「すばらしい!すばらしいな!この肉体は!!」
弓塚が笑っていた、いや違う。
ただ己に酔いしれる吸血鬼がそこにいた。
俺は事の成り行きを理解できずただ呆然と眺めていた。
「馬鹿な!ロアは予め転生する個体を選んで転生するもの!
しかもこれほど短時間で転生するなどこれまでの事例にはなかったはずです――――ロア!一体彼女に何をした!!」
先輩が敵意とともにロアに詰問する。
「ああ、そのことか代行者。
簡単だ、この小娘の血を吸った直後からこの小娘はダンピールやグールの段階を飛ばして吸血鬼化していた。
さすがに私も驚いてね、興味深い事例でもあるから保険として転生の術を施し、万が一に備えていたのだよ」
「生き汚い外道が……!」
可笑しそうにくつくつと笑う弓塚。
いや、吸血鬼ロアは激高する先輩に向かって言い放った。
「外道?可笑しな話だな。
親を殺し、友人を殺し、故郷を滅ぼしたお前が。
それにお前はあの時楽しんだではないか――――エレイシア」
「その名を言うなぁぁぁ貴様っああああ!!」
直後、先輩が地を蹴り弓塚のもとへ跳ぶ。
明らかに弓塚を助けるつもりはなく激高した感情のまま弓塚を手にかけようとするものであった。
情けないことに俺は先輩が跳躍した時に、ようやく動き先輩を止めようとしたが当然間に合うわけがない。
一瞬で間合いを詰めた先輩はそのまま腕を振るい、弓塚の頭部を破壊する動きを見せた。
しかし、それより早く弓塚の方が動き逆にカウンターを浴びせた。
顎を打ち抜かれ、先輩は一瞬動きを止める。その隙を逃さず弓塚は再度拳を握って先輩を殴打。
吸血鬼の馬鹿力でそのまま殴られたせいで骨が砕ける嫌な音が鳴り響く。
先輩は地面に数度バウンドして、しばらく転がり動かなくなってしまった。
そこに弓塚が先輩に近寄ると首元をつかみ片手で持ち上げる。
意識はあるのか先輩は微かに呻き声を出していた。
「エレイシア、君の才能も素敵であったがこの身体はさらに素敵だ。
もしも君がこの小娘同様に吸血鬼となっていればどれほどよかったものか、そう今でも考えるよ。
だが、君は今や聖堂教会の代行者。その貴重な才能が生かされないならばここで死んでもらおう」
突剣のように片手を形作り先輩の胸元に照準を定める。
不死性体質の先輩に態々殺人予告をするということは………まずい、
外見は弓塚だが中身は今やロアだから直死の魔眼で先輩を殺すつもりだ。
くそ、走れ!走れ!遠野志貴!
「さようなら、エレイシア」
――――間に合わない!?
「一応シエルも死んでもらっちゃ寝覚めが悪いから、止めてもらえないかしら。ねえ――――ロア?」
刹那、アルクェイドの声と共に弓塚が吹き飛んだ。
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