二次元が好きだ!!

SSなどの二次創作作品の連載、気に入ったSSの紹介をします。
現在ストパン憑依物「ヴァルハラの乙女」を連載中。

第21話「可能性未来」Ⅲ

2014-01-22 22:24:12 | 弓塚さつきの奮闘記~月姫編

なんてことだ。
よりにもよってこの男に知られるとは。

「そんなに構えなくていい、
 どの道私はあの殺人貴に殺された消える身。
 ゆえに、今更君を殺したり我が物にしたりする気はない。
 それよりも 老婆心ながら今後の君について言いたいことがある」

思わず襲おうとしたボクを手で制止するようにサインすると、ロアは紳士的に話を進めた。

「改めて言おう、君の吸血鬼としての才能は特異だ。
 私に血を吸われ、グールやリビングデットを通り越していきなり吸血鬼へと変化。
 ある意味君の才能が開花したと言える、もはやこの現象は進化と表現してもいいものだ」

「まったく、嬉しくないね。
 シエル先輩には殺されかけるし」

「ああ、そうだな。
 才能の開花は必ずしも人を幸福にしない。
 見方を変えればむしろそれ以外の生き方を束縛しかねない」

ボクの愚痴に同意するロア。
先ほどまで殺しあったはずの相手だが、
可笑しなことにボクらは随分と親しく話せている。

「そして、例えいずれ出会うアトラス院のエルトナムの娘が、
 どれほど労力を割いてもせいぜい太陽の下を歩ける程度で、君は吸血鬼のままその人生を過ごすだろう」

………ああ、やっぱり。
薄々とだけど覚悟はしていた。
やはりシオンの知識を以ってしても人間に戻るのは無理か。

「君は良くも悪くも吸血鬼として才能がありすぎる。
 姫や殺人貴の元にいる限り今後更なる苦難に見舞われることは間違いない
 ただでさえ、姫は裏の世界では目立つ存在だ。そこにあのバロールの眼を持つ人間、
 空想具現化が使える君が加われば、魔は魔を引き付けるように裏世界の闘争に巻き込まれるのは確実だ」

そっか、ロアから見てもそうなのか。
アルクェイドさんや志貴の傍にいると巻き込まれることは確かなんだ。
元よりあの2人は平穏とは程遠い存在、むしろ原因の渦中になるか飛び込んでしまう性格だ。

だから、彼らの傍にいれば必然的に修羅の道へ自動的に歩んでしまう。
少し前まではそんな修羅の道を避けることばかり考えていたけど、今は違う。

吸血鬼になってしまった以上、
どんなに平穏な日常を過ごすことを努力しても、
遅かれ早かれ巻き込まれ、ビクビクと過ごす日々が来るだろう。

ならば答えは一つ。

「別に構わない、むしろあの2人と一緒に過ごす方がボクにとって重要だから」

「……そうか、君は逃げるという選択はしないのだな」

当たり前だ。
どうせビクビク過ごすならあの2人と一緒にいたほうがいい。











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第21話「可能性未来」Ⅱ

2014-01-21 21:28:58 | 弓塚さつきの奮闘記~月姫編

ふと、空を見上げる。
太陽は既に地平線へ沈んだため、空は濃紺からさらに黒に変わりつつある。
この寒い季節といい、あの日ボクの運命が変わった日とよく似ていた。

だからボクはふと、ロアと最後の会話を思い出した。



※  ※  ※



「ん……?」

目が覚める。
頭は未だぼんやりと動かないが、
視界情報から察するに知らない天井ではなく、どうやら夜空らしい。
しかし、鼻を刺激する花の香りが、ここが公園でないことを証明している。

上体を起き上がらせ、改めて周囲を見渡すと一面に白い花が咲いていた。
なだらかな丘に延々と月日に照らされた白い花が咲き誇り、夜風に揺られその香りと美しい姿を魅せていた。

ここは、どこか?
そんな疑問が一瞬浮かんだが、
夜空を照らすありえないほど大きな月と【原作】からすぐに答えが出た。

「そうだ、ここはかつて純粋であった私が姫に見惚れた場所。
 そして今この光景は、私の記憶を元に再現されたものに過ぎない」

振り返るとロアが立っていた。
だが、その姿は先ほどまでのと随分違う。
まるでカトリックの神父のごとく隙のない服装を着こなしている。
いや、首に掛けてある帯からキリスト教の司教や司祭が礼拝に使用するストラであるから本物の神父なのだろう。

そして、彼は眼鏡をかけ瞳には狂気はなく高い理性と知性を宿しており、
ボクは目の前の人物が「アカシャの蛇」の蛇と呼ばれる前のミハイル・ロア・バルダムヨォンであることを悟った。

「こうして、正面から話すのは初めてだな弓塚さつき。
 始めまして私の名はミハイル・ロア・バルダムヨォン、かつて永遠を求めた愚か者。
 適うことなら吸血鬼になる前に君に会いたかったと今はつくづく思うよ。」

「そりゃ、どうも……」

なんだかえらく丁寧な口調と態度のせいかこっちの調子が狂う。
しかし、こうしてお互いが出会ったということはここは、

「心象世界」

「そうだ、ここは心の世界。
 恐らく元々無理やり君の魂を乗っ取ろうとした影響だろう。だから、私たちはこうして話せる」

「だから、失敗して志貴に殺された」

「ああ、だから君たちに妨害され私は死んだ」

……あれ【君たちに妨害され】?
たしかに何が何だが詳しくは覚えていないが、
イメージ的には、我武者羅にこの男と肉体の主導権をめぐって争い、
何とか主導権を握るとすべてを志貴に託した所まで覚えているが、何か重要なことを忘れている気がする。

「……そうか、覚えていないのだな。
 いや、君がいう所の【原作】知識と同じく認識でないのか」

何か釈然としない。
だが、それよりもどうして【原作】知識という単語がこの男から出ている―――!?

「ああ、それは簡単だ。
 私が乗っ取る際、寄生された人間の記憶は一通り引き継がれる。
 君が言うロアは言うなれば私は四季でありロアでもあったのだ、だから弓塚さつきの記憶は一通り見せてもらった。
 ……まったく、永遠を求めてここまで来たが君のような例は正直驚いたよ、姫の言うとおり案外世界は広いもののようだ」


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第21話「可能性未来」Ⅰ

2014-01-20 22:52:24 | 弓塚さつきの奮闘記~月姫編

また寒い季節がやってきた。
ここ十年の間に老朽化が進んだため放棄された廃ビル群の間に流れる風はとても冷たい。
この周囲にはせいぜい四、五階建て程度の細かなビルと朽ち果てたバラック仕込みの廃工場しかなく、
かろうじて近場にあるコンビニが文明の光と利便性を提供しているだけである。

近々再開発が進むらしいがここを根城にする自分にとってはいささか困る。
何せもはや人の身を逸脱し、あまつさえ外見が不老となればそんなに長く人の目がある場所ではいられない。
少し前まで友人の好意と外見にまだ誤魔化しが効いたため、人の世に紛れていたが吸血鬼化して十何年と過ぎると流石に怪しくなった。

周囲の人間が老いたり成長する中で、自分の女子高校生の外見と変わらぬ姿は目立つ。
何せあのシエル先輩も三十代に突入しそうで、必死に若作りをしているくらいなのだから。

前世ならそんな光景など想像したことがない。
なぜなら彼女らの物語はボクら観客側からすれば未完で終わってしまったようなものだから。
もっとも、こうしてリアルで彼女らと出会い共に人生を過ごすなど前世では妄想の類でしかなかった。

「約十年の月日か、」

多くの人と出会った、楽しいこともあれば悲しいこともあった。
想定外の事、予想通りの事、本当に色々あった。

多くの人は月日が過ぎるごとに、
あの十代の面白可笑しな騒がしい騒ぎは収まり、彼女彼らは思い思いの道へ進んだ。
某喫茶店ででの出会いや、マジカルなステッキが引き起こした平行世界絡みの騒動など、
歳を取るにつれて少なくなって来ている――――まるで夏休みや、幼年時代に終わりを迎えつつあるように。

そんな中、ボクは変化しただろうか?
外見的な意味だけでなく周囲が『大人』になるのに対して自分だけが取り残されているような――――。

「――――っ…へっくし!」

鼻がつまりくしゃみをする。
ずるずると音を立てて鼻水が出る。
まったく、頑丈であるのはいいが吸血鬼化したこの身でも寒いものは寒い。

手早く上着からティッシュを取り出して鼻をかむ。
ティッシュから漏れ出す息は白く、手は寒さで赤く冷たい。

今すぐ今の我が家に帰りたいが、一応こんな辺鄙な場所でも人気はある上に、
ここ数年で急激に進んだ監視カメラの眼とその後の権力とコネを使った神秘の秘匿の労力を考えると吸血鬼パワーで一気に飛ぶわけにはいかない。
おまけに今時の裏世界の住民は携帯電子機器による、動画撮影にも警戒しなればいければならず、その点についてかの時計塔でも注意喚起しているくらいだ。

ゆえに、ただ黙って地道に歩くしかない。
黙々と雪こそ降ってはいないが冷えた空気が流れる、冷たく硬いアスファルトの道を踏みしめ歩く。



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第20話「終幕」(完成版)

2014-01-17 21:14:28 | 弓塚さつきの奮闘記~月姫編

「すばらしい!すばらしいな!この肉体は!!」

弓塚が笑っていた、いや違う。
ただ己に酔いしれる吸血鬼がそこにいた。
俺は事の成り行きを理解できずただ呆然と眺めていた。

「馬鹿な!ロアは予め転生する個体を選んで転生するもの!
 しかもこれほど短時間で転生するなどこれまでの事例にはなかったはずです――――ロア!一体彼女に何をした!!」

先輩が敵意とともにロアに詰問する。

「ああ、そのことか代行者。
 簡単だ、この小娘の血を吸った直後からこの小娘はダンピールやグールの段階を飛ばして吸血鬼化していた。
 さすがに私も驚いてね、興味深い事例でもあるから保険として転生の術を施し、万が一に備えていたのだよ」

「生き汚い外道が……!」

可笑しそうにくつくつと笑う弓塚。
いや、吸血鬼ロアは激高する先輩に向かって言い放った。

「外道?可笑しな話だな。
 親を殺し、友人を殺し、故郷を滅ぼしたお前が。
 それにお前はあの時楽しんだではないか――――エレイシア」

「その名を言うなぁぁぁ貴様っああああ!!」

直後、先輩が地を蹴り弓塚のもとへ跳ぶ。
明らかに弓塚を助けるつもりはなく激高した感情のまま弓塚を手にかけようとするものであった。
情けないことに俺は先輩が跳躍した時に、ようやく動き先輩を止めようとしたが当然間に合うわけがない。
一瞬で間合いを詰めた先輩はそのまま腕を振るい、弓塚の頭部を破壊する動きを見せた。

しかし、それより早く弓塚の方が動き逆にカウンターを浴びせた。
顎を打ち抜かれ、先輩は一瞬動きを止める。その隙を逃さず弓塚は再度拳を握って先輩を殴打。

吸血鬼の馬鹿力でそのまま殴られたせいで骨が砕ける嫌な音が鳴り響く。
先輩は地面に数度バウンドして、しばらく転がり動かなくなってしまった。

そこに弓塚が先輩に近寄ると首元をつかみ片手で持ち上げる。
意識はあるのか先輩は微かに呻き声を出していた。

「エレイシア、君の才能も素敵であったがこの身体はさらに素敵だ。
 もしも君がこの小娘同様に吸血鬼となっていればどれほどよかったものか、そう今でも考えるよ。
 だが、君は今や聖堂教会の代行者。その貴重な才能が生かされないならばここで死んでもらおう」

突剣のように片手を形作り先輩の胸元に照準を定める。
不死性体質の先輩に態々殺人予告をするということは………まずい、
外見は弓塚だが中身は今やロアだから直死の魔眼で先輩を殺すつもりだ。

くそ、走れ!走れ!遠野志貴!

「さようなら、エレイシア」

――――間に合わない!?

「一応シエルも死んでもらっちゃ寝覚めが悪いから、止めてもらえないかしら。ねえ――――ロア?」

刹那、アルクェイドの声と共に弓塚が吹き飛んだ。

今度は自分が跳ぶことになった弓塚であったが、
先輩と違い致命打に至らなかったせいか空中で体勢を立て直して着地。
反動を殺しきれず土ぼこりを立てて地面を滑った。

「……やはり解せぬ」

ぽつり、と弓塚もといロアが呟く。

「姫よ、貴女なら前のごとくこの小娘ごと殺せたはず。
 しかも貴女はあの代行者を殺すなと言った、本当に貴女はどうなってしまったのか?」

神妙な顔でロアがアルクェイドに問いかける。
あの傲慢な態度はなく縋るような思いで、どこか感情が揺らいでいるように俺には見えた。

「そうね、貴方の言うとおり私は一度壊れた。
 貴方が知るアルクェイドは一度志毅に殺され、もう二度と戻らないわ」

そして一拍。

「始めは怨んだわ、
 これが貴方を殺す最後の機会だっていうのにそれを見知らぬ誰かに殺されたから。
 けど、今は違う。私は志毅やさっちんを通じて初めて知った――――世界がこんなにも広くて楽しいものなんだって」

続けてアルクェイドは真っすぐロアの眼を見返して言い切った。

「シエルにも言ったけどもう一度言うわ、
 どうして真祖の兵器である私がこうなってしまった原因や理由なんて知らないわ、
 こんな気持わたし初めてだから、でも私の心は皆幸せなハッピーエンドを望んでいる。
 そして、それ以上さつきに手を出すという事は私と敵対し、その永遠の輪廻が終わる事を覚悟しなさいロア」

アルクェイドが断言する。
紅い眼が金色に輝きロアを睨む、妥協の余地は一切なかった。
アルクェイドの話を黙って聞いていたロアは顔を下げ、しばし沈黙に浸る。
が、よくよく観察すると口元はかすかに動いており、何かを呟いていた。

「…………違う」

否定の言葉。

「違う、違う違う違う違う違う違う
 違う違う違う違う違う違う違う違う
 違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!」

「なっ!?」

髪を掴み頭を抱え、否定の言葉を壊れたレコーダのごとく大音量で垂れ流す。
足は小鹿のごとく震え、全身から汗が吹き出て、口からはありったけの負の感情がぶちまけれられる。
今までにないロアの反応に俺は戸惑いを隠せずに、ただ驚く他なかった。

「こんなのではない、こんなのではない!
 我が姫はこんなのではない、私が永遠を求めたのはこんなのではない!!!」

現実の否定。
より正確に言えばアルクェイドの今の現状をロアは認めてしなかった。

ロアとアルクェイドの細かい因縁は俺はよく知らない。
だがこの様子から察するにロアはどう見てもタチが悪い代物、
――――自分の幻想こそ現実と思い込みアルクェイドを巻き込んだことだ。

「――――ああ、そうか。簡単ではないか。
 やはり劣化した姫など醜態以外他ならない、ならば私と共に消えるのがせめての慈悲というもの」

不穏な台詞と同時に光がロアを中心に迸る。
そして、何かを察したアルクェイドと、この後の展開が予想できた俺が飛び出すよりも早く、
アルクェイドと俺は瞬時に魔術で拘束されてしまった、そしてアルクェイドが俺の考えを代弁した。

「ロアっ……!?正気なの!永遠を求めた貴方が心中なんて!」

そう、ロアは言った。
私と共に消えるのがせめての慈悲、と。
奴はアルクェイドを巻き添えにして死ぬつもりだ。

「どの道ついさっき志貴に殺されたばかりだ、今更死など私は恐れない。
 それにもう、いい。私が求めてやまなかった姫は既に死んでいる、ならばこれ以上生きる意味もない」

ふざけるな!!
散々人を巻き込んでおいて今更自殺するのか。
気に入らない、その態度が気に入らないし何よりも直死の魔眼を持ちながら、死を大安売りする姿勢が何よりも腹立たしい。
病院から抜け出して、先生に諭されたあの日から、俺はただ生きるだけでも尊いことを知ったのに奴は無視している。

くそ、動けない。
俺はここで死ぬつもりなんてないのに動けない!

さらに地面に幾重もの魔方陣が描かれ、俄かに熱気が冬の公園を満たす。
だが、こっちは少しも暖かくない、むしろこの後の展開が背筋に寒気が絶え間なく走る。
抵抗しても間もなく訪れる死の予感に俺は悪あがきを試みるが時間は無慈悲に過ぎてゆく。

「安心しろ、貴様らだけを殺すつもりはない。
 この公園ごと吹き飛ばすつもりゆえに、寂しい思いはさせない」

心に絶望という名の釘が打ち込まれ、皹が生える。
秋葉にシエル先輩の顔が思い浮かんでは消えを繰り返し、俺は何も考えれなくなる。

「さようなら」

そして、光が視界を満たした。

「………………っ?」

眩しさに眼が眩み何も見えない。
一瞬、実は死後の世界に来てしまったなどと思いもしたが、
こうして意識し知覚し、感じているのは変わらぬ公園の空気の香りである。

「馬鹿な……そんな、コトは、
 まさかこの小娘は――-―を潜り抜けて、あまつさえ……馬鹿な、他にもいるだと」

視界が元に戻った時は先ほどの変わらぬ光景があった。
そこにはただ唖然とするロアが佇み、独り言をつぶやいていた。
ロアにとって何か予想外の事態があったのだろう、しかし俺にとっては好都合だ。
特に魔術の拘束が解けたのは、好機だ。

「ロアァ!!」

駆ける。
距離を詰めると腕を伸ばし、
すばやく直死の魔眼が見せるロアの生命を象徴する『点』にナイフを突き出した。

「ちぃ!?」

が、寸前でロアは背をのけぞり避ける。
当然俺はすべての現況であるロアをここで終わらせるべく一歩前に出る。

ロアはなぎ払うように腕を振るう。
大雑把な動きだが吸血鬼の力で振るっているため空気が震う。
最小限の動きで避けたはずだが、頬が剃刀で切られたかのように薄っすらと横一条のかすり傷ができる。

大した力だ。
だけど、腕を振るった後は胸元がガラ空きである。
次の動作を行うには俺が胸元にナイフを突きつけるよりも一拍ほど足りない。

そう、今のロアは無防備。
ここでロアを殺し、全てを終わらせることができる!

そして、ナイフを胸元に突き刺そうとし
――――魔眼がロアの生命を象徴する『点』と弓塚のそれとほぼ重なっているのを捉えた。

「くそっ!!」

このまま刺すと弓塚ごと殺してしまう。その点に気づいた俺は悪態を口にする。
さらに直後にやってきたロアの攻撃から避けるため距離をとった。

「………………」
「………………」

しばしの睨み合い。
お互いジリジリと円陣を描くように、ゆったりと動く。
ロアは両手を上着のポケットに入れていかにも隙がありそうな姿であるが眼光は鋭く、油断も隙間もない。
何時もなら魔術攻撃なら魔術ごと切り裂き、相手を殺すことができるが相手のその姿形は弓塚である。

下手にやると弓塚ごと殺してしまうのは、先程のように明白で非常に腹立たしい。
それでも、またロアの元に飛び込めるように構えをとりいっそこちらから動くべきかと考えた時点でロアが口を開いた。

「……さっきのは私も驚いたよ。
 この小娘が規格外であることは承知していたが、まさか『』を通り抜けた異世界人だとはな。
 挙句に――――の存在の支援を受けて似たような例がこの国にはいるらしい。そして貴様は姫と共に今後の世界を左右する存在であるようだ
 は、はは、永いこと生きた私さえもこのような事案は初めてだ…………姫の言うとおり、世界とは広いものであるかもしれない。」

「……?」

よくわからないことを言っている。
弓塚が異世界人だとか聞いているだけなら電波でしかないが、
この男が態々虚構を述べることはないので、何か重要な事実を言っているのだろう。
ただ俺にわかったのは、最後の部分だけは自らを自虐していたのは確かである。

「昔なら、純粋であった昔の私なら、その謎と原因について探求していただろう。
 だが、今の私にはどうでもいいことだ――――ハ、ハハ!!志貴!果たして私と小娘を見分けることができるのか?
 仮にできたとしても、いかに人を殺すことを極めた貴様でも肉体ごと殺さず、私の魂だけを殺すのは困難なはずだ!!」

「……っ!」

図星だ。
俺は物の『死』すら見分ける事ができるが、
一つの肉体に二つの生命を抱えている弓塚を肉体を壊さず、
かつロアの生命だけを選んで殺すとなると、標的の『点』が元から小さいこともさることながら、
お互いが半ば重なっていると来た、隙がなければとても狙って突くのは先ほどのように奇襲を除けば難しい。

「ああ、あるいは。堕落した姫を道ずれにすることはできないが――――この小娘ごと死ぬのも悪くない」
「……ってめぇ!!」

ロアは自ら胸もとの『点』にピタリと、
よく磨げた突剣のように爪を伸ばした手を当てる。
奴はアルクェイドと俺を巻き込んで死ぬことができないならば弓塚を巻き添えにしようと考えていた。

弓塚の元に飛び込もうにも、これでは動けない。
万事休す、そんな単語が頭に思い浮かんだが、奇妙なことにロアはそこで動きを止めた。

「ば、馬鹿な……また、貴様が、いや――――小娘ェ!!」

まさか、弓塚なのか?

「……シ、キ……、ハヤ、ク……」

弓塚はぎこちない動きで自ら突きつけていた手を離す。
明らかに肉体の主導権を弓塚が取り戻していた。

しかし、余裕がないようで彼女は俺にやるべきことを催促していた。
俺はロアと巻き添えに弓塚を殺してしまう事に躊躇し、ナイフを手にしたまま立ち尽くす。

だが、魔眼は驚くべき事実を伝えてくれた。
ロアと弓塚の生命を象徴する『点』が徐々に離れ狙いやすなりつつあった。
たぶん、肉体の主導権が弓塚側に傾いたせいだろう、そしてこの機会を逃すわけにはいかない!

「シン……ジテ、イ……ル、から」

ああ、任せろ。
なぜならこの眼は神様だって殺して見せる――――!!

今度こそすべてを終わらせるべく駆ける。
弓塚は動かず、じっとしている。

俺は弓塚の期待に答えるようにナイフをロアの生命を象徴する『点』を軽く突く。
しかし魂が消滅した確かな感触を手は感じ、今度こそ俺たちの運命を狂わせた人物をこの世から抹殺した。

実にあっけなく、全てが終わった瞬間だった。




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第20話「ロアⅡ」3

2014-01-16 20:18:26 | 弓塚さつきの奮闘記~月姫編
「………………っ?」

眩しさに眼が眩み何も見えない。
一瞬、実は死後の世界に来てしまったなどと思いもしたが、
こうして意識し知覚し、感じているのは変わらぬ公園の空気の香りである。

「馬鹿な……そんな、コトは、
 まさかこの小娘は――-―を潜り抜けて、あまつさえ……馬鹿な、他にもいるだと」

視界が元に戻った時は先ほどの変わらぬ光景があった。
そこにはただ唖然とするロアが佇み、独り言をつぶやいていた。
ロアにとって何か予想外の事態があったのだろう、しかし俺にとっては好都合だ。
特に魔術の拘束が解けたのは、好機だ。

「ロアァ!!」

駆ける。
距離を詰めると腕を伸ばし、
すばやく直死の魔眼が見せるロアの生命を象徴する『点』にナイフを突き出した。

「ちぃ!?」

が、寸前でロアは背をのけぞり避ける。
当然俺はすべての現況であるロアをここで終わらせるべく一歩前に出る。

ロアはなぎ払うように腕を振るう。
大雑把な動きだが吸血鬼の力で振るっているため空気が震う。
最小限の動きで避けたはずだが、頬が剃刀で切られたかのように薄っすらと横一条のかすり傷ができる。

大した力だ。
だけど、腕を振るった後は胸元がガラ空きである。
次の動作を行うには俺が胸元にナイフを突きつけるよりも一拍ほど足りない。

そう、今のロアは無防備。
ここでロアを殺し、全てを終わらせることができる!

そして、ナイフを胸元に突き刺そうとし
――――魔眼がロアの生命を象徴する『点』と弓塚のそれとほぼ重なっているのを捉えた。

「くそっ!!」

このまま刺すと弓塚ごと殺してしまう。その点に気づいた俺は悪態を口にする。
さらに直後にやってきたロアの攻撃から避けるため距離をとった。

「………………」
「………………」

しばしの睨み合い。
お互いジリジリと円陣を描くように、ゆったりと動く。
ロアは両手を上着のポケットに入れていかにも隙がありそうな姿であるが眼光は鋭く、油断も隙間もない。
何時もなら魔術攻撃なら魔術ごと切り裂き、相手を殺すことができるが相手のその姿形は弓塚である。

下手にやると弓塚ごと殺してしまうのは、先程のように明白で非常に腹立たしい。
それでも、またロアの元に飛び込めるように構えをとりいっそこちらから動くべきかと考えた時点でロアが口を開いた。

「……さっきのは私も驚いたよ。
 この小娘が規格外であることは承知していたが、まさか『』を通り抜けた異世界人だとはな。
 挙句に――――の存在の支援を受けて似たような例がこの国にはいるらしい。そして貴様は姫と共に今後の世界を左右する存在であるようだ
 は、はは、永いこと生きた私さえもこのような事案は初めてだ…………姫の言うとおり、世界とは広いものであるかもしれない。」

「……?」

よくわからないことを言っている。
弓塚が異世界人だとか聞いているだけなら電波でしかないが、
この男が態々虚構を述べることはないので、何か重要な事実を言っているのだろう。
ただ俺にわかったのは、最後の部分だけは自らを自虐していたのは確かである。

「昔なら、純粋であった昔の私なら、その謎と原因について探求していただろう。
 だが、今の私にはどうでもいいことだ――――ハ、ハハ!!志貴!果たして私と小娘を見分けることができるのか?
 仮にできたとしても、いかに人を殺すことを極めた貴様でも肉体ごと殺さず、私の魂だけを殺すのは困難なはずだ!!」

「……ちっ!」

図星だ。
俺は物の『死』すら見分ける事ができるが、
一つの肉体に二つの生命を抱えている弓塚を肉体を壊さず、
かつロアの生命だけを選んで殺すとなると、標的の『点』が元から小さいこともさることながら、
お互いが半ば重なっていると来た、隙がなければとても狙って突くのは先ほどのように奇襲を除けば難しい。

「ああ、あるいは。堕落した姫を道ずれにすることはできないが――――この小娘ごと死ぬのも悪くない」
「……ってめぇ!!」

ロアは自ら胸もとの『点』にピタリと、
よく磨げた突剣のように爪を伸ばした手を当てる。
ロアはアルクェイドと俺を巻き込んで死ぬことができないならば弓塚を巻き添えにしようと考えていた。



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