポ・ライターや、ノンフィクション・ライターと言い換えた方が当たっている人物。
調べ尽くしてから、資料も横に積み上げ、おもむろに筆を手にとる書き手だった。
ホントに、地を這うようにして、徹底取材。
ご本人が、あるインタビューで、こう話していた。
「例えばね。そこが、どういう町なのか? そりゃあ、地図を見たり、写真や、映像を数多く見れば、それなりには、ある程度は分かりますよ」
「でもね、それじゃあ、私は書けないんですよ。そこの町へ自分で足を運んで、そこに吹く風、匂い、暑さ、寒さ、風土とでも言いますか」
「そこの地域に古くから住んでいる人の顔や風情、特有の風土、みたいなものを、自分のカラダに染み込ませてからじゃないと、書き出せない。例え、そこの部分を文字にしなくってもねえ・・・。性分、みたいなもんですかねぇ・・・・」
聴いてて、分かる、見習わなくては!
今から11年8か月前。吉村は、重度のガンを、2度も発症。
決意の末、まさに命をつなぐ線とでも言うべきカテーテルの針を、自らのカラダから引き抜き・・・・絶命した。 壮絶ともいうべき覚悟の死であった。
享年、まだ79。
吉村の妻で、貧困生活を脱すべく、夫よりいち早く数々の文学賞を手にした同業者、津村節子は、夫の死後、「紅梅」という、死に至る晩年の夫との日々と、死後の想いを、ノンフィクション小説的なタッチで、世に出している。
胸に染み入る名著,といって良い。現在、89歳。存命である。
その妻が「夫は、例え短編を書くつもりでも、山のように取材メモや資料を積み上げ、まるで数冊、本が出せるかのような調べ方を、いつもしておりました」と、語っている。
そんな短編の1本が、「遠い幻影」に収録されている、この「梅の蕾」だ。
舞台は、岩手県下閉伊郡(しもへいい郡)田野畑村(たのはたむら)。
このように切り立った断崖の上にあり、一見風光明媚な海岸線に沿って立つ村である。
そう、あの丸7年前の「三陸沖 超津波 大地震」にも襲われ、死者や被災者を多数出し、仮説住宅が広範囲に建てられた歴史ももつ。
そこで、かつてあった「実話」が基になり、書かれたのが、このノンフィクション小説だ。
とはいえ、出てくる医師や、村長の名前は、実名のままにはしていない。
コレを、朗読したのは、この黒沢保裕(やすひろ)アナウンサー。
現在、61歳。60歳の誕生日で、規定により、一応の定年退職をしたのち、肩書きこそ「シニア・アナウンサー」という名称が付く、嘱託アナウンサーとなり、現在は、Eテレの「きょうの健康」という15分番組の司会をしている。
この朗読が、「ラジオ文芸館」に登場したのは、あの大震災から、4か月後のこと。
この短編小説のことは、まったく聴くまで知らなかった私。
あの3・11の瞬間は、茨城県の山間部で遭遇。
目の前、3メートル先の地面が揺れた末に、大きく割れて、裂け目が出来、あわてては逃げていれば落ちるところであった。
その後、震災地へ、やっとの想いで、たどり着き、取材を重ねて帰ってきたあとであった。 岩手県の田野畑村?
さて。。。。。と想いを巡らしながら、聴き入り・・・・不覚にもラストに向けてのくだりで、2度ほど、涙があふれ出た・・・・・・。
実話と、その後、知り、録音したものを、再度聴き直しても、胸が熱くなった。
物語の経緯も、流れも、あえて書かない。
先日の、2月18日(日)の深夜、というより、正確を期せば、2月19日(月)の午前1時過ぎ、のこと。
「ラジオ深夜便」で、この朗読が、6年7か月ぶりに、違う時間枠で再放送され、再び、聴き入った。
それが、「聴き逃し」というサービス枠で、この2月26日(火)、午後6時まで、パソコンでいつでも聴けると知った。確かに、聴けた。
是非、文学や朗読に興味の無いという人にも聴いて戴きたくて、記事化した。
「ラジオ深夜便 2月18日」の分で、午前1時台を、クリックすれば、実質37分ほど。
丸々、聴けます。
黒沢保裕の声のトーン。間。区切り。たんたんと、感情をおさえて読み進めるからこそ、次第に、行間ににじむ、個々人の、あふれ出る想いまで、黒沢は、声なき語りをしていってます。
バス、のくだりで泣けます・・・・・
お薦めです。
文と声が、融合した、これほどまでの感動実話、傑作は、そうそう、この世にありません。
是非、是非・・・・
故・吉村昭と、田野畑村の、結びつきは強く、彼の文学碑も、このように建立されているほどです
あと、23時間ほどで聴けなくなりますので・・・・・
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≪ 2019・3・24 追記 ≫
小説に登場した、実在の医師は、千葉県木更津市に戻り・・・・・医師を続けていると思いきや、存命なのに、自ら医師廃業を届け出て、近年は、古くからの友人、旧友らと、釣りに出かけて、余生をゆったりと、送っているとのこと。
医師としては、とても優秀な評価が与えられており、何で、廃業をするに至ったのかは・・・・分かりませんでした。
自宅の電話も、不通となっておりました。、
妻の兄妹らとは、何が、起因であったのか、すっかり、疎遠、絶縁状態にあるようです。
また、小説にも出てきた、当時の、田野畑村の村長は、すでに、3~4年前に、他界。
その葬儀には、この医師も駆けつけ、参列。
故人との想い出に、しばし、浸り、村を離れたとのことでした。
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≪ 2019・5・29 最新追記 ≫
この記事を読まれている方。本日、おりましたんで、追記をば。
「朗読 梅の蕾」と打ちこみ、動画で、検索すると、聴けます。
正味、40分間。
感動実話。
じっくりと、お楽しみください
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