「舟を編む」 三浦しをん著 光文社
私の中では、三浦しをん作品は、「dark side Shion 」「light side Shion」に大きく分類できる。「舟を編む」はlight sideの傑作と言っても過言ではない。これまで小説の舞台としては誰も注目しなかった地味な世界に光りを当て、面白・楽しく・暖かな視線で魅力を最大限に引き出している感じ。私に文楽にハマるきっかけを与えてくれた「仏果を得ず」と同系統の作品です。
舞台は老舗出版社の辞書編集部。それにしても、地味だ!地味すぎる。
私も含めて、読者の99.9%は辞書編集の仕事に携わる知人・友人がいないであろうが、主人公の馬締(マジメ)クンが登場したとたん「ああ、確かにこういう人って辞書編集部にいそうだよな」と思ってしまう。ボサボサの髪、言語に対する感性は人一倍なのに、他人とのコミュニケーション能力は極端に低い。馬締クンのみならず、辞書編集に携わる人たちは、どこか浮き世離れしている。
しかし、辞書編集にかける彼らの熱い思いは、スピードは決して速くはないけれど、ジワジワと周囲の人を動かしていく。
それにしても、こんなに気が遠くのなるほど時間がかかり、膨大で、大変な作業なのかと、「辞書編集」という仕事を垣間見ることができるだけでも十分収穫ありの「お仕事小説」です。もちろん、三浦しをんらしく、クスッと笑わせる場面あり、不器用な恋愛あり、味のある脇役多数出演で、エンタメ性も十分。恐らくは、三浦しをんの言葉へのこだわりゆえに実現した作品だと思います。
さて、辞書編集の話なのに、なぜ、タイトルが「舟を編む」なのか? その意味はストーリーの中で触れられているのですが、ジワッと心に沁みます。
「涅槃の雪」「舟を編む」 2冊続けて光文社は大当たり。いいぞ~!