ふと、空を見上げる。
太陽は既に地平線へ沈んだため、空は濃紺からさらに黒に変わりつつある。
この寒い季節といい、あの日ボクの運命が変わった日とよく似ていた。
だからボクはふと、ロアと最後の会話を思い出した。
※ ※ ※
「ん……?」
目が覚める。
頭は未だぼんやりと動かないが、
視界情報から察するに知らない天井ではなく、どうやら夜空らしい。
しかし、鼻を刺激する花の香りが、ここが公園でないことを証明している。
上体を起き上がらせ、改めて周囲を見渡すと一面に白い花が咲いていた。
なだらかな丘に延々と月日に照らされた白い花が咲き誇り、夜風に揺られその香りと美しい姿を魅せていた。
ここは、どこか?
そんな疑問が一瞬浮かんだが、
夜空を照らすありえないほど大きな月と【原作】からすぐに答えが出た。
「そうだ、ここはかつて純粋であった私が姫に見惚れた場所。
そして今この光景は、私の記憶を元に再現されたものに過ぎない」
振り返るとロアが立っていた。
だが、その姿は先ほどまでのと随分違う。
まるでカトリックの神父のごとく隙のない服装を着こなしている。
いや、首に掛けてある帯からキリスト教の司教や司祭が礼拝に使用するストラであるから本物の神父なのだろう。
そして、彼は眼鏡をかけ瞳には狂気はなく高い理性と知性を宿しており、
ボクは目の前の人物が「アカシャの蛇」の蛇と呼ばれる前のミハイル・ロア・バルダムヨォンであることを悟った。
「こうして、正面から話すのは初めてだな弓塚さつき。
始めまして私の名はミハイル・ロア・バルダムヨォン、かつて永遠を求めた愚か者。
適うことなら吸血鬼になる前に君に会いたかったと今はつくづく思うよ。」
「そりゃ、どうも……」
なんだかえらく丁寧な口調と態度のせいかこっちの調子が狂う。
しかし、こうしてお互いが出会ったということはここは、
「心象世界」
「そうだ、ここは心の世界。
恐らく元々無理やり君の魂を乗っ取ろうとした影響だろう。だから、私たちはこうして話せる」
「だから、失敗して志貴に殺された」
「ああ、だから君たちに妨害され私は死んだ」
……あれ【君たちに妨害され】?
たしかに何が何だが詳しくは覚えていないが、
イメージ的には、我武者羅にこの男と肉体の主導権をめぐって争い、
何とか主導権を握るとすべてを志貴に託した所まで覚えているが、何か重要なことを忘れている気がする。
「……そうか、覚えていないのだな。
いや、君がいう所の【原作】知識と同じく認識でないのか」
何か釈然としない。
だが、それよりもどうして【原作】知識という単語がこの男から出ている―――!?
「ああ、それは簡単だ。
私が乗っ取る際、寄生された人間の記憶は一通り引き継がれる。
君が言うロアは言うなれば私は四季でありロアでもあったのだ、だから弓塚さつきの記憶は一通り見せてもらった。
……まったく、永遠を求めてここまで来たが君のような例は正直驚いたよ、姫の言うとおり案外世界は広いもののようだ」