もうかれこれ二十年に成る。
スイス東北部にエブナット・カペルという小さな街が
あるが、そこに3000メーター超の高山植物のエキス
を採る権利を得た化粧品メーカーがあった。

創業者のマック・シュタイドレ氏は、街の真ん中に邸宅を
構え、彼が街に居るときは、シュタイドレ家の旗を揚げる
掲揚台を持っていた。旗が出ていない時はシュタイドレ氏
は不在なのだ。

年老いて会社を引き、後をアーニー氏に託した。
アーニー氏は、スイス国防軍の相当に偉い人でもあった。
彼に始めて合ったのは、ドイツ国境に近いザンクト・ガレン
の駅のプラットフォームで、初対面の彼にミスター・アーニー?
と訊ねたら、如何にも軍人らしい姿勢で、イエースと答え、
ボクに挙手の礼をとった。

何かにつけて、軍人らしさを感じさせる、礼節正しい人だった。
マックの一人息子のハンスペーターは、家族四人で四重奏を
演奏するのが最も好きな時間帯という、音楽愛好家で、
化粧品会社の経営には不向きだと、父のマックが亡くなった後
を継ぐことはなかった。

アーニー氏もマックが死亡した事で会社を去った。
初めて合った時の、両足をぴったり着けての挨拶の素晴らしさ。
今も時々思い出す。元気でいることを念じている。

確かスイス国防軍の中では、上位四名の幹部の一人だと誰かが
言っていた。