「おれたちの青空」 佐川光晴著 集英社
「おれのおばさん」の続編。中学2年の時に父親が横領で逮捕されたために、名門私立中学を退学し、叔母の経営する児童養護施設から公立中学校に通うようになった陽介くんのその後。
「おれのおばさん」は陽介を語り手とする長編小説だったが、物語の運び方を変えたようだ。「陽介の親友・卓也」と「おれのおばさん・恵子さん」を語り手とするスピンアウトの中篇2本と陽介が語り手の短篇1本。最初、語り手が変わっていることに一瞬、戸惑ったが、読み始めてみると、物語が立体的になって却って面白い。1人の語り手だと単調に陥りがちだけど、続編なのにフレッシュ感があった。
著者のインタビュー記事や対談記事を読むと、この作品は子どもたちに向けたメッセージという思いが強いようだが、実は、大人の読者の方が多いような気がする。陽介からは、明らかに昭和のちょっとウェットな匂いが漂ってきて、なぜかそこはかとない懐かしさを感じるから。逆に、今の子たちって、陽介のメンタリティーって共感するというよりも、理解できるのだろうか…???
というわけで、この本に収録されている3つの小品の中では、昭和世代に青春時代を送ったであろう、「おれのおばさん・恵子さん」の語る「あたしのいい人」が、一番、楽しめた。
雑誌発表小説の常とは思いますが、どうしても、前作の紹介的な重複があるのは、まあ、仕方ないのかなぁ。「前作を読んでいない人も難なく読むことができるように」という配慮は、前作を読んだ私には、少々、鬱陶しかったなぁ。