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小池真理子(1952-)「一角獣」(2001年、49歳):獰猛な「一角獣」は、精神における「純潔な乙女」「清らかな処女」にだけ気をゆるす!

2020-05-01 20:50:15 | 日記
(1)美人の32歳の「女」という設定!
「女」は32歳だった。男からよく誘われ、断るのも面倒くさいので、たいてい男と寝た。1万円札数枚を渡された。「女」は、「女でも娘でもない、ただ、のそりと立っている、古い蠟燭のように」なってしまいたかった。「早く年をとりたい」と「女」は思っていた。
《感想1》①「女」は、年を取ってどう生活していくのか、全く心配していない。「老後に2000万円必要」と言われる時代の老後の心配がない。2001年はすでにバブルが崩壊し「失われた10年」が終わり、「失われた20年」が始まる時代だ。だが「女」は若いから老後のことなど考えない。まず生きて行かねばならない。そして成り行きまかせだった。②若くて病気しなければ、また子供がいなければ、確かに生きていける。③ただし売春で一挙に高額が入れば、堅気で働く気が無くなる。しかし「女」は意図的に売春で生きようとはしていない。④実際、「風俗業」も大変だ。競争、妬み、いじめ、嫌がらせ、病気、嫌な客、安い賃金、差別等、茨の道だ。
《感想1-2》この「女」は美人だ。男からしょっちゅう誘いがかかる。不美人な「女」では、この小説の主人公になれない。Cf. 精神における「純潔な乙女」「清らかな処女」(後述)は、美人でなければ様(サマ)にならない。
(2)「品のない」人種と「品のある」人種!
女は居酒屋に勤めていた。「品のない」居酒屋だった。客の不動産会社の社長が「奥歯にはさまった焼鳥の滓を指先でせせりだしてみせる」。その客が、女に「版画家の通いの家政婦として勤めないか」と尋ねた。女は「どぶの匂いと酒の匂い」にうんざりしていたので、この話を受けた、
《感想2》著者は「品のある」人種だ。まことに高級だ。『枕の草子』の清少納言を思い出す。清法納言は「下衆(ゲス)」を人間と思わない。「不動産会社の社長」は「品のない」人種に分類される。
《感想2-2》だが、この世は戦いだ。「品」のあるなしなど言ってられない。
《感想2-3》ただし「品」がないと「品のある」人種と付き合えない点で、商売・出世のチャンスが減る。この限りで世間で成功するチャンスが減る。
(3)「女はまともな教育を受けていなかった」!
「女はまともな教育を受けていなかった」。「女」は「家庭が悪かったせい」と「両親を呪った」こともあった。しかし「最近はそんなことも考えなくなった。」
《感想3》この作家は、《中卒》は「まともな教育」を受けていないと言う。「女」は《中卒》だ。あるいは《高卒》だ。この作家は《大卒》で、《中卒》《高卒》に対し上から目線だ。
《感想3-2》世の中は熾烈だ。まず①生まれつきの身体的・知的能力差がある。②幸福追求権・人格権は誰にでもある。しかしそれを実現する能力に差を持って人は生まれてくる。④同程度の努力をしても、初めから生まれつき差(ハンディ)がある。⑤とりわけ豊かな家に生まれたか貧しい家に生まれたかも大きな差(ハンディ)で、機会(チャンス)の平等が大幅に損なわれる。
《感想3-3》「まともな教育」を受けていない者は、自分がそのように差別されている状況を、日々思い知らされる。
(4)「言葉にならない感情」が堆く積まれていた!「女」は無口だ!
一月末、「女」は版画家の通いの家政婦になった。彼は妻子と別居していた。また彼はがっしりした男で、無口だった。「女」は「荒涼とした原野のような人間」だった。だが「女」は「そういったことを言葉にして表現する方法」を知らなかった。いつも「言葉にならない感情」が堆(ウズタカ)く積まれていた。
《感想4》「女」はおそらく日記などつけなかった。だが文章に書かなくても、しゃべる(語る)ことができるから「感情」はしばしば「言葉」になる。「女」は「自分を語ったり」しないのだ。「女」は無口だ。
(5)「女」は初めて「恋」をした!
版画家は50歳位で無口だった。「女」に手を出すこともなかった。「女」は通いの家政婦だったが、やがて版画家と夕餉の食卓を囲むようになった。版画家は「女」に絵の話、詩や小説の話、宇宙の話などした。「女」は「ためになる」と思って聞いていた。「女」は、この版画家に抱かれる自分を夢想するようになった。「女」は初めて「恋」をした。それまで「女」は「恋などしたことがなかった」。「女」にとって「男と女は肉と肉のつながりでしかなかった」。
《感想5》この「女」も子供時代の淡い初恋はあったろう。しかし思春期以降は「男と女は肉と肉のつながりでしかなかった」。
《感想5-2》父親からの性的虐待お受けていたかも知れない。
(6)獰猛な「一角獣」は「純潔な乙女」「清らかな処女」にだけ気をゆるす!
版画家の飼う猫シロが、「女」になついた。版画家が言った。「あなたが初めてだよ、シロがこんなになついたのは。これまで、誰にもなついたことなどない猫だったからね。」まるで獰猛な「一角獣」が「純潔な乙女」「清らかな処女」にだけ気をゆるすのに似てると、彼が言った。そして「純潔」かどうかは精神の問題だと、彼が言った。この時、「女は信じられないほど幸福な、浄化されていくような気持ちに充たされた」。
《感想6》「初恋」の相手から、自分が精神における「純潔な乙女」「清らかな処女」だと絶賛され、「女」は救われた。
(7)版画家は五月、突然自殺した!
だが版画家は五月、突然自殺した。シロもどこかに行ってしまった。「女」は版画家の妻子が「夏まで版画家の家の片づけをしない」と言ったので、毎日、版画家の家に行った。シロが帰ってくるかもしれないと思ったからだ。
《感想7》「女」は、版画家の家からそう遠くないアパートに住んでいたようだ。
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