空が
ああ
もうがまんできないって
わんわん泣いた
大粒のなみだ
こどもみたいに
ひっくりかえって
じたばたして
泣きつかれて
寝てしまったよ
ひとり
小舟で漕ぎ出す
海はまだ見えないけど
わたしには
光る海が見える
渡る風を感じる
旅人は
海の一部
ひとりは
夢の一部
時の海に漕ぎ出す
いつも歩く道を変える
いつものシャンプーを変える
いつもの店を変える
いつものなにかを変える
いつもはずっとじゃない
いつもはこのままじゃない
いくつものいつもが固まってできた
いつもがいつか変わる
揺れる
風が揺れる
波が揺れる
花びらが揺れる
からだが揺れる
影が揺れる
まばたきする
まつげが揺れる
動かないはずの
道が揺れる
変わらないはずの
あしたが揺れる
雨上がりの小鳥みたいに
はしゃいで歌おう
そして
小鳥が赤い実をさがすように
心動かされることを
一心にさがして飛ぶんだ
空はひろいけど
わたしの故郷
おひさまは大きいけど
わたしのともだち
いいんだ おまえは 飛んでいいんだ
いとおしいものを記憶にとどめて
空のまんなかで方向を決める
いいんだ おまえが いきたいほうに
いいんだ 好きに 飛んでいいんだ
聞こえるよ
遠い海から
ちいさな風が
旅をはじめた
おひさまを浴びて
寄り道をしながら
いろんな景色を
走り抜けて
ここまでたどりつく
そのはじまりの音
聞こえるよ
咲いた花に気づくのは
あたりまえのよろこび
咲く前にきづく
咲くのを待つ
咲くまで見守る
咲ききることを讃える
花が散ると祈る
花があるかぎり
つづくよろこび
もうすこし もうすこしだけ
歩いてごらん
いつのまにか知らない場所に着いている
この散歩は時には闘い
時には二度とない祝祭
もうすこし もうすこしだけ
歩いてごらん
いつのまにか知らない自分に出会っている
なにを望むか自分で決めていい
ひとつでいいからなにかを望み
もうすこしだけ 歩いてごらん
あしたの景色はどんなかな
ちいさなこどもでなくっても
楽しみにしていいことだ
あしたの自分はどんなかな
ちいさなこどもでなくっても
予想できないことだから
風が吹き抜けていく
それが
どうしようもなく
しあわせ
こんなにも
空気は止まっていたのか
動きはじめるってことは
こんなにも
きもちがいいのか
漕ぐ方向を知らなくても
風がはこんでくれる
大切なものを知り
あとは風がふけば
もうそれで
しあわせ
霧が晴れたら
あの山にのぼります
空は遠くまで
ひとつの空
海はどこまでも
ひとつの海
おおきな地図にねころんで
ちいさな唄をうたいます
風にのって旅をする
ちいさな唄をうたいます
このさきにつづく道を
ひとあしごとの物語を
一秒ごとにつみかさねる
おびえるな
背筋をのばし
深く息をして
ゆっくり進め
道に咲く花を
見ながら歩くのだ
だれかが命じた道でなく
わたしが決める道なのだ
波のため
舟すすまず
日はすぎて
心だけ先に
旅をつづけて
星よ
わたしを導いて
その先へ
行かせておくれ
風よ
わたしを後押しして
その先へ
行かせておくれ
ひとめぐりして
またここから
はじまるのです
ひとつの星が
うまれた時のように
ひっそりと
でも
唯一の光
おめでとう
うまれたばかりの
ひとりの旅人