DIARY yuutu

yuuutunna toki no nikki

兼好法師『徒然草』第119段「鎌倉の海に、鰹(カツヲ)といふ魚は・・・・・・」:初鰹がもてはやされるのは江戸時代になってからだ!

2018-10-30 21:09:56 | 日記
鎌倉あたりでは今、鰹が、人気がある。 Around Kamakura region, bonitos are popular now..
しかし昔は、上層の人は食べなかった。 However, old days, people in the upper class didn’t eat them.
頭は、下僕も食べず捨てた。 Even servents in the lower class didn’t eat their heads. They threw the latter away.
今は末世なので、上層の人まで食べることになった。 Now the world is so bad that even people in the upper class eat bonitos.

《感想1》京都の公家の立場に立ち、成り上がりの鎌倉武家政権への当てつけとも読める。
《感想2》鰹は、「勝男」に通ずるので、下魚といわれたのに武士が食膳に用いたとの説がある。(多田鉄之助)
《感想3》身が傷みやすいため古くから干した鰹を食用としたので、「カタウオ(堅魚)」・「カツオ(鰹)」と呼ばれた。
《感想4》江戸時代になると初鰹がもてはやされる。かくて「初松魚(カツオ)ナニ兼好が知るものか」と反発された。
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ホフマン(1776-1822)『砂男』(1815年):狂気の幻想的現実は、大多数の者が受け入れない「解釈」つまり「出来事の《イデア的意味あるいは言葉》への包摂」に基づく!

2018-10-30 17:41:43 | 日記
(1)「砂男」!
ナタナエルの子供時代、夕食後、父の書斎で妹たちとともに、父から色々面白い話をしてもらった。時計が9時を打つと母が「砂男がやって来るから寝なさい」と言った。子供たちは部屋に戻った。
(1)-2
砂男は夜、ベッドに行かない子供がいるとやってきて、子供の目に砂を投げ込む。すると目玉が血まみれになって飛び出す。砂男はその目玉を袋に入れて月に持ち帰り、砂男の子供たちに食べさせる。砂男の子供たちは先のまがった嘴(クチバシ)を持っていて、夜更かしの子供の目玉をつついて食べる。

《感想1》子供の目に砂を投げ込む砂男。血まみれになって飛び出した目玉を月に持ち帰る砂男。砂男の子供たちは先のまがった嘴を持し、夜更かしの子供の目玉をつついて食べる。この子供時代の恐怖が、ナタナエルがやがて発狂する原因の一つだ。ナタナエルのトラウマ①:砂男が夜更かしの子供の血まみれの目玉を集める話。

(2)「弁護士コッペリウス」!
毎日、夜9時過ぎに、誰かの足音が階段を上っていき、父の書斎に入っていく。子供だったナタナエルはその足音の人物こそが砂男だと思った。ある日、ナタナエルは書斎に隠れ、砂男の正体を確かめようと思った。すると、それは弁護士コッペリウスだった。彼は抜きん出て大きな体だった。
(2)-2
父とコッペリウスは、書斎の秘密の炉で火の中から光る塊を取り出した。そして「目玉よ、おいで、目玉よ、出てこい!」と言った。子供だったナタナエルはあまりの恐ろしさに、隠れて見ていた戸棚から転がり出た。コッペリウスが「目玉を頂くとしよう」と言ったので、ナタナエルは気を失った。その時の恐怖がもとで彼は数週間、寝込んだ。

《感想2》ナタナエルにとって弁護士のコッペリウスは間違いな砂男だ。しかもコッペリウスは「目玉を頂くとしよう」と言ってナタナエルを脅し、彼を数週間病気にさせた。ナタナエルのトラウマ②:弁護士コッペリウスの存在。(彼は砂男でナタナエルの目玉を要求する。)

(3)「父の爆発死」と「晴雨計売りコッポラ」!
コッペリウスは、その後町を去った。そして1年ほどたったある夜、コッペリウスが再び、父のもとを訪れた。真夜中頃、大砲をぶっぱなしたようなすごい音がした。書斎の煙が噴き出す炉の前に、黒焦げの顔で父が倒れていた。父が死んだ。爆発後、コッペリウスは姿を消した。
(3)-2
それから10年以上たち、大学生ナタナエルの下宿に数日前、晴雨計売りがやって来た。その男は憎むべきコッペリウスにそっくりだった。しかし本人は晴雨計売りのコッポラと名乗る。ナタナエルは父の仇を取りたいと思った。

《感想3》ナタナエルは自分だけの空想的物語を作った。コッペリウスは父を爆発で殺した。晴雨計売りコッポラは、実はコッペリウスだ。彼は①父の仇であり、また②その正体は砂男でナタナエルの目玉を取ろうと狙っている。

(4)婚約者クララの意見:不思議な「魔性の力」は「自我がつくりだす幻影」だ!
ナタナエルのこの話を知った婚約者クララが、ナタナエルに手紙を書いた。(a)コッペリウス弁護士は砂男でない、砂男と関係ない。(b)コッペリウスとナタナエルの父親は錬金術の実験をしていた。ナタナエルの父親の死は実験の際の爆発による不幸だ。(c)目に見えない不思議な「魔性の力」などこの世になく、それは心の中だけの問題で、「自我がつくりだす幻影」だ。(d)コッペリウス弁護士と晴雨計売りのコッポラとは別人だ。

《感想4》クララは日常的な現実のうちに住む。その限りで彼女は健康だ。「日常的」とは、「他者たちと共有される」ことだ。出来事について大多数の者が納得し受け入れる解釈、つまり出来事の《イデア的意味あるいは言葉》への包摂が、日常的な現実を可能にする。

(5)教授の娘オリンピア
ナタナエルは、大学で物理学のスパランツァーニ教授の講義を取る。教授は、晴雨計売りのコッポラを知っているという。教授の家には、美しい娘が居て、窓辺によく座っている。ただ惚(ホウ)けた目つきと言うか、まるで目をあけたまま眠っているみたいだと,ナタナエルは思う。その娘はオリンピアという名で、教授が部屋に閉じ込めて誰も近づけない。

《感想5》スパランツァーニ教授には、娘オリンピアがいる。この時点では、ナタナエルはまだオリンピアに恋していない。だから彼は、「オリンピアは惚(ホウ)けた目つきだ」と平気で言う。

(6)人は「魔性の力」に操られている:ナタナエルの意見!
クララとナタナエルは婚約していたが、ナタナエルはG町に下宿し大学に通う。クララの兄がロタールだ。さてナタナエルは、徐々に神秘的な熱狂にとりつかれ始めた。「人は自由と思っているが魔性の力に操られている。」「感動や感激も自分のものでなく、外部にある一段と高い力の原理が作用した結果だ。」そしてあのコッペリウスこそ魔性の力を操る者だ。子ども時代、隠れて見ていた戸棚から転がり出たのを発見され「目玉を頂くとしよう」とコッペリウスに言われて以来、ナタナエルは彼を恐れる。
(6)-2
ナタナエルの考えに対し、クララは「魔性の力は、ただの信じ込みに過ぎない」、「悪魔は心の中にいるだけだ」と言った。クララには、ナタナエルの陰気で退屈な神秘説が不快であり、二人の心は離れていった。ナタナエルは「コッペリウスがクララの目を死神に変え、そのクララの死神の目が親しげにナタナエルに微笑みかける」という詩を書いた。クララは「そのひどい、馬鹿げたおとぎ話を火にくべてほしい」と怒る。ナタナエルは憤然とし、クララに「血の通わないからくり人形め!」とわめき、駆け去った。

《感想6》ナタナエルにおいては、日常的な現実が徐々に幻想の現実に浸食される。彼は徐々に狂気になる、つまり幻想の現実のうちに住むようになる。「日常的」とは「他者たちと共有される」ことだ。「狂気」とは「他者たちと共有されない」ことだ。日常的な現実は、大多数の者が納得し受け入れる「出来事についての解釈」(つまり「出来事の《イデア的意味あるいは言葉》への包摂」)に基づく。これに対し狂気の幻想的現実は、大多数の者が納得し受け入れるのでない「出来事についての解釈」に基づく。

(7)「夢にとりつかれた気狂い野郎」!
兄ロタールは、妹クララの話を聞き、怒りが爆発する。ロタールが「夢にとりつかれた気狂い野郎」と罵れば、ナタナエルが「哀れな卑しい俗人め」と罵り返し、二人は決闘沙汰となった。クララが「愛する人と兄が殺し合うなら、まず私を殺しなさい」と訴え、二人はやっと思い返した。
(7)-2
ナタナエルは、クララ、ナタールと和解して、再び、G町に戻った。さて下宿に晴雨計売りのコッポラがやって来た。彼は望遠鏡を買わないかと言った。クララが言うように「妖怪はただ心の中だけにある」し、「コッポラがコッペリウスの分身でも亡霊でもない」し、コッポラは「機械工でありレンズの専門家だ」とナタナエルは思う努力をした。かくてナタナエルは、コッポラから懐中用の望遠鏡を買った。

《感想7》大多数の者が納得し受け入れる「出来事についての解釈」(つまり「出来事の《イデア的意味あるいは言葉》への包摂」)に基づく日常的現実にとどまろうと、ナタナエルは努力する。

(8)「オリンピアの目から、光が射し始め、その視力の火はやがて生き生きと燃え盛り・・・・」
ナタナエルは、望遠鏡で向かいのスパランツァーニ教授の部屋の居間にいるオリンピアを見た。すると、いつもは死んだように一点を凝視したまま動かないオリンピアの目から、光が射し始め、その視力の火はやがて生き生きと燃え盛り、ナタナエルはオリンピアの妖しく美しい顔に見とれた。彼は「オリンピアを見続けたい」という烈しい衝動のもとにあった。

《感想8》晴雨計売りコッポラの望遠鏡は「魔性の力」を持つ。ナタナエルの考えでは、コッポラは、コッペリウスだ。コッペリウスは「砂男」そのものであり、「魔性の力」を操る。ナタナエルは、狂気の幻想的現実のうちに住み始める。
《感想8-2》人形と人間の違いは、共感(一者である《感情・欲望・意図》の成立とその分化)が可能かどうかにかかっている。まず一者である共感が成立し、その後に自我(自モナド)と他我(他モナド)が分化する。
《感想8-2-2》自である物体(自身体)と他なる物体の成立は、自我(自物体を操作できる《感情・欲望・意図》)を成立させるが、他我は成立させない。ここにあるのは自我(自物体を操作できる《感情・欲望・意図》)対他物体の対立であって、自我(自モナド)対他我(他モナド)の対立でない。
《感想8-3》人形が人間となるためには、他物体である人形が、一者である《感情・欲望・意図》の成立とその分化の結果、他我(他モナド)とならなければならない。この時、同時に他方で、自我(自物体を操作できる《感情・欲望・意図》)が、自我(自モナド)となる。人間とは、自我(自モナド)と他我(他モナド)、つまり一般にモナドのことだ。
《感想8-4》「いつもは死んだように一点を凝視したまま動かないオリンピアの目から、光が射し始め、その視力の火はやがて生き生きと燃え盛り、ナタナエルはオリンピアの妖しく美しい顔に見とれた」。この出来事こそ、共感つまり、一者である《感情・欲望・意図》が成立しつつ、かつ相互に他である自物体と他物体が自我(自モナド)と他我(他モナド)に分化することだ。

(9)「オリンピアの目から愛と憧れがほとばしり・・・・」
ところが次の日、スパランツァーニ教授の部屋にはカーテンがピタリとひかれた。3日間、ナタナエルはオリンピアの姿を見ることが出来なかった。彼は狂おしく燃える「オリンピアへの憧れ」に支配され、クララの姿はすっかり忘れてしまった。やがてスパランツァーニ教授宅で盛大な宴会が開かれることが分かり、ナタナエルにも招待状が来た。教授が、かたく隠してきた娘のオリンピアのお披露目をするという。
(9)-2
教授宅の宴会にナタナエルは出席した。きらびやかな衣装をつけたオリンピアが現れ、ピアノを弾き、アリアを歌う。彼は一番後ろでよく見えなかったので、コッポラの望遠鏡を取り出しオリンピアの顔を凝視した。この時、彼は気づく。「オリンピアが憧れに満ちた眼差しでじっと自分を見つめている。」ナタナエルは「オリンピア!」と叫ぶ。それから彼はオリンピアと踊る。氷のように冷たい手だったが、オリンピアの目を凝視すると、その目から愛と憧れがほとばしり、冷たい手に脈拍が始まり、熱い血が燃え出すかのようだった。

《感想9》一者である共感がまず成立する。「オリンピアの目から愛と憧れがほとばしり・・・・」とは一者である共感そのものことだ。(正確には《共感》と言うべきでない!《一つの感情》がある!)すると《一つの感情》が分化して自モナド(人間としての自我)と他モナド(人間としての他我)となる。他物体つまり人形にすぎないオリンピアが、人間(他モナド)となる。その時、人間としての自モナドも成立する。
《感想9-2》人間とは、自我(自モナド)と他我(他モナド)である。モナドは、それぞれ、自我(自物体を操作できる《感情・欲望・意図》)、《自物体、他物体を含む物体世界》(あるいは《感覚》)、夢、意味世界(言葉で指示される)、意味世界の展開としての虚構世界からなる全体だ。

(10)一者である共感(この場合は愛)!
宴会から数日、スパランツァーニ宅の噂で町は持ち切りだった。娘のオリンピアはぎごちなさ、沈黙ぶりから、「まったくの愚鈍にちがいない」と衆議一決した。友人のジークムントは「どうしてああいう蝋人形のような女に惚れこんだのか」とナタナエルに言った。ナタナエルは憤慨した。「詩的な人間だけが彼女の愛の眼差しを受け止めることが出来る。少ない言葉は聖なる象形文字だ。愛と認識をたたえている。永遠の彼岸のあり方を教えてくれる。」ジークムントが「おい気は確かかね?」と心配した。

《感想10》一者である共感(この場合は愛)が成立しつつ、かつ相互に他である自物体と他物体に過ぎなかったものが、《一者である愛を分け持つ自我(自モナド)》と《同じくその一者である愛を分け持つ他我(他モナド)》に分化する。
《感想10-2》かくてコンピューターとの愛も可能だ!つまりコンピューターと私が、一者である愛の分化において、相互に人間(モナド)となる。
《感想10-3》他我理解の基礎は、他我(他モナド)の成立であるが、これは同時に自我(自モナド)の成立である。そして、この他我(他モナド)・自我(自モナド)は、共感という一者から分化する。

(11)オリンピアの愛:「永遠を誓うような愛の眼差し」!
ナタナエルにおいては、クララも、母も、ロタールも、そのほか何もかも記憶から消え失せていた。彼はただオリンピアのためだけに生きていた。毎日、何時間もオリンピアのかたわらに座り込み、自分の愛について、燃え盛る思いについて、さらには心と心を結び合う不思議な力について、のべつまくなしにしゃべっていた。彼女は「ああ――ああ」と「あなた、おやすみなさい」しか言わなかった。
(11)-2
スパランツァーニ教授は娘とナタナエルの仲を喜んでいるようだった。ナタナエルはオリンピアと結婚したいと教授に婉曲的に伝えた。ナタナエルは、彼女の「永遠を誓うような愛の眼差し」でオリンピアの愛が、彼女がしゃべらなくても、分かった。

《感想11》一者である共感(この場合は愛)の成立において「目」が重要だ。「目は心の窓」であり、「目は口ほどにものを言う」。だから「砂男」は「目玉」を、夜更かしする子供からえぐり取る。

(12)オリンピアは人形だった!
ナタナエルは愛のあかしに、母からもらった指輪をオリンピアに贈ろうと思い、指輪を持ってスパランツァーニ教授宅を訪れた。そこでは教授と晴雨計売りコッポラが言い争いをしていた。「目玉をこさえたのは誰だ?」「ゼンマイ仕掛けを工夫したのは誰だ?」「へっぽこ細工に過ぎん!」「たかが時計屋のくせに!」等々。そして二人はなんと、愛するオリンピアを、一方が肩をつかみ、他方が足を握り、引っ張り合っていた。ナタナエルは仰天した。
(12)-2
えいやっとばかりにコッポラが女(オリンピア)をもぎ取って、女の胴体でスパランツァーニ教授を殴りつけ、女を肩に担ぎ、足早に階段を下って行った。オリンピアの顔には目がなかった。そしてオリンピアは人形だった。教授が「コッペリウスめ、20年も苦労して作った自動人形を奪いやがった!」と叫んだ。床にオリンピアの二つの目玉が血まみれになってころがっていた。教授がそれを掴み、はっしとナタナエルに投げつけた。
(12)-3
オリンピアの目玉がナタナエルの胸に命中した。この一瞬、彼の狂気が炎のように燃え立った。「ヒェー!火の環だ、火の環がまわる!まわれ、まわれ、どんどん、まわれ!人形もまわれ、すてきな美人の人形もまわれ!」こう言いながら、ナタナエルはあたりかまわず殴りかかって来た。暴れる彼は取り押さえられ、紐で縛り上げられ、精神病院に送られた。
(12)-4
スパランツァーニ教授は町から去った。晴雨計売りのコッポラも行方をくらました。

《感想12》ナタナエルにおいては、コッポラやスパランツァーニの場合と事態の出発点が異なる。彼らにとってオリンピアは初めから人形だった。ところがナタエルにとっては、オリンピアは初めから人間だった。愛する人間(コッポラやスパランツァーニにとっては人形)が殺された。その上、愛するオリンピアが人間でなく人形と知って、ナタナエルの精神が壊れた。
《感想12-2》また愛する人間が目をえぐられて殺されたことは、ナタナエルのトラウマ(心的外傷)を激しく悪化させた。彼はかつて子供時代に、①砂男が血まみれの子供の目玉を集める話に恐怖し、また②弁護士コッペリウスから目玉を要求され気絶した。
《感想12-3》「床にオリンピアの二つの目玉が血まみれになってころがっていた。教授がそれを掴み、はっしとナタナエルに投げつけた。」かくてナタナエルは暴発的に発狂する。

(13)悪夢から醒める!
ナタナエルがひどい悪夢から醒めたような気がして目を開けた。わが家の自分のベッドの中だった。クララ、母、ロタールが居た。「ああいとしいナタナエル。重いご病気が治ったのよ」と婚約者クララが言った。ナタナエルの目から熱い涙があふれ出た。四人に幸せが戻った。

《感想13》一瞬とりもどされた平和。ここで終わればハッピーエンド、大団円(円満に終わる)だ。しかし事態は悲劇に向かう。

(14)「まわれ、まわれ、木の人形」!
町に買い物に行ったとき、市庁舎の高い塔を見て、クララが「一度あそこにのぼって遠くの山並みをながめましょうよ!」と言った。クララとナタナエルが塔に登った。クララが「小さな暗い藪から、こちらに近づいてくるものがある。何かしら?」と指さした。ナタニエルが何気なく胸ポケットを探ると、彼はコッポラの望遠鏡に気づいた。取り出して目に当てると、レンズのすぐ前にクララが居た。ナタナエルは脈拍が高まり、血管が膨れ、食い入るようにクララを凝視した。彼は再び発狂した。「まわれ、まわれ、木の人形。まわれ、まわれ、お人形さん!」と叫び、やにわにクララを抱え上げ、塔から投げ落とそうとした。

《感想14》人間オリンピアが人形となり錯乱したナタナエル!かくて彼は人間と人形の区別がつかなくなっている!オリンピアを人間と確信させたのが、コッポラの望遠鏡だった。その望遠鏡は、今や《人形と人間の境界を消し去る能力を持つ》という意味を担う。かくて望遠鏡を通してみたクララは人間から人形へ転化する。「まわれ、まわれ、木の人形。まわれ、まわれ、お人形さん!」とナタナエルは叫ぶ。木の人形は死なない。それを確かめるために、彼はクララを塔から投げ落とそうとする。

(15)発狂したナタナエルが塔の上から身を投げた!
荒れ狂うナタナエルの叫び声と、クララの悲鳴が聞こえ、塔の下にいたロタールは階段を駆け上る。ロタールは、クララを投げ落とそうとするナタナエルからクララを取り戻し、気を失った彼女を抱いて階段を駆けくだった。
(15)-2
見上げれば、ナタナエルは市庁舎の塔の見晴らし台を走り回り、ぴょんぴょん跳びながら叫んでいた。「火の環よ、まわれ、まわれよ、火の環!」叫びを聞きつけた大勢の人ごみの中に、弁護士コッペリウスの抜きん出て大きな体があった。彼は先刻、この町に着いたばかりだった。狂人を取り押さえるため人々が階段をのぼりかけた時、コッペリウスが言った。「まあ、お待ちなさい。そのうち当人が降りてきますよ。」
(15)-3
塔の上のナタナエルがふと足をとめ、下をのぞいてコッペリウスに気づいた。ナタナエルが金切声を張りあげた。「わーい、きれいな目玉だ。きれいな目玉だ。」そして塔の上から身を投げた。頭蓋骨が割れて、ナタナエルの死体が転がった。人々の騒ぎに紛れ、コッペリウスは姿をくらました。

《感想15》コッペリウスの意図は何か。なぜこの時、町に着いて市庁舎の塔の下に来て、ナタナエルに自分の姿が見えるようにさせたのか。コッペリウスは、①ナタナエルにとって父親の死の原因であり、②ナタナエルの目を奪おうとした「砂男」だ。
《感想15-2》コッペリウスは、①ナタナエルが父親の死の原因であるコッペリウスを嫌い、また②ナタナエルがコッペリウスのことを「目玉を奪う砂男だ」と思い恐怖しているのも知っている。だからコッペリウスには、ナタナエルが死んでくれたら好都合だ。
《感想15-3》だがこんなにも都合よく、偶然コッペリウスが、この日、この市庁舎の塔の下に来て、ナタナエルに身投げを意図させることは、人間の能力では普通出来ない。コッペリウスは千里眼(完全な予知能力)の「悪魔」か、あるいは「魔性の力」がこの出来事を計画したのだ。
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