今回の会議の前日に、昨年一月滞在した研究所を訪れ、ホストであったMDとメンバーに挨拶をする。昼食を皆さんと一緒にとった後、彼と2時間ほど話をする。最近、15ほどあるセクションを束ねる役になったため、いかに活力と魅力のあるところにするのか頭を絞っているようであった。それからいつものように話はいろいろと飛んだ。彼の場合は、仕事以外のことに非常に情熱を持っていて、他のことをやりたいと強く思っているようだ。
まず、今年のバカンスに面白いことをやったといって、写真とビデオを見せてくれた。ギリシャの島に10日間ほど篭って大理石の彫刻を教えてもらってきたという。地元の彫刻家が世界中から人を募集して毎年やっているらしい。手ごろな石を運び出すところから始まるのだが、まずその重さに驚くという。それからデッサンから立体感を持たせた形を想像しながら、見よう見真似で石を削っていく。この過程がものすごい集中力を要求されるので、忘我の境地になるらしい。また石のかけら・灰が飛び散り、真っ白になりながらの作業で、完全に日常から隔絶するのでよかったと言っていた。サックに入れて持ち帰った、その重い作品はどうなっているのか聞いてみたが、まだガレージに入ったままで仕上げの時間がないと嘆いていた。
それからこれまでの人生についても話が及んだ。私が高校時代は哲学者になりたかったのだが、最後の決断の時にはあっさり諦めて今の道に入ったと言うと、彼もそうだという。違いは、「だから」 科学の道に入ったのだというところだろう。去年も感じたのだが、仕事に対してもそういう姿勢を感じるし、彼の日常を見ていても、いつも考えているように見える。やや強迫観念に囚われているようにさえ見えることもある。
これから先の生き方については、これまでの蓄積を生かすのか、全く違うことを始めるのか、実際の生活のことを考えるのか、気にしないでやっていくのか、などなど考えているようで、私とも重なるところがある。これから選択の幅が一気に増え、将来性豊かな時を迎えるような錯覚に落ちいる。実際には一つしか進む道はないのだろうが。「それは別にして、フランス語やフランス的なるものについては、これからも深めていくのでしょう?」 との問いかけとも励ましとも受け取れる言葉には同意していた。
今回も新しい人がお話の中に出てきた。ひとりは画家の二コラ・ド・スタール Nicolas de Staël (Saint-Pétersbourg, 5 janvier 1914 - Antibes, 16 mars 1955)。ロシア出身でフランス人になった人で、彼のオフィスにあった絵を見ると少しだけムルナウ時代のカンディンスキーを思わせるところがあった。最後はアンティーブで自殺したらしい。作品はこちらで見ることができます。
また彼も知っている神経科学者で、少し哲学的なことも書いているという Hervé Chneiweiss さんの話も出てきた。調べてみると以下の本を出している。
"Neurosciences et neuroéthique : des cerveaux libres et heureux" 「神経科学と神経倫理-自由で幸せな脳」
"Bioéthique" 「生命倫理」
昨夜はパリ5区の静かな住宅街にある、彼に言わせるといかにも parisien なレストランにご招待いただき、初秋の肌寒さと時の流れを感じながら話に花を咲かせた。奥様は中学のフランス語の先生をされているので、年に14週間はバカンス (家にいることができる) とのこと、だから私と違って若いだろうという MD の皮肉を込めた言葉でお開きになった。"14 semaines de vacances !" が今でも私の頭でこだましている。
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(version française)
Gérard Schneider
Maria Elena Vieira da Silva
Jean-Paul Riopelle
Anna-Eva Bergman
Olivier Debré
Pierre FichetGérard Schneider
Maria Elena Vieira da Silva
Jean-Paul Riopelle
Anna-Eva Bergman
Olivier Debré
Pierre Fichet
貴重な情報をありがとうございました。