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「物書(カキ)て扇引(ヒキ)さく余波(ナゴリ)哉」芭蕉(『奥の細道』)(45):別れにあたりお互いの句を扇にしたため、引き裂いて相手の句を持ち形見とする!

2018-10-22 20:49:55 | 日記
「物書(カキ)て扇引(ヒキ)さく余波(ナゴリ)哉」
Each of us write his own haiku poem on a folding fan. Then we tear it into two pieces. And each of us take one that other’s haiku poem is written on. Oh, we are sad to say good-by.

《感想1》
越前松岡にて芭蕉が北枝(ホクシ)と別れる時の句。北枝は加賀の芭蕉の門人で、この度、金沢から越前松岡まで芭蕉に同行し送ってくれた。芭蕉は「折節(ヲリフシ)あはれなる作意など聞(キコ)ゆ」と、北枝がしばしば素晴らしい句を見せてくれたと褒める。
《感想2》
「物書て扇引さく」とは、別れにあたりお互いの句を扇にしたため、引き裂いて相手の句を持ち形見とすること。実際は扇に芭蕉が句を書いて渡したが、別れの悲しみを「扇引さく」と表現したと思われる。
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テオフィル・ゴーチェ(1811-72)『ポンペイ夜話』(1852):オクタヴィヤンの詩的な愛と、アッリアの愛欲的な愛が時空の移動によって出会い、二人の恋が成就する!

2018-10-22 18:46:14 | 日記
(1)
フランスの若い青年3人がイタリア旅行に出かけ、ナポリでストゥーディ博物館を見物した。そこにはポンペイからの発掘品があった。オクタヴィヤンが深く心をとらわれたのは、ある溶岩(火山灰)の塊だった。それは女性の麗しい輪郭を保存した胸と脇腹の押型だった。それは、2000年前、紀元79年ヴェスヴィオ山の溶岩が彼女の身体を包んで焼き殺し、冷え固まったものだ。オクタヴィヤンはその押型の女性に恋をした。
(2)
その後、3人は鉄道に乗り、ポンペイ遺跡に向かった。そこには遠く消滅し去った生活がまざまざと保存されていた。玉石を敷き詰めた舗道、商店、屋根の抜けた家々、居酒屋、兵営、円形劇場、門、墓地など。オクタヴィヤンは驚きに打たれた。
(3)
やがて彼ら3人は、アッリウス・ディオメデスの別荘にたどり着いた。それは、ポンペイ屈指の建物であり彼らは門、中庭、談話室、廊堂、白大理石のテラス、浴室、古代の赤で彩色した八つの部屋等をまわり、そして最後に地下の酒蔵を見物した。
(4)
その酒蔵で、案内人が無関心に説明した。「ナポリの博物館に陳列されている押型のあの婦人の遺骸は、ここで17体の遺骸の間から発見されました。」「その婦人はいくつかの金の指輪をはめており、見事な上衣の切れ端が身体の形を保存した火山灰の塊に貼りついていました。」
(5)
貴重な遺骸が発見された正確な場所を知り、オクタヴィヤンは深い愛惜の涙を流した。彼の涙は、彼女が溶岩に窒息して死んだ場所へポツリと落ちた。
(6)
この時、友人の一人ファビオが、「考古学はもうたくさんだよ。飯を食おう。」と言った。3人は宿屋で食事をとった。やがて酒がまわり3人は女の話を始めた。ファビオは女の美貌と若さを追い求める快楽主義者だった。もう一人の友人マックスは、恋の複雑な策略が好きで、自分に最も関心の薄い女を、嫌悪から思慕にみちびくことだけに熱中した。
(7)
これに対しオクタヴィヤンは「現実の女には魅惑を感じない」と言った。彼は詩人で、恋を日常生活の環境から、星の世界、空想の世界に移そうとした。彼は時に彫像に恋をした。かくてアッリウス・ディオメデスの別荘の地下室から発掘された押型が、彼にこの太古の女性への恋を引き起こした。
(8)
この詩的な陶酔を、下劣な酒の酔いで乱したくないと思い、オクタヴィヤンは実は、食卓で酒を飲まなかった。彼はその夜眠れず、夜風に当たって頭を冷やし、心を鎮めようと夜中、宿を抜け出しポンペイの廃墟に向かった。
(9)
ポンペイの廃墟を月が照らす。オクタヴィヤンは時折ぼんやりした人の姿が闇の中を滑っていくのを見た。そしてなんと月の光のもと、廃墟の家がすべて修復されていると気づいた。時計が夜の12時を指した時、太陽が昇り始めた。ポンペイの街が復活し19世紀から約2000年前、ティトゥス帝の時代に戻った。
(10)
オクタヴィヤンはある上流階級の青年と出会った。そして彼に連れられオデオン座(喜劇劇場)に行った。劇の途中、彼は婦人席に居る飛び抜けて美しい一人の女性に気づいた。彼はこの女性こそ、ナポリの博物館の押型の婦人にちがいないと思った。彼女こそ、彼が恋する遠い歴史の闇の中の幻の婦人だ。
(11)
芝居が終わると、一人の少女がやって来てオクタヴィヤンに言った。「私はアッリウス・ディオメデス様のお姫様、アッリア・マルチェッラ様にお仕えする者です。お姫様はあなた様を愛していらっしゃいます。どうぞご一緒においで下さい。」彼は、ある秘密の家に案内された。そして浴室係の奴隷に引き渡され、古代の作法で体を洗われ、白い上衣を着せられた。少女が彼を別の部屋に案内した。
(12)
部屋の奥の寝台上にアッリア・マルチェッラが横たわっていた。二人は一緒に寝台へ横たわり食事した。彼女の腕に触れた時、オクタヴィヤンはそれが大理石のように冷たいと思った。彼女が言う。「私の魂は未だこの世をさ迷っています。あの博物館で、私の身体の形を保存する溶岩の塊の前で、あなたは熱いお心をお向け下さいました。あなたの激しいご愛情が私に命を取り戻させ、2千年の距離をなくしました。」
(13)
物質的な形が消え失せても、幽魂が宇宙をさまよう。熱情的な精神が、魂を遠く流れ去った過去から手元に引きよせ、万人が死んだと信じる人物をよみがえらせる。オクタヴィヤンは、アッリウス・ディオメデスの娘アッリア・マルチェッラへ愛を伝え、彼女がそれに応えた。彼女は今やティトウス帝の時代に一日の生を得て、二人はポンペイの(今は廃墟だが)かつての美しい寝台の上にいる。
(14)
アッリア・マルチェッラが言った。「あたしはあまりに長い間愛を知らなかったので、寒くてたまりません。私を抱いて下さい。」奴隷たちが去り、あとに二人の激しい恋の場面が続いた。
(15)
突然、そこに老人(父親)アッリウス・ディオメデスが現れた。彼はキリスト教の十字架を襟元に下げる。彼が娘に言った。「どうしてお前はよしない恋の戯れを、死んでも繰り返すのか?なぜ生ける者を生ける者の世界に任せることが出来ないのか?」娘アッリア・マルチェッラが答える。「私は命と若さと美しさと快楽を愛した古い神様方を信じます。色も香もない亡びの中に私を押し戻さず、せっかく愛が私に返してくれたこの生活を楽しませてください。」
(16)
老人(父親)が娘に続けて言った。「お前の神々は悪魔だ。お前は偶像教の冥途へ戻れ!」そしてオクタヴィヤンに「若いキリスト教のお方よ。この幽霊をお捨てなされ。」と言った。「わしの言葉に従うじゃろうな、アッリア!」と老人が叫んだ。「いやです。」とアッリアが答えた。
(17)
「それでは最後の手段に訴える!」と老人(父親)が言う。彼は激しく除魔の呪文を唱えた。するとアッリアの頬はたちまち蒼白に変わっていった。彼女から苦悶の溜め息が洩れた。オクタヴィヤンは自分を抱いていた彼女の腕が解けるのを感じる。彼女を包んだ夜具はしぼみ、部屋は廃墟と化した。そしてついに、そこに「骨をまじえる一つまみ」の灰だけが残った。オクタヴィヤンは激しい叫び声をあげて気絶した。
(18)
翌朝、宿屋でマックスとファビオは、オクタヴィヤンが居ないのに気付き、ポンペイの廃墟をさがした。最後に半ば崩れた小さい部屋で気を失って倒れているオクタヴィヤンを発見した。彼は「ぶらぶら歩いているうちに卒倒した」とだけ語った。
(19)
これ以来、オクタヴィヤンは深い憂鬱症にとらわれた。アッリアの面影が心につきまとい、あの悲しい結末も彼女の魅力を壊さなかった。やがて彼は耐えられず、ひそかにポンペイにもどり、月光の夜の廃墟を愚かしい希望に胸をときめかせ歩いた。しかし幻覚はふたたび起こらなかった。
(20)
オクタヴィヤンは、最近若く美しいイギリスの女性と結婚した。彼は申し分のない夫だった。しかし彼女は女の本能で、夫がほかの女を愛していると気付いた。ところがオクタヴィヤンには踊り子の噂もなく、社交界でも女たちへ月並みな愛想しか言わず浮いた話はない。夫の秘密の引き出しにも裏切りの証拠がなかった。彼女は約2000年前のアッリウス・ディオメデスの娘アッリア・マルチェッラに嫉妬していた。だがそれを、どうして気づくことが出来たろう。

《感想1》
溶岩(火山灰)の胸と脇腹の押型の女性に激しい恋をするとは、オクタヴィヤンは不思議な人物だ。
《感想2》
愛する者の死の現場がオクタヴィヤンにもたらす衝撃。ポンペイの廃墟の地下室こそが、押型の女性が2000年前、ヴェスヴィオ山の溶岩に身体を包まれ焼き殺された現場だった。歴史上の現場が持つ抒情性!
《感想3》
恋を日常生活の環境から、星の世界、空想の世界に移し、あるいは彫像に恋をし、また太古の女性に恋する時、恋はどのように成就されるのか?
《感想3-2》
それは詩的な陶酔だが、精神的にとどまらず、肉体の陶酔も必要とするはずだ。幻視、幻聴、幻覚あるいは、音楽、舞踏、酩酊、苦行など。
《感想4》
ここでは2000年前への時空の変化が、遷移的に起きる。夜の闇の中で廃墟の建物が修復され、はかない《影》が《延長し抵抗する物質としての肉体》へと変化していく。
《感想5》
死後もアッリア・マルチェッラの魂が2000年さまよう。彼女の魂は何を求めるのか。激しい愛を求める。オクタヴィヤンの愛は詩的で時代を超える。アッリアの愛は愛欲的で肉体を必要とする。
《感想5-2》
オクタヴィヤンの詩的な愛を、アッリアは愛欲的な肉体の愛の渇望へと解釈し直し、彼女の魂に肉体を与える必要があった。彼女の肉体は2000年前、ティトウス帝の時代にしか存在しなかったので、彼女の魂の力(愛)によってオクタヴィヤンはその時代に運ばれた。
《感想5-3》
かくて彼女が言う。「あたしはあまりに長い間愛を知らなかったので、寒くてたまりません。私を抱いて下さい。」オクタヴィヤンの詩的な愛と、アッリアの愛欲的な愛が時空の移動によって出会い、二人の激しい恋が成就する。
《感想6》
古い神様(古代ローマの神々)を信じるアッリア・マルチェッラは、精神(魂)の愛あるいは彼岸の愛を信じない。彼女は《この世の命と若さと美しさと快楽としての愛》のみ信じる。彼女にとって、精神(魂)の世界つまり彼岸はなく、それは《色も香もない亡び》にすぎない。
《感想6-2》
キリスト教徒の老人(父親)アッリウス・ディオメデスは、精神(魂)の世界つまり彼岸を信じる。この世にさまよう魂は、救済されていないのだ。精神(魂)の世界つまり彼岸に移動でしていない。
《感想6-3》
このキリスト教の立場から肉体について言えば、肉体は滅びることが運命づけられている。この限りではキリスト教は、奇跡を否定する。
《感想6-4》
奇跡を否定するキリスト教は、(2000年前の時空で)肉体を復活させた(奇跡の)死後の魂を、幽霊と呼ぶ。《肉体を持った魂(幽霊)に対する除魔の呪文》は、魂を破壊しないが、この世の肉体を破壊する。かくてアッリア・マルチェッラの肉体を復活させた2000年前への時空の移動は破壊される。今や、アッリアは一つまみの灰となりやがて飛び散る。生きたポンペイの街が廃墟に変化する。
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