アナポリス大学付属サンダース高校チーム――――旗艦、護衛空母『カサブランカ』艦橋
「護衛駆逐艦より伝達、方位1-6-2、距離約2000、浮上中」
発光信号を読み取った隊員が報告する。
「へえ、自分たちの位置がばれて、慌てて動き出したと言ったところかしら?」
サンダース高校対潜部、隊長のケイが呟く。
急速潜航でも無音潜航ではなく、浮上ということは魚雷発射可能な深度まで上がり反撃するつもりのだろうか?
今年初めて出場した弱小学校だけど、なかなかいい度胸ね大洗女子学院は、けど無駄よ。
「全艦に告ぐわ、大洗の潜水艦が浮上中。
これよりフォーメーション、ナイアガラ・フォールズを発動するわ!
各艦、ナイアガラの滝のように派手に海中をかき回しなさい!」
40隻の艦隊が一斉に動き出す。
中央に護衛空母2隻が単縦陣を組み、
その両脇から空母の前方で駆逐艦が交差するように機動する。
海中がかき回され、音が乱反射を繰り返す。
潜水中は聴音頼りの潜水艦にとって耳が塞がれたに等しい。
「アベンジャーズ!駆逐艦の攻撃が終わったらありったけの対潜魚雷をブチ込みなさい!」
TBFアベンジャーが頭上を通過する。
ずんぐりとした機体は航空機の割にはぽっちゃりしており、スマートな印象を与えなかったが、
代わりに頑丈さは指折りで、翼には対地ミサイル、腹には対潜誘導魚雷と、凶悪なデブであった。
そして、それが合計24機。頭上を旋回しており、今か今かと待ち構えていた。
「さて、」
どう出る大洗女子学園?
左右に逃げてもすかさず駆逐艦のヘッジホッグをお見舞いするし、
アベンジャーの対潜魚雷に、爆雷だってプレゼントする用意はしてある。
けど、率いるのは潜水艦道の名門である『あの』西住流の次女。
聞けば前は黒森峰に居たというらしい、ならばその実力は本物なのは間違いない。
でも、どうやってこの窮地を乗り越えるのかしら?
さあ見せなさい、貴女の実力を。
※ ※ ※
「海面はぐちゃぐちゃだ、もう艦と位置の識別ができないぞ」
聴音機を回している冷泉麻子がぼやく。
「西住殿、これはもしかして…」
「はい、秋山さんの考え通りです、
これは恐らくサンダースが得意とする攻撃隊形『ナイアガラ・フォールズ』です」
秋山優香里の疑問にみほは答え、続けて角谷杏が補足する。
「対象を発見次第、識別されないようにジグザグに航行。
大まかな位置を囲い込むように40隻近くの艦艇による一斉爆雷攻撃。
止めは航空機からの誘導魚雷の散布、まったくウチと違って随分と贅沢だねー」
「しかし、会長。もしも攻撃が外れたら爆雷の爆発で発生したエコーでしばらく海中の音が拾えないのでは?」
河嶋桃が常識論を論じた。
が、やや顔が強張っているのを見ると、
相手が圧倒的であっても所詮数だけだと、
緊張とストレスで藁をも掴みたい気持ちで否定したいようだ。
対潜道における基本は聴音による潜水艦の発見から始まる。
海中の異音を拾い、それから場所や距離、深度を徐々に特定させていく。
が、潜水艦を攻撃する爆雷は海中の音を乱してしまい、その間に潜水艦に逃走するのがセオリーであり、
ましてや、合計40隻近くの艦船から投下される爆雷の数を考えると一度外してしまえば、悠々と逃げれるはずだが、
「でも、桃ちゃん。この場合爆雷が投下される範囲が広いから、逃げられないかも」
「おまけに、爆雷はきっと全深度で万遍なく起爆するように設定いるぜよ」
小山柚子とおりょうが希望を塞ぐように反論した。
「う、たしかに……どうするんだ、西住?」
救いを求めるようにみほに視線を向ける。
「大丈夫です、大体の位置が判明されていても逆に言えば正確にこちらの位置が分っているわけではありません」
みほはそれに対してきっぱりと断言する。
――――でも、それは向こうの都合次第だけど。
もしかすると特定されているかも知れず、
100パーセントの確実ではないので、みほも内心では同じく不安であった。
しかし、艦長としてこうして平常心を装わねばならなかった。
「ん……これは、爆雷来るぞ。数多数、数えきれないぞ」
その言葉で緊張感が発令所に走る。
ついに、彼らは攻撃を仕掛けて来たのだ。
「このまま直進します!――――アップトリム20から最大!
前部タンク全ブロー!皆さん、ここが正念場です。あんこうの能力を最大限引き出してください!!」
「了解!浮上角最大、前部タンクブロー!」
機関の振動と共にジリジリと角度が高くなり、
普通に立つだけでもつらくなり各々が自然と手元で掴めるものに掴む。
「さらに角度が急になります。全員、掴めるものに掴んでください!」
そして傾斜角は50度となり、海面へ向けて進撃した。