青春 ②
ある日のこと、いつものように仕事に出かけてみると、入口近くには黒塗りの車がズラッと並び、店内も何やら騒然としているようである。
聞けば、ご近所の極道の大親分が亡くなったとかで、葬儀の三次会を急きょ貸し切り(総勢約30名)でやることになったというのだ。
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こうした状況下で「嫌な予感」がしない人は大物である。
不安そうな支配人を見つけ出し、毅然とした態度で私はこう云った。
「こんな日は、ヘボなギターはやめときましょう」。
本当を云うと「彼らに私のゲージツはわからない」という決めセリフをとっさに用意したのだが、恐怖心が私を謙虚な人間に変えたのだ。
支配人は、気の毒そうな表情を浮かべながらこう云った。
「幹事の方がカラオケ嫌いでね。さっきから、早いとこ何かやってくれと云ってるんだ」。
………………。
「彼らのゲージツも私もわからない」
すでに私の緊張は頂点に達している。
「なっ、頼むよ。ゲージツは爆発だろ」
支配人の緊張も頂点に達していた。
壊れた会話から、私は自分の運命を悟った。
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「強運だけでひろった仕事だ。ついてくる不運は引き受けなきゃならねえ」。
当時の私としては画期的な覚悟である。今の私にもぜひ聞かせてやりたいセリフだ。
まあ、葬式の三次会でもあることだし、最悪でもこの安物のギターをへし折られて、蹴りの二、三発も喰らうくらいのものだろう。
いいだろう、俺も江戸っ子の端クレよ。やってきやがれっ!
そこまでハラを決めた私は、さっ爽とした志とは裏ハラに、ノミの心臓を何度も何度も飲み込みつつ、まるで瀕死の白鳥のような態で、ホール主任の悦子に抱きかかえられながら、敵の待つステージへと向かった。
死刑執行人の気持ちがわかったと、のちに悦子は語っている。
(つづく)
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