作家 小林真一のブログ パパゲーノの華麗な生活

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【 働かないサラリーマン (3) 】

2006-10-27 17:02:29 | 12 幼き日々のこと


ウイーンの前任者も仕事をしないことでは人後に
落ちぬ怠け者であった。

東欧を見据えてウイーンに事務所を構える諸外国
の新任者に取り入り、あたかも東欧ビジネスの
専門家をよそおい、現地採用の長として高給を貪る。
そんな一人マイヤーに、業務一切を任せきりウイーン
に居座って、オペラだコンサートだと優雅な夜を
過ごす。

ろくに商売も無いウイーンに足を延ばす社員も居ない
し、役員で偶にやってくるのは「森の都」「音楽の都」
を訪れるのが目的の、ダラ幹に限られる。

ダラ幹の一人、棉花部出身で業務部長の職にある江川
が観光旅行気分でやってきた。こんなとき普段は遊ん
でいるヤツがハッスルする。空港出迎えから始まって
社宅での接待、オペラへのお供、あげくホテルの部屋
まで行って「常務、今日はお疲れでございました。
ワタシは多少マッサージの心得がございますので、
足なと腰なとお揉みしましょうか」

すまんな、頼もうかとなり、ここぞとばかりに汗を
かいての奉仕に努める。翌朝早く妻に作らせた和食の
弁当を「毎日ホテルの朝食ではお飽きになったでしょう」

思わぬ握り飯をほうばりながら、江川は魔法瓶入りの
味噌汁を飲む。

帰国後、ウイーンのあいつは見所があると海外統括部
に伝える。海外統括の西部長は、そやつがゴマすりに
長けただけの、仕事は全くしないヤツと承知しており
早く更迭したいのだが、常務の一人が絶賛するから手が
下せないでいる。

江川が子会社に出向となって、漸く更迭となり、ボク
が後任に選ばれたのです。

ウイーンにはボクの大の顧客がある。オーストリー専売
公社がそれ。 だからウイーンには度々出張で行っていた。

名前がない と話を進めるのに不便だから、そやつを
「若ハゲ」と 呼ぶことにします。

若ハゲはオートマ運転しかできない。オーストリーには
オートマの普及がなく、マニュアル操作のクルマしか
無い。そこで若ハゲがやったこと。ベンツの高級車を
セカンドで発進しそのままセカンドで走行する。つまり
ギヤをセカンドに固定してオートマ化して使ったわけ。

何年もそんな使い方をされたから、馬力が出なくなって
いる。坂道なんか喘いで喘いで、かぶと虫と呼ぶワーゲン
にも抜かれる始末。

社有車を私物化したあげく壊してしまった。

マイヤーにはドクターの称号があるが、単に大学を出た
というだけのこと。

赴任早々全スタッフを集め宣言した。

「私は若ハゲの後任で来たのではない。全く新たなる
任務を帯びて東欧全域の支配人として新たに着任した」

「先ほど見たら、マイヤーがソファに寝転び一人の女子
社員に何事か言いつけていた。後で何だと聞いたら出張の
精算をさせていた。それを若ハゲが黙って見ていた。
これからマイヤーのことをドクターの尊称で呼ぶことを
禁止する。ヤツは単なる大学出身、それも入学が容易な
イタリヤの大学だ。ドクターの称号はドイツ・オーストリー
で通用しない。今日を持ってヤツの個人的な計算の手伝い
をすることも禁止す」

おい、マイヤー。いま聞こえた通りだと宣告してやったら
怒りで顔を真っ赤にして出て行き、それから一度も出社
しなくなった。

若ハゲにも通告した。東欧の各事務所には一人で行く。
あんたの同行は断る。どうせ何もしていないのに、帰国
報告のためだけの同行なんて無駄なことだ。海外統括部
の承諾は得ている。クルマのことでは総務部に訴える。
あんたから損害賠償を取るべく進言する。

引継ぎは一切要らない。そのファイルも中身が空っぽだ。
全部あんたの机の未決のカゴに入ったままじゃないか。
いったい何時から放置してるんだ。

それから社宅も引き継がない。家主との解約はあんたが
やってくれ。いいか自分でやれよ。スタッフを使うこと
は許さない。

この若ハゲはボクが入社二年目で受渡に飛ばされた時の
北米担当で、当時から常に貧乏ゆすりをしているダメな
ヤツだった。

ウイーンを去るに当たり、どうしても行きたい所がある
と言う。どこだと聞いたらポーランドのグダニスクだと。
元ドイツ海軍基地があったダンケルクだ。

勝手にしろと言ってやった。若ハゲはボクより4年先輩
の神戸大学。




                                       パパゲーノ


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