おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

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「涅槃の雪」 西條奈加

2011年11月03日 | さ行の作家

「涅槃の雪」 西條奈加著 光文社 

 

日経水曜夕刊での高評価がとてもとても気になって購入→結果、大当たり!

 

表紙には力強く咲く赤い椿。本の帯にあるキャッチコピーは赤い文字で「負けるな。生きろ。咲き誇れ。」―でも、結末に到達した時に頭に浮かんだのは、ひっそりと、静かに咲くナズナの花。華やかさとはほど遠く、一見、頼りなげ。でも、雨風にさらされ、踏みつけられても、枯れることはなく花をつける雑草のようなしなやかさと、逞しさを持った登場人物たちが愛おしく思えてくるような物語だった。

 

歴史通なら「今さら…」と思うような舞台設定。悪名高き天保の改革を推し進めた水野忠邦に、庶民の側に立って改革に疑問を呈し続けた北町奉行遠山金四郎ら、有名どころが脇を固め、主役は金さんの配下にいる町役人の門佑。幕府内の改革派と慎重派との対立、苛烈な改革によって疲弊する江戸の町と庶民の生活を門佑の視線を借りて描き出している。そして終盤にはマジメで不器用な門佑の、あまりに一途でプラトニックな恋にクロースアップ。

 

 私の勝手な想像ですが、編集者はこの物語を「庶民の物語」として読んだのだろうと思います。帯には冒頭で紹介したキャッチコピーに加え「お上の苛烈な締め付けに立ち向かう気骨ある与力(=門佑)の姿を通じて、市井の人々の意地と気概をいきいきと描き上げた傑作」とある。もちろん、その部分も物語の魅力の1つ。門佑の思い人であるお卯乃や、芝居小屋の人々の雑草のような強さには素直に共感できる。

 

 でも、私には、市井の人々の意地と気概はむしろサイドストーリーで、お上の側の物語こそが作者の書きたかったことなのではないか―という気がしました(勝手な想像ですが)。

 

 時代も違う、統治システムも違う江戸と現代とを一括りにして語ることができないのは百も承知(しかも江戸時代は身分制度のもと、士分の放漫を庶民におしつけたことが問題)ではありますが…それでも、「改革」を進めることのなんと難しいことよ! 

 

為政者の側に、遠山金四郎のような庶民に心寄せる人物がいれば、庶民にとっては救いであり、人気が出るのは当然。逆に、憎まれ役の改革者の立場は辛い。痛みのある改革は誰からも歓迎されることはないが、しかし、改革は、痛みがあるからこそ進めなければならない。本気でマクロの改革を推し進めるためには、ミクロを無視する勇気と強さと、そして、自らも率先して痛みを分かつ覚悟がなければならない。

 

 門佑が、自ら仕える遠山金四郎の「人たらし」ぶりにどっぷりとハマりながらも、改革派の鳥居耀蔵の理論に心動かされ、鳥居に少しずつ共感を覚えるようになっていく過程が面白い。門佑と卯乃との恋の行方よりも、門佑が為政者とはとどうあるべきかという自らへの問にいかなる答えを出そうとするか―というところこそ、このストーリーのクライマックスだと思う(あくまでも、私的には)。

 

 歴史オンチの私は、実在した鳥居耀蔵の歴史的評価は全く知りませんが…少なくとも、この小説の中では、上司(水野忠邦)を見切ることも含めて、ロジカルで腹の据わった魅力的な人物として描かれていた。

 

 それにしても、オヤジが集まれば派閥が形成され、功名心や嫉妬が政治を動かす原動力になるということは、今も、昔も変わらない。政治家に必要な資質とは何か、改革を完遂できる政治家とはどんな人物なのか― 時代小説でありながら、今の世にも通じる問いかけが聞こえてくる。

 

 


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4 コメント

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涅槃の雪 (バンビ)
2011-12-24 22:59:52
オリオンさん。マークが4つだったので超期待の上読みましたが、期待以上でした。人と人との気持ちが通じる瞬間の表現がなんともうまい作者ですね。「天保の改革」の時代を逞しく生きた人々の生活に触れたような気がして、自分の日本人としての奥行きが少し深まったかのような気にさせてくれる作品でした。お卯乃と門佑の赤い糸も、平行線になったり、ねじれたり、切れそうになったり、
かなりひやひやしてしましましたが、最後はきっちり結ばれてよかった・・・
楽しかったです。ありがとうございました。



バンビさん、突然ですが… (おりおん。)
2011-12-26 00:17:51
バンビさん、コメント有り難うございます。
「涅槃の雪」、私にとっては今年のベスト5に確実に入るなという作品でした。人と人のつながりと、歴史的な背景と、両方が面白かったです。

 突然ですが、バンビさんはまだ文楽をご覧になったりしていますか? 私、1月8日2部(義経千本桜)の公演に行く予定なのですが、チケットが1枚余っています。前から2列目のよいお席です。友人から2枚セットでもらったのですが… 東京からわざわざ大阪まで文楽遠征するような酔狂な知人はいないので、1枚は無駄になってしまうのです。もし、お嫌でなければご一緒にいかがでしょうか? といっても、見ず知らずの人と観劇するのも気詰まりかもしれませんので、お気になさらない出下さいまし。
涅槃の雪 (バンビ)
2011-12-27 21:30:24
オリオンさん ありがとうございます!初日に行く予定にしていますが、端の席なので
ぜひ見に行きたいです。2回みてもOKです。文楽はこの先予算が減らされそうな雰囲気ですので
今のうちに。でも少しでも文楽ファンを増やしたいので、直前でも、どなたか別の方が見つかればその方にいっていただいてもいいですし。
よろしくお願いします。
ぜひぜひ! (おりおん。)
2011-12-28 00:54:04
バンビさん、お返事有り難うございます!
せっかくなので、ぜひ、お付き合い下さい! 私の友人の会社が文楽協会に協賛金を出していて、時々、チケットが回ってくるらしいのです。でも、文楽に興味がある人がいなくて、処分に困っていたとのこと。

私は貝田と申します。メールアドレスはHQJ02250@nifty.ne.jp です。待ち合わせ場所などはメールで調整致したく、ご連絡下さいまし。

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