おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「幻海」 伊東潤

2010年08月08日 | あ行の作家
「幻海」 伊東潤著 光文社 (10/08/08読了)

 「活字の力が、3Dやバーチャル・リアリティなどといった体験型テクノロジーに勝ることを実証してみせようという高い志を掲げて挑みました」「活字の力で『アバター』に勝ちたいのです」。

作者の公式ウェブサイトにこう書かれていました。結構! 見上げた根性じゃないですか! ま、正直、『アバター』観てないので、それが、どれほど面白いのか知りませんが、個人的には、活字は3Dやバーチャル・リアリティに勝てる力は十分にあると思うのです。

しかし、この作品が『アバター』に勝っているかどうかは、かなり、微妙なような気がします。(すみません、『アバター』観ていませんが…)

布教のために長崎の町にやってきたイエズス会士のレンヴァルト・シサットは、布教活動の自由を求めて秀吉と直談判する。そこで、航海技術や天文学などの西欧文化を提供して豊臣軍の勢力拡大に協力することと引き換えに、布教の自由を保証しようと言われ、心ならずも、豊臣軍の戦いに加わる。

奥伊豆にあるとされる「黄金の国」攻略を目指しての海戦場面は、恐らく、他の作家がほとんど描いていない歴史だと思います。宗教が、いかにして戦争に加担することを正当化するのか-。無知蒙昧の民に布教するためにやってきたシサットが、日本独自の文化や、西欧の発想にはない航海術に心打たれるは興味深い。今は、のんびりとした(というよりも、やや廃れてしまった)伊豆をめぐって、こんな激しい戦いが展開され、そんな経緯で家康の手に渡ったのか…というのは、へぇ~、なるほどねぇ~という感じ。

かと言って手に汗握るような興奮とか、読み終わった後の充足感とかがあったか-と言うと、それほどでもない。「第一級の冒険海洋小説」と絶賛する気持ちにはなれなかったです。

読みながら「面白い小説の潜在力があるのに、なんで面白くないんだろう」とずっと考えていたのですが……私なりの結論は、「肩入れしたなる登場人物がいない」ということ。人物描写というかキャラ付けが甘くて、心底惚れたり、徹底的に憎たらしく思える人がいないのです。だから、ストーリーにのめり込めない。

 私的には「第一級の冒険海洋小説」の称号を与えるなら、圧倒的にこの前読んだ、飯嶋和一の「黄金旅風」です。