土地の香り

はじめて降りる駅

というのが

同じ東京でもまだまだ

あるもんだ

歴史的建造物　なんて

ほとんど残っていなくても

過去　ここを行き来した人たちの

こころもちの香りが濃く残り

その香りが

ここに建つビルを決めている

ここにいるひとの向きを決めている

どの場所にも

過去が　記憶が

土の一部ととけあって

人格を持っている

この世の色

この世の色は

きらきらひかる

砂より小さなこどもたち

ひかるこどもが

飛び跳ねる

ひかるこどもが

小声で歌う

ひかるこどもが

伸びをする

この世の色は

きらきらひかる

こどもがくれた　おくりもの

はじめての雪

雀が
雪だ雪だと
いつもの庭木で
大騒ぎ
何も決まらない会議らしく
大騒ぎ

そうだ　雀

きみたち　初めての雪か

雪かと思えば

あれは 雪？

いいえ

開きはじめた

梅の花

冬の手紙

雪です

たくさんのひとのもとに

送られる　手紙

ふれたら　消える

ちいさな　手紙

春だから

霜柱が溶ける

黒土がほぐれる


自分が生きていたこと

忘れていた生きものが

長い眠りの玉の中で

まぶたが開く


石のような玉が

柔らかくなる


まるで

水中の生きものの

卵のように


眠りの膜を破る


そこにあるのは

べつの生きもの


春だから

点滅する光のように

春だから

たくさんの生き死にが

満ちて溢れる

樹のあるところで

樹のあるところで　目覚め

樹のあるところで　眠り

樹の懐に守られて

春を待ち　明日を待つ

桜の木

桜の木よ

あなたがこの世にうまれてから

今度の春で　何度目ですか


今夜　あなたのまわりに

あるかないかのさくら色

霞のように見えました

太くてうねる古い幹に

流れる樹液のせいですか


咲かせる花は　命です


この場所を離れても

わたしはあなたを忘れない

あなたの花を忘れない

あなたの細い枯れ枝も

曲がった幹も忘れない

遠いひとへ

星と星は

光またたき　言葉をかわす

海に点在する島は

水の震えで　わかりあう

ひとは　ときどき

距離も時間も飛び越えて

からだを使わず　手を握る

言葉を使わず　慰める

夕日

まんまる

巨大な

線香花火が

朱色の玉が

みるみる

山にとけてゆく


あの夕日に

別れを言いました


二度と会えない

色と光を

焼きつける


命をかけて

燃える姿を

焼きつける


夕日の言葉を

焼きつける

予知する船

風　風　風

波のかたち

揺れてる

揺れてる

ああ　船だ　

船がこちらに　向かってる

鳥が見おろす船の姿が

鳥が見おろす波のかたちが

届いているから

もうすぐだ

はばたく翼の音までが

わたしの耳に響いてる

不思議の花

フォーチュンクッキー

おみくじ

偶然の瞬間が　積み重なって

変わっていくのだろう

毎日　違う　夢をみる

その意味を　知る日は

ずっとずっと　あとのこと

今はただ　ちょっと不思議　と　思うだけ

不思議の花が開くのを

静かに見つめるだけで　いい

終わらない

ずーーっと
海をみて

何もしないで
海をみて

終わらない波

終わらない音

目をとじると

繰り返しの

一部になる

わたしの時間が終わっても

終わらない時間

なにも　誰も

終わらない