エーリカが看破したように、
ミーナは執務室で朝の書類確認中であった。
執務卓に積まれた書類はそれこそ山のごとく積み重なっており、
サインをするだけでも太陽が真上に達するほど時間を必要とするだろう。
ゆえに、朝一に書類の内容を軽く確認するのがミーナの日課であった。
「はぁ…」
ところが、今朝はとある事が気になり、
書類のチェックが一向に進んでいなかった。
万年筆を手で弄ばせつつ、思考の迷宮に入り込んでいた。
「元から変わった子だけど、ここの所妙なのよね…トゥルーデは」
思いにふけっていた対象はトゥルーデ。
もとい、ゲルトルート・バルクホルンであった。
彼女はミーナにとって原隊は違うが、
カールスラント撤退からエーリカと共にいた戦友にして友人である。
現在もそうだが、今後のそうであり続けることに疑問はない。
だが、その彼女が最近どうしても気になる点が目立ってきた。
「……ん、宮藤さんが来てからかしら?
妙に用意周到だったり、色々動き回っているようだし」
卓上の珈琲を口にしてからミーナが覚えた違和感を一人口に出す。
元々バルクホルンが持つ横同士の伝手を利用して色々部隊の運営に貢献していたが、
宮藤芳佳が501に赴任してからさらに活発に動き回っていることをミーナは知っていた。
さらに、時折芳佳に対して思い詰めたような眼で見ているのにミーナは引っかかりを覚えていた。
家族を亡くして自暴自棄になっていた時期や、
今でもなおその影を背負っているのを知るミーナは始め、
バルクホルンは芳佳を亡くなった妹を思い出して自責の念に駆られているのでは?
と、考え。
バルクホルンに休暇を進めた。
結果、気分転換になってくれたようでその時はそれで良し。
としたが、それでも芳佳に対して時折向ける視線は普通とは違うものだ。
「どうして、あんな眼で宮藤さんを見るのよ、トゥルーデ……」
当時の光景を思い出すミーナ。
そこに疚しいことうや、怪しいものはない。
バルクホルンの眼は自分の命に代えても守ることを決意した人間のものであった。